「性教育って、実は『生き方の話』なんですよ」。そう話すのは、全国の教育現場で年間100件以上、「包括的性教育」の講演を行っている山田亜弥さん。
元看護師という経歴を持ち、親や保育者から寄せられる様々なお悩みに、柔らかく温かい言葉で答えています。Instagramでの発信にも、「心が軽くなる」「もっと早く知りたかった」といった声が数多く寄せられています。

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 山田さんは「難しく考えなくてもOKです。性教育って、子どもへの日々のちょっとした声かけから始まっているんですよ」と語りますが、日々の声かけとは具体的にどういうものなのでしょうか? 身体や生殖のしくみだけではなく、人間関係や性の多様性など幅広いテーマを含む、包括的性教育の観点から山田さんにお話を聞きました。

「自分はどんなふうに生きたいか」も性教育

――山田さんが講演会などで説明している「包括的性教育」とは、どのような教育なのでしょうか?

山田亜弥さん(以下、山田):包括的性教育とは、2009年にユネスコなどの国際機関が発表した世界基準の性教育の指針です。日本で「性教育」と聞くと生殖器や性行動の説明を想像しがちですよね。でも包括的性教育では、性を「権利」として捉えて、人間関係やコミュニケーション、ジェンダー、差別や暴力の防止など、かなり広い範囲を扱うんです。

――性教育という枠組みで、人間関係やジェンダーも学ぶんですね。

山田:そうなんです。包括的性教育は、8つの「キーコンセプト」で構成されていますが、前半の4つは、人権意識を育てる内容なんです。まず「人間関係」というキーコンセプトでは、家族や友人との関わり方、コミュニケーションについて考えます。

 次に「価値観・人権・セクシュアリティ」では、「一人ひとり違って、それでいい」ということを学び、「ジェンダーの理解」では、「男ならこうあるべき」「女はこうだよね」といった思い込みに気づいていきます。さらに「暴力と安全確保」では、性暴力だけでなく、いじめやセクハラから身を守る方法についても学んでいくんです。
生殖器や性行動の話も、こうした人権や関係性の視点とつながりながら扱われていきます。イメージしている性教育とは違いますよね。

――そうですね。

山田:私自身、包括的性教育を学ぶ中で、性教育とは「自分はどんなふうに生きていきたいのか」を考える学びなんだと、すごく腑に落ちました。だから性教育を「生きるための教育」と捉えて、「生(せい)教育」という言葉を使いながら講演会などでもお話ししています。「生きることを丸ごと学ぶ教育なんだよ」と伝えると、皆さんにもイメージしてもらいやすいんです。

性教育は、0歳の赤ちゃんから始められるって本当?

――日本では包括的性教育は取り入れられているのでしょうか?

山田:残念ながら、日本はまだ包括的性教育を正式には取り入れていないんです。文部科学省が「生命の安全教育」という指針を出していますが、これは性被害に遭わないための注意点が中心で、「禁止事項」や「注意喚起」のメッセージが強い側面があります。

 日本では性教育がタブー視されやすく、「オープンに触れてはいけないもの」という空気感のまま、30年、40年前から大きくは変わっていませんね。でも、性を「触れてはいけないもの」として学ぶのではなく、人権をベースにポジティブに学んでいこうっていうのが、私たちが包括的性教育を通して一番伝えたい思いです。

――山田さんは、包括的性教育は0歳からできる、とおっしゃっていますね。

親子の性教育「汚い・恥ずかしい・ダメ」の代わりに使いたい言葉とは? もっと早く知りたかった“0歳からの伝え方”
※画像はイメージです(以下、同)
山田:はい。包括的性教育では、自分と相手の体や心には境界線(バウンダリー)があることを学びます。
境界線は一人ひとりにあり、お互いに大切にされるもの。だからこそ、「同意なく越えてはいけないよ」という視点を育んでいくのですが、こうした境界線を大切にした関わりって、実は生まれた瞬間からできるんですよ。

 たとえば0歳の赤ちゃんのおむつを替えるとき、「替えるよ」「いいかな?」と一言伝える。これだけでも立派な「同意の確認」です。「子どもだから」「親だから」といって何も言わずに替えるのではなく、声をかけてあげる。そうやって「あなたの体の決定権はあなたにあるんだよ」というメッセージを、小さいうちから積み重ねて伝えていくことができるんです。

「汚い」「恥ずかしい」「ダメ」を使わない理由

――声かけの内容も重要なんですね。

山田:おむつを替えたときに「臭いね」「汚かったね」と伝えるよりも、「スッキリしたね」「気持ちよくなったね」といった、体に対してポジティブな言葉をかけてみる、という考え方があります。これはおむつ替えに限らず、子どもと接する場面全般で、「汚い」「恥ずかしい」「ダメ」といった言葉が、どんなメッセージとして伝わるかを少し立ち止まって考えてみるきっかけにもなると思います。

――日常生活の中で、どのように気をつけたらいいのでしょうか?

山田:例えば1~2歳の子が、お風呂上がりに裸で走り回っていつまでも服を着ないとき、「恥ずかしいから早く着なさい」と言うこともありますよね。ただ、その言葉が、結果として「あなたの体は恥ずかしいものなんだ」という受け取り方につながる可能性もあるんですね。

 体や生理現象について、ネガティブに受け取られかねない言葉が重なると、子ども自身が「自分の体は恥ずかしいものなのかもしれない」と感じてしまうこともあります。

 だから私は、0歳からの包括的性教育は、「どんな言葉が子どもにとって安心や肯定につながるだろうかと考え続けること」だと思っています。
そうしたポジティブな声かけの積み重ねが、「あなたの体は大切なものだよ」というメッセージとして伝わっていくのではないでしょうか。

――「汚い」「恥ずかしい」は、日々の子育てでつい使ってしまう言葉です。

親子の性教育「汚い・恥ずかしい・ダメ」の代わりに使いたい言葉とは? もっと早く知りたかった“0歳からの伝え方”
子育て
山田:すごくよくわかります。そんなときは、「なぜそうしてほしいのか」を言葉にしてみてはどうでしょうか。たとえば、お風呂上がりに裸でいる子に対して、「恥ずかしいから服を着よう」と伝える代わりに、「裸でいると風邪を引いちゃうかもしれないから、服を着ようか」と理由を添えてみる。子どもにとっても行動の意味が伝わりやすくなりますよね。

 講演会では、お子さんが自分の性器を触ってしまうというご相談をよく受けますが、そんなときも「恥ずかしいからやめなさい」ではなく、「そこはあなたのすごく大事な場所だから、清潔な手で、優しく、自分だけの場所で触ろうね」と変換して伝えてみます。

「あなたの体はとっても素晴らしいもの」と伝え続ける

――言い換えるだけで、こんなにポジティブになるんですね。

山田:大好きな大人たちから「恥ずかしいよ」「汚いよ」と言われて育って、自分の体に自信や自尊心を持てるようになるかといったら、やっぱり難しいですよね。

 幼少期からの包括的性教育は、決して「性について教え込むこと」ではありません。まずは「あなたの体はとっても素晴らしいものなんだよ」と伝え続けること。それが、自分を大切に生きていく上での確かな土台になります。


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 性教育と聞くと、「性器や性行動をどう教えるか」というイメージが先行し、どうしてもハードルが高く感じられがちです。でも、もっと広い視点で、まずは自分の心と体を大切にすることから伝えていく。それは、日頃のちょっとした声かけを意識するだけでも十分に始められるものだとわかりました。

【山田亜弥】
看護師として医療現場を経験したのち、性教育の大切さを実感し「生」教育アドバイザーとして起業。ベビーマッサージ講師歴10年以上。2024年は60講演を実施し、乳幼児~大人まで幅広く包括的性教育を届けている。自身もHSPで三姉妹の母。生きづらさを感じる人も「自分っていいな」と思えるような性教育=生教育を目指して活動中。

<取材・文/大夏えい>

【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作。
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