「まずは性教育を行う親御さん自身が、過去の自分に会いに行って、自分の気持ちを癒してあげてください」。そう語るのは、教育現場などで年間100件以上「包括的性教育」の講演を行っている山田亜弥さんです。
山田さんの語る、親自身が向き合うべきこととは何なのか? 詳しいお話を聞きました。
どうして私たちは「性教育は恥ずかしい」と感じるのか
――性教育が大切だとわかっていても、どうしても恥ずかしさを感じてしまいます。山田亜弥さん(以下、山田):そうおっしゃる方は本当に多いんです。そういう方に私がお伝えしているのが、性教育を子どもにしようと考えたときに、なぜ自分は「恥ずかしい」と感じてしまうのか。その理由を一度立ち止まって考えてみてほしい、ということなんです。
多くの場合、その背景には自分自身の価値観や、これまで生きてきた中で性に対して刷り込まれてきた「タブー意識」が隠れていることが多いんですよね。
――たしかにそうかもしれません。
山田:では、そのタブー意識は一体どこから来ているのか。そこをさらに、掘り下げてみましょう。「なんで私がこんなに性にタブー感を抱くのか」というところを、過去の自分に戻って自分に聞きに行ってあげてほしいんです。きっと、根本の原因がそこにあるはずです。
例えば、初潮が来た時に誰にも言えなくて、トイレでパニックになったからだとか。生理痛の時にお母さんに相談したんだけど「ママは生理痛は重くなかった。
――なるほど。
私はこれも、性教育の中でとても大事なステップだと考えています。自分が性に関することで傷ついた気持ちに気づき、少しずつ向き合って自分を癒していくことで、子どもに伝える言葉も、無理のないものになっていきます。
だからこそ、まずは「私だって自分を大事にしていいんだ」と思えるベースを、完璧でなくてもいいので、少しずつ整えていく。
「相談できる親」になるために、日常でできること
――自分自身を癒すこと以外に、性教育を始める前にできることはありますか?山田:性教育において「教えること」以上に大切なのが、親子関係なんです。何か困ったことが起きたとき、子どもが真っ先に「相談しよう」と思える関係性をつくることですね。じゃあ、相談相手に選ばれる親ってどんな親だろう? と考えたとき、それはやっぱり、どんな話も否定せずに受け止めてくれる親なのではないでしょうか。
――具体的に、日頃から意識できることはありますか?
山田:ささいなことでいいと思います。朝、子どもが「おはよう」と言ったら、目を合わせて「おはよう」と返す。学校での出来事を楽しそうに話してくれたとき、「そうなんだね」と耳を傾ける。
気を付けたいのが、子どもが「今日、嫌なことがあったんだ」とこぼしたとき、「誰にされたの?」「なんでそうなったの?」「それはあなたが悪いよ」と質問攻めにして、子どもの話を奪ったりジャッジしてしまうことです。そうではなく、まずは「そうなんだね」「つらかったね」と丸ごと受け止める。そして最後は、「話してくれてありがとう」と締めくくる。そんなコミュニケーションの積み重ねが、何より大切です。
小さな子どもは性のことを「なんとも思っていない」
――では、実際にどのように伝えていけばよいのでしょうか。前回は赤ちゃん期についてお聞きしましたので、幼少期の学びについても教えてください。山田:2~3歳になると言葉が発達して、自分自身の体にも強い興味を持ち始めます。
鼻や手と同じように性器もあって、どれも等しく大切な存在ですよね。「あなたの体はあなただけのもの。だから大事にしようね」っていう考え方を育むことが、性教育の土台になります。
――子どもに教えるときに、気を付けることなどはありますか?
4~5歳の子どもに性器のことや、「赤ちゃんはどうやってできるの?」という話をしても、大人が想像するほど特別な反応はありません。「ゾウさんの鼻はどうして長いのかな?」と疑問に思うのと同じ感覚で、「どうして女の子と男の子はおまたの形が違うんだろう?」って考える。
すでに性の情報に触れている、思春期の子どもには?
――小学校高学年や思春期の子どもには、どのように伝えればよいのでしょうか。山田:小学4年生くらいになると、セックスを含めたさまざまな性の情報を、子どもたちはすでに知っていることが多いです。今の時代、YouTubeやTikTokの広告など、いたるところにセックスの情報があふれています。性的なものを「見せない」「触れさせない」という対応はほぼ不可能ですよね。
セックスについてある程度知っている年齢の子どもには、「性」を三つの軸で伝えるのがいいですね。一つ目は「命を授かる性」、二つ目は「人と触れ合うための性」、そして三つ目は「同意のない触れ合いは犯罪になる」ということです。
ただ、これまで親子で何も話してこなかった場合、いきなり性の話をするのはハードルが高いですよね。さらに思春期の子どもたちは心が不安定で、親とも距離を取りたい時期ですから、いきなり性の話を持ち出されたら、「うざい」以外の何ものでもない。「いまさら?」と感じることもあるでしょう。
――どうすればいいのでしょうか……。
山田:そんな状況の親御さんに私がお伝えしているのは、「丁重に謝りながら伝える」という姿勢です。
それでも難しい場合は、年齢に合った性教育の本を「よかったら読んでみてね」と渡したり、さりげなくリビングに置いておくのも一つの方法です。性のことは、子ども自身も実は気になっているテーマなので読んでくれるかもしれません。
――本を置くという方法もいいですね。
山田:たとえば、芸能人の妊娠や出産のニュースを家族で見ているときに、「学校で妊娠の仕組みについて習った?」と、聞いてみるだけでもいいんです。生理が始まったり、体が大人に近づいたりしているお子さんであれば、「赤ちゃんを授かれる体に近づいているから、そろそろ大切なことを伝えておきたいと思っているよ」と声をかける。焦らず、日常の中で少しずつ伝えていけばOK。そうやって話せる環境を少しずつ作っていってみてください。
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性教育の第一歩は、過去に性で傷ついた自分に会いに行き、認めてあげること。
<取材・文/大夏えい>
【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作。
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