「タバコの味」も許容した、センバツ行進曲の意外な歴史
3月19日に開幕する春の選抜高校野球の入場行進曲がM!LKの「イイじゃん」に決まりました。<今日ビジュいいじゃん>というフレーズにあわせて踊る動画が大流行し、昨年の紅白でも歌われたヒット曲です。しかし、発表以来ネット上には批判の声が相次いでいます。
一方で、センバツ大会はその時代のヒット曲を起用してきた歴史もあります。「ルビーの指環」(寺尾聰 第54回)や「First Love」(宇多田ヒカル 第72回)なんて、M!LK以上に高校野球とは似ても似つかない世界観です。特に<最後のキスはタバコのflavorがした>宇多田ヒカルなんて、高野連もよくOKしたものです。
さらにさかのぼって昭和7年。J-POPもヒット曲もなかった第二次大戦開戦前の時代には「爆弾三勇士の歌」(第9回)で行進していたのです。高校野球が完全に国威発揚に利用されていたわけですね。
こうした極端な変遷を辿ってきた歴史に照らせば、今回のM!LKの起用も、何ら不思議なことではないはずです。むしろ今の時代らしくて「イイじゃん」と、肯定的に受け止めるのが自然ではないでしょうか。
球児は「ただの若者」。過度な美化を押し付ける大人のエゴ
というわけで、筆者もM!LKの「イイじゃん」に、全く問題なしと考えます。むしろ、野球部を時代から取り残さないという意味でこの選曲は素晴らしい。では、「イイじゃん」を否定する人たちは何を見誤っているのでしょうか?
まず、彼らはただの部活にすぎない高校野球を過度に美化しています。「必死に練習をしてきて出場した一生に一度の舞台なのに『イイじゃん』では軽薄すぎる」とか、「高校野球にはもっと背筋が伸びるような曲であるべき」などの意見が象徴的です。
しかしながら、これらは全て余計なお世話です。若者はこうあるべきという年寄りの独りよがりな望みにすぎません。彼らの中で失われた青春の幻を、高校野球という美しい体育を通じて復活させてほしいという、ただのわがままなのです。
彼らの理想像の中では、「イイじゃん」がノイズになってしまうのですね。
「圧倒的な軽さ」が、ドロドロに濃くなった高校野球を救う
「イイじゃん」が軽薄であり、阿久悠が詞を書き谷村新司が作曲した「今ありて」が崇高だと断じる年長者の言い分には、このような同調圧力を助長する“空気”が強く影響を及ぼしているのです。
その意味でも、「イイじゃん」は救世主だと言えるでしょう。
圧倒的に薄っぺらで軽い入場行進曲が、過剰に美化されドロドロに濃くなってしまった高校野球を希釈する。それこそが、今この時代にM!LKが選ばれた真の意義なのかもしれません。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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