40歳を超えてから、スタートアップ企業「令和トラベル」に転職。
第33回の今回は、ふたりのお子さんを育てる大木さんが感じる、ハワイと日本の教育観の違いについて迫ります。(以下、大木さんの寄稿)
ハワイの学校って実際どう?
2025年10月、家族でハワイへ移住しました。新しい環境での生活が始まるなか、もっとも気がかりだったのが、子どもたちの教育環境でした。私には、日本の学年で小学6年生にあたる娘と、小学4年生にあたる息子がいます。ふたりは移住と同時に、ハワイの公立校に通い始め、娘はGrade 7の中学校、息子はGrade 4の小学校に在籍しています。
※ハワイの公立校は一般的に小学校が5年生まで、中学校が6~8年生のため、娘は一足早く中等部に通っています。
「実際、通ってみてどうですか?」と聞かれたら、親としての率直な感想としては「とても良い環境だ」と思っています。
アメリカと言っても、ハワイなので、ハワイならではの特殊な環境だと思います。
多様性の受け入れ方。日米の人を育てるシステムの違いや、厳格な賞罰システムなど。
今日は、そんな日本とハワイの教育の違いを我が家の体験談や息子の起こしたちょっとした事件のエピソードも交えて、深掘りしていきたいなと思います。
日本とアメリカの教育システムの根本的な違い
息子が通う小学校の公開データを見ると、児童の約20%が白人、約20%がアジア系、そしてもっとも多い約35%が「二つ以上の人種のルーツを持つ子ども」というカテゴリーに分類されています。さまざまなバックグラウンドを持つ子どもたちが、同じ教室で学ぶことが当たり前の環境。
この多様性こそが、私が子どもたちをハワイの学校に通わせて良かったと感じる、もっとも大きな理由のひとつです。
日本では、多様性や他者との違いを受け入れることを、意識的に「学ぶ場」をつくらなければ、なかなか体験する機会に恵まれません。一方、ハワイでは多様性が特別なものではなく、日常そのものとして当たり前に存在しています。
英語が第一言語ではない子どもも多く在籍しており、言語面のサポート体制も非常に整っている。違うことが当たり前なので、稀有な存在として受け止められることはなく、転校生としても、驚くほどすんなりと受け入れてもらえました。
ただ、こうした多様な価値観や文化が共存する環境では、日本のような単一民族社会に見られる「阿吽(あうん)の呼吸」は成立しにくくなります。
その代わり、ハワイの学校では、誰にとってもわかりやすい明確で厳格なルールが重視されています。教育現場の役割分担にも、その考え方が表れているようです。
日本では、教師が学習指導だけでなく、生活面や人間関係のケアまで幅広く担い、「全人教育」として子どもを育てる側面がある。
一方、ハワイの学校では分業が進んでいます。教師は教育の専門家、給食は専任スタッフ、清掃は清掃員、心のケアはカウンセラーと、それぞれの役割が明確に分かれています。
担任の先生は教育はしてくれますが、クラスでの友人関係のトラブルなどではあくまでもジャッジの役割がメインで、例えばそこで「思いやり」についてとうとうと語るなんてことはありません。
多様なバックグラウンドを持つ人々が集まる組織だからこそ、役割と責任を明確にしなければ、学校運営そのものが成り立たない。日本から見るとややドライに映るかもしれませんが、合理性の高い仕組みだと感じています。
息子が起こした、カフェテリアでの事件
そこで、実際に我が家で起きた、ある出来事をご紹介したいと思います。息子は、英語が決して流暢というわけではありませんが、新しい環境にも物おじせず飛び込んでいくタイプです。転校初日から「学校、めちゃくちゃ楽しい!」と話していたかと思えば、わずか1週間後には友達とけんかをして帰ってくるほど、良くも悪くもエネルギーのある性格です。
そんな息子が、先日、学校でちょっとしたトラブルを起こしました。
ランチタイム、息子のクラスメイトがカフェテリアで大きな声を出してしまい、先生から注意を受け、ランチを取り上げられたそうです。それを見た息子は、「それほどのことではないのではないか」と感じ、先生に対して「ランチを返してあげてほしい」と抗議しました。息子は一切引かずに、どうやら先生としばらく言い合いになったようです。
その中で、息子が「なぜランチを取り上げるのか」と尋ねると、先生は「Because I said so.(そう決まっているから)」と答えたそうです。
その説明に納得できなかった息子は、思わず「You are not king!!(先生は王様じゃないだろう)」と叫んでしまい、カフェテリアは一時、ちょっとした騒ぎになったと聞きました。
結果として、息子には「次の休み時間を5分短縮し、その間は椅子に座って過ごす」というペナルティが科されました。
情状酌量の余地なし。ハワイにおける罰を与えるシステム
今回の出来事を受け、きちんと反省させなければいけないと思い、家でじっくり、息子と話をしました。正直、日頃の家庭での様子を見ていても「学校でこうした行動を取ってしまうかもしれないな」と思い当たる節はあります。
一方で、今回の出来事を通して、日米の教育文化の興味深い違いを肌で感じたのも事実です。
日本では、子どもを叱る際、「どうしてそれをしてはいけないのか」という理由を説明するところから入ると思います。
今回の例で言えば、「なぜランチタイムに大声で話してはいけないのか」「そして、なぜ友達はランチを取り上げられたのか」といった背景を共有し、子ども自身が納得したうえで行動を改めていく、というプロセスが重視されます。
しかし、今回ハワイの学校では、そうした説明はほとんど無く、先生から返ってきたのは「ルールだから」というシンプルな理由だけ。息子は十分に納得できないまま、ペナルティーを受けることになりました。
アメリカでは、基本的に情状酌量よりも「ルールの遵守」が優先されます。ルールに違反した事実があれば、その内容に応じたペナルティが明確に科される。運用が非常に厳格かつ明確で、先生は時に「裁判官」のような役割をし、白黒をはっきりさせます。
実際、別のケースでは、男子生徒同士が大きなけんかを起こし、ふたりとも一日中授業を受けず、カフェテリアの清掃を命じられたことがありました。
このように、日米では、罰の与え方に大きな違いがあります。
日本の教育は、自分の言い分をある程度受け止めてもらえるという意味で、心理的安全性が高いかもしれません。しかしその反面、社会に出たときに直面する理不尽さや競争への耐性は、育ちにくいような気がします。
ハワイのように本当の意味で多様性が共存する社会では、共通のルールがなければ秩序を保つことが難しくなります。自己の権利を主張することも、必要なこととして、奨励されています。その上で、競争心などのタフさが身についていくという側面もあると思います。
日本人の感覚からすると、ややドライに映る場面もありますが、そうした仕組みが必要とされる必然性は、日常生活のなかでも実感します。
「新入生に親切にする」までポイント制。賞を与えるシステムの違い
一方で、賞罰の「罰」だけでなく、「賞」を与える仕組みも非常に明確です。娘が通うミドルスクールでは、宿題の提出、計算のスピード、遅刻をしないことなど、日々の良い行動に対してポイントが付与される制度があります。
その項目のなかには、「新入生に親切にする」という行動も含まれていました。
ただ、日本で育った娘は、「みんな優しいけれど、ポイント目当てな感じがして、ちょっと複雑」とこぼしていました。中学生にもなると、周囲の行動を冷静に観察する視点も育ってきます。
ハワイのこの仕組みは、「見返りを求めないこと」を美徳とする日本的価値観とは、対照的です。「阿吽(あうん)の呼吸」が成立しにくい多様な環境においては、行動の基準を明確に示し、インセンティブを設けることで秩序を保つという合理性があります。
「いい行動=得をする」という仕組みで、一定のルールと秩序が維持されているのだと感じています。
息子の学校でも、クラスごとに半年に一度、思考力が高かった子どもには「Thinker賞」、思いやりのある行動が目立った子どもには「Open Mind賞」といった表彰があります。保護者が表彰式に招かれ、比較的規模も大きく、驚きました。
一方、日本では、賞や罰を一人の教師が判断することに慎重な文化もあり、評価そのものを控えめにするケースが少なくありません。
日本に、こんな表彰制度があったら、抗議する保護者も出てきそうです。
実際にハワイで暮らしてみて、日本社会は私たちが思っている以上に、「阿吽(あうん)の呼吸」のなかで和を大切にしながら成り立っているのだと感じるようになりました。
子どもたちの体験を通して気づく「多様性の難しさ」
息子はルールの壁にぶつかり、娘は「親切にも対価が生まれる」という現実に触れました。その姿を見ていると、私自身も多くの学びを得ています。
「多様性を大切にしたい」と口にすることは簡単ですが、それを維持するためには、ルールを明確にし、運用を厳格にする必要がある。その現実を、子どもたちの体験を通してあらためて感じました。組織を運営する立場としても、多くの気づきをもらっています。
……とはいえ、まずは息子よ、これ以上、学校でトラブルを起こさないでくれ、というのが本音です(笑)。
<文/大木優紀>
【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母
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