連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)。軽快な登場人物のやり取りに微笑ましくなるが、2月2日から放送された第18週「マツエ、スバラシ。」では胸が締め付けられる瞬間が少なくなかった。
加えて、選挙期間の今だからこそ考えさせられる内容でもあった。「マツエ、スバラシ。」が示したことを語りたい。

たった1本の新聞記事で人生が一転

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 2日放送の第86話では、トキ(髙石あかり)はレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)と結婚したことにより、父親・司之介(岡部たかし)がこさえた「完済までに200年はかかる」とされていた松野家の借金を返済した。

 このことを新聞社『松江新報』の記者・梶谷吾郎(岩崎う大)が記事にしたことで、トキは世間から“ラシャメン(外国人の妾)”と勘違いされ、これまで松野家に好意的だった松江市民は手のひらを返す。トキの絵が描かれたうちわを燃やしたり、街中を歩くトキに石を投げつけたりするなど、攻撃的な態度を見せる。

 突然、たくさんの悪意を向けられることにトキは心を痛め、さらには自身が“異人”であることで悲劇を招いたと考えたヘブンは、罪悪感を募らせていく。しかし、5日放送の第89話では、『松江新報』にて島根県知事・江藤安宗(佐野史郎)が食い逃げした疑いを報じられたことをきっかけに、市民の矛先は松野家からアッサリと江藤に向けられる。結果的に、トキたちは平穏な暮らしを再び送れるようになった。

過去のラシャメン騒動

 借金返済のためにヘブンの女中になることを決意した時、トキはラシャメンと後ろ指をさされることをどこか覚悟していた。その後、トキはヘブンの女中になったことを隠しながら生活していたが、ついに家族にバレてしまう。家族も一度はトキの選択を責めるが、ヘブンが純粋に女中を求めており、家族が考えていたようなことは一切なかったことを知ると、事態は丸く収まった。

 とはいえ、当時、ラシャメンに関するトラブルは「これでおしまい」ということはなく、「今後も起きるだろう」と予測していた視聴者も多いかもしれない。そして今回、記者の梶谷が軽い気持ちで書いた記事により、市民から牙を向けられることになった。

リアリティが生み出すしんどさ

 ある意味、“ラシャメン騒動”は予想通りではあるが、思っていたよりもその内容はしんどい。「報道をきっかけに、不特定多数の人間に攻撃される」という展開は、ドラマや映画ではよく見られる光景だ。
見慣れているはずではあるが、トキとヘブンがゆっくりと愛を育んでいく姿を3~4か月も見ていた側からすると、2人の関係が誤解され、それによって悪意を向けられる様子は見ていて胸が痛んだ。

心が重かった…今週の朝ドラ『ばけばけ』が、今の私たちに「しんどく響いた」ワケ。他人事でも昔話でもない
『連続テレビ小説 ばけばけ Part2(1) 』(NHK出版)
 また、朝ドラのヒロインは自身の勇気や行動力でもって困難を切り開くケースが目立つが、トキはそういったヒロイン像とは異なる。ヒロインや仲間の誰かが市民の誤解を解くわけではなく、ヘブン専属の車夫・永見剣造(大西信満)が言った通り“人の噂も七十五日”で解決する展開は現実的だ。騒動が沈静化した要因が、“別のスキャンダルの発生”だったというリアリティも、精神的な辛さを増長させた。

差別意識の暴走

 そもそも、安定した生活を求めて正規の教員を目指しているサワ(円井わん)、一時はヘブンのラシャメンになってでも貧困生活から脱したいと考えていた元遊女・なみ(さとうほなみ)など、トキの周りを含め、結婚以外で女性が自立する選択肢はほぼない。そういった事情を無視して、トキに対し安易にラシャメンというレッテルを貼り、攻撃する市民には見苦しさを覚える。

 加えて、ヘブンが松江に来た時には歓迎ムードだった市民も、トキにラシャメンの噂が浮上すると、狂気を表出していた。つまり、外国人に対する差別意識も潜んでいたことがうかがえる。アッサリと情報に振り回され、自身が持つ嫉妬心や差別意識を暴走させる展開は、ドラマという側面だけではなく、ドキュメンタリーのような切迫感があった。

選挙期間中だからこそ

 本作は約100年前の島根県を舞台にした作品ではあるが、「マツエ、スバラシ。」でのできごとには妙な近さを覚えた。それは、作中で描かれていることが現代でも日常的に見られることに加え、今が選挙期間中であることも大きい。

 現在、私たちの周りでもさまざまな情報が錯綜しており、何を信じていいのかを判断することは難しい。一部を切り取っただけの情報を疑うことなく信用し、外国人に対する差別意識などを暴走させる有権者も、ここ最近珍しくない。


 今回の衆議院選挙は急遽開催が決まったため、ドラマ側が投開票日である2月8日に合わせて“ぶつけた”わけではないだろう。ただ、投票前に「どう投票すればいいのか?」を一度考え直させてくれる内容だった。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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