40歳を超えてから、スタートアップ企業「令和トラベル」に転職。
第35回となる今回は、旅行会社に勤める大木さんが、「旅券の日」をきっかけに日本のパスポートについて深掘りします。(以下、大木さんの寄稿)
2月20日は「旅券の日」
みなさん、2月20日が何の日かご存じでしょうか。あまり知られていませんが、この日は「旅券の日」ーーつまり「パスポートの日」です。
2026年の「ヘンリーパスポートインデックス」によると、日本のパスポートは世界第2位の強さを誇ります。現在、日本のパスポートがあれば188の国と地域にビザなしで渡航できると発表されました。
世界的に見れば、これほど自由度の高いパスポートは、まさに“信用の証し”。日本人であるということ自体が、国際社会から高い信頼を得ているという意味でもあります。
けれど、その一方で、日本のパスポート保有率はわずか17.5%。およそ6人に1人しかパスポートを持っていない、という現実があります。
世界が羨むほどの“プラチナチケット”を持ちながら、タンスの肥やしにしている。
なぜ私たちは、この「世界最強クラスの信用」を使わずにいるのでしょうか。今日は、そんなお話しをしてみたいと思います。
そもそもパスポートの本質的な価値とは?
私たちがよく知っているのは、「写真付きの身分証明書として使える」という機能かもしれません。けれど、それはあくまで副次的な役割にすぎません。
パスポートの本来の意味は、日本国政府が外国政府に宛てた“保護要請書”です。実際、券面の裏側にはこう記されています。
「所持人を通路故障なく旅行させ、かつ保護扶助を与えられるよう要請する」
つまり、日本という国家が各国に対して「この人は日本国民です。どうか安全に通行させ、必要なときは守ってください」と公式にお願いしている文書なのです。
日本のパスポートの当たり前は、世界の当たり前ではない
これは単なる偶然ではありません。
先人たちが積み重ねてきた外交努力、経済力、そして何より「日本人は約束を守る」「大きなトラブルを起こさない」という国家への信用の蓄積。その結果として与えられている“見えない信頼”です。
私たちは、その信用の上に立っています。しかし、この「当たり前」は、世界の当たり前ではありません。
パスポートの力が弱い「持たざる国」の若者たちは、渡航のたびに高額な手数料を払い、膨大な書類を準備し、国によっては面接を受けなければなりません。それでも、ビザが下りないことは珍しくありません。
そんな彼らにとって国境は、大きな壁になっている。
一方で、日本人は188カ国がフリーパスで、国境が自動ドア状態になっている。私たちは「移動の自由」という、世界的に見れば極めて希少な特権を持っているのです。
旅券の日に問われる、日本人の国際化
そして今年も、2月20日「旅券の日」がやってきます。この日は、外務省から最新の旅券統計が発表される日でもあります。これは単なる数字の発表ではなく、日本人の国際化の健康診断のような意味があるんじゃないかと、私は思っています。
どれだけの人が世界へ目を向けているのか。どの世代が、どれくらい外に出ようとしているのか。その現在地が、数値として可視化される日なのです。
今年の注目ポイントのひとつは、2025年3月から全国で可能になったスマートフォンでのオンライン新規発行申請。「面倒だから作らない」と言っていた層を、どれだけ動かせたのか。利便性の向上が、実際の行動変容につながったのか。
その答えが、今回の統計で見えてくるはずです。これにより、パスポート取得のハードルは確実に下がりました。
そして、コロナ禍以降たびたび指摘されてきた「若者の海外離れ」。この日に世代別の発行数も出るので、若年層の経済状況や内向志向の実態も浮き彫りになるでしょう。世界へ向かう余力があるのか、それとも余裕を失っているのか。
結果次第では、政治の動きにも影響を与えるはずです。
実際、2026年7月1日からはパスポート手数料を最大7000円引き下げる案が国会であがっています。現在1万6000円かかる10年用パスポートは、1万円以下になる見込みと報じられています。
この方針は、年度末の予算成立を待って、正式に具体化される見通しとなっています。
これは単なる安売りではありません。
機会の平等化・標準化。経済的な理由で「世界を見る機会」を得られない若者を減らすための、未来への投資だと思っています。
世界最強レベルの信用を、どう使うか
日本のモノやサービスを売るのではなく、日本人が海外でお金を使う。短期的な経済収支だけを考えれば、優先順位が高い政策とは言いにくいかもしれません。
それでも、パスポート手数料を最大7000円引き下げるという議論に至っている。
これは単なる家計支援策ではないはずです。
日本人が世界を見ることに、国家として意味を見出している。国境を越える経験が、長い目で見れば日本社会の力になる――そう考えているからこその政策ではないでしょうか。
パスポートという、日本の赤い手帳。
それは、単なる渡航書類ではありません。
「たかがパスポート。されどパスポート。」
世界が羨むほど強いパスポートを持ちながら、その価値を意識する機会は、実はあまり多くありません。
2月20日、旅券の日。
ぜひこの機会に、日本のパスポートが持つ本当の意味を、少しだけ立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。
<文/大木優紀>
【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母
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