2月13日からPrime Videoで配信中の映画『エンジェルフライト THE MOVIE』。第10回開高健ノンフィクション賞を受賞した佐々涼子氏の『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社刊)が原作で、2023年3月に独占配信されたドラマ(全6話)は、Amazon内のレビュー平均星4.6(2026年2月26日時点、総数1,109件)と高評価を記録し続けている。


死者を描く重み。米倉涼子『エンジェルフライト THE MOV...の画像はこちら >>
 今回映画が配信されることを心待ちにしていた人は多いだろう。筆者もその1人だ。待望の配信となった本作について語りたい。

死者と遺族に寄り添う物語

 本作は、異境の地で亡くなった人の遺体を国境を越えて故国に送り届ける“国際霊柩送還士”たちの物語である。国際霊柩送還を展開する会社・エンジェルハースの社長を務める伊沢那美(米倉涼子)をはじめとした国際霊柩送還士たちが、死者や遺族に寄り添いながら“お別れ”をサポートする様子を描いたヒューマンドラマだ。

 今回、世界中を旅していた車いすのYouTuber・倉持健臣(佐藤緋美)、SIDS(乳幼児突然死症候群)で亡くなった赤ちゃん・ミーナ(Lily.M)、日本で愛された往年のハリウッドスターのマービン・クルーゾー(RICHARD E.WILSON)、メキシコで亡くなった日本人夫婦の妻・菊池美沙子(鶴田真由)など、さまざまな背景を持つ死者が登場する。4人の死者と彼らの遺族の物語が交差しながら進行していく。

本作の緩衝材は?

 本作はなにより、国際霊柩送還士のキャラクターと、彼らが担当する死者の背景や遺族の心情が噛み合っているところが心地よい。

 健臣を担当する矢野雄也(矢本悠馬)と田ノ下貢(徳井優)は、車いす生活を送りながらも世界中を旅してまわる健臣の姿に感銘を受ける。旅行に行くことを止められなかった自責の念と、奔放な性格の健臣への呆れや怒りを胸に抱えている健臣の父親・吾郎(生瀬勝久)を、体育会系の性格の雄也が励ます姿に嫌味や違和感はない。

 ミーナの両親・真衣ランベール(入山法子)とルカ(ALEX JD)と接することになった高木凛子(松本穂香)と柊秀介(城田優)は、序盤、凛子が空回りして真衣との間に溝が生まれてしまう。それでも秀介のフォローもあって徐々に関係性は落ち着きを見せる。また、真衣の悲しみを受け止めることに徹していたルカに、秀介が優しく寄り添う様子も印象的だ。悲しい気持ちを吐き出させてあげる場面は、本作で一番好きなシーンである。


気持ちをふっと軽くする掛け合いも

 クルーゾーを担当する松山みのり(野呂佳代)と柏木史郎(遠藤憲一)は、本作における緩衝材だ。クルーゾーと親しい間柄だったサクラ(赤間麻里子)との交流を通し、故人の人柄が見えてくる描写には人間らしさがある。

 また、死をテーマにした作品ではあるが、決して茶化すことなく、視聴者の気持ちをふっと軽くするみのりと史郎の掛け合いも面白い。クルーゾーパートは、『リーガル・ハイ』や『コンフィデンスマンJP』などを手がけ、本作の脚本も務めた古沢良太の巧みさが随所に光っていた。

 そして、那美はメキシコに渡り、美沙子の夫・譲司(木村祐一)と対面する。良家の美沙子をメキシコに連れ出し、借金返済のために休む間もなく働かせてしまったことを悔やむ譲司。ただ、那美は持ち前のきっぷの良さで、譲司の心の扉を丁寧に開いていく。壮大なロケーションだからこそ人間の繊細な感情の機微が浮き彫りになり、譲司と美沙子それぞれの愛情深さに胸を打たれた。

もったいなかった点

 少々残念に思った点もある。ドラマ版では基本的に1エピソードに1人の死者が描かれており、死者や遺族、国際霊柩送還士の心情に思いを馳せる余白が十分に残されていた。しかし、映画である本作では4人の死者の物語が描かれているため、“駆け足感”を覚えずにはいられない。

 健臣は旅費を視聴者からの善意でまかなっていた部分があり、「感動ポルノ」と揶揄されることもあった。また、真衣が国際結婚の難しさに直面していることがルカの口から語られていた。死者や遺族の背景が丁寧に描かれていただけに、「映画ではなくドラマの1エピソードとして見たらどうだったのか?」という思いがよぎった。


死を自分事として

 面白い作品であることは間違いない。死者と遺族の物語であり、「死者が奇跡的に一命をとりとめる」という展開は存在しない。ある意味絶望的な内容ではあるが、しっかりとお別れをすることを希望として描いているのだから、すさまじい作品である。

 光を見いだせる内容ではあるものの、伝えておくべきことを伝えられなかったことへの後悔を、死者も遺族も抱えている。その様子には、こちらも悔しさを覚える。

 今生きていること、大切な人が生きていることは偶然でしかない。「死」という、誰にでも平等に訪れるが、意識的に目を向けることの少ない現象を“自分事”としても考えたくなる内容だ。時間があるときに観てみてはどうだろうか。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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