16歳で内地に戻され、17歳でひとり上京、苦学しながらさまざまな政治思想や哲学を探求、ついには虚無主義にまで行き着く。そんなとき出会った朝鮮人の朴烈と「不逞社(ふていしゃ)」を組織、日本の帝国主義や植民地主義を批判する活動を開始する。だが、関東大震災の際に身柄を確保され、皇太子に爆弾を投げようとしたでっち上げの罪を着せられ、大逆罪で死刑判決を受ける。
映画『金子文子 何が私をこうさせたか』は、逮捕されたあとの121日間を、文子が何を考え、どう生きたのかを追った、浜野佐知監督渾身の作品である。その浜野監督と、文子を演じた菜葉菜さんに話を聞いた。
映画の核心となる重要なシーンからの撮影
――もうじき(2026年2月28日より)公開される『金子文子 何が私をこうさせたか』ですが、今の思いを聞かせてください。
菜葉菜:私もあっという間だと感じていました。試写を重ね、こうやって取材をしてもらえる期間もあってよかったかもしれませんね。私自身、金子文子のことをまったく知らなかったから、同じように知らない人たちに観てほしい。
――映画は、13歳の文子が植民地の朝鮮で自殺を思いとどまるシーンの後、金子文子が予審尋問で、職業を聞かれて「現に在るものをぶち壊すのが私の職業です」と言うシーン、さらに死刑判決を受けて、不遜な笑みを浮かべながら「バンザイ!」と叫ぶシーンから始まります。観客は最初から一気に引き込まれます。
菜葉菜:私も自分の撮影初日が来るまで、不安でたまらなかったんです。でも予審尋問のシーンでセリフを言い始めたら、あとはごく自然に出てきた。どう演じるかなんてほとんど考えず、いくらでも文子として腹から言葉が出てくる。自分でも不思議でした。
浜野:菜葉菜さんを見て、うわあ、文子だと思いましたよ(笑)。
魂の叫びを、私が説得力あるセリフとして出せるのか
浜野:菜葉菜さんとは、『百合子、ダスヴィダーニャ』(2011年)でロシア文学者の湯浅芳子という実在の人物を、『雪子さんの足音』(2019年)では小野田さんというフィクションの人物を演じてもらったんですが、菜葉菜さんの芝居を見て驚きました。役になりきる俳優さんは多いけど、菜葉菜さんは演じる人物を完全に自分の中にいれて、内から出してくる。しかも、作品のテーマについて議論ができる。そこは根本的なところとして外せないし、2本の作品で信頼関係もできていると思っていました。
でも監督は細かいことは何もおっしゃらない。
文子の思想を紐解き、エピソードやストーリーを練り上げた
浜野:そういえばクランクインまで2ヶ月を切ったあたりだったかな。ある女性センターで私と菜葉菜さんがゲストで『百合子、ダスヴィダーニャ』の上映会があったんですが、菜葉菜さん、出番待ちの舞台の袖でずっと金子文子の台本を読んでたよね(笑)。
浜野:私が何か言うとかえって菜葉菜さんが混乱するんじゃないかと思って黙っていたんです。大丈夫だと信じていましたし、それに悩んでもらわないと、とも思っていたんです。はい、わかりましたと軽く言える役じゃないから。
菜葉菜:私は監督の文子への熱量や情熱をわかっていたから、とにかく監督の思う文子像を演じられるかどうかが不安でしたね。でも初日につかめた感じはしました。山﨑さんが素敵な脚本を書いてくださったおかげで。
浜野:下調べなど脚本になるまで2年、脚本になってからも完成まで1年くらいかかっています。獄中手記以外、文子が残した資料がないんですよ。だから、予審調書や裁判記録をベースにして文子の思想を紐解き、自死する前に詠まれた短歌をもとに、脚本家が死に至る女子刑務所での文子の心の変化や、エピソードなどストーリーを練り上げていったんです。
怒りという暴れまくるものを抱え、エネルギーを思想に結びつけた
菜葉菜:文子は活動家だから、ただ怖い人になりがちだけど、文子の向上心や人柄もきちんと表現されていました。私はその脚本を崩さないよう、きちんと見せなければと思っていました。文子は友だちや同志といるときは感情豊かで明るかったと言われている。ひとつだけの顔じゃなくて、人間・文子のいろいろな面を見せたいと思っていました。浜野:現場での菜葉菜さん、本当に文子が乗り移っているみたいでした。さまざまな表情が菜葉菜さんから文子として出てくる。ふだんの菜葉菜さんを知っている私からみると、文子の根っこにある「与太者的なところ」が菜葉菜さんにあるのか、というところがいささか心配だったんですが……。
浜野:文子は、朴烈と「不逞社(ふていしゃ)」を作ってからは銀座あたりでカツアゲみたいなことをしたり、広告を取りにいって相手を脅すようなこともしている。
菜葉菜:あります(笑)! 決していい子ちゃんじゃないところが。
浜野:ね、あったんですよね(笑)。あの時代の婦人運動家というと、管野スガとか伊藤野枝とかが浮かぶけど、彼女たちはどこかアカデミックな香りがある。でも文子は違うんですよ。自分の中で怒りという暴れまくるものを抱え、そのエネルギーを思想に結びつけたのではないか、そういうタイプの活動家なのではないかと私は考えているんです。そこが好きなんですけどね。
<取材・文&人物写真/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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