100年前、大正の動乱期に国家権力と対峙し、一人の人間としての尊厳を貫いた女性・金子文子。2月28日より公開される映画『金子文子 何が私をこうさせたか』は、過酷な生い立ちを経て無政府主義へと向かった彼女の、凄絶な魂の軌跡を描いた作品である。


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 本作で文子の生を体現した主演・菜葉菜さんと、メガホンを取った浜野佐知監督が対談。菜葉菜が役者を志した原点から、俳優・吉行和子の遺したもの、日本映画界の現在地まで、作品を越えて“自分を貫いて生きる”ということを語り合った。

自分は自分でブレずにがんばっていきたい

――菜葉菜さんはどうやって役者さんになったんですか?

「とんでもないばあさんが演りたい」レジェンド女優が80代で求めた“転機”とは? 自分に嘘をつかない覚悟|浜野佐知監督×菜葉菜が語る
浜野佐知監督と菜葉菜さん
菜葉菜:私は子どもが好きで、保育の学校に行っていたんです。たまたま今の事務所のマネージャーさんに渋谷で声をかけられて。役者を育てたいんだ、と。テレビも映画もたいして観ていませんでしたから、最初は興味をもてなかった。でも考えてみれば、内弁慶だったから外ではできないけど、子どものころはよく家でものまねとかしていたんですよね。それで学校へ行きながらオーディションを受けていたけど落ちてばかり。

 あるとき、映画のオーディションに受かって、一言だけセリフがあったんです。映画を作る現場の雰囲気が楽しかった。みんなが一つの目的に向かって行く感じが、泥臭いけどいいなと思って。その映画では一緒にオーディションを受けた人がたくさんセリフをしゃべっていて、私ももっとしゃべりたかったなと思って。本をたくさん読んで、映画をたくさん観なさいと社長に言われました。
映画ノートをつけたりして。

 とはいえ、きちんと就職して保育の仕事をしていたんですが、オーディションを受けるにも有休を使わないといけないから迷惑がかかる。両親は何も言わなかったんですが、一大決心をしてアルバイトを3本かけもちして実家に少しお金を入れるから「なんとかいさせてください」と頼みました。それからは映画を浴びるほど観て、オーディションを受けまくって。それこそ先ほども言ったように(※)、当時は「良い子でいないといけない、かわいくいないといけない」と自分で自分を苦しめていた。でも16年前、浜野監督に出会って、改めて自分は自分でブレずにがんばっていきたいと思ったんです。(※対談第2回参照)

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菜葉菜さん
浜野:役者さんは自分から動くのがむずかしいところはありますよね。だけど、「選んでもらう」んじゃなくて「選ばせる」力を身につければいいのよ。長い目で見たら、器用になんでもこなす役者さんより、この人でなければと思わせる役者になったほうがいい。菜葉菜さんはそういう役者になれる人ですから。

「とんでもないばあさんが演りたい」吉行和子さんの勇敢な挑戦

――この映画は、吉行和子さんの遺作ともなりましたね。文子を虐待する祖母役でした。

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吉行和子さん
浜野:はい。
体調がすぐれないと伺っていたんですが、カメラの前に立つと、ものすごい気迫で。たった3カットだけだったんですが、それだけで観客に文子が置かれた残酷な環境を一瞬で分からせる見事な演技でした。

 吉行さんとは1998年の『第七官界彷徨-尾崎翠を探して』で出会って、それ以降の私の自主制作作品6本すべてに出演していただきました。以前伺ったんですけど、今までの女優生活で2回ターニングポイントがあったとおっしゃったんですね。1度目は40歳を過ぎたころで、あまりやりたい役が来なくなった、このまま役者を続けるかどうかと悩んでいたら、大島渚監督の『愛の亡霊』(1978年)へのオファーがあった。濡れ場たっぷりのハードな映画ですから周りは当然、大反対だった。でも吉行さんは果敢に挑戦して、結果、自分を変える事が出来た、と。

 2度目は65歳を過ぎて、一個人としての役より、誰かのお母さん、誰かのお婆さんという一人の人間としての固有名詞のない役が多くなった。つまらないな、と思っていた時に『百合祭』(2001年)の話が来た。「これだっ!」って思ったっておっしゃって。『百合祭』って高齢女性の性愛を描いた映画なんですよ。ミッキーカーチスさんとの濡れ場もあるし、ラストでは白川和子さんとのキスシーンもある。
吉行さんって本当に勇敢な人なんですね。自分を変えていくことを恐れない。

 それから17年くらいたって、私が菜葉菜さんとか吉行さんのマネージャーさんと飲んでたら吉行さんから「とんでもないばあさんが演りたい」っていうラインが届いたんですよ。私、その時直球で吉行さんの心を受け止めたような気がしたんですね。吉行さんは3回目のターニングポイントを求めている。ならば、受けて立つしかない(笑)。

「もうきれいに撮ってもらうのはお終い」ときっぱり

菜葉菜:それが『雪子さんの足音』(2019年)だったんですね。私も共演させていただいて、吉行さんが醸し出すなんとも言えないエロスに、すごいなあと思いました。

浜野:『雪子さんの足音』を観て、吉行さんは「こんなにきれいに撮ってもらうことってめったにないのよ」って喜んでくれたんです。でも、今回の『金子文子 何が私をこうさせたか』に祖母の役で出演をお願いしたら「もうきれいに撮ってもらうのはお終い」ってきっぱり言われたんです。吉行さんの役者としての覚悟が伝わってくるようでした。すごい俳優さんだったと思います。

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浜野佐知監督
菜葉菜:本当にかっこいい役者さんでした。


浜野:その吉行さんの心意気は、菜葉菜さんが継いでいってくれると私は思ってるんですよ。

菜葉菜:いや、とてもとても……。

浜野:大丈夫、自尊心をもっていれば何も恐れることはないんだから。

――自尊心って何ですか?

浜野:ものすごく簡単に言うと、自分に絶対嘘をつかないこと。

――むずかしい……。

「私は猥褻やってんだよ」中途半端なソフト路線はやりたくない

――ところで監督はピンク映画はもう撮らないんですか?

浜野:最近、ピンク映画もR18じゃなくて、R15というソフト路線がほとんどなんですよ。私、中途半端が嫌いなの。映倫と闘ってその時代、時代の性表現を勝ち取ってきたという自負がある。ピンク映画を撮りながら、芸術だのなんだのという男の監督たちの中で、「私は猥褻やってんだよ」と言い切ってきた(笑)。だから中途半端なソフト路線はやりたくないんですよ。

菜葉菜:監督は自分に嘘をつかないから(笑)。でも日本には、大人の恋愛映画が少ないですよね。ヨーロッパなどでは70歳代の恋愛映画がちゃんとあって性描写もきちんと描かれている。
私は以前から、日本には大人の映画が少ないなと思っていました。ただ、女性監督が増えてきたから、これからは少し変わっていくかもという期待はあります。

映画がすこしでも起爆剤になってくれれば

――この映画、いろいろなところに爆弾を投げ込みそうですね。

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浜野佐知監督と菜葉菜さん
浜野:今の底が抜けたような日本に、いつまでも変わらない男社会に、若い世代の特に女性たちの生き方に、そして日本映画界のあり様に、この映画がすこしでも起爆剤になってくれればうれしいですね。

菜葉菜:私はとにかく、金子文子という実在の人物がいたことを知ってもらいたいです。そして彼女の生き方を通して、自分を見つめ直すきっかけになれば、と。私自身もそうでしたから。

浜野:私の監督人生の集大成とも言える作品です。一人でも多くの人に観ていただければうれしいですね。

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 そして2月28日、渋谷ユーロスペースで映画が公開された。1回目も2回目も満席となり、2回目上映後に舞台挨拶がおこなわれた。

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菜葉菜さんの挨拶を頼もしそうに見つめる浜野監督
 舞台挨拶では各役どころの話や、浜野監督の印象が語られた。
60年近いつきあいの白川和子さんは、若い頃の浜野監督のエピソードを披露、「佐知の映画ならいつでも駆けつける」と語った。

 浜野監督は「みなさんも今日からは、“心に文子”を合い言葉にがんばって生きていきましょう」と挨拶、会場が盛り上がった。

「とんでもないばあさんが演りたい」レジェンド女優が80代で求めた“転機”とは? 自分に嘘をつかない覚悟|浜野佐知監督×菜葉菜が語る
左から大西ヤスエ、三浦誠己、菜葉菜、浜野佐知監督、小林且弥、白川和子(敬称略)
<取材・文&人物写真/亀山早苗>

【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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