大きな地震が起き、被災地の状況を伝える報道を見るたびに、「防災リュック、ちゃんと用意しなきゃな」と思う方も多いでしょう。しかし、ワコールが2025年に行った調査(※)によると、「防災リュックを用意している人」は全体の35.6%。
その理由について、5割弱の人が「何を用意したらいいのかわからないから」と回答しています。

 そこで、防災のプロ——『最強版 プチプラ防災』の著者で、東日本大震災をはじめ国内外30か所以上の被災地で医療支援に携わってきたレスキューナース・辻直美さんの防災リュックの中身を見せてもらうことにしました。

※ワコール「防災準備と下着についてのアンケート調査」
調査期間:2025年1月
調査対象:女性9650名・男性8621名 計1万8271名(20~50代)

72時間をサバイブする「防災リュック」

災害対策のプロが「防災リュック」に入れている“非常時、本当に...の画像はこちら >>
「防災リュックは、避難所に行く際に持っていくものと想定して備えます。避難所には物資が揃っていない前提で考え、72時間——3日間をサバイブできるものを入れています」と辻さん。

その中身は以下のとおりです。

•水:1人あたり3リットル×3日分
•食料:防災食ではなく、普段食べ慣れているもの。野菜やたんぱく質がとれるものを意識
•カトラリー・調理器具:温かいものが食べられるように
•着替え・下着:重ね着で暖をとれるため、衣類は少なめ。女性らしい色は避ける
•排泄グッズ:避難所のトイレは使えない前提で、携帯用トイレなどを用意
•衛生セット:無水はみがきやウエットシートなど。感染症予防のため清潔を保つ
•充電器・ケーブル・イヤホン:避難所の充電スポットは混雑するため、スマホは自分で使える状態に
•多用途に使えるアイテム:新聞紙、ロープ、レジャーシート、ビニール袋、軍手、風呂敷、手ぬぐい
•油性ペン・マスキングテープ
•応急手当セット:消毒液、止血に使うおりものシート、包帯など


災害対策のプロが「防災リュック」に入れている“非常時、本当に必要となるアイテム”
濡れたら使い物にならない洋服は圧縮ビニール袋に入れる。被災時は洗濯できるとは限らない
 アイテムは種類ごとに保存袋に入れるようにしましょう。これは水害時の水濡れ防止のためでもあり、リュックの中で食品などが漏れた場合に被害が広がるのを防ぐため。圧縮できるので、防災リュックの省スペースに役立ちます。

「防災リュックの中身は、慣れたもの、使いやすいものがいちばん。実際に試してみて、納得して備えてほしいと思っています。
私の防災リュックに入っているものの多くが、防災の専門用品ではなく、ホームセンターや100円ショップで手軽に手に入るものですから、試しやすいと思いますよ」

「二季」時代、防寒・防暑アイテムも忘れずに

 そして、ここ数年、防災リュックについて辻さんが特に意識しているのが、防寒・防暑アイテムの備えです。

「気候変動の影響もあり、夏の暑さも冬の寒さも厳しくなっています。避難生活は、エアコンなどがない環境で過ごすことになります。少しでも快適に過ごすためのアイテムは、ぜひ用意しておいてください」

 具体的には、夏は熱中症対策のタブレットや扇子、ハンディファンなど。水スプレーやハッカスプレーは、ワンプッシュで一瞬涼しさを感じられるといいます。

災害対策のプロが「防災リュック」に入れている“非常時、本当に必要となるアイテム”
夏仕様の防災リュックに入れるもの。塩分入りタブレットは熱中症対策に
 一方、冬はカイロやレスキューシート、新聞紙。新聞紙はくしゃくしゃにして繊維を断ち切り、手首に巻くと立派な防寒具になるそうです。

災害対策のプロが「防災リュック」に入れている“非常時、本当に必要となるアイテム”
冬仕様のリュックに入れるもの。かさばる洋服類を少なくするため代用できるものを活用
「夏は防暑、冬は防寒と、季節に合わせた防災リュックに。季節の変わり目には“衣替え”を習慣にしてください。その際、食品の賞味期限やケーブル類の規格など、リュック全体の点検も行いましょう」

 防災リュックは一度用意したまま、放置してしまう家庭も少なくありません。年2回の“衣替え”を習慣にすることで、「いざというとき使えない」という事態を防げます。

災害対策のプロが「防災リュック」に入れている“非常時、本当に必要となるアイテム”
防災リュックは15-20㎏の重さに耐えられる、背負い紐が丈夫なものを選んで


エンタメアイテムで避難所に笑顔を

「先の見えない不安と、ままならない生活。避難所にはどうしても暗い空気が漂います。
気を紛らわせるもの、笑顔になれるものがないと、正直、心が持ちません。電気を使わずに楽しめるエンタメアイテムも用意しておきましょう」

災害対策のプロが「防災リュック」に入れている“非常時、本当に必要となるアイテム”
レスキューナースの辻直美さん。防災リュックから食料を取り出して使い、補充する「ローリングストック」を実践
 おすすめは、トランプなどのカードゲームや絵本、占いの本など。みんなで楽しめるものであることも大切です。

「絵本の読み聞かせを『宝塚風に読む』『関西弁で読む』など、お題を出して読み合い、大盛り上がりしたことがあります。笑い声が前を向くきっかけになる。そんな空気をつくる人が一人いるだけで、場は変わるんです」

【辻 直美さん】
国際災害レスキューナース
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。その後、赴任先の聖路加国際病院で地下鉄サリン事件の対応に従事し、災害医療の道へ。看護師歴35年、災害レスキューナースとしては31年活動し、被災地派遣は国内外合わせて30か所以上。2016年にはレスキューに入った熊本地震で本震を経験。2018年には大阪府北部地震で自宅が震度6弱の揺れに見舞われるも、100円グッズのアイテムを中心とした対策で家も自身も無傷だった。現在はフリーランスの看護師として、要請があれば被災地で活動を行うほか、防災教育にも注力

<取材・文/鈴木靖子 撮影/星 亘>
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