松江の没落士族の娘・小泉セツさんとその夫で作家の小泉八雲さん(パトリック・ラフカディオ・ハーン)をモデルにした、連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)。松野トキ(髙石あかり)とレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の物語ではあるが、2人の周囲には魅力的な人物が多い。


『ばけばけ』吉沢亮が13kg減量で体現した“恨めしさを抱えた...の画像はこちら >>
 物語後半での印象的なシーンが目立つトキの幼馴染・野津サワ(円井わん)と、ヘブンの良き理解者・錦織友一(吉沢亮)に焦点を当て、本作の制作統括を務める橋爪國臣氏に話を聞いた。

感情移入しやすいサワの存在

 サワは英語教師・庄田多吉(濱正悟)と仲を深めたり、トキとの関係がギクシャクしたりするなど、スポットライトが度々当たっている。そもそもサワというキャラクターをどのように捉えているのかを聞くと、「おそらく、一番感情移入しやすいキャラなんです」と話す。

「松野家の人たちは現代人とは違う考え方を持っていて、視聴者からすれば理解・共感できない行動も多いのかなと思います。多額の借金を背負っていることで、トキは毎日馬車馬のごとく働かされて、『こんな家、出ていってしまえばいいのに』と思った人も少なくなかったはずです。一方、サワは現代的かなと。正規の教員になって自立しようとする姿勢は、今では珍しくありませんが、当時からすればかなり先鋭的な生き方だと思います」

『ばけばけ』吉沢亮が13kg減量で体現した“恨めしさを抱えた男”。制作統括が語る「錦織の裏テーマ」
連続テレビ小説『ばけばけ』
 サワはある意味“朝ドラヒロイン”的ではあるとしつつも、「そういった女性ばかりではないよね」ということを本作で示したかったという。

「正しい道は人それぞれです。そういう生き方を選んだ女性も、選ばなかった女性も、各々が思う幸せの道を歩いているのだろう、と思ってもらえたら嬉しいです」

錦織は「恨めしさ」を抱えた男

 後半の大きな見どころとして、やはり錦織に触れないわけにはいかない。橋爪氏は錦織について「本当に“恨めしさ”を抱えている人物なんです」と話す。

「第4週でトキが錦織と初めて会ったとき、そこには錦織と庄田のほかに2人の学生もいました。彼らは将来、総理大臣になる男性と、“オリンピックの父”になる男性だという設定があります。錦織はそんな人たちからも一目置かれ、大盤石な人生と評されるほど圧倒的な才能の持ち主です。しかし、現在は地方で一介の教師をしている。
こうした現状に対する不満をあらわにはしませんが、鬱屈した思いがあるはずです」

『ばけばけ』吉沢亮が13kg減量で体現した“恨めしさを抱えた男”。制作統括が語る「錦織の裏テーマ」
『ばけばけ』制作統括の橋爪國臣氏
 心情がイマイチわからない男性ではあるが、「実は錦織が『何をしたいのか』『何を生きがいにしているのか』というのは最初から描いていて、本作の裏テーマでもあったりします」と語る。

「実力はあるけど認められなかった人、努力をしたけど上手くいかなかった人はたくさんいます。それでも、自分の中の何かを達成して生きている人もいて、そんな人の生き様が錦織という人物に詰まっています。そのことが、第23週ごろ(3月9日~)に錦織の口からいろいろ語られるので、注目してもらえると嬉しいです」

吉沢亮の“国宝”級の表現力

 続けて、錦織のモデルとなった西田千太郎について触れる。

「西田さんが実際に残した日記を見ると、その日の体重やその日にあった出来事などが淡々と書かれているだけで、特に心情などは記されていません。でもその行間からは、誰からも好意的な目線を向けられることへの葛藤などが汲み取れ、『きっとこういう苦しみを持っていたのだろうな』と感じました。そういった部分を拾って、ドラマとして描いています」

『ばけばけ』吉沢亮が13kg減量で体現した“恨めしさを抱えた男”。制作統括が語る「錦織の裏テーマ」
連続テレビ小説『ばけばけ』
 錦織の底知れなさはモデルの影響が多くあったようだ。とはいえ、むしろ視聴者から愛されるキャラクターとして成立させられている要因には、吉沢の表現力の高さを挙げる。

「ヘブンの本に書かれている『中学校では、同僚の錦織友一が万事よくやってくれる。文学的にも気が合う、唯一の親友である』という文言を何度も読み返してニヤニヤしたりなど、可愛らしいシーンは多いです。ただ、チャーミングな部分がありながらも錦織らしさを崩さないで演じられているのはさすがです。吉沢さんは、ただただカッコいい役をやらせるのはもったいない役者さんです」

 映画史に残る大ヒットを記録した『国宝』(2025年)で主演を飾り、吉沢は今まで以上に注目を集めたが、橋爪氏は「『国宝』とはまた違った人間臭さを『ばけばけ』でも表現してくれています」とその巧みさを絶賛する。

 さらには、錦織の英語を話すシーンについても、「錦織はしっかりと英語が話せる人の話し方をしていて、吉沢さんの努力のたまものだなと。
ただ発音よく話しているわけではなく、英語の意味を理解しているような喋り方をしているので本当にすごいです」と強調した。

クランクアップでホッとした表情も

 第23週では錦織が激痩せした姿を見せ、多くの視聴者を驚かせたが、その撮影の裏側を口にする。

「第23週の撮影をするにあたり、吉沢さんから『1か月、撮影の間隔を空けてほしい』と言われたんです。つまりは『1か月で体重を劇的に落とす』ということなんですが、実際に13kgほど体重を落としてきて本当に驚きました。本作にかける思いが伝わってきました」

 ハードな“肉体改造”に取り組んだため、クランクアップ時には終わりを惜しむ役者が多い中、吉沢は「やっとご飯が食べられる」と、どこかほっとした表情を見せていたようだ。

 誰もが順風満帆な人生を歩めるわけではない。だからこそ、サワや錦織のような人物の生き様が、物語に深みを与えているのだろう。

<取材・文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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