「電気が止まり、断水は1か月以上続いた」というアベさん。給水所では3時間の行列、足りない分は川に水を汲みにいっていたのだそう。そんな過酷な日々のストレスや、1歳の息子を守らなくてはいけないというプレッシャーは、夫婦関係にも影響していきました。
断水生活の知恵や、災害時の夫婦のコミュニケーションなどについて、アベさんに聞きました。
※東日本大震災の被災体験を描いた漫画を紹介しています。地震や津波を想起する文章・イラストがありますのであらかじめご留意ください
※本記事は全3回のうちの2本目です
川で水を汲んでいた子どもたち
――アベさんの自宅は1か月以上断水していたそうですが、一番困ったことは何でしたか?アベナオミさん(以下、アベ):トイレですね。これだけは、どうすることもできないんです。電気やガスが止まっても、何とか工夫して食事を作ったり、数日なら食べずに我慢することもできます。でも、トイレは長くても半日くらいしか我慢できません。
また、飲み水は500mlくらいでも1日過ごすことができますが、トイレを流すためには何リットルも必要です。当時の自宅のトイレは、1回流すのに10リットルは貯めないといけませんでした。トイレを流すのは1日に1回にしていましたが、それだけの量の水を毎日汲むのは大変でした。
――どうやってトイレを流すための水を汲んでいたのでしょうか。
アベ:少量の水でお皿などを洗ったり身体を拭くのに使ったら、汚れた水はすべて貯めて、トイレに使っていました。それだけでは足りないので、近くの川で水を汲んでいました。
川は、水を汲む人達で常に満員状態でした。とくに小中学生の子どもたちが多かったです。震災で学校が休校していたり、公園などの遊び場も給水所や炊き出しで使われていたので、遊ぶところもありませんでした。現代の日本とは思えない光景にショックを受けたのを覚えています。
ただ、災害が起きた時は自宅の水洗トイレを使わず、できるだけ水を使わない「非常用トイレ(災害用トイレ)」を使用していただきたいんです。私も後に勉強して知ったことなのですが、津波で下水処理施設が被害を受け、海の近くの地域では汚水があふれていたそうです。海の近くに住んでいた方たちは、それで悩まされていたと聞きました。災害時は、下水管が破損している恐れもあるため、できる限り非常用トイレを使っていただくことをおすすめしています。
断水生活を乗り切った工夫とは?
アベ:基本的に、給水するための容器は自分で用意する必要があります。当時、よく見かけたのはスーパーの買い物カゴに大きなビニール袋をかけたものでした。そこに水を入れて、袋の口をギュッと結ぶんです。
今は防災グッズとして、ジャバラ式の給水タンクなどがあるので普段はコンパクトに収納できます。また、普段から大きな給水タンクに水を汲んでおいて、古くなったら生活用水として使用する方法もあります。
――断水中にはどんな工夫をしていたのでしょうか。
アベ:1つはドライシャンプーを使ったことです。当時、震災前にたまたま購入していたのが幸いしました。身体は拭くだけで大丈夫だったのですが、寒くて髪を冷水で洗うのが難しかったので、助かりましたね。
また、外着と部屋着を分けていました。粉塵もあったと思いますし、地震でスギ花粉が一斉に散ったらしく、外がすごくほこりっぽかったんです。そのため、外の汚れを家に持ち込まないことがすごく大切でした。帰宅後は玄関で靴下まですべて脱ぎ、家の中用の服に着替える。
「震災離婚」が生まれる背景
アベ:1回給水するのに3時間は並ばなければいけませんでした。当時1歳だった息子と一緒に並ぶのは難しかったですね。
だから、当時は男性たちが頑張って水や食料を調達していたと思います。スーパーマーケットでも、3月の寒さに耐えながら前の晩から男性たちが夜通し並んでいました。そのため、開店時間になると前の晩から並んでいた人たちの分だけで売り切れてしまうことが多かったです。ベビーカーは、津波で流された車の中にあったので、1歳の子どもを連れて遠出することは厳しく、歩いて30分以上かかる町役場に物資があると聞いても、取りに行くことができませんでした。
――被災後は、アベさんが一人でお子さんを見ていることが多かったのでしょうか。
アベ:共働きだったのですが、保育園が再開していなかったので私は出勤することができず毎日子どもと2人で家にいました。夫は、津波被害に遭った会社の復旧に毎日出かけていました。
強盗被害や治安の悪化の噂がある中で、自宅で一人、子どもを守らなくてはいけない不安は大きかったです。
小さなことですが、もし夫が出勤する前に「今日も一人にしてゴメン、息子のことをよろしくね」と言ってくれていたら、私の受け取り方も違っていたのかもしれません。
――非日常だからこそ、お互いを気遣う言葉かけが大事なんですね。
アベ:当時は、「震災離婚」という言葉をよく聞きました。食料や電気がないなかで何とか作った食事を「まずい」と言われたり、ちょっとした出来事の積み重ねから夫婦の関係に歪みが生まれて、そのまま別れてしまうケースがあったといいます。
食料や水の調達に奔走するお父さんたちの頑張りは見えやすい一方で、子どもの世話をしながら家を守るお母さんたちのストレスは見えにくかったと思います。災害時のような「非常事態」は、心に深い傷が残りやすい時期です。「ありがとう」「ごめんね」と夫婦がお互いに敬意を持って言葉を掛け合うことが大切なのだと思います。
【アベナオミ】
宮城県出身・在住。日本デザイナー芸術学院仙台校でイラストを学ぶ。
<取材・文/都田ミツコ>
【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
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