3歳を目前に控えた我が子を突然亡くし、その経験を題材にした絵本『ママ、ぼくがきめたことだから』を2020年9月に出版した河原由美子さん。

わが子の死で「夫婦関係が破綻」することも。3歳目前の息子を亡...の画像はこちら >>
 絵本出版後には、思った以上に“子を亡くした親”が多いことや、その経験を他者に共有できていないという人が多いことを知ったという。


「我が子を亡くしたこと」を他者に伝える難しさ

「私が絵本を出版し、同じ経験をしていることを知っていただいたことで、『実は私も……』と話してくださる方が結構いました。たとえば出産したなどのポジティブな経験なら、人に言いやすいけど、自分の子どもを亡くしたことを人に言うと、相手に気を遣わせてしまったらとか、自分が傷つくことを言われたら……となかなか自己開示することが難しいという声がたくさんありましたね」(以下、河原さん)

 河原さんは絵本出版を機に、子どもを亡くすだけではなく、誰にもその経験や想いを吐露できないという苦しみを抱えた人たちが思ったよりも多いことに気づく。

 そして絵本出版直後、知り合いから「悩んでいるお母さんのコミュニティを作ったらどう?」という提案があったそうだ。

「実は、子どもが亡くなって2、3か月後に同様のことを別の方にも言われたこともあったのですが、その時は自分のことで精一杯で、他の人と向き合う余裕なんてとてもないという状態でした。ですが、絵本を出版した後に言われた時は、素直に受け止めることができました。同時期にNPOの方から、いろいろな自治体で自助グループを募集しているから応募したら? とアドバイスをいただいて人に道筋を作ってもらった感じですね」

 そうして生まれたのがお子さんを亡くしたママのコミュニティ「twinkle-mom」という自助グループだ。活動は月に1回、横浜市の男女共同参画センターでお話会を開催し、2か月に1回オンラインでも開催しているそうだ。

自助グループでは「思いや経験を押し付けない」をルールに

わが子の死で「夫婦関係が破綻」することも。3歳目前の息子を亡くした母が語る、親たちが直面する“苦しみ”
河原さんの子どもたち。中央が三男
 しかし一言で“子どもを亡くした”といっても、そのケースはさまざまだ。共感できる想いも当然あるが、人それぞれ子どもを亡くす痛みに対する向き合い方は異なり、それゆえに壁にぶつかることもあったという。

「最初は誰かの役に立ちたいという気持ちがあって、よくなってくれる人がいたらいいなと思っていましたが、子を亡くしたと言っても一つ一つの事例はまったく違うんですよね。最初に来た時は、お母さんがこのまま死を選んでしまうのでは? と思うことも多くて、時期だったりとか、誰に声かけられるかとか、そういう偶発的な要素によってもそうですし、前を向けるタイミングも人それぞれなんだなということを実感していく日々でした」

 最初は無理に救おうと、河原さん自身もプレッシャーに感じることも多かったそうだが、自分で気づくしか、変わることができないという現実を素直に受け止められるようになったそうだ。

 誰かが誰かを直接的に助けることは無理であり、他の人の経験を共有するだけで、それぞれが自分自身を救っていくきっかけを得ていく。だからこそ河原さんが立ち上げたのが“自助グループ”であるという点に大きな意味あるといえる。

「自助グループには来ても、自分の経験は一切話したくないという人もいますが、みんなで話した時に、自分だけじゃないんだと安心される方も多いですね。
海難事故で亡くなって、ご遺体が見つかっていないという事例もあったり、お子さんを自殺で亡くされた方は、やはり『自分がもっと何とかできたんじゃないのか?』という想いが強くなる傾向があったり、本当に想いはさまざまです。

子を亡くした苦しみに対する落とし所もさまざまで、例えば亡くなった子がいた小学校のPTAを最後までやったりとか、逆にお子さんがいた時に付き合っていた人とは一切付き合わないとか。だからこそ互いの想いや経験を押し付け合わないことを唯一のルールとしています」

子を亡くし、夫婦関係が悪くなるケースも

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河原さん家族
 子を亡くすというのは、当事者の親だけでなく周りにいる人たちにも多大な影響を与えるという。その経験によって、夫婦関係が悪くなるケースもあれば、逆に良くなるケースもあり、また自分の娘が子どもを亡くしたり、兄弟が子どもを亡くしたりというケースなど、その実態はさまざまなのだそうだ。

「でもすべてのケースに共通するのは、子を亡くした自分が前向きに楽しく生きていいのか? という罪悪感を抱く母親が多いことだと思います。命に関わるような出来事があると、自分はなんで生きているんだろう? という壮大なテーマになってくるんですよね。

あと難しいのが夫婦の関係です。もともと価値観が違う夫婦の中で、子どもがいたから成り立っていた部分が大きいと、お子さんが亡くなったことでそこが強調されてしまうこともあります。また命に関わることに対しての向き合い方が全然違ったりすると、この人と一緒にずっといてもいいのだろうか? という疑問が生まれたりしてしまうんですよね」

「これ以上のつらいことはない」と糧にできる部分も

 子どもを亡くすというのは、親にとっては究極の不幸と言えるだろう。だからこそ、体験した当時はどん底で絶望だったけど、それをどんな糧にすることもできると河原さんは力強く語る。

「子どもが亡くなった事実は変えられないので、それの視点をどう変えるのか? つらい経験をしているので、それ以上のつらいことはないと思ったら、楽観的に楽しく生きていける部分もあるんじゃないかなと今では思っています。

自助グループに初めて来られた方は、ずっと悲しんでないといけないと思っている傾向にありますが、同じ経験をしているはずのママさんたちが楽しそうに話ているのを見て、『なんでこんなに子どもを亡くしてるのに、みんな楽しんでるんだろう』って最初は驚くんですよね。でもそこから自分も楽しんでもいいんだという安心感に繋がっていく。

そこから、命があるというのは当たり前ではないからこそ、自分が本当にやりたかったこととかを見つめる機会にすることもできます。
“今日よりも明日の自分”と、できないこともあるけれど、少しでも自分の人生をどうしていくか? そういうふうに切り替えていかれる方も多いですね」

対話によって、時計の針が動き出すケースも

わが子の死で「夫婦関係が破綻」することも。3歳目前の息子を亡くした母が語る、親たちが直面する“苦しみ”
『ママ、ぼくがきめたことだから』(文/河原由美子・絵/レイナ)
 もちろん中には、夫婦関係が破綻し、他の兄弟に対して育児がままならなくなり、家庭崩壊に至ってしまうケースもあるという。

 子どもを亡くしたことで、他の兄弟に対して命を大事にしてほしいと思うばかりに、「もっと一生懸命生きるべき」という価値観を強要してしまったりと、別の苦しみや問題が生まれることも少なくはない。だからこそ、自らを許し、自らを救っていく視点を得ることが必要なのかもしれない。

 今年で自助グループは、6年目に入り、横浜市男女共同参画推進協会からの支援も5年連続で行われているそうだ。

 子どもを亡くした時から、人生の時計の針がストップしてしまう人が多い中、同じ痛みを知る人同士で対話をすることで、時計の針が動き出し、前向きに働いたり、次の子を持つという選択肢が自然と出てくるケースも多いという。

 我が子が教えてくれた命の尊さを通し、自分も周りも含めて幸せにしていくことに心が向いた時、我が子を亡くすという痛みがほんの少し、和らいでいくのかもしれない。

<取材・文/SALLiA>

【SALLiA】
歌手・音楽家・仏像オタクニスト・ライター。「イデア」でUSEN1位を獲得。初著『生きるのが苦しいなら』(キラジェンヌ株式)は紀伊國屋総合ランキング3位を獲得。日刊ゲンダイ、日刊SPA!などで執筆も行い、自身もタレントとして幅広く活動している
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