心停止の人を救命するために広まった医療機器「AED(自動体外式除細動器)」は、2004年7月に一般での使用が解放されて以降、全国で約67万台が普及したといいます。

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 しかし、AEDを楽しく知ることができるおもちゃ「TOY COCORO」(以下、トイこころ)を開発した坂野電機工業所・代表取締役社長の坂野恭介さんは本当の意味での認知は広まっていないと、現状をみつめます。


 かつて、医療従事者を支える臨床工学技士としても働いていた坂野さんがめざすのは、子どもたちがAEDを正しく学び、さらに、下の世代へと伝えていく「認知サイクル」が広まること。
 
 その足がかりとして、約2年ぶりの再販が決まった「トイこころ」の背景、AEDの認知向上への思いを坂野さんに聞きました。

一般でも扱える医療機器ながら「誤解」もある

「触るのが怖い」「LEDと誤解」…国内67万台でも認知度がこんなに低いワケ。AEDおもちゃ開発者の思いとは
「TOY COCORO(トイこころ)」
 社会におけるAEDの認知を広めたい。そう願う坂野さんはかつて、AEDや生命維持装置などの医療機器を医療機関で扱い、メンテナンスをする臨床工学技士として6年間、医療機器メーカーで2年働いていました。

 その後、2018年には祖父が創業した坂野電機工業所で働き始め、2024年に代表取締役社長へ就任。AEDへの「機種によって色もデザインも異なるのがシンプルにかっこいい」とする強い興味から、自社でのAEDの販売・レンタル事業を開始し、医療機器メーカーと共同で開発したペーパークラフトによる「Paper craft AED」、そして、おもちゃの「トイこころ」を開発しました。

「臨床工学技士だった当時は周囲の医療従事者と共に『当たり前にあるモノだし、世の中で知ってもらうのは大切だよね』と話していました。

 ただ、ポンプやモーターなどの産業電気機器を中心に扱う坂野電機工業所で働き始めてから、医療従事者ではない方々と接するうちに、認知に大きなギャップがあるとわかったんです。本来は医療従事者でなくとも扱える医療機器ではありながら『ふれてはいけない存在』のように捉えられている。そうしたイメージを変えて『AEDの認知を広めるために何かしたい』と考えるようになりました」(以下、坂野さん)

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トイこころで遊ぶ子どもたち
 おもちゃの前身にあったペーパークラフトを開発したのは、2021年でした。工作の手間もあり、当時想定していた対象は「8歳以上」の子どもや大人。その背景には「AEDについて学ぶきっかけになれば」という思いがありました。

「子どもたちはもちろん、その親御さんや祖父母の方々にも興味を持ってほしかったんです。
自動車教習所の講習でもAEDの扱い方を習うはずなのに『知ってる?』と聞いてみると『よくわからなかった』『つまらなかった』という感想ばかりが返ってくる。それは『学ぶ気がないのに、学ばなければならなかったから』なんですよね。では、興味を持ってもらうのが先ではないかと考え、ペーパークラフトのキットを作りました」

おもちゃを通して子どもがAEDを「探す」ように

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子どもたちがトイこころで遊ぶ様子
 ペーパークラフトの開発を経て、音の出るおもちゃAED「トイこころ」を開発。2024年11月に予約での限定販売をスタートすると1週間で売り切れ、2026年3月19日には新たに3000個の予約限定販売がスタートします。

「初めての販売では内心、実際に手にした方から『たいしたものではなかった』といった声が寄せられたらどうしよう、と不安もあったんです。ただ実際には、お子さんが街中のAEDを探すきっかけになったという感想があって、保育園や幼稚園の先生、医療従事者の方からも好意的な反響をいただき『遊びを通じて、AEDを深く知ってほしい』という思いが届いたのはうれしかったです。

もともと、1000個に限らず『1万個でも売りたい』という気持ちはありました。ただ、初めての試みでしたし、反響がわからなかったので限られた個数での販売となったんです。前回の生産分が売り切れて以降『サイトを見ると売り切れているし、もう買えないんですか?』という声もあって、たくさんの方々からの声に応えられればと思い、再販を決めました」

 おもちゃではありながら「AEDの再現」にはこだわったという、坂野さん。製品では「体から離れてね」「心臓マッサージしてみよう」などの音声が流れ、ぬいぐるみなどに本物さながらの電極パッドを張り付けて、AEDの操作方法を学べます。約2年ぶりの再販製品では「より使いやすいものに」との思いで、改良を加えたといいます。

「まず、音量調整の機能を付けたんです。当初の製品ではご家庭での利用をイメージして、音量を70dB(デシベル)に設定していたんです。
ただ、幼稚園や防災イベントで使っていただく中では『音が小さい』という意見が寄せられて、周囲の騒音が目立つ場所でも使えるように、音量の大小を切り替えられるようにしました。

 また、電極パッドを収納できるためのプレートを新たに作って、本体から伸びるチューブも扱いやすいシリコンのチューブに変更し、勝手に電源が入らないように電源OFFのスイッチも追加しました」

世代を超えてAEDの「認知サイクル」を作りたい

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「体から離れてね」「心臓マッサージしてみよう」など、トイこころから発せられる音声を聞きながら遊ぶ
 AEDによって、いわゆる「電気ショック」での応急処置が一般にも解放されたのは2004年7月でした。そこから20年以上が経ち、日本国内での現在の設置数は約67万台といわれます。学校やショッピングモールなどでみかけるようになった一方、その正しい扱い方などの「認知をより広めたい」と、坂野さんは意欲を示します。

「いまだに『LEDですか?』と聞いてくる方もいますし、電気ショックを扱う医療機器なので『怖い』という方もいます。実際に倒れた人を前にして使おうとしても『音声ガイドが流れると知らず、パニックになってしまった』という経験者の方もいました。

一般への解放から20年以上が経ち、設置台数が約67万台に達しても『人の知識が追いついていない』のが、社会的な課題だと思うんです。AEDの講習会などを開催している事例もありますが、集まっているのは『知りたい』と考える人たちなので、興味のある方の知識が高まっている一方、興味のない方々は構造として置いていかれてしまう。

僕らが今やっているのは興味から学びにつなげる『AEDに対する認知サイクル』を作ることです。近い将来『トイこころ』でAEDを知った子たちが大人になって、さらに、下の世代へ広めてくれるような社会になるのが理想です」

10年先、20年先に「誰かを助ける大人」になってくれたら

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トイこころで遊ぶ女の子
 AEDの認知を広めるためのペーパークラフト、おもちゃの先には「絵本」の構想も。

「子ども向けの製品をきっかけとして『この機械は何をするためのモノなんだろう?』と興味を持ってくれるなら」と、坂野さんは語ります。そして、そう思い描く背景には「学び」への熱意もありました。

「何かを学ぶ究極形は『自分から学ぶこと』だと思うんです。
僕が広めたいAEDへの認知も例外ではなく『学びたい』と思う人たちを増やすのが、近道だと思って活動しています。『トイこころ』で遊んだ子たちが10年先、20年先で『誰かを助ける大人』になってくれるのならうれしいし、僕らのたどり着きたいゴールです。今日明日で実現できるものでありませんし、どれほど長い道のりであっても、一歩一歩を着実に踏んでいきたいと覚悟しています」

<取材・文/カネコシュウヘイ>
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