橋田壽賀子脚本の人気長寿ドラマシリーズ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)で10歳から12年間、“加津ちゃん”こと野々下加津役を演じていた宇野なおみさん(36歳)。かつて“天才子役”と呼ばれた宇野さんは現在、フリーライター、エッセイストとして活動中です。


元子役・東京育ち・36歳の私が“地縁”に憧れて始めたこと「東...の画像はこちら >>
 そんな宇野さんが30代女性として等身大の思い、ちょっとズッコケな日常をお届けするエッセイ連載。今回は宇野さんが横須賀の副業プロジェクトに参加した際のエピソードを綴ります(以下、宇野さんによる寄稿)。

地縁を求めて副業プロジェクトに参加

 里帰りという概念がほぼないまま生きてきた人生です。

 皆さま、ご機嫌よう、宇野なおみです。梅に河津桜、桃の花、あちこちが春めいてきましたね。

 サクラ咲くのをお待ちの方も多いのではないでしょうか。そして、何やらくしゃみの声もあちこちから聞こえてまいります。ハクション。

 実は2月末まで、神奈川県は三浦半島の「副業プロジェクト」なるものに参加し、横須賀の地元メディアの記事制作に関わっておりました。冒頭に書きました通り、わたくし、生まれこそ岡山県倉敷市ですが、ほぼ里帰りという経験がありません。赤子の頃に東京に引っ越し、祖父母が東京に来ていたためです。

 人様からは東京に実家があるありがたみを嚙み締めろと言われる一方で、お盆や年末年始の帰省なるものに憧れがありました。新幹線や飛行機のチケットが高い、お子さんを連れていたら長時間の移動は大変。
そんなことを思いつつ、憧れとは無責任なものです。浅はかで申し訳ない。

里帰りという単語に憧れ

「地縁」という言葉がありますよね。土地を媒介とした社会的な関係を指す言葉ですが、土地そのものの縁というものもあるなと思っています。私は港区に行く機会が多いんですが(高校・港区、TBSの所在地・港区、今までのバイト先全部が港区)ご縁があるかというと、さてな……。という感じでして。

 港区って振り向いてくれなさそうじゃないですか。いえいいエリアですよ! 図書館がめちゃくちゃ充実していて。よく行く場所では図書カード作るタイプの人間です。

 副業プロジェクトに応募したのも、地元密着のメディアで取材し、記事を作るという内容の面白さと同時に、「自分なりの地縁」を作ってみたかったからでした。

 副業の募集って経営企画とかWebサイトの制作や広報・PR領域での募集が多くて、私には手が出なかったんですよね。書き手の募集があったのもうれしかったです。

 かなり応募があったようですが、幸い採用していただき、月に1回以上、横須賀に通う日々が始まりました。


地縁がなければ作ればいいじゃない!

元子役・東京育ち・36歳の私が“地縁”に憧れて始めたこと「東京に実家があるありがたみを噛みしめろと言われるけれど…」
帰りに品川駅で映画『羅小黒戦記2』を見たことも
 最初は横須賀に行くための京急線になじみもなく(笑)、どこに連れていかれるのか、ちゃんと目的地で降りられるのか不安になりながら乗っていました。電車を間違えると、戻るのに時間が想像以上にかかるし、乗りはぐったら数十分違いが出てしまうし……おろおろし通し。はじめてのおつかいかな?

 いろいろなプロジェクトがあるため、初日に交流を深める意図もあるフィールドワークであちこちまわりました。その時、ちょっと車で移動するだけで、まったく雰囲気が違うことにも驚きましたね。三崎、三浦海岸、葉山、横須賀……「三浦半島」というエリアは一緒なのに、まるで違う!

 考えてみれば東京も同じで、同じ23区でも歌舞伎座のある中央区と親戚の家がある練馬区では、まったく違います。練馬区には「練馬大根引っこ抜き競技大会」なるものがあるんですよ。いつか参加したい。

元子役・東京育ち・36歳の私が“地縁”に憧れて始めたこと「東京に実家があるありがたみを噛みしめろと言われるけれど…」
フィールドワークで訪れた場所のひとつ
 中でも、「谷戸」というエリアには驚きました。横須賀のあちこちにある集落なんですが、急こう配の山の上にあるんですよ。崖かな!? と思うようなところに家があったりします。谷戸で民泊を行うプロジェクトの取材もしたのですが、駅からほど近く、交通量の多い車道のすぐ上だというのに、とても静かで、森の香りがする場所でした。

スカジャンと着物の思いがけない繋がり

元子役・東京育ち・36歳の私が“地縁”に憧れて始めたこと「東京に実家があるありがたみを噛みしめろと言われるけれど…」
スカジャン職人さんの作品を取材
 もうひとつカルチャーショックだったのは、「スカジャン」。文字通り横須賀発祥と言われる、主に男性が着用するサテン生地のアウター。

 コンピューター刺繍が主流となった中、「横振り刺繍」という刺繍技術を使い製作する職人・アーティストさんの取材もいたしました。
わたくしはあまりそういった文化に詳しくなく、『王様の仕立て屋』(集英社)という漫画で読んだ程度の知識しかなかったです。

 しかし、「横振り刺繍」は着物の刺繍と深い関係があるとのこと。思わぬ繋がりにびっくりしました。考えてみれば当たり前ですよね、日本の刺繍文化の中でスカジャンが生まれてきたわけですから、根源には着物がある。

 工場にお邪魔した時に「へ~なんか打掛みたいな刺繍、歌舞伎の舞台でよく見るや~つ」とか思っていたのはあながち間違いではなかったのです。

元子役・東京育ち・36歳の私が“地縁”に憧れて始めたこと「東京に実家があるありがたみを噛みしめろと言われるけれど…」
横振り刺繍の実演
 職人さんの手仕事を間近で見られたのも感動でした。横振り刺繍では「木枠」を使うのですが、型を作れる職人さんがいないそうで……。どこか作れるところがあればいいのに、とか考えておりました。

 他にも築100年を超える古民家のカフェについて取材して、コーヒーの奥深さを聞いたことも。エッセイのほかには歌舞伎、アニメ・漫画、芸能人の方のインタビューなどが最近多かった私にとって、新鮮なお話ばかりで、原稿を書くのも楽しかったです!

自分はここにかかわりがある人間、と思ってめぐる街の面白さ

元子役・東京育ち・36歳の私が“地縁”に憧れて始めたこと「東京に実家があるありがたみを噛みしめろと言われるけれど…」
ヴェルニー公園。正面に潜水艦!
 副業プロジェクトでは受け入れ先の方々のお話を聞く機会もあったんですが、皆さんとてもオープンマインドでパワフル。自分の地元を、移住した場所を良くしたい、という思いがあふれていました。

 通ううちに、「自分は半分地元民」みたいな感覚も生まれてくるんですね。ヴェルニー公園でぼけ~っとしたり、三笠のショップに行ってみたり。
護衛艦「かが」の姿を見かけたり。やたら安い八百屋さんでみかんを買って、抱えて帰ったこともあります。

『あおざくら』(防衛大学を舞台にしている漫画)を読んでいたので、防衛大の制服姿を見かけてあっ!てなっていました。宇野さんって漫画の知識しかないのかしら(艦これもわかりますよ!)。

 ただ観光や遊びに来るのではない来訪は、ちょっと面映ゆく、また、うきうきするものでした。

挑戦する人を目の当たりにして

 今回の副業プロジェクトは、自分にとって大きな経験となりました。まず、見知らぬ土地に飛び込んで、チームを組んで活動したこと。大変ですが楽しかったです。また、その中でたくさんの方を見て、挑戦する姿勢を間近に見られたことも貴重な経験でした。

 高校中退早稲田卒とか、いきなりフリーでライターをやるとか、リスクを取るタイプだと言われがちな私、実は相当なビビりです。いつだって失敗は怖いし、覚悟を決めるのに時間がかかります。

 今回、副業人材の受け入れ先は、スタートさせたばかりの方、形態を変えたばかりの方、さらなるブラッシュアップを望む方など、状況も職種もさまざま。
また、三浦半島で開業に挑戦する方々ともご一緒しました。

 人間は失敗を改善しながら、前に進んでいく。横で取材をしながら強く感じました。

 そうそう、来年の大河ドラマでは、この横須賀の立役者、小栗上野介忠順(おぐり こうずけのすけ ただまさ)が主人公です。松坂桃李さんが主演の『逆賊の幕臣』。ヴェルニー公園にはこの小栗さんの胸像がありますよ。

 せっかくできた地縁を、今後も活かしていきたいです。「地縁」も、まだまだ増やしていきますよ~!

 ……などと書いていたところ、母からパーカッショニストだった亡き祖父の血縁が横須賀に住んでおり、母や伯母は幼少期、横須賀中央の文房具屋さんに連れていってもらった、などという話がまろび出てきました。

 おそらく、私が「半分地元民」感覚で買い物に寄ったところだと思います(創業が明治の文房具屋さんでしたので)。

 なんとまあ、びっくりです。3月生まれで、可愛がってくれた祖父からの「逆誕生日プレゼント」だったのかもしれません。

<文/宇野なおみ>

【宇野なおみ】
ライター・エッセイスト。
TOEIC930点を活かして通訳・翻訳も手掛ける。元子役で、『渡る世間は鬼ばかり』『ホーホケキョ となりの山田くん』などに出演。趣味は漫画含む読書、茶道と歌舞伎鑑賞。よく書き、よく喋る。YouTube「なおみのーと」/Instagram(naomi_1826)/X(@Naomi_Uno)をゆるゆる運営中
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