そんな『ワタサバ』が注目された当時、出版社やアパレル企業で働いていた網浜奈美だが、現在は高校教師や政界進出、保険業界など舞台を変えて“網浜節”を炸裂。累計2億ダウンロードも突破し、活躍中だ。
さらに網浜奈美の小学生時代を描く漫画『ワタシってサバサバしてるから~最強ちび浜伝説~』や母親を主人公とした『ママってサバサバしてるから』(ともに小学館)も展開。
当初は悪役然としていた彼女だが、いまやダークヒーローのような佇まいもある。その活躍がここまで広がった理由はどこにあるのだろうか。原作者であるとらふぐ先生に改めて聞いた。
併せて女性セブンで連載中の『ママってサバサバしてるから』1話目の前編をお届けします。
※本記事は全3回のうちの1本目です
「嫌な女」が応援される立場に
――2021年当時はネット層を中心に『ワタサバ』ブームが巻き起こりました。クセが強いキャラクターにも関わらず、多くの人から愛されている現状を想像していましたか?とらふぐさん(以下、とらふぐ):最初は想像していなかったですね。本作は連載6年目に突入しましたが、連載当初は“自称サバサバ女”をテーマに作品を作れないかということを出版社から提案していただき、いろいろ調べて“網浜奈美”を作り上げていったんです。
とらふぐ:そうですね。しかも初期は、Twitter(現X)で出した広告がかなりインパクトがあったようで、“嫌な女”としてどんどん話題になり、広がっていったんです。
風向きが変わったのは網浜さんがアパレル企業のGOGOCITYに転職をした頃でしょうか。そこで敵対するやり手の美人秘書、早乙女京子という存在が意地悪だったこともあり、読者が自然と網浜さんを応援する側に回ってくれました。
コンプライアンスが厳しい時代の願望
――網浜さんのように生きたい、という声も多くなっていきました。とらふぐ:『ワタサバ』が話題になる少し前から、SNSの浸透で相互監視されているような感覚が広がり、より発言に気をつけないといけないような窮屈な社会になっていたところも影響しているのかなと。
そんな時に網浜さんが出現して、“ここまではなりたくないけど、こう生きられたらラクだよね”というみんなの願望が集まり、支持が増えたように思います。
網浜さんは、とにかく“自分が心地いい場所”を追及しているんですよ。そこにみなさんが希望を感じてくださっているのかなと感じています。
翌日には忘れる“切り替え力”が羨ましい!
――『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)がじわじわとベストセラーになり、2020年の年間ランキングでは単行本ビジネス部門で4位となっている時期でしたね。とらふぐ先生自身は網浜さんを描くことで、救われる瞬間はありましたか?とらふぐ:最初のうちは、嫌な感じの人が転落をしたり、失敗をしたらみんな溜飲を下げてくれる展開でしたが、最近では“網浜さんならこうやって軽々と乗り越えていくんだろうな”と考えることも多いです。
網浜さんが仕事をクビになり、初めて公園で泣くシーンがあるんですが、寝て起きた翌日には「やっぱり私は悪くないわ」と切り替えるんです。一つの悩みに執着しないところは本当に羨ましいです。
とらふぐ:網浜さんに迷惑を被るキャラクターは、世間一般的な常識的な人達です。
漫画のレビューではたまに「作者は私の姑のことを知っているはずだ」「この人はあの人ですよね?」と周りの人達と重ねている方を見かけます。きっと世界中に網浜さんのような人はいるんでしょうね(笑)。
網浜さんの服装は『女子SPA!』がきっかけ!?
――ビジュアル面はどう決定していったのでしょうか?とらふぐ:同様に実在の誰かをモデルにしていたわけではないので、作画の江口心先生と、バイタリティーが溢れて迫力のあるキャラなら、恰幅があってショートカットで…と話し合って完成させていきました。
もし網浜さんがスレンダーな完璧な美人だったら、ここまで愛着は持たれなかったかなと思うんです。リアリティある元気なフォルムが共感を生んだのかなと。
私は一枚で着こなせてしまうボーダーシャツが大好きなんですが、それって「スタイリングを無難にこなせる」ことと一緒なのかなとも。そこが網浜さんっぽいなと思い、定番の服装になっていきました。
自称「サバ女」の抑制に一役買ったはず!
――他、連載開始当初から実感する変化はありますか?とらふぐ:以前は「私ってサバサバしている女だから」という言葉が一般的に使われていたんですよね。人の気持ちを考えずにズバッと悪口を言って傷つけたりすることも、この言葉が免罪符になっていました。
――ものすごい抑止力になっていますね!?
とらふぐ:そうみたいです。きっと、網浜さんっぽいと思われるのが嫌なんでしょうね(笑)。
とらふぐ:網浜さんのモットーは「いかに自分が心地よく生きれるか」。自分が気持ち悪かったり居心地が悪かったら、潔く全部やめるんですよね。違和感があるということは自分らしく生きていないということ。環境を変えたり、気持ちを切り替えることが大事だと思います。
動くのが怖くて我慢する人も多いと思いますが、網浜さんに「執着」の文字はないんです。もし失敗しても、それを糧にして次の場所へ進んでいく。彼女にとっては居心地の悪い場所にいることの方が、敗北なんです(笑)。
<取材・文/吉田可奈>
【吉田可奈】
エンタメ系フリーライター。
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