高校時代に自身の演劇への価値観を大きく変えたという、運命の舞台『ポルノ』(作・長塚圭史、演出・松居大悟)に出演する玉置さんと話しているうちに、あの“道兼ロス”の正体は、玉置さん自身に詰まっているのかもしれないと感じた。
「こういうことをやっちゃっていいんだ」
――舞台『ポルノ』のオリジナル版は、高校生の頃に観劇して、大きな衝撃を受けた作品だとか。玉置玲央さん(以下、玉置):そうなんです。「面白いお芝居があるから観に行こう」と大人に連れて行かれたんです。それまでは王道的な芝居ばかり観ていたので、「こういうことをやっちゃっていいんだ」とか「こういう作品もあっていいんだ」と。価値観をひっくり返されるというか、新しい価値観をぶち込まれる体験をしました。
――演出の松居さんも、全く同じように客席で衝撃を受けていたそうですね。
玉置:最後に天井からビラがぶわっと降ってきて、終演後に客席の床に散らばっていたんです。それを持って帰って大切に取っておいたんですけど、大悟も同じことをしていたっていうのを聞いて、「あ、この人といつか『ポルノ』をやれる日が来るかもしれん」ってすごい思ったんですよね。
――すごいことです。今回演じられる耕二は、町の議員選挙に立候補し、ある悩みを抱えています。前田敦子さん演じる妻にもまた悩みがあり、その姿は狂気をはらむほどです。
玉置:一見、それぞれにちょっとした悩みを抱えた夫婦に見えるけれども、少しずつというか、結構すぐの段階で「いや、かなりおかしいかもしれない」となっていくんです。それで、どんどんと『ポルノ』の世界に誘われていく。ただ、彼ら自体は、とても仲の良い夫婦なんですよ。
夫婦だからって、0から100まで話し合えるわけじゃない
玉置:やっぱりお互いに尊敬、尊重し合える関係というのが、僕は理想ですね。もしかしたらそれは近しい夫婦や家族に限らないかもしれない。尊敬や尊重にもいろんな形があると思いますが、要は0から100まで全部話し合えるわけじゃない。ドライと思われるかもしれないですが、それぞれが正しいと思っていることをきちんと全うしていて、それを心から応援し、同調できる。そういう関係性が僕は理想かな。
――その理想と照らし合わせて、ご自身は人間関係をうまく全うできているという感覚はありますか?
玉置:どうだろうなぁ。でも、自己評価としては全うできている気はします。そう思って過ごしている方が健全だし、精神的にも肉体的にも、なるべく自分がしんどくならないように生きていきたいんです。その方が風通しも良く、気持ちも楽で、いろんなことが滞りなく進むんじゃないかと。だから自分的には全うできていると信じています。
親孝行になった朝ドラと、予想を超えた『光る君へ』の大反響
玉置:最初は『花子とアン』でしたね。やっぱり家族は喜びましたよ、ばあちゃんも。大河や朝ドラに出て親孝行になったという俳優さんは多いと思うんですけど、実際、「これか」と思いました。なにしろ全国放送ですから。今は配信などもありますが、やはり認知度や、距離が離れた場所にいる家族にも作品を届けられるという意味で、非常に強いものなんだなと感じました。
――なかでも『光る君へ』の藤原道兼役は本当にすごい反響でした。玉置さんはいまでもXの投稿をされていますが、特に『光る君へ』は放送中の実況(リアタイ)やスペース利用で、ファンとの距離感の近さが話題になっていました。
玉置:予想を超えていた部分もいっぱいあります。大河という作品がこれほど世間に、海外のファンの方もいるぐらいに訴求力や影響力のある場所なんだなと感じて。正直、予想外でした。SNSに関しては、端的に言うならば、あまり分け隔てというか、距離を作りたくないんです。
舞台は特にそうなんですが、客席と舞台にいる人間という関係性は大事にしつつ、同じ場所と時間を共有している存在なので、なるべく手を取り合っていたいというか、距離感を近く保っていたいんです。一緒に作品を作っている仲間だと思って過ごしたい、という感覚がありますね。
あのときも、「僕も一視聴者として楽しんでるんだよ」という姿勢があった方が、より『光る君へ』を大切に思ってくださる人が増えるんじゃないかなと思って。そういうのが好きなんです。
――道兼は回を追うごとに視聴者の受け止め方が変わっていきました。
玉置:歴史上の人物なので亡くなることは分かっていますが、どんなドラマが描かれるかは台本が上がってこないと分からないんです。大石静先生の「こういうことがあったかも」が多分に盛り込まれていましたし、そこは僕も一緒に楽しんで読んでいました。
共感できるところがいっぱいあったので、道兼のことはずっと愛していたし、最終的に死ぬ瞬間までも、やっぱりずっと愛し続けていました。みなさん、最初の最初は「ふざけんなよ。なんで国仲涼子さんを1話で退場させてんだよ」って思っていたでしょうけど(笑)。
――初回の衝撃に始まり、最後は本当にロスになりました。
玉置:男女問わず、我がことのように受け取ってくださる方がいるというのは意外だったし、糧になりました。最後、道兼のために泣いてくださった人もいたし、「よかったね、道兼」と言ってくれる人もいたし。すごく素敵な役に出会えたし、取り組めたなと感謝しています。
「僕のことを生きる意味にしてくださっている人もいる」
――高校生のときに、舞台で感情を揺さぶられた玉置さんですが、いまはご自身が人の心を大きく揺さぶる側に立たれています。嬉しさや、演じることへの責任についてはどう感じていらっしゃいますか?玉置:いただいているお仕事を純粋に楽しんで、ただただ役や物語を全うすれば、何かしらの結果が出ると思っています。狙いすまして誰かに影響を与えてやろう、と考えているわけではないんです。でも、プラスだけでなく、マイナスの方向に受け取ってしまう方ももちろんいる。責任という言葉が適切かはわからないですが、そういった影響を与える可能性のある仕事なんだということは、常に胸に置いています。
――玉置さんはファンレターをちゃんとお読みになるとお聞きしました。
玉置:読みます。昔からお手紙を読むのが好きなんですけど、みなさん、便箋を用意して「失敗しないように気をつけなきゃ」とか、思いの丈をまとめて「字が汚くてごめんなさい」とかも思いながら多分書いてくださっているわけですよね。それってすごい労力だから、きちんと受け取りたいという思いがあって。自分が手紙を書くために労力を割いたときも、そう受け取ってもらえたら嬉しいので。
――ファンの存在は、大きな原動力ですか?
玉置:もちろん。こんなにも自分のことを大切に思ってくださる存在がいて、大げさかもしれないですが、僕のことを「生きる意味」にしてくださっている方もいらっしゃる。
<取材・文・写真/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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