2026年3月30日から放送が始まった、連続テレビ小説『風、薫る』(NHK)は、タイトルからして風通しがいい。

 だが、第1週の放送回を見ると、画面内にはコレラ感染の閉塞感がひたすら漂う。
これは全然、風通しがいいとはいえない。

 では、本作にどんな朝の風を期待したらいいのか? “イケメン研究家”加賀谷健が解説する。

コレラ菌発見前夜から始まる物語

朝ドラ『風、薫る』はむしろ“風通しが悪い”と言えるワケ。ひた...の画像はこちら >>
 1971年、巨匠ルキーノ・ヴィスコンティ渾身の監督作『ベニスに死す』が公開された。主人公の作曲家アッシェンバッハ(ダーク・ボガード)は、静養にきていたベニスの地で客死することになる。原因はコレラだった。

 インドのガンジス川を発生源として、貿易路を伝ってヨーロッパでも猛威をふるっていた。『ベニスに死す』の時代設定は、第一次世界大戦前夜であり、アッシェンバッハと同じドイツ人の偉大な細菌学者ロベルト・コッホがコレラ菌を発見(1883年)し、ノーベル生理学・医学賞を受賞したのは、1905年のことだった。

 日本ではどうだったか? 武士の時代が終わろうとする頃、有名なペリー来航によって日本が開港したことで、外国船に乗って運ばれた、コレラが大流行する。

 人々は「コロリ」と呼んで恐れた。見上愛と上坂樹里W主演の連続テレビ小説『風、薫る』の物語は、そんな時代に設定され、コレラ菌発見前夜の1882年から始まる。

タイトルに反して風通しが悪い?

 1882年は、コッホが結核菌を発見した年でもある。彼が翌年に発見するコレラ菌で汚染された飲食物を食べたり、飲んだりするとコレラになる(アッシェンバッハは浜辺で食べたイチゴで感染)。激しい脱水症状、嘔吐などを引き起こし、医療が充実していない時代、場所では危険な流行り病だった。

 コレラ発見前夜の物語である『風、薫る』では当然、人々が菌の存在を知るはずもなく、非科学的な処置が描かれる。
第1週第2回では、患者を隔離して封じ込め、感染に怯える者たちは、コレラ避けのお札などを頼りにしているような有様だ。

 ドラマタイトルに反して、全然風通しがよくない。隔離家屋の戸をぴしゃっと閉め切る様子はむしろ、風通しが悪い。『ベニスに死す』ではベニスの街を吹き抜ける季節風シロッコの影響なども語られていたが、何やら不穏なパンデミック描写から始まる今回の連続テレビ小説に、どんな朝の風を期待したらいいのだろうか?

1882年を吹き抜けるアメリカ帰りの風

 本作の物語が始まる1882年は暗い話題ばかりではなかった。同年は、1871年に欧米を視察するために派遣された、岩倉使節団が帰国した年でもある。

 その中に最年少(なんと6歳!)の津田梅子がいた。日本初の女子留学生であり、1900年、後の津田塾大学となる女子英学塾を設立した偉大な人物だ。

 帰国した津田は日本語をほとんど忘れていた。使節団メンバーの一人(派遣当時、11歳)で、本作第5回で初登場する大山捨松(多部未華子)もそうだった。

 彼女が話すカタコトの日本語を聞いて、ネット上では思わず、朝ドラ前作『ばけばけ』の八雲(トミー・バストウ)を思わせるという視聴者コメントも多い。

 捨松が、陸軍卿・大山巌(高嶋政宏)と結婚する鹿鳴館のパーティ場面(1883年)は、本作が始まって以来、初めての明るい話題だったともいえる。

 語りを担当するとともに、怪しげな占い師役で出演する研ナオコが「二人にも風が吹くぞ」とシーン間で繋ぐように、1882年を吹き抜けるアメリカ帰りの風が、主人公たちの背中を強く押していくことになるのだ。


<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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