■■60代のいまだからわかること。 「熟年家族は、わかり合う必要がない」
住まいをぐっと「小さく」する暮らしを実現した、料理家の藤野嘉子さん。
◎「わからない」からおもしろい
150㎡から65㎡の家に家族3人で引っ越したことで、互いの物理的な距離も近くなりました。そこで会話が増えるかというとそうでもありませんでした(笑)。引っ越し後、主人は釣り、私はランニングを始めてそれぞれの時間を楽しむようになったのは、家が狭くなったおかげです。ものが減り、生活スタイルが変わることで得られたものは、とても大きいと実感しています。
私たちは、ずいぶんさっぱりとした家族です。なんでも語り合って、互いを思いやって、いつでも協力しあって、といういわゆる理想の家族像とはちょっと違っています。毎日一緒に朝ごはんを食べていますが、熟年家族は、毎日語りあうほどの話題はありません。その日の予定も話したり、話さなかったりです。家族だからといって、なんでも把握したり、わかりあう必要はないと思っています。
同居している私の母をどこかに連れていってあげたり、お友だちと会うときに送り迎えをしてあげたりということもこれまでずっとしていないですし、夫婦で海外旅行に行くときは、お留守番です。
住居を小さくするときもそうでしたし、旅行の計画や買い物もそうで、「オーブントースターを買い換えよう」と言われても「ちょっと待って、まだ早いんじゃない?」と言ってしまうんです。あとで買ってもらえばよかったと反省するのですが、ブレーキをかける役割もいたほうがバランスはいいのです。いまは仕事場が同じですが、仕事のやり方もまるで違います。
夫は理論的な裏づけをもとに料理をして、キッチンはいつも整理整頓が行き届いていて。夫からすると私は横着者で大ざっぱ。私は感覚的に料理をするのが好きで、どんどん進めたいときもあるから、道具を片付けないままにするときは、先に「あとでやります」と言うようになりました。

仕事以外の時間は、互いの予定をすべて把握しているわけではありませんし、夫も私も自分の時間をとても大事にしています。

私が子どもだったころは、実は家族が近いと感じて居心地がいいとは思っていませんでした。自分の家族を持ってからも、子どもたちが小さかったころは夢中でしたが、大きくなってくると難しい部分もありました。もっとこうすればいいのに、なぜこんなふうにするんだろうと、深く知るほど割り切れない想いを抱えてしまうこともあったのです。やっぱり関係が近すぎると煮詰まりやすいのではないでしょうか。
なんでも話せるのが家族の正しい形だとは決めつけず、距離を保っているのもいいものです。少しの距離を保っているからこそ衝突することもなく、感情を抱え込まないでやっていけるのです。お互い我慢している部分が何もないとは言いませんが、それでもずいぶんと気楽にやっています。これから先、どうなるかはわかりませんが、私にとって居心地のいい関係は、互いに適度な距離を保つことができる関係です。それがよくわかったので、状況が変わってもそういう家族でありたいと思っています。
藤野嘉子(ふじの・よしこ)料理研究家。学習院女子高等科卒業後、香川栄養専門学校製菓科入学。在学中から料理家に師事。フリーとなり雑誌、テレビ(NHK「きょうの料理」)、講習会で料理の指導をする。「誰でも簡単に、家庭で手軽に作れる料理」「自然体で心和む料理」を数多く紹介し続け、その温かな人柄にファンも多い。著書に『朝がんばらなくていいお弁当』(文化出版局)、『料理の基本 おいしい和食』(永岡書店)、『一汁一菜でいい! 楽シニアごはん』(講談社)など、多数。夫はフレンチレストラン「カストール」のシェフ、藤野賢治氏。
『生き方がラクになる 60歳からは「小さくする」暮らし』のほか、料理、健康・美容など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。

講談社くらしの本はこちら
■本の紹介
◎生き方がラクになる 60歳からは「小さくする」暮らし

【1章 ダウンサイジングする暮らし方】
150平米から65平米に/持ち家へのこだわりを捨てる/子どもに何を残すのか など
【2章 ごはんの幸せ】
やっぱり美味しいものが好き/作るのは週に2、3回/いつでも作れるレシピ など
【3章 家族、自分と向き合う時間】
自分の着地した場所が一番/母との暮らしお世話はできる範囲で など コラム60歳を過ぎたわたしのお気に入り
- 『生き方がラクになる 60歳からは「小さくする」暮らし』
- 著:藤野 嘉子
- ISBN:9784065118382
- この本の詳細ページ:http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784065118382