聖地巡礼──稀代の講談師・神田伯山が講談ゆかりの地を訪ねる、...の画像はこちら >>

『講談放浪記』(著:神田 伯山)

講談の世界を描いたマンガ『ひらばのひと』(著・久世番子/講談監修・神田伯山)のレビューがきっかけで、希代の講談師・六代目神田伯山にすっかり魅了された一人として言いたい。
講談をもっと深く味わいたいなら、神田伯山をもっと知りたいなら、絶対に読んでおくべき本です!!

◎【186段の石段を馬で上る!?】

浅草演芸ホールで初めて聴いた伯山先生の講談は、『出世の春駒』でした。


正直、興奮しました!! 講談ってこんなに面白いのか!!と。

聖地巡礼──稀代の講談師・神田伯山が講談ゆかりの地を訪ねる、魅力発見の旅
       

『出世の春駒』は、愛宕神社の急勾配の石段186段(※)を馬で上り、梅の花をとってこいという三代将軍・徳川家光公の難題を駄馬に乗った家臣が挑んで、日本一の馬術の名人として讃えられたというお話。

私はたまたま愛宕神社(港区)に行ったことがあったので、あの石段を馬で上るなんて無茶だ、と想像することができました。この見たことがあるか、ないかの差は大きい。

この本では、講談の舞台やゆかりのある場所が色々と紹介されていて、交通アクセスも載っています。

▽※講談では186段ですが実際の愛宕神社の男坂は86段です。

聖地巡礼──稀代の講談師・神田伯山が講談ゆかりの地を訪ねる、魅力発見の旅

◎【講談師、見てきたようなウソをつき】

ともすれば、講談に出てくるのは作り話なのではないかと思ってしまいます。
特に子供のころテレビで見た盲目の渡世人「座頭市」や、浅草名画座で観た高倉健や藤純子の任侠映画のような世界は、今の時代とはまったく異なるので。
だから、講談に出てくる侠客(きょうかく)ものも作り話なのではないかと思ってしまいますが、さにあらず!!

「落語は基本的に架空のフィクションですが、講談は元ネタのあるフィクションなのです」。

『天保水滸伝』に出てくる侠客たちも、実在する人物だと知り驚きました。
YouTubeチャンネル『神田伯山ティービィー』では、「天保水滸伝遺品館」を伯山先生が訪れたときの様子が見られて面白いです。
この『講談放浪記』と合わせて見ると、より登場人物を身近に感じることができます。

聖地巡礼──稀代の講談師・神田伯山が講談ゆかりの地を訪ねる、魅力発見の旅

伯山先生の師匠である人間国宝・神田松鯉(しょうり)先生との対談でも、松鯉先生がこんなことを言っています。
「講談師、見てきたようなウソをつき」ではなく、「講談師、見てきた上でウソをつき」だと。自分の目で確かめた上であれば、真実味を帯びてくると。
伯山先生の渾身の迫力ある講談も、こうして創られたのですね。

◎【いつかは講釈場をという強い思い】

『天保水滸伝』の中のひとつ、「ボロ忠売り出し」を伯山先生が寄席で主任(最後のトリのこと)のときに、見ることができました。
個人的には伯山先生のお茶目な声色が好きなので、またしても大興奮!! 
最初から話に引き込まれ、45分があっという間でした。

「日本一チケットのとれない講談師」というのは私自身も経験していますが、寄席であればまだ見ることができます。
そして驚くのは、こんなに売れっ子なのに寄席には本当によく出ているということ。
はっきり言って出演料(ワリという)はかなり安く、本当にワリに合わないらしいのですが、それでも出続ける理由が書いてありました。

「講談界が講釈場を失った要因のひとつに、人気の出た講談師が講釈場に出なくなってしまったから、ということがあります。(中略)講釈場を大事にせず、金儲けのお座敷にばかり行ってしまう」ということがあり、その歴史を知っているからこそ、寄席を大事にしているというのです。
カッコいい!! そして安定の“猫背”も愛おしい!!

◎【あとがきにリアルな!? 神田伯山】

私もラジオ番組『問わず語りの神田伯山』を聴いている、伯山先生曰く“どこにでもいる問わず語りリスナー”なので、『講談放浪記』の裏話は知っていたのですが、「あとがき」を読んで笑ってしまいました。


ここにも“本音”が溢れていて、さすが期待を裏切らない男です!!

ほかにも、怪談を語るテクニックや、『中村仲蔵』『淀五郎』をなぜ激しい読み口にしているのか、どこまでなら崩していいのかなど、私が知りたかったことを知ることができました。
やはり講談ファンなら、神田伯山ファンなら、絶対に読んでおくべき本だと思います!!


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■レビュワー

◎黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp


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■本の紹介

◎講談放浪記

独演会チケットは即日完売!
講談普及の先頭に立つ稀代の講談師六代目 神田伯山の著書、いよいよ登場!!
講談ゆかりの地を訪ねて講談の魅力を発見する──。

伯山が名作講談の舞台となった場所を訪ねて、講談の持つ物語としての魅力を紹介します。
また、他芸能・他ジャンルの城ともいうべき場所を訪ねて、講談という芸能の未来について再考しています。
現場に行っての論考だからこその臨場感が迫ってきます。

2021~2022年の1年間にわたった文芸誌「群像」連載を大幅加筆。


加えて、師匠・人間国宝の神田松鯉氏との師弟対談も収録!

目次
第一部  講談の舞台を訪ねる
第一章  『赤穂義士伝』泉岳寺が伝える四十七士の虚実
第二章  『天保水滸伝』房総に遺された侠客たちの息吹
第三章  『源平盛衰記』壇ノ浦で死して生きる源氏と平家の物語
第四章  『出世の春駒』愛宕神社の石段数とリアリティ
第五章  『四谷怪談』お岩さまと伊右衛門夫婦のフィクション性
第六章  『寛永宮本武蔵伝』巌流島に伝わる決闘の真実

第二部  来るべき講釈場のために
第七章  国技館と相撲幻想
第八章  歌舞伎座での新たな邂逅
第九章  いまを生きる寄席の魅力
第十章  日光東照宮で想う江戸の講釈
第十一章 失われた講談の城、本牧亭の面影

特別師弟対談
人間国宝・神田松鯉に講談の神髄を聞く


  • - 主書名:『講談放浪記』
  • - 著:神田 伯山
  • - ISBN:9784065305003
  • - この本の詳細ページ:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784065305003
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