『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(著:中村 明澄)
◎幸せな最期は、後悔のない最期
あなたのお父さんが九〇歳だとして、二日前から痰(たん)と咳(せき)の症状が出てるとします。そして今朝から食事をまったくとることができず、三八・七度の発熱があって寝込んでいます。
① 救急車を呼ぶ
② 病院に連れて行く
③ 診療所に連れて行く
④ 往診を頼む
⑤ もう少し様子を見る
本書の問いに、①を迷わず選ぶ自分がいる。
さらに「対象がお父さんではなく、九〇歳のあなただったら?」と問われるのだが、これには迷った。救急車には乗りたくない。担架で運ばれる自分を想像し、「ご、ご近所さんの目が……」と思う自分がいる。往診を頼みたいなぁ。
この問いの後に、著者は言う
ここであなたが選択した答えに、医療的な正解はなく、どの答えもあなたにとっての正解になります。
同じ状況でも、対象が変われば選択も変わる。正解とは自分の価値観に合わせた選択であり、人それぞれ。しかし、選択は正しい知識をもとに行いたい。「人生の最期を幸せな時間にするためには『知ること』から始まる」という著者の言葉に、思わず「そうだよねぇ~」と頷いた。
著者の中村明澄さんは、1000人を超える患者を看取ってきた在宅医療専門医だ。人それぞれに異なる価値観や思いに寄り添い続けた経験から語られる言葉は、重くて優しい。
しかし、本書のタイトルは『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』なのだ。「21って多くない?」と思ったのだが、これまで後悔ばかりの人生を歩んできたのに、人生の最期だけキレイに決めるなんて、そうそう都合良くいくわけがない! 心のなかのToDoリストにレ点をつけるつもりで読んでみた。
◎人生の最期にマニュアルはない
まず人生の最期って、どれくらいの時間なのか? 余命の予測が、おおよそ半年を切っている段階を「終末期」というのだとか。もちろん一概にはいえないけれど、この図を見ると病気ごとに体が弱っていく様がイメージできる。

認知症や老衰の描く線にくらべ、がんの場合はストンと線が落ちる。最期の2ヵ月前までは、それまでの状態と変わらない場合も多いという。死を受け止めるには、それではちょっと短い気がする。主治医としっかり話し合い「自分が今どんな段階にいて、この先どうなるのか?」を理解し、心の準備をしたい……と思うが、怖い。状況を知ることは残された時間を豊かにするポイントではあるが、「怖いから聞かない」も、本人が希望するならば、著者はアリだという。自分の余命を知る/知らないは、どちらも正解でありえるのだ。
著者は、人生の最終段階を迎えた時に考えておくことを3つ提示してくれる。
① 過ごす場所
② やってもらいたいこと(医療や介護)
③ やりたいこと(夢)
そこから整理すると、自分の意思が見定まってくる。
①の過ごす場所や②のやってもらいたいことについて、こんな調査結果がある。


自分ががんなら自宅で緩和ケアを受けたいけれど、心臓病なら迷わず病院、認知症なら介護施設で家族の負担が軽い方がいい。そう思うが、それは今の意思でしかない。そのときになれば意思は変わるし、実際自宅に帰って「やっぱり病院がいい」と思い直す人も多いという。これに関して著者は、意思が変わることは悪いことではなく、あくまで本人と家族のQOL(生活の質)にこだわった方がいいという。許される選択肢のなかで、納得できるものを選ぶ。そのためには「家族だからわかってくれる」とか、「家で介護するほうが、病院や施設にいるより幸せに決まっている」とか決めつけず、しっかりと話しあった方がいい。
とは言っても、実際の家族というものは生々しい感情が渦巻くもの。そんなキレイに収まらないし、話し合いといったって結局ケンカになって……、という場合が多いのではないか? あ~、頑固ジジイの自分が怒鳴ってる様が思い浮かぶ! そんなときのために、ケアマネージャーや医師のアドバイスには素直に従うジジイになりたいと心から思ってしまった。
さらに本書には、お一人さまでも(不自由や我慢は必要だが)在宅医や介護サービスの力を借りて終末期を住み慣れた家で過ごす選択がありえること、緩和ケアに欠かせない医療用麻薬は、家でも病院でも同じように対応可能であることなど、「へー、そうなの?」と初めて知ることが多い。
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■レビュワー
◎嶋津善之
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。
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■本の紹介
◎在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと
もしあなたがあと余命数ヵ月と言われたら。あなたは何をしたいですか? 残された人に何を伝えたいですか? どのような最期を迎えたいですか?
相続やお墓のことは考える人は多いけれど、意外と考える人が少ないのが最期の日の過ごし方。残された日の過ごし方で、幸せな思い出を遺された家族に残すこともできれば、逆に家族自体がバラバラになることもある。
そのために必要なのは、きちんとした知識と自分たちによる選択です。
1000人以上を看取ってきた在宅医が、最新の医療の常識をもとに考える最良の最期を送るためのヒント。
*「人生会議」を開こう
*家族間でも「言わなくてもわかってくれる」はNG
*家で亡くなっても警察は入りません
*医療用麻薬は怖くない
*終末期は「今が一番元気」
*亡くなる瞬間は、本人が選ぶ
*「具合が悪くなったら入院」が良い選択とは限らない
*「介護休業」は、介護と仕事の両立のための準備期間
*無理に言葉はかけなくてもいい etc.
- - 主書名:『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』
- - 著:中村 明澄
- - ISBN:9784065332641
- - この本の詳細ページ:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784065332641