『高嶺の蘭さん(1)』(著:餡蜜)
恋愛ステージから遠ざかって久しい人間にとって、この作品に「あるある」や「共感」はありません。ただ眩(まぶ)しくて、ページをめくるたびに「こんなに美しいものを見てしまっていいのだろうか」という衝撃の連続がありました。
そのタイトルから「ツンケンした委員長タイプの女子高生のドタバタ系学園コメディーなのかしら」なんて思っていたんですが、予想はあっさり裏切られました。良い方向に。というのも、この漫画に出てくる高校生たち、どの子も非の打ち所がないくらいに真っ直ぐなんです。
文武両道の美人お嬢様であるヒロイン・高嶺(たかみね)蘭さんは、周囲からも高嶺の花扱い。クラスのみんなからは距離を置かれてしまい、そこに若干の心地悪さを感じています。そこに飛び込んできたのは、ひまわりのような明るい笑顔の晃くん。ありがちではある構図なのですが、どこを切り取っても眩しい。

晃くんの実家はお花屋さん、蘭さんは園芸部。この時点でもう、2人は惹(ひ)かれあって、交際に至るというストーリーは間違いないわけです。パターンが決まっている中で、どうやって進めていくんだろう? そう思っていたら打ちのめされました。
まず2人とも、相手を試すような、駆け引きもしない。凄く嫌な恋のライバルが現れるわけでもない。
1巻で印象的だったのは、晃くんからもらったライラックの花を部屋に大切に飾り、枯れる前に押し花にして栞(しおり)に加工。その栞をまた晃くんにプレゼントするというシーン。こういうやりとりがサラッと出来る子たちの恋の物語なんです。
「ここまでして、重いと思われたりしないかな……」なんていう葛藤描写もナシ。

蘭さんは、大人しい女の子です。おそらく、恋愛経験も豊富ではありません。最初は、晃くんと話すだけでも緊張して言葉につまっていたくらいでした。でも、彼女には変な自意識がないんです。卑屈さだとか、お目当ての異性に向けたポイント稼ぎだとか、そういうものとは無縁。
こんなに真っ直ぐに、スロウに進む恋愛はなかなかありません。それでも、行動や発言自体は結構大胆なんですよね。

衝撃なのは、物語が「花言葉」で進んでいくところです。前述のライラック以外にもいくつかの品種が出てくるんですが、蘭さんは都度花言葉を調べて、彼の気持ちを探っていく。最初に晃くんが蘭さんに贈ったライラックの花言葉は「友情」。まずはお友達からはじめていきましょうという意思表示だったのでしょう。短歌をやりとりするかのような趣(おもむき)ですよね。

SNSやニュースアプリを開けば過激な恋愛コラムが飛び込んできます。「こうあるべき」「これはNG」という恋愛論や、相手を査定したり試すようなものも多いです。それらを意識して遠ざけるのは難しく、げんなりしてしまうこともありました。そんな世界に、パッと現れたこの作品。
■レビュワー
◎小沢あや
OL/小沢あや ライター。ウートピ連載「女子会やめた。」「アイドル女塾」のほか、キャリア・ライフスタイル系のメディアを中心に執筆中。
http://achico-w.hatenablog.com/
■本の紹介
◎高嶺の蘭さん(1)

勉強もスポーツもできてその上クールビューティーな蘭(らん)は、周りから”高嶺の花”と呼ばれ、一目置かれている。だけど同じクラスの晃(あきら)だけは、普通に明るく接してくれて……!? 高嶺女子×お花屋男子のピュアラブストーリー、第1巻!
- 『高嶺の蘭さん(1)』
- 著:餡蜜
- ISBN:9784065103920
- この本の詳細ページ:http://kc.kodansha.co.jp/product?isbn=9784065103920