『プラネテス』(著:幸村 誠)
◎平塚敏週刊少年マガジン編集部 20代 男
□わがままで、無様な君へ
「ヘラヘラしてるトコが嫌」
誰かがそう言いました。奇遇です。
「自分勝手なやっちゃなぁ」
そんな声もありました。分かります。僕もそう思います。
分かってる。分かってはいるんだ──と、思い続けて生きてきました。布団を出るのが辛くて授業をサボり、誰とも会わない学生生活。飯はコンビニ。趣味はスマホを撫でること。高校を出てからの数年間、ダメな自分への苛立ちだけが鮮やかな日々でした。
ただ、そんな生活にも一つだけ誇れることがあります。それは「夢を持てたこと」です。
大学2年次、探検部の狭い部室の片隅に、手垢まみれの古い漫画を見つけました。背表紙には『プラネテス(2)』とだけ。初めて見る作品でしたが、表紙の絵が妙に気になり、つい手に取ってしまったことを覚えています。これが出会いです。SFなのに、どこか身近に思える舞台。透明感のあるエピソード。そして何より、生々しく怒り、苦しみ、生きるキャラクター達に、僕は一瞬で引き込まれました。
主人公のハチマキは、宇宙のゴミ(デブリ)を拾う仕事をしているサラリーマン。宇宙に憧れ、宇宙に居場所を見出した若者です。しかし、毎日デブリを拾い続けるだけの日々を過ごすうち、彼は一介の会社員には過ぎた夢を抱きます。
テキトーに食って寝てクソしてビール食らって……
…………クソッタレ!!
ときに他人の善意に苛立ち、自分の殻に引きこもる。いつも強気の言葉を並べているのに、内心不安でたまらない。ハチは当時の僕から見ても、歪で不完全な人間です。けれど、そんな彼だからこそ、夢に向かって足掻く姿は何よりカッコよく見えた。試験の前日、眠れず、歯ぎしりをし続ける弱さも。友人の優しい言葉に縋りかけ、一人愚痴を吐き散らかす醜さも。全てひっくるめて、どうしようもないくらいにカッコよく見えたんです。
わがままになるのが怖い奴に 宇宙は拓けねェさ無様に足掻いて、自分勝手に生きる人間は素晴らしい。『プラネテス』から、僕はそんなことを教わりました。ひねくれ者でも、小心者でも関係ない。
いい物語は僕らを引き込み、感化し、その先を示してくれます。どう生きるか、どうなりたいのか、大学生の僕は『プラネテス』を通して知りました。これまで数え切れない「いい物語」と出会ってきましたが、敢えて一つ選ぶとすれば、「この1冊」を勧めます。
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- 講談社創業100周年記念「この1冊!」を読む
■執筆した社員
◎講談社社員 人生の1冊
平塚敏【週刊少年マガジン編集部 20代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
■本の紹介
◎プラネテス

しがないデブリ(宇宙廃棄物)回収船に乗り組むハチマキは、大きな夢を持ちつつも、貧相な現実と不安定な自分に抗いきれずにいる。同僚のユーリは、喪った妻の思い出に後ろ髪を引かれ、自分の未来を探せずにいる。前世紀から続く大気の底の問題は未解決のままで、先進各国はその権勢を成層圏の外まで及ぼしている。人類はその腕を成層圏の外側にまで伸ばした。しかし、生きること──その強さも弱さも何も変わらなかった。
- 『プラネテス』
- 著:幸村 誠
- ISBN:9784063287356
- この本の詳細ページ:http://kc.kodansha.co.jp/product?isbn=9784063287356