『まぶささ(1)』(著:ななせ)
◎“お腐れなさった女子”は豊か
「君は、腐女子なの?」。社会人1年目、ゲーム会社での新人歓迎会で隣に座った先輩からそう尋ねられた。
今ならわかるのだが、腐女子=男性同士の恋愛を描いたBL(ボーイズラブ)ものを嗜(たしな)む人々は、豊かで無限だ。間違いなくエンタメ業界と相性がいい。
前述した歓迎会では、同じ先輩から3度ほど「腐女子じゃないの?」という質問を受けた。酔っ払っていたというより、「職場に腐女子が来ると面白いだろうな」と心底期待されていたのだろう。
『まぶささ』の主人公“笹川あきら”は、高校2年生にしてすでに立派な腐女子。
その豊かに咲き誇る腐女子マインドと、かわいらしい性格がナイスだ。本作の大切な要素です。ゲラゲラ笑いながら「豊かだわ」としみじみしてしまう。
◎腐女子の豊かさ:すぐ妄想する
腐女子の習性は何と言っても「すぐ妄想する」ところ。笹川さんもゴリゴリの腐女子的妄想をします。

本人すら持て余す頭の回転の速さ。すっごい楽しそう。『まぶささ』は、このお腐れ妄想ガールの笹川さんと、見た目ヤンキー男子(でもオタクでいい奴で勉強もできる)の馬渕くんを中心にテンポよく繰り広げられる学園コメディです。

この身長差もいいんだよなあ。
◎腐女子の豊かさ:めげずに妄想する
見た目ヤンキー男子な馬渕くんがオタクだと知った笹川さんは、馬渕くんとガンガン仲良くなろうとします。(オタクたちの、コンテンツをきっかけにガ──っと交信をして地球規模で仲良くなっていく感じ。あれは本当に良い)でも時には「きもちわるい」と言われることも。

なんの攻撃も通じない無敵さと、「イケる」と思ったら即妄想する体力。笹川さんは常にこの調子です。お強い。
この強さは架空のものじゃない。
笹川さんをはじめとする腐女子の愛とお財布に支えられ、すくすくと拡大しているBL。もはや「婦女子に……あ、腐ってない方のです」とわざわざ言わなきゃ会話が通じないくらいだ。たとえ「きもちわるい」とか言われても「知っとるわい」という感じなのだろう。明るいぜ。こんなに体力のある人たちに愛されたら、そりゃ成長しちゃうよ。
◎
テンポがめちゃいい
『まぶささ』は4コマ漫画ではないのだが、1ページのコマ割りと「型」が綺麗に整っていて、毎ページほぼ「4コマ目がオチ」となっている。だからテンポよくずっと笑ってしまう。
お気に入りは「4話 返事になやむ!」だ。

どっちの反応も、めちゃめちゃわかる……。オタクは常に過剰(かつ、頑張ってお気遣いをする)。この後に続くやりとりも「わかる」の連続だ。
さらに、「型」が整っているおかげで、こちらのシーンのように「この瞬間!」みたいなところがスローモーションに見える効果も。

よかったね、馬渕くん。
全員キャラが濃すぎて(馬渕くんのとなりに座っている馬渕姉もヤバい)どうしようと思うのだが、テンポが良いのでポンポン読んでしまう。こんなに毎日が楽しいなら、腐女子、なりたい。
■レビュワー
◎花森リド
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。
■本の紹介
◎まぶささ(1)

見た目はヤンキーだが美少女アニメが好きな男子高校生・馬渕と、妄想大好きなオタク女子の笹川さんを中心に繰り広げられる学園コメディ!
- 『まぶささ(1)』
- 著:ななせ
- ISBN:9784065136683
- この本の詳細ページ:http://kc.kodansha.co.jp/product?isbn=9784065136683