室内試験とシミュレーションで室内粒子削減効果を定量的に評価

ポイント
・ 空気清浄機とフィルター付き空調を適切な配置と稼働条件で同時に稼働させた場合、室内粒子を最大88%削減できることを確認
・ スーパーコンピューターを使用しない簡易シミュレーションと実測結果の比較により、簡易シミュレーションの有効性を示唆
・ 空気清浄機とフィルター付き空調の稼働による室内粒子の削減効果を実測し、その影響を評価

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概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研という)とダイキン工業株式会社は、空気清浄機や空気調和設備(以下「空調」という)の配置が室内の粒子濃度(飛沫濃度)に与える影響を評価し、適切な配置によって室内の粒子量を大幅に削減できることを確認しました。

本研究では、産総研 地圏資源環境研究部門 保高 徹生 研究グループ長、安全科学研究部門 内藤 航 研究部門付、篠原 直秀 上級主任研究員が、空気清浄機や空調の配置位置や強度が室内の粒子濃度(飛沫濃度)に与える影響を実測で評価し、ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター 主任技師 中澤 武馬、横野 遼太郎、笹井 雄太、小川 夕季が、スーパーコンピューターを使わない簡易的な数値流体力学(CFD)シミュレーション(以下、簡易シミュレーション)を実施し、実測結果との比較を行いました。


その結果、空気清浄機を適切な場所に配置し、フィルター付きの空調を同時に稼働させることで、室内の粒子濃度を最大88%削減できる ことが明らかになりました。また、簡易シミュレーションの結果は実測とよく一致し、スーパーコンピューターを使わずに安価かつ迅速に室内環境の評価ができる可能性を示しました。

本研究は、新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボ の一環として実施されました。今後、室内でのウイルス感染防止や汚染物質の曝露低減に役立つ知見として活用が期待されます。

下線部は【用語解説】参照

※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250519/pr20250519.html )をご覧ください。

開発の社会的背景
ウイルス感染防止や室内汚染物質への曝露低減のために、換気、フィルター付き空調や空気清浄機などによるウイルス除去が進められてきましたが、その効果の検証は、クリーンブース等での室内粒子量を低減した状態での飛沫拡散試験か、高額で消費電力も大きいスーパーコンピューター等の大規模計算リソースによるCFDシミュレーションを用いる必要がありました。一方、実際の部屋の形状や広さは多種多様であり、部屋ごとに空気の流れは異なることから、実際の室内における空気清浄機や空調の最適配置に関する安価で迅速な方法が求められていました。

研究の経緯
産総研は、新型コロナウイルス感染リスク計測評価の研究開発において、人が多く集まる大規模集客イベントから日常生活まで、産総研の各種計測・可視化技術やAI、リスク評価技術の融合を進め、 コロナウイルス感染リスクに関する科学的知見を蓄積・公開することで、社会に貢献してきました。粒子計測の観点からは、東京ドームにおける粒子計測、観光バス内における感染低減策としてのエアロゾルフィルター導入の効果(2022年5月26日 観光バス内における感染低減策としてのエアロゾルフィルター導入の効果)などの研究を推進してきました。今回、この技術を応用し、空気清浄機の設置位置や空調のフィルターの有無が室内空気中の粒子量低減効果に与える影響の時空間的な変化を実測するとともに、簡易シミュレーションとの比較を行いました。

研究の内容
これまで、空気清浄機や空調による室内の粒子量低減効果や範囲の評価は、主にCFDシミュレーションに頼っていました。
本研究では、32.8 m3 の大規模クリーンブース内でサーマルマネキンを用いた模擬飛沫核の飛散実験と28地点での多点計測を行い、異なる設置位置での空気清浄機の稼働やフィルター付き空調の影響など、21ケースで詳細に評価しました。その結果、空気清浄機の設置位置や空調のフィルターの有無が、室内の粒子量低減効果に与える時空間的な影響を、世界で初めて比較的大規模なクリーンブースにおいて多地点の粒子の実測に基づき、空気清浄機の設置位置や空調のフィルターの効果を実測しました。

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空気清浄機無し、空調無しのケース(図3 (a)、図4(a))を基本として、各対策効果を評価しました。空気清浄機をターボモード(空気吸込量3.5 m3/min)で稼働させ、空調を稼働させなかったケースでは、空気清浄機を図2の位置1~8の異なる場所に設置して粒子濃度を測定した結果、模擬飛沫吐出中30分間における室内全体の平均粒子濃度は大きな変化はありませんでしたが、正面の人が曝露する粒子濃度は変化なし(位置7)~94%削減(位置8)と空気清浄機の設置位置が粒子量低減効果に大きな影響を与えることを確認しました(図3(b-i、空気清浄機設置位置8ケースの平均)。また、図4(g))、空気清浄機無し、空調(フィルター無)を稼働したケース(図3 (j))では、模擬飛沫吐出中30分間における室内全体の平均粒子濃度は大きな変化はありませんでしたが、正面の人が曝露する粒子濃度は50%削減できることを確認しました(図3(b-i)。

一方、空気清浄機をターボモード(空気吸込量7.0 m3/min)で稼働させ、かつ空調(フィルター無)を風量強(空気吸込量16 m3/min)で稼働したケースでは、模擬飛沫吐出中30分間における室内全体の粒子を44%削減、正面の人が曝露する粒子を85%削減できることを確認しました(図3(l))。さらに、空気清浄機をターボモード(空気吸込量7.0 m3/min)で稼働させ、かつ空調にフィルターを設置し、風量強(空気吸込量16 m3/min)で稼働したケースでは、模擬飛沫吐出中30分間における室内全体の粒子を88%削減、正面の人が曝露する粒子を94%削減できることを確認しました(図3(p)、図4(p))。

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これらの結果から、空気清浄機は特定の場所の粒子量を低減することはできるが、室内全体の粒子量を低減することはできず、室内全体の粒子量を低減するためには、空気清浄機とフィルター付き空調の組み合わせが有効であることが示されました。さらにスーパーコンピューターを使用しない簡易シミュレーションと実測結果を比較したところ、実験で粒子濃度が高い地点は、CFDシミュレーション結果も高い結果となりました(図5)。

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詳細な研究内容はこちらの報告書を参照ください。

今後の予定
スーパーコンピューターを使用しない簡易シミュレーションと実測結果の比較を進めるとともに、建築物衛生法の対象外である病院などでは、換気が不十分な場所が存在するため、医療機関等と連携し、最適な空気清浄機や空調の活用方法についての研究を進めます。

用語解説
粒子濃度(飛沫濃度)
粒子濃度は、空気中に浮遊する微小な粒子(飛沫やエアロゾルなど)の密度を示す指標であり、一定の体積中に存在する粒子の数(particles/m3(個数濃度))や質量(mg/m3(質量濃度))で表され、空気の清浄度や感染症リスクの評価、環境モニタリングなどの重要な指標となる。
特に、人の咳やくしゃみ、会話などで発生する飛沫の密度を示す場合、飛沫濃度と呼ばれることがある。

数値流体力学(CFD)
数値流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)は、コンピューターを用いて流体(液体や気体)の挙動を数値解析する手法であり、流体の動きや熱・物質の輸送を記述するナビエ・ストークス方程式などを数値的に解くことで、風や煙、飛沫の拡散、換気の効果などをシミュレーションすることができる。CFDは、航空宇宙、自動車、建築、環境工学などのさまざまな分野で活用されており、特に近年では感染症対策の観点から、飛沫やエアロゾルの拡散予測にも用いられている。

クリーンブース
特定の空間内の空気清浄度を高めるために設置される半密閉型の設備であり、微粒子や汚染物質の侵入を防ぐことを目的とする。高性能フィルター(HEPAフィルターなど)やエアフロー制御技術を用いることで、内部の空気環境を清浄に保てる。半導体製造、医薬品生産、精密機械加工などの分野で用いられるほか、感染対策として医療施設などでも活用されている。

模擬飛沫核
空気中を浮遊する飛沫核(唾液や体液由来の飛沫が蒸発し、ウイルスや細菌などを含む微粒子)の挙動を研究するために人工的に作成された粒子。人工唾液を用いて噴霧器により発生させ、乾燥装置を通過させた後、圧縮空気と混合することで作成している。

 
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250519/pr20250519.html
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