2025年8月5日
岐阜大学
異なる酸化チタン結晶種を同一溶液中で連続成膜:世界初の成功 ~光触媒、エネルギー材料としての応用に期待~
本研究のポイント
・ 白色顔料や光触媒として広く知られる酸化チタンは、ルチル型やアナターゼ型注1)などの複数の結晶構造を有しています。結晶化には100℃以上の高温・高圧の水熱合成法や、500℃程度の熱処理が汎用されます。
・ 異なる結晶相を有する酸化チタンを、原子スケールで選択的かつ連続的に積層した「酸化チタンジャンクション」は、高機能材料を創製する設計指針のひとつとして注目されています。上記の選択合成のコンセプトを化学溶液析出に拡張し、同一溶液からルチル/アナターゼ酸化チタン積層膜を得ることに世界で初めて成功しました。
・ 開発した酸化チタン材料は、ソーラー水分解、フレキシブル太陽電池などの次世代エネルギー材料としての研究展開や、様々な光触媒などとしての応用が期待できます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202508053205-O3-20HVmgL0】
研究概要
地球環境やエネルギー問題に対応する技術の進歩が、ますます注目されています。岐阜大学工学部の萬関 一広 准教授の研究グループは、光触媒材料として広く知られる酸化チタンに注目し、機能材料創製に向けた革新的な手法を確立しました。見いだした技術は、同じチタンの原料溶液を用いながら、温度だけを変え、80℃以下の低温で異なる結晶型の酸化チタンを選択的に作り分ける化学合成です。
特に重要な成果は、この結晶制御のコンセプトを応用し、異なる結晶型の酸化チタン種を原子レベルで組み合わせた複合薄膜の作製です。ひとつの反応溶液から、結晶型選択的に酸化チタン膜を積層する技術は世界初です。また、このような設計は、応用上重要な電子物性(電子移動特性)を向上する手段としても有効です。本技術は、光触媒のさらなる高機能化や低温で製造する次世代太陽電池などへの応用が期待できます。
本研究成果は、日本時間2025年7月29日に英国の国際誌であるChemical Communications誌のオンライン版で発表されました。
研究背景
酸化チタンは、本多・藤嶋効果に代表される太陽光による水分解や、Grätzelセルの色素増感太陽電池などを通じ、電気化学分野で長い研究の歴史があります。近年では、桐蔭横浜大の宮坂らをはじめとする国内外の研究グループにより、ペロブスカイト太陽電池の構成材料としての応用も広く報告されています。こうした光エネルギー変換技術のさらなる多様化と高度化を目指し、酸化物半導体における「ナノ構造エンジニアリング(微細構造と電子物性の制御)」に関する研究が活発に進められています。
研究成果
塩化物イオンが結合したチタンオキソクラスター(図1)の水溶液中での重縮合条件注2)のうち、反応温度を変え、反応開始から24時間のTiO2の結晶成長について調べました。粉末試料のX線回折パターン、ラマンスペクトル測定、電子顕微鏡観察の結果を基に、60℃~70℃の温度領域を境にTiO2の結晶型が変化する特徴を見いだしました(図2参照)。一例として、24時間後、高温側(70℃)では平均粒径4 nmのアナターゼ型TiO2微粒子が生成するのに対し、低温側(60℃)では平均粒径9 nmのルチル型TiO2が得られました。添加剤として有機の構造制御試薬を使用しない合成法であることも特徴です。
このチタンオキソクラスターからTiO2ナノ粒子への構造変換を利用して、基板を原料溶液に浸漬して薄膜化する化学溶液析出プロセス(図3、図4参照)に応用しました。時間と反応温度をモニターしながら、60℃(一層目)/70~80℃(二層目)の二段階連続製膜を行いました。これにより、導電性ガラス基板上におけるTiO2薄膜の成長について調べました。
電子顕微鏡観察やX線回折パターンの解析から、興味深いことに低温領域では別の結晶型であるブルッカイト酸化チタンが、ルチル層と共存してわずかに析出することを明らかにしました。また、メインのルチル/アナターゼ酸化チタン複合層に関しては、100~150 nmの厚みに制御する技術を確立しました(図4参照)。
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今後の展開
本研究は、無機化学の分野の「金属錯体」と、ナノ材料化学の分野の「ナノ粒子」をつなぐ新しい物質創製技術であり、非常に重要な成果です。フレキシブル太陽電池や人工光合成などの次世代エネルギーの技術基礎としてこれからの応用展開が期待できます。
研究支援
本研究の成果は、東京応化科学技術振興財団、立松財団、小川科学技術財団、国際クラブ、科学研究費助成事業の基盤研究 (C) 24K08492の支援を受け、得られたものです。
用語解説
注1) ルチル、アナターゼ:酸化チタンの代表的な結晶構造名。同じ酸化チタンTiO2の組成でありながら、最小構成単位である八面体骨格(TiO6)の連結の仕方が異なる。ルチルでは、Corner(八面体の頂点)を共有する骨格が特徴であり、アナターゼでは、Edge(八面体の辺)を共有する構造の割合が多い。
注2) 重縮合:ここでは、Ti(チタン)-O(酸素)-Ti(チタン)の結合を形成する反応。
論文情報
雑誌名:Chemical Communications
論文タイトル:Crystal phase-directed growth of rutile/anatase TiO₂ heterojunctions via in situ stepwise chemical bath deposition below 80 °C
著者:Kazuhiro Manseki*, Shinapol Toranathumkul, Satoka Wada, Naohide Nagaya, Daisuke Takemoto, Ryoma Yasuda, Takashi Sugiura
(*)Corresponding Author
DOI: 10.1039/D5CC03571F