~アセスメント盲検・多施設ランダム化比較試験~

令和7年8月25日

 

国立大学法人 福井大学

国立大学法人 鹿児島大学

国立大学法人 東北大学

国立大学法人 千葉大学

国立大学法人 徳島大学

獨協医科大学埼玉医療センター

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター

リンショーピング大学

 

神経性過食症女性に治療者誘導型オンライン認知行動療法を提供して過食と代償行動エピソードを減らすことに成功 ~アセスメント盲検・多施設ランダム化比較試験~


本研究成果のポイント

神経性過食症注1の女性患者を対象に、全国6つの大学病院1ナショナルセンターによる多施設共同ランダム化比較試験注2を行い、治療者誘導型オンライン認知行動療法注3の有効性をアジアで初めて、また世界で2例目として実証しました。

過食や代償行動のエピソードを減少させ、寛解率注4も高める効果があることを明らかにしました。


病院に通う負担を軽減し、自宅で専門的な治療を受けることができる新しい選択肢として、今後の広い活用が期待されます。

〈概 要〉

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M106311/202508203811/_prw_OT1fl_IwE92lwE.png

〈研究の背景と経緯〉

神経性過食症は、有病率が増加しつつあり、慢性化や深刻な身体的・心理的な健康被害を引き起こすリスクを伴います。しかし、効果的な治療を受けられる機会は依然として限られています。特に日本を含むアジア圏では、神経性過食症の女性を対象とした治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性や受容性が十分に検証されていませんでした。

 そこで本研究では、日本文化に適応させた治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性と受容性を、日本全国の多施設共同で科学的に評価しました。

 

〈研究の内容〉

 本ランダム化比較試験は、スウェーデンのリンショーピング大学の協力を得て、2022年8月から2024年10月まで、日本国内の6つの大学病院1ナショナルセンター(福井大学、鹿児島大学、東北大学、千葉大学、徳島大学、獨協医科大学埼玉医療センター、国立精神・神経医療研究センター)で実施しました。対象は、DSM-5注5で神経性過食症と診断され、Body Mass Indexが17.5以上、インターネット環境があり、過去2年間に同様の治療を受けていない13~65歳の女性です。合計61人が本臨床試験に参加し、治療者誘導型オンライン認知行動療法を加えたグループ(31人)と、通常治療のみのグループ(30人)に分かれました。平均年齢は27.8歳、平均BMIは21.1、平均病歴は9.3年で、約半数が就業者です。

治療者誘導型オンライン認知行動療法を受けたグループでは、通常治療のみのグループに比べ、過食や代償行動の合計頻度の減少が統計的に有意に大きく(平均約10回減少)、重症度の改善が確認されました(図1)。さらに、寛解率も統計的に有意に高くなりました(約45~55% vs. 約13%)(図2)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202508203811-O1-rN008qd9】【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202508203811-O2-XtgPi8Oc

 

〈今後の展開〉

本研究の結果から、外来診療中の神経性過食症の女性に治療者誘導型オンライン認知行動療法を提供することで、重症度が改善すること、そして寛解者が増えることが示唆されました。
この治療法は自宅で専門的な治療を受けることができる新しい選択肢として、今後の活用が期待されます。また、より幅広い患者さんへの対応や長期的な効果の確認を進めていき、地域による専門治療提供の障壁を取り除き、誰もが適切な治療を受けることのできる社会を目指していきます。本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(課題番号 22H00985)、公益財団法人ロッテ財団 の助成からの支援を受けて行われました。

 

〈用語解説〉

(注1)神経性過食症

神経性過食症は、食行動をコントロールできずに短時間に大量の食べ物を食べてしまう症状で、過食と代償行動(嘔吐や下剤乱用など)を繰り返します。また、体重に対する過度のこだわり、自己評価への体重・体型の過剰な影響があり、日常生活機能に重大な障害を引き起こす精神疾患です。男女比はおおむね1対10と、女性に多い病気です。

 

(注2)ランダム化比較試験

研究の対象者を2つ以上のグループに無作為に分け(ランダム化)、治療法などの効果を検証する方法です。

 

(注3)治療者誘導型オンライン認知行動療法

文章、写真、動画形式等のセルフヘルプのプログラムをWeb上で公開し、患者がその治療(認知行動療法)プログラムを治療者のガイドを受けながら取り組むという治療アプローチです。予約の必要性はなく、患者のタイミングでログインできます。治療者と患者とのやり取りは、チャットやメールで行います。

 

(注4)寛解率

寛解とは、病気の症状が落ち着いて安定し、日常生活に支障のないレベルまで回復した状態を指します。病気が完全に治ったかどうかは、長期的な経過観察が必要なため現時点では判断できませんが、現在の時点で社会生活を問題なく送れる程度に改善していることを意味します。
寛解率は、こうした寛解状態に達した患者の割合を示す指標です。

 

(注5)DSM-5:精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders fifth edition)

アメリカ精神医学会によって出版され、精神疾患の分類のための共通言語と標準的な基準を提示するものです。2013 年に第5版が出版され、診断名やその基準に変更が見られました。

 

〈参考文献〉

濱谷沙世・松本一記. 神経性過食症の認知行動療法マニュアル(治療者用).2022.

https://www.hopeproject.site/

 

Hamatani S, Matsumoto K, Ishibashi T, Shibukawa R, Honda Y, Kosaka H, Mizuno Y, Andersson G. Development of a culturally adaptable internet-based cognitive behavioral therapy for Japanese women with bulimia nervosa. Frontiers in Psychiatry. 2022. 23;13:942936. doi: 10.3389/fpsyt.2022.942936.

 

Hamatani S, Matsumoto K, Andersson G, et al. Guided Internet-Based Cognitive Behavioral Therapy for Women With Bulimia Nervosa: Protocol for a Multicenter Randomized Controlled Trial. JMIR Res Protoc. 2023;12:e49828. Published 2023 Sep 19. doi:10.2196/49828

 

〈論文タイトル〉

“Guided Internet-Based Cognitive Behavior Therapy for Women with Bulimia Nervosa: A Randomised Controlled Trial”

(日本語タイトル:「神経性過食症の女性に対するガイド付きインターネット認知行動療法:

  ランダム化比較試験」)

 

〈著 者〉

濱谷 沙世 Sayo Hamatani 福井大学 子どものこころの発達研究センター(筆頭著者、責任著者)

松本 一記 Kazuki Matsumoto 鹿児島大学病院 臨床心理室

Gerhard Andersson

Department of behavioural Sciences and Learning (IBL), Linköping University

佐藤 康弘 Yasuhiro Sato 東北大学病院 心療内科

福土 審 Shin Fukudo 東北大学病院 心療内科

須藤 佑輔 Yusuke Sudo 千葉大学 社会精神保健教育研究センター

平野 好幸 Yoshiyuki Hirano 千葉大学 子どものこころの発達教育研究センター

井野 敬子Keiko Ino 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

石橋 知明 Tomoaki Ishibashi 福井大学 医学系部門 医学領域 病態制御医学講座 精神医学

富岡 有紀子 Yukiko Tomioka 徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野

梅原 英裕 Hidehiro Umehara 徳島大学キャンパスライフ健康支援センターアクセシビリティ支援部門

沼田 周助 Shusuke Numata 徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野

中村 雅之 Masayuki Nakamura 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 健康科学専攻 社会・行動医

学講座 精神機能病学

大谷 良子 Ryoko Otani 獨協医科大学埼玉医療センター 子どものこころ診療センター

作田 亮一 Ryoichi Sakuta 獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センター

関口 敦 Atsushi Sekiguchi 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

小坂 浩隆 Hirotaka Kosaka 福井大学 医学系部門 医学領域 病態制御医学講座 精神医学

水野 賀史 Yoshifumi Mizuno福井大学 子どものこころの発達研究センター(最終著者)

 

HOPE Project Consortium

鎌下 莉緒 Rio Kamashita 千葉大学 子どものこころの発達教育研究センター

吉田 斎子 Tokiko Yoshida 千葉大学 子どものこころの発達教育研究センター

松浦 可苗 Kanae Matsuura 徳島大学病院事務部医事課患者支援係

渡真利 眞治 Shinji Tomari 福井大学 医学系部門 医学領域(附属病院部) 神経科精神科 

船場 美佐子 Misako Funaba 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

佐々木 なつき Natsuki Sasaki 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 健康科学専攻 社会・行動医

学講座 精神機能病学

迫 はるか Haruka Sako 鹿児島大学病院 神経科精神科

島田 尚子 Shoko Shimada 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 健康科学専攻 社会・行動医

学講座 精神機能病学

井上 建 Takeshi Inoue 獨協医科大学埼玉医療センター 子どものこころ診療センター

 

〈掲載雑誌〉

「JAMA Network Open」日本時間:2025年8月6日に掲載)

DOI番号: 10.1001/jamanetworkopen.2025.25165
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