人工島は環礁国にとって「住み続ける」ための有力な選択肢となり得るか

2025年12月23日
公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団

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セミナーメインビジュアル


 

 公益財団法人⽇本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(所在地:東京都港区、理事長:中山幹康、略称:日本GIF)は、マーシャル諸島短期大学(所在地:マーシャル諸島共和国、英文名称:College of the Marshall Islands、略称:CMI)および法政大学(所在地:東京都千代田区、総長:ダイアナ・コー)とともに、2025年11月18日(火)現地時間午前10時から、米国ハワイ州ホノルルのImin International Conference Centerにて、「気候変動適応策としての環礁国における人工島開発」と題した国際セミナーを開催しました。なお、本セミナーは、JSPS二国間共同研究プログラム(共同研究(国外))JPJSBP120249945およびJSPS 基盤研究(C)24K03174の支援を受けて開催しました。


 

開催趣旨

 気候変動による海面上昇は、マーシャル諸島共和国(RMI)やモルディブなどの環礁国にとって、将来の予測ではなく現実の危機であり、国家の存亡に関わる問題です。国土の喪失は、居住地のみならず、先祖代々の土地に住み続ける権利の侵害をも意味します。

 本セミナーでは、単なる工学的対策にとどまらず、人々が「住み続ける(Right to Stay)」ための決意であり、文化的アイデンティティーと主権を守るための手段としての人工島開発について議論を行いました。マーシャル諸島での意識調査、モルディブの事例、経済的側面、そして社会的包摂の観点から、多角的な知見が共有されました。



プログラム・発表要旨

1. 開会挨拶・導入 Jennifer Seru(CMI教授)/中山幹康(日本GIF理事長)

・海面上昇により国土が脅かされる中、移住は「最後の手段」であるべき

・人工島開発は、主権の維持、安全な居住地の確保、経済的安定をもたらす可能性のある重要な適応策

 

2. プレゼンテーション 1.「マジュロにおける人工島開発に対する市民の意識」 佐々木大輔(東北大学災害科学国際研究所 上廣防災学寄附研究部門 准教授、日本GIF上席客員研究員)

・モルディブ(フルマーレ)とマーシャル諸島(マジュロ)における市民意識調査の比較分析を報告

-高い支持率:マジュロ市民の82.0%が国内での人工島開発を支持

-成功の鍵:生活満足度には「清潔な住環境」「インフラ」「災害への安全性」が大きく寄与

 

3. プレゼンテーション 2.「世代間ギャップの分析:学生と市民の視点」 Jennifer Seru/Mylast Bilimon(CMI教授)

・若年層(CMI学生)とマジュロの一般市民の意識の違いに焦点を当てた調査結果を報告

-楽観的 vs 現実的:学生は人工島でのコミュニティー維持や生活継続性に楽観的である一方、市民は実体験に基づき現実的・懐疑的な見方をする傾向

-家族の義務:市民層の「家族への義務」が適応行動の制約要因

 

4. プレゼンテーション 3.「経済的課題と資金調達の現実」 石渡幹夫(明治大学経営学部 特任教授)

・環礁国における適応策にかかる膨大なコストについて、マーシャル諸島を事例に分析

-財政的脆弱性:土地のかさ上げや護岸整備のコストは、国家予算規模を遥かに超えている

-評価軸の転換:従来の費用対効果分析では、これらの投資を経済的に正当化することは困難

 

5. プレゼンテーション 4.「モルディブ人工島移住における『社会的包摂』」 坂本晶子(日本GIF事務局長)

・モルディブの人工島フルマーレへの移住者調査に基づき、多様な人々を包摂するための方策を提案

-満足の好循環:移住の目的が、教育や雇用といった「人的資本への投資」の場合、生活満足度が向上

-ソフト・インテグレーション:居住区を出身地ごとに分けるのではなく、コミュニティーセンターなどを通じた「ソフトな統合」が望まれている

-高齢者の主体性:高齢者の幸福度は、移住を「自分で決めたか」に大きく左右される

 

6. パネルディスカッション・質疑応答 モデレーター Nori Tarui(ハワイ大学マノア校 教授)

・土地所有権の課題:モルディブ(政府所有地)と異なり、マーシャル諸島では土地所有権が複雑で人工島の帰属や権利関係が大きな懸念事項

・時間との戦い:居住困難になるまであと30~50年と予測される中、人工島建設には7~10年の工期が見込まれており、迅速な行動が求められている

・コストと資金:必要な資金は世界的な「損失と損害(Loss and Damage)基金」の議論とも直結するが、現場ではインフラや住宅建設費まで含んだ具体的な資金計画がまだ不十分

・「住み続ける」価値:経済合理性だけでは測れない文化的価値やコミュニティーの維持こそが、人工島開発の核心的意義

 

 セミナー締めくくりの総括では、人工島開発は技術的・経済的な課題を抱えつつも、環礁国の人々が故郷で生き続けるための有力な選択肢となり得ることが示されました。今後は、国際社会による資金的支援の枠組み作りと並行して、住民の合意形成、法制度(土地所有権)の整備、そしてコミュニティーの再生を見据えた包括的なアプローチが必要であると考えられます。

 

セミナー概要

主  催: 公益財団法人⽇本グローバル・インフラストラクチャー研究財団、 マーシャル諸島短期大学、法政大学

日  時: 2025年11月18日(火)10:00~12:00(現地時間)

名  称: 国際セミナー「気候変動適応策としての環礁国における人工島開発」

会  場: Imin International Conference Center(米国ハワイ州ホノルル)

講演者: (登壇順)

  Jennifer Seru(CMI教授)

  中山幹康(日本GIF理事長)

  佐々木大輔(東北大学災害科学国際研究所 上廣防災学寄附研究部門  准教授、日本GIF上席客員研究員)

  Mylast Bilimon(CMI教授)

  石渡幹夫(明治大学経営学部 特任教授)

  坂本晶子(日本GIF事務局長)

モデレーター: Nori Tarui(ハワイ大学マノア校 教授)

司  会: 藤倉 良(法政大学人間環境学部 教授)



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Jennifer Seru教授とMylast Bilimon教授のプレゼンテーション
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登壇者・参加者集合写真
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