歴史上2例目の快挙、核力の理解から中性子星内部の謎に迫る

2025年12月18日
理化学研究所
立教大学
岐阜大学
福井大学

地球上にない二重超原子核の同定に四半世紀ぶりに成功 -歴史上2例目の快挙、核力の理解から中性子星内部の謎に迫る-

 

 

概要                                  

 理化学研究所(理研)開拓研究所齋藤高エネルギー原子核研究室のヤン・ヘ国際プログラム・アソシエイト(研究当時)、齋藤武彦主任研究員、仲澤和馬客員主管研究員(岐阜大学教育学部招へい教員、福井大学附属国際原子力工学研究所客員教授)、立教大学大学院人工知能科学研究科の瀧雅人准教授、笠置歩助教(研究当時)らの国際共同研究グループは、大強度陽子加速器施設「J-PARC」[1]においてK中間子[2]ビームが照射されたJ-PARC E07実験[3]の写真フィルムデータを深層学習[4]モデルを駆使して解析し、ハイペロン[5]が二つ束縛された二重超原子核(ダブルハイパー核)[6]の一種であるダブルラムダハイパー核[7]の歴史上2例目の同定に成功しました。

 本研究結果は、今後の二重超原子核の大量検出を通した核力の研究を進める上で重要な布石となることが期待されます。


 J-PARC E07実験では、地球上に自然には存在しない超原子核(ハイパー核)[6]を人工的につくり、ハイペロンの原子核中における振る舞いを解析することで、核力の理解だけでなく中性子星内部構造の謎をも解き明かそうとしています。

 本研究は、深層学習を活用した特殊な写真フィルムの解析技術をダブルラムダハイパー核の生成・崩壊に伴う飛跡がつくる複雑な構造を検出できるように発展させることで、ホウ素11原子核[8]に二つのラムダ粒子[5]が束縛されたホウ素13ダブルラムダハイパー核生成の同定に成功しました。これは2001年に歴史上初めてダブルラムダハイパー核が同定されてから、およそ四半世紀を経ての歴史上2例目の快挙です。

 本成果は科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(12月12日付)に掲載されました。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202512171159-O1-3ZLHjmNC

ダブルラムダハイパー核(13ΛΛB)生成・崩壊に伴う飛跡がつくる3分岐点を持つ事象

 

補足説明

[1] 大強度陽子加速器施設「J-PARC」

茨城県東海村に建設された、大強度陽子加速器と利用施設群の総称。高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で運営している。加速器で加速した陽子を原子核標的に衝突させることで発生する二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの研究や産業利用を行っている。J-PARCはJapan Proton Accelerator Research Complexの略。

 

[2] K中間子

中間子は、クォークと反クォークが一つずつ集まって構成される粒子。ストレンジクォークを含む中間子をK中間子と呼ぶ。

 

[3] J-PARC E07実験

J-PARCハドロン施設で行われた国際共同実験の名称。高純度なK中間子のビームをダイヤモンド標的に当て、そこでつくられるストレンジクォークを二つ持つグザイマイナス粒子(Ξ⁻ 粒子)([5]参照)を1,500枚の特殊な写真乾板に照射した。
この実験の元々の目的は、グザイマイナス粒子が写真乾板中の原子核に吸収されてできるダブルラムダ核の生成・崩壊の様式を光学顕微鏡によって検出・観察し、種々のダブルラムダ核の質量を測定し、ラムダ粒子同士の間に働く力を測定することであった。同時にK中間子はさまざまなハイパー核を生成することができ、写真乾板に記録されている飛跡を利用して、今回の解析を行った。

 

[4] 深層学習

コンピュータを用いたデータ処理手法のうち、人間があらかじめ処理方法をプログラムするのではなく、大量のデータと正解例(教師データ)によってコンピュータに処理方法を構築させる技術。

 

[5] ハイペロン、ラムダ粒子、グザイマイナス粒子、グザイ粒子

通常の原子核を構成する陽子や中性子がアップクォークとダウンクォークのみで構成されているのに対して、次に重いストレンジクォークが含まれる粒子をハイペロンと呼ぶ。ハイペロンには、ストレンジクォークを一つ含むラムダ粒子(Λ粒子)やシグマ粒子(Σ粒子)、二つ含むグザイ粒子(Ξ粒子)、三つ含むオメガ粒子(Ω粒子)が存在する。グザイマイナス粒子(Ξ⁻粒子)は、ストレンジクォーク二つとダウンクォーク一つから成る。

 

[6] 二重超原子核(ダブルハイパー核)、超原子核(ハイパー核)

超原子核とは、地球上に自然には存在しない原子核で、通常の原子核を構成する陽子と中性子の他に、ハイペロンと呼ばれるストレンジクォークを含む粒子が一つ以上含まれているエキゾチックな原子核、別称ハイパー核。ハイペロンを二つ含むエキゾチックな原子核を二重超原子核、別称ダブルハイパー核と呼ぶ。

 

[7] ダブルラムダハイパー核

ハイペロンの一種であるラムダ粒子が原子核に一つ束縛されるとシングルラムダハイパー核が生成され、一つの原子核に二つのラムダ粒子が束縛されるとダブルラムダハイパー核が生成される。

 

[8] ホウ素11原子核、原子核、ヘリウム原子核

原子核は原子の中心に存在し、陽子と中性子が集まって構成される。含まれる陽子の数によって名前や性質が異なり、最も軽いものが陽子一つから構成される水素原子核(H)、次に軽いのが陽子二つから構成されるヘリウム原子核(He)である。また中性子の数によって同じ原子核でも性質が異なり、同位体と呼ばれる。
同位体は陽子と中性子を合わせた数を併記して区別され、例えばホウ素11原子核(11B)は陽子が五つ、中性子が六つで構成される。

 

 
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