■ ファミリーカー所有者は、電気自動車への移行やスマート充電、送配電網へのエネルギー売電によって、自動車の総所有コストを平均20%削減することができる。

■ EVが持つ調整力※1を活用することにより、欧州の送配電事業者は年間40億ユーロのコスト削減を実現できる。


■ 2030年までにEVは欧州の年間電力供給の4%を担う可能性があり、これは年間3,000万世帯分の電力に相当する。

 

EYは、2030年までに欧州※2で走行する電気自動車(EV)が5,000万台を超え、自動車総数の15%を占めるようになると予測しています。自動車の電動化が加速する中、送配電網の費用対効果や安定性、効率性を確保するためには、EVの充電方法と充電時間を管理し、バッテリーに蓄えられた電力を利用して系統に対して調整力を提供する必要があります。

 

EYと欧州電気事業連盟(EURELECTRIC)がまとめた報告書「Plugging into potential: unleashing the untapped flexibility of EVs(可能性を引き出す:電気自動車に秘められた調整力を解き放つ)」では、EVが最適なタイミングで送配電網から電力を引き出せるようにする一方向のスマート充電と、EVの電力を送配電網との間で双方向にやり取りすることを可能にするビークル・ツー・グリッド(V2G)技術により、消費者の総所有コスト(TCO)を削減し、送配電網の需給状況を管理し、再生可能エネルギーを統合させる取り組みが加速することについて調査しています。

EY Global Power & Utilities LeaderのSerge Colleのコメント:

「2030年までに、欧州全域においてますます不安定になる電力システムに対応するため、調整力を倍増させる必要があります。EVの数は十分にあり、急速に増加しているため、調整力の拡張に対して費用対効果の高いリソースです。EVの充電を最適な時間帯に変更し、V2Gを可能にすることで、消費者のエネルギーコストを大幅に削減し、送配電網の負担を軽減させ、再生可能エネルギーの電力システムへの統合を後押しすることができます」

 

EVの柔軟活用で消費者のコストを大幅に削減

内燃エンジン車と比較すると、EVの調整力を活用することにより、消費者の自動車TCOの大幅削減が可能です。EYの試算によると、内燃エンジン車から同等の電気自動車に乗り換えるだけで、欧州の主要6市場で平均して、コンパクトカーセグメントで年間4%、ファミリーカーセグメントで9%、大型/多目的スポーツ車(SUV)セグメントで14%のコスト削減が実現できます。

こうした効果は市場によって異なるものの、最適な時に充電し、電力を送配電網に売電して報酬を得た場合、自動車のTCOはさらに大幅に下がることが本調査により判明しています。

英国のコンパクトEV所有者は、最大19%(年間1,230ユーロ)削減できます。ドイツ、スウェーデン、スペインでは、TCOを最大14%削減できます。フランスとオランダでは、それぞれ7%と9%の削減が見込めます。


ファミリーカーセグメントでは、フランスで年間15%(1,200ユーロ)、ドイツでは23%(年間1,800ユーロ)のコスト削減が可能です。

 

SUVセグメントでは、英国のドライバーは年間で最大26%のコスト削減が可能で、ドイツのドライバーは29%(3,000ユーロ)のコスト削減を実現できる可能性があります。

 

EV調整力活用により年間40億ユーロのコスト削減

スマート充電やV2Gは、EV所有者にとって有益であるだけでなく、電力系統負荷を軽減し、送配電投資を抑制します。報告書では、以下の内容が示されています。

将来の需要に対応するために先行投資し、送配電網を最適化して、EVの調整力を活用することで、欧州の送配電事業者は毎年40億ユーロのコストを削減できると予測されます。

2030年までに、EVは欧州の年間電力供給量の最大4%(114テラワット時(TWh))を担う可能性があります。これは3,000万世帯分の電力に相当します。

 

2040年までにすべてのEVが双方向充電に対応した場合、欧州の電力需要の10%以上がEVに貯蔵され、必要な際に再び電力を供給することができます。

 

再生可能エネルギーの組み込みとピーク需要の調整

欧州のエネルギーミックスが急速に再生可能エネルギーへとシフトする中、必要に応じて電力を貯蔵および放出する機能が重要となっています。報告書では以下の点が強調されています。

電力のマイナス価格は、前年比で160%増加しました。これは、欧州のほぼすべての電力市場で確認されています。
その要因として、屋上太陽光発電など補助金に支えられ電力価格に影響されない発電設備の増加、そして需要の低迷が挙げられます。

欧州では、2030年までに電力の調整力に対する需要が倍増する見込みです。

EVの調整力は、再生可能エネルギー拡大に伴う出力抑制リスクを軽減させ、需要がピークに達した際に電力を確保するのに役立ちます。

 

このため、一方向および双方向による充電は、選択肢ではなく必須の要素となります。EVは、地域ごとの電力需要に対して、最も低価格で、かつ拡張性と調整力を持つソリューションの1つであり、送配電網の投資コストを抑える可能性があります。

 

EURELECTRIC事務局長のKristian Ruby氏のコメント:

「EVは一般市場に普及し始めていますが、その真の価値を引き出すには、EVを調整力のある資産として送配電網に組み込む必要があります。スマート充電とV2Gは、こうした移行を実現する重要なカギとなるでしょう」

 

選択肢ではなく必須要素であり、ドライバーの協力が不可欠

欧州の電力需要は2050年までに4,500 TWhを超えると予測されており、今すぐスマート充電とV2Gをエネルギーシステム計画に組み込み、消費者に柔軟な電力運用への参加を促す必要があります。

Serge Colleはまた、次のように述べています。

「柔軟な電力運用に消費者が積極的に関与するには、eモビリティの全エコシステムが、EVは単なる移動手段以上のものであると認識されるよう、サポートする必要があります。消費者のEVへの関心を高め、導入を促すうえで、明確なコストメリットのある、使いやすいスマート充電の提案が不可欠です。ただ、電動化のスピードと規模に追いつくためには、今後5年以内に調整力リソースを倍増させなければならず、早急に対応する必要があります」

 

調整力を持つ資産としてのEVから価値を引き出し、商用化を加速させるための6つの前提条件については、こちらをご覧ください。

 

 

<日本の視点>

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 自動車・モビリティ・運輸・航空宇宙・製造・化学セクター アソシエートパートナー 小池 雄一のコメント:

「EU圏では米国や中国、日本などの強い経済圏と対峙するためにエネルギーインフラを各国で共有し、送配電網は国をまたいでいますが、中東諸国やロシアなどと地続きのため、さまざまな脅威に直接さらされてしまうという固有の課題があります。


そのため今回のレポートにもあるように、欧州では自然エネルギーなどを含む多様なエネルギーミックスを構築し、安定的かつ効率的に電力を供給するための戦略を強化していく必要があります。また、自然エネルギーの課題である電力のフラクチュエーションを抑制するために、地域の蓄電池となるEVやV2G、関連するビジネスやインフラ・法制度の進展に向けて、日本よりも顕著にさまざまな領域を強化していく必要性が生じています。一方、こうした中で多種多様なステークホルダーが乱立し、かえって非効率でいびつな構造を生み出してしまうことが懸念されており、これらを欧州がどのように払拭していくのか注視していく必要があります」

 

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 エネルギーセクター ディレクター 樋詰 伸之のコメント:

「2025年2月に策定された第7次エネルギー基本計画によると、2040年の再生可能エネルギー割合は約4~5割と、2022年度21.8%(実績)の約2倍になると見込まれています。既に欧州の水力発電を含む再生可能エネルギー比率45%と比べると、日本の出力抑制発生リスクは低いのではと考えられる方もいるかと思います。

日本は、①電力会社が基本単位であること、②西日本、東日本で周波数が異なること、③島国であり隣国との調整ができないこと等から、系統調整余力が欧州に比べ脆弱で、2018年10月には九州電力管内で出力抑制が実施されています。将来に向けて地域連系線整備など系統増強が進みつつあるものの、原子力再稼働進展などにより、今後さらに系統が混雑し、出力抑制が拡大すると予測されます。

かかる意味で、EVの調整力価値創出は系統構造が脆弱な日本にとって有効であり、系統投資負担を軽減する注目すべきソリューションとなります。EVの普及そのものが系統負荷を増大する側面もありますが、EV普及初期段階より、日本の系統特性に適した制度設計やシステム整備を推進することが有効です」

 

※本ニュースリリースは、2025年3月5日(現地時間)にEYが発表したニュースリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

英語版ニュースリリース:  Smart-charging and V2G critical for cost savings, grid stability and renewables integration | EY - Global

 

※1 調整力とは、エネルギーの需給と貯蔵をリアルタイムで調整し、系統の需給を均衡させるエネルギーシステムの能力のこと。

※2 本リリースでは欧州はEU27カ国に、ノルウェー、スイス、英国の3カ国を加えた30カ国を意味します。

 

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