肥満マウスで明らかになった新たな作用メカニズム

2026年2月16日
岐阜大学
関西電力医学研究所
藤田医科大学
京都大学

ダイアベティス(糖尿病)治療薬DPP-4阻害薬の“真の主役”はGIPだった!? -肥満マウスで明らかになった新たな作用メカニズム-

 

 

本研究のポイント

・肥満マウスを用いた実験により、DPP-4阻害薬による血糖改善および体重増加抑制効果の発現には、内因性GIPシグナルが不可欠であることを明らかにしました。

・さらに、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬では、血糖改善・体重増加抑制効果を媒介するシグナルが異なり、前者はGIPシグナル、後者はGLP-1シグナルを主として利用している可能性が示唆されました。


・本研究は、ダイアベティス(糖尿病)治療のみならず肥満症治療におけるGIPの重要性を示すとともに、インクレチン治療に対する理解をさらに深化させる成果です。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202602164149-O4-Dj8ko4sj

 

 

研究概要

 DPP-4阻害薬*1は、食事をとったときに腸から分泌される「インクレチン*2」と呼ばれるホルモンの働きを高め、血糖値を下げる効果のある薬であり、 ダイアベティス(糖尿病)の治療では広く使用されています。インクレチンには GIP(Glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とGLP-1(Glucagon-like peptide-1)の2種類がありますが、これまでは主にGLP-1に注目した研究が行われてきました。そのため、DPP-4阻害薬の効果において、GIPがどのような役割を果たしているのかは十分に分かっていませんでした。

 今回、岐阜大学、藤田医科大学、関西電力医学研究所、京都大学による共同研究で、高脂肪食によって肥満になったマウスを用いて、DPP-4阻害薬の「血糖値を改善する効果」「体重増加を抑える効果」に対し、GIPがどのように関与しているのかを詳しく調べました。その結果、GIP受容体を欠損したマウス(GIP受容体欠損マウス)を、高脂肪食によって肥満にした場合、DPP-4阻害薬を使用しても、「インスリン分泌を高めて血糖値を改善する効果」「体重増加を抑える効果」が、完全に失われてしまうことが明らかになりました。

 この結果から、DPP-4阻害薬が体内のインクレチンを増やして効果を発揮する際、少なくともマウスにおいて、中心的な役割を担っているのはGLP-1ではなくGIPであることが示されました。本研究は、これまで十分に注目されてこなかった GIPの重要性を明確に示し、インクレチン治療の考え方を大きく前進させる成果です。

 本研究成果は、現地時間2026年2月3日に国際学術誌「Journal of Diabetes Investigation」オンライン版に掲載されました。

 

 

研究背景

 わが国で、ダイアベティス(糖尿病)の治療薬として広く使用されるDPP-4阻害薬は、食事の際に腸から分泌されるホルモン「インクレチン」の働きを高め、食後早期のインスリン分泌を促進することで血糖値を改善すると報告されています。これまでの研究から、DPP-4阻害薬は高脂肪食によって肥満状態になったマウスにおいて、血糖値を下げるだけでなく、体重増加を抑える効果も持つことが明らかにされています。一方で、インクレチンには GIP と GLP-1 の2種類がありますが、これまでの研究の多くはGLP-1に注目して進められてきたため、もう一つのインクレチンであるGIPが果たす役割は十分に解明されていませんでした。
こうした背景を踏まえ、本研究では、遺伝子操作によりGIP受容体を欠損させたマウス(GIP受容体欠損マウス)を用いて、DPP-4阻害薬による代謝改善効果に対するGIPの関与を詳しく検討しました。

 

 

研究成果

 DPP-4阻害薬を投与した野生型マウスでは、耐糖能*3の改善と体重増加の抑制が認められました。一方、GIP受容体を欠損したマウスでは、これらの効果が完全に失われることが明らかとなりました。

 具体的には、高脂肪食を与えた野生型マウスにDPP-4阻害薬であるアナグリプチンを長期間投与したところ、経口糖負荷試験において負荷後早期にインスリン分泌が増加し、血糖値の上昇が抑制されました。さらに、食事量に変化がなかったにもかかわらず、体重増加が有意に抑制されました。しかし、同様の試験をGIP受容体欠損マウスに行っても、インスリン分泌、血糖値、体重いずれにも改善効果は見られませんでした。加えて、アナグリプチン投与によってGLP-1の血中濃度は両群で同程度に上昇していたにもかかわらず、GIPシグナルが失われるとGLP-1単独では血糖改善効果を発揮できないことが示されました。さらに、高脂肪食を与えた両群のマウスに対し、別のDPP-4阻害薬であるリナグリプチンを投与した実験でも同様の結果が得られました。これにより、DPP-4阻害薬全般において、GIPシグナルの喪失により、内因性GLP-1によるGLP-1シグナルの活性化だけでは十分な血糖改善効果が得られない可能性が示唆されました。

 なお、GIP受容体欠損マウスにGLP-1受容体作動薬であるデュラグルチドを投与した場合には、経口ブドウ糖負荷試験において血糖値の上昇が抑制されることが確認されました。したがって、GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬では、血糖値の上昇抑制に必要なシグナルが異なることが示唆されました。

 

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図1.DPP-4阻害薬を長期投与したマウスの耐糖能

 

 高脂肪食を与えて肥満状態とした野生型マウスにおいては、DPP-4阻害薬を長期投与することで、経口糖負荷試験における血糖値の上昇が顕著に抑制されました。
しかし、GIP受容体を欠損した同様の肥満マウスでは、こうした血糖改善効果は認められませんでした。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202602164149-O6-2vn019y4

図2.DPP-4阻害薬を長期投与したマウスの体重推移

 

 高脂肪食を与えて肥満状態とした野生型マウスにおいて、DPP-4阻害薬を長期投与することで、体重増加および脂肪蓄積が有意に抑制されました。しかし、GIP受容体を欠損した同様の肥満マウスでは、このような体重増加や脂肪蓄積の抑制は認められませんでした。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202602164149-O7-EqY97E2w

図3.DPP-4阻害薬を長期投与したマウスにおける内因性GIP、GLP-1の血中濃度

 

 高脂肪食を与えて肥満状態としたGIP受容体を欠損したマウスにおいて、DPP-4阻害薬を長期投与することで、内因性GIP、GLP-1の血中濃度がともに上昇することが確認されました。

 

 

今後の展開

 本研究により、高脂肪食により肥満状態になったマウスにおいて、DPP-4阻害薬の主たる効果が内因性GIPシグナルに不可欠であることがわかりました。今回の研究はマウスでの結果であり、ヒトへの外挿性については注意が必要ですが、ダイアベティス(糖尿病)治療におけるGIPシグナルの重要性を強く示唆するものであり、GIPシグナルに関するさらなる研究を通して、ダイアベティス(糖尿病)や肥満症に対する新規治療の創出が期待されます。

 

 

用語解説

*1 DPP-4阻害薬

インクレチン(GIPやGLP-1)を分解する酵素であるジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)の働きを抑える薬です。この薬によって、体内で活性を持つインクレチンの濃度が高まり、血糖値に依存してインスリン分泌を促進するため、日本では低血糖を起こしにくい糖尿病治療薬として広く使用されています。

 

*2 インクレチン

食事摂取に伴い腸から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促し、血糖上昇を抑制します。インクレチンには、GIPとGLP-1の2つが知られています。

 

*3 耐糖能

体がどれだけ糖を適切に処理できるかを示す指標です。食事などで糖が体に取り込まれたときにすい臓からインスリンが分泌され、血糖値を速やかに元の範囲に戻せる力を指します。


 

 

論文情報

雑誌名:Journal of Diabetes Investigation

論文タイトル:Endogenous GIP Signaling Is Indispensable for DPP-4 Inhibitor-Mediated Metabolic Control in Mice

著者:Saki Kubota-okamoto, Sodai Kubota※, Hiromi Tsuchida, Yanyan Liu, Seiya Banno, Toshinori Imaizumi, Taro Fujisawa, Yoshihiro Takahashi, Takehiro Kato, Yukio Horikawa, Katsumi Iizuka, Takaaki Murakami, Yuuka Fujiwara, Hitoshi Kuwata, Yuji Yamazaki, Yutaka Seino, Shin Tsunekawa and Daisuke Yabe(※Corresponding author)

DOI: 10.1111/jdi.70252

 

 

 
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