京都大学 原田研究室
国立大学法人京都大学大学院情報学研究科の原田博司教授、香田優介准教授らの研究グループは、テラヘルツ帯(300 GHz帯)において6G向け超広帯域無線伝送試験装置をソフトウェア無線技術により開発し、時速1000 kmの高速移動エミュレーション環境下において、5G標準化で定められている通信仕様に準拠しつつ、国内の5Gに割り当てられている最大チャネル帯域幅(400MHz)の約20倍にあたる7.8 GHz幅を用いた超広帯域信号伝送(伝送レート:14.6 Gbit/s)に成功しました。今回の成果により、固定通信システムから陸上移動無線、非地上系ネットワークに至るまであらゆるモビリティを想定した利用モデルに対する通信仕様の開発・概念実証が可能となり、6Gに向けてテラヘルツ波を用いた超高速無線通信システムに関する研究開発がより一層加速することが期待されます。
1. 背景
商用サービスが開始されている第5世代移動通信システム(5G)は、「高速・大容量」「低遅延」「多接続」といった特長を持ち、現在、個人ユーザーに対してのみならず産業や社会基盤を支える重要なインフラとして、さらなる高度化が期待されています。この高度化には、より広範な周波数資源の確保が不可欠であり、現在5G向けに割り当てられているSub-6 GHz 帯および28GHz帯に代表されるミリ波帯の有効活用が重要とされています。しかし、5Gの普及と技術進展が進むにつれて、これら既存の周波数帯域においても将来的な逼迫が懸念されており、新たな周波数資源の開拓が求められています。その有力候補としてミリ波の10倍の周波数に相当するテラヘルツ波が注目されています。テラヘルツ帯では、現在の5Gで利用可能なチャネル帯域幅の数十倍に及ぶ超広帯域の確保が可能であり、高精細映像の無線伝送、超高速無線バックホール基幹回線など、超高速通信技術の実現に向けて期待が高まっています。
2. 研究成果
5Gの標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)により規格化されている5G物理伝送信号フォーマットに従いつつ、国内の5Gチャネル帯域幅の約20倍にあたる超広帯域信号をテラヘルツ帯に乗せて伝送を行う試験装置を、ソフトウェア無線技術を利用して開発しました。具体的には、伝送試験装置には以下の特徴があります。
・テラヘルツ帯(300 GHz)で5Gアクセス方式であるOFDMA方式の標準に準拠した物理伝送信号を送信可能
・OFDMA方式を構成する最小単位の周波数帯域幅を現状の120 kHzから、960 kHzにした上で、最大帯域幅を現状(400 MHz)の約20倍(7.8 GHz)に広帯域化し、伝送レート14.6 Gbit/sで伝送
・受信機局部発振部の周波数を変更することで、テラヘルツ帯において高速移動する際のキャリア周波数オフセットをエミュレーション可能
・高速移動環境で問題となるキャリア周波数オフセットを自動で推定・補正し、安定的に送信信号を同期させ受信できる信号処理方式を新たに開発し、超広帯域ソフトウェア無線機に搭載
この装置を用いて時速1000 km程度までの高速移動を想定したエミュレーションを実行し、研究室内で伝送特性試験を行い、ブロック誤り率(BLER:Block Error Rate)を測定評価しました。評価においては技術計算言語MATLABを用いて記録信号に雑音を追加したAWGN(Additive White Gaussian Noise)チャネルで実施し、SNRは–0.4 dBと設定しました。また、適切に同期ができない場合は、ブロック誤りとして処理しました。最大時速1000 km程度まで速度を変化させた際、マイクロ波など低周波数帯に向けた従来開発手法は時速700 km–1000 km付近でBLERが所要値である10%を達成できない一方で、今回新たに開発した信号処理手法を用いることで、検証下すべての速度環境においてBLERの所要値以下を達成しました。このことは、キャリア周波数オフセットへの対応という観点では、移動速度が時速1000 km相当の環境下においても安定した信号伝送が行うことができることを示唆しています。
3. 波及効果、今後の予定
今回開発した伝送試験装置を用いた検証から、現状の5Gチャネル帯域幅の10倍以上を占める超広帯域5G信号伝送をテラヘルツ帯で行う際、キャリア周波数オフセットを考慮して受信機を精巧に構築すれば、時速1000 kmの高速移動エミュレーション環境においても安定した信号伝送が可能になることが示されました。今回の成果により、固定通信システムから陸上移動無線、NTNに至るまであらゆるモビリティを想定したテラヘルツ帯超高速無線伝送方式の開発・概念実証が可能となり、テラヘルツ帯無線通信システムに関する6Gに向けた取り組みがより一層加速することが期待されます。この研究成果に関しては、2026年3月4~6日開催の電子情報通信学会移動通信ワークショップ(東京理科大学で開催予定)において発表予定です。
詳しくは
https://www.dco.cce.i.kyoto-u.ac.jp/ja/PL/PL_2025_05.html
をご覧ください。