5月15日にシングル「真人間入門」を発売した河野万里奈。第4回全日本アニソングランプリにおいてグランプリを獲得、数々のアニメ作品のテーマソングを担当してきた彼女が、あらたな場所で再スタートを切る。
できないことの苦しみを忘れないでおきつつ、できることをやっていこう。
――河野さんは大の野球好きとのことですが、野球からいろんなスピリットを学んでいる感じでしょうか?
河野万里奈 もうほとんどの芸術や哲学は、野球から学びました。人生はホントに野球に繋がっています。
――そこまでとは……。河野さんは5月15日にシングル「真人間入門」を発売し、新しい環境で再デビューをされました。まずはそこへ至るまでの心境から聞かせてください。
河野 心境は、大きく分けてふたつあって。ひとつが、「歌えなくて地獄」ということと、もうひとつが、「でも絶対に戻る」という想い。苦しみと覚悟、ただただこのふたつの気持ちがあり続けました。
――その時期は、どう自分の気持ちをコントロールしていたのでしょうか。
河野 正直、できないことがたくさんあったし、できない理由もたくさんあったけど、でも、できることもたくさんありました。
――その気持ちが原動力になっていたわけですね。
河野 はい。その気持ちがなかったら絶対に諦めていたなと思います。
――河野さん自身、再び歌える環境をつかむ自信はあったんですか?
河野 このお仕事っていろんな方々が関わって物事が進む世界だから、自分の一存だけでは再デビューできると確実に信じることはできなかったんですけど、それでも「言い続けることが大事だな」と思っていて。「なりたい、なりたい」と言い続けて、もうわかったと言われるくらい言い続けることによって、まわりの人たちも、フォロワーさんも「河野万里奈ちゃんは最終的に、もう一度デビューして曲を届けるのが目標なんだ」と理解したうえで応援してくれて。「きっとメジャーの世界へ戻ってくる」と信じてくれていました。
――その言葉が現実になったように、その想いを信じ、言い続けてきて良かったですね。
河野 そう思います。「再メジャーデビューを絶対にする」と明確に目標を提示するようになってから、いろんな面で変わりだしました。もちろん、うまくいくことばかりではなかった……というか、うまくいかなかったことのほうが多かったのも事実です。私、阪神タイガースの鳥谷(敬)選手が大好きで、尊敬し続けています。その理由が、鳥谷選手自身、年齢面でも現役を続けられるかどうかという時期を迎えていて、しかも若手も育ってきたことから、長年ずっとショートを守っていたんですけど、そのポジションを若手に取られ、他のポジションを守ることも増えてきて。それでも、ゴールデングラブ賞を受賞するようなものすごい選手なんですけど、ちょうど昨年のオフシーズンのときに、「選手生命がいつ最後になるかわからないからこそ、2019年はショートを奪還したい」と宣言したんですね。でも、決して簡単なことではなく、今もショートは奪還できていないんですけど、その表明をしたことが、私にはすごくインパクト強く胸に響いてきました。私自身も「歌を歌いたい」「歌手というポジションは絶対に譲らない」、その気持ちを隠していたら、そのまま消える可能性のほうが高いと思ったし、改めて口にし続ける勇気を鳥谷選手からもらいました。だから、私が再デビューするまでの歩みの中はもちろん、今でも、鳥谷選手の存在はとても大きなものになっています。
――信じる気持ちがあれば夢は叶う。いや、叶う叶わない以前に、想いを口にすることで、そこへ向かうためのモチベーションという力になれるんですね。
河野 そうだと私は信じています。
――再デビューが具体的に決まったのはいつ頃でした?
河野 具体的に決まったのは今年2月です。ただ、「メジャー再デビューをします」と発表をしたのは、昨年の5月の誕生日ライブのときでした。ただし、その時点ではまだ、どこのレーベルで、いつ、どんな曲でデビューするかまでは具体的になっていなかったことから、それが正式に決まるまで具体的な報告は控えてきました。
――ファンの人たちは、具体的な報告を2月に聞けたことで安心したんじゃないですか。
河野 続報がなさすぎて「どうなってるんだろう」という不安にさせてしまってた部分が大きかっただけに、安心していただけたと思います。具体的な進展がない時期でも、みんな私のことを信じてくれていたように、その思いへは一生をかけて報いようと思っています。最多賞を取った野球選手もよく言うんですけど、「とにかく塁に出ようと思いました」「ちゃんとコツコツやってれば、結果はついてくる」という言葉通りの気持ちで、私も今はいます。
――ここから、どんどんヒットを打っていく形ですからね。
河野 小さなシングルヒットが多いと思うんですけど、コツコツ点数を取っていきたいし、何より楽しみたいなと思います。
――再デビューシングル「真人間入門」を聴いての印象も教えてください。
河野 すごくインパクトのある五文字ですよね。
――自分の生き方も「真人間入門」には投影しているわけですね。
河野 そうです。一行足りとも、嘘偽りのない歌になっています。
――カップリングに収録し、河野さん、自ら作詞作曲をした「アイキャントライ」の歌詞に詰め込んだ想いがとてもリアルに響いてきました。
河野 ありがとうございます、うれしいです。「アイキャントライ」は自分で作詞作曲をして、エンドウ.さんにアレンジしていただいた曲。自分で作詞作曲し作品化した曲はこれが初めてになるので、発売してからの感想の声がとても楽しみです。
――これが初作品?
河野 はい、とってもうれしいです。全人類に聴いてほしいくらいの自信作です。正々堂々と選手宣誓したみたいな気持ちです。
――「アイキャントライ」からは、河野万里奈像が見えますからね。それこそ、笑顔の裏にはいろんな涙が重なっていたのかなと想像しちゃいました。
河野 血反吐を吐いてることのほうが多いです(笑)。でも、それを知っているからこそ笑顔になれるんだと思います。野球選手は、一軍の選手として試合に出れることがステイタス。だからこそ、そこまでに死ぬほど鍛練していくわけじゃないですか。
――河野さん自身も、二軍の苦しさを知ったうえで、再び一軍に上がってきた感覚ですか?
河野 やっと蓄積してきたチャンスが巡ってきたといいますか。塁に走者が溜まってて、今ここで私が打てばバーッと点がたくさん入るという、得点圏へたくさんランナーを置いた状態で打席がまわってきたように、今は満塁状態での勝負だと私は思っています。結果、ヒットを放つのか、フライで終わるのか……。そこを含めての戦いだからこそ、兜の緒をしめる気持ちでいます。どっちにしても絶対に楽しい戦いになるので、河野マリナの頃を知っている方々も、ホントに見逃さないでいてほしいと純粋に思います。
この歌が、再メジャーデビューの表題曲で良かったという気持ちしかないです。
――改めて、収録曲の魅力を聞きたいと思います。まずは、「真人間入門」から。
河野 「真人間入門」は、自分の人生の主題歌だと思っているし、聴いてくれてる方の人生の主題歌にもなれると思って歌っています。それこそ一言一句、自分が会話している気持ちで、自分の言葉として歌っています。デビューしてから今までの約5年半、世間からみたら潜伏期間と思えるその間もずっと胸に抱えてきた想いをこの歌へぶつけ、自分がなりたい真人間の門戸をバーンと叩いて開けていく楽曲になっています。だから、この歌が再メジャーデビューの表題曲で良かったという気持ちしかないです。
――続いては、「音速ロケット」です。
河野 「音速ロケット」は最後の2行に書いた「ただいま」「おかえり」の言葉にすべてが詰まっていると言っても過言じゃない曲です。ずっと支え続け、応援し続けてくれたマリナーズのみんなに「ただいま」という気持ちと、ライブをやるたびに、次にまた打席(ライブ)が巡ってくるとは限らないからこそ、毎回ライブに来てもらえるごとに「おかえり」という気持ちになって。それらの想いを「音速ロケット」には詰め込みました。このインタビューを読んでくださっている方の中にも「河野マリナ、懐かしい」と思う方も絶対にいると思います。もちろん「懐かしい」という言葉も正しいですけど、でも「違うよ」と否定したい気持ちもあって。何故なら、わたしはずっと前を向いて歩みを止めることなく進み続けているから。私は今でも、『〈物語〉シリーズ』で得たスピリットもずっと持ったまま歌い続けているように、それに触れてほしくて「また会いに来てね」という気持ちだってあるし、実際にライブへ来てくれた方にも「おかえり」と言いたい気持ちがあります。それくらい「音速ロケット」は、ライブで歌うたびに胸がいっぱいになる歌です。
――まわりは「懐かしい」と思っていても、本人はいっさい止まっていないように、ずっと現在進行形ですからね。
河野 そうなんです。でもやっぱり、一度過去に山がある場合は、仕方のないことだと受け止めています。それこそ、私で言えば、今も「アニソングランプリの覇者」みたいに言われることも多いんですけど、それもうれしい真実だし、とても感謝をしていること。でも、私は過去を振り返るつもりはまったくなければ、振り返る必要もないと思っていて。過去よりも今が最高だと本当に胸を張って言えるんです。アニメのタイアップがついていなかったりすると、「失速してる」と思われてしまうのかもしれないけど、「でも違うから、一回会いに来てよ」という気持ちでいます。『〈物語〉シリーズ』の曲は、今でもリリースイベントで歌わせていただくんです。『〈物語〉シリーズ セカンドシーズン』の「囮物語」「鬼物語」EDテーマ「その声を覚えてる」に“その声が優しい響きでまた誰かを救えるように”という歌詞があるんですけど、そこを歌うたびに(八九寺)真宵ちゃんを思い浮かべて、そのときの気持ちのまま歌っています。そこに誇りはあるけど、後ろめたさはまったくないです。むしろ、今でも本当に好きな歌として歌えていることを、私は楽しんでいます。
――最後は、「アイキャントライ」ですね。
河野 歌詞に“I can’t lie I can try”ってあるんですけど、その言葉はかれこれ6年以上ずっと言い続けていて。事実、6年前のブログにその言葉をちゃんと書いてるんですよ。なので、ずっと思ってきた気持ちを歌にして出せたのがうれしかったです。私はこの曲を産むために生まれてきたと思っているくらい、大事な曲です。みんなも社会の中で、人間関係で戦うことも日々もあると思うんですけど。そんな皆さんに、この気持ちが届けばいいなと思っています。
――ライブ活動も精力的にやっていますよね。
河野 まだまだ目指すところの途中ですけど、生で歌を届ける姿を観てほしいです。ライブは、野球選手でいう「試合」なので、定期的に届けていきたいです。もちろん、CD音源には音源なりの良さがありますけど、ライブはみんなの目をちゃんと見て歌えるし、私はひとり残らずライブ中に皆さんの目を見ています。それに、応援してくれる仲間たちと過ごせるあの時間が、私にとっては本当に財産だなと思います。
――決してひとりじゃないですからね。
河野 本当にそう思いました。河野マリナでのデビュー曲の「Morning Arch」に“一人じゃない”という歌詞があるんですけど。デビュー当初は「一人じゃない」と思ったことがなかったから歌うのが難しかったんです。でも今は、その言葉の意味を強く噛みしめながら、しっかり笑顔で歌えるようになりました。
――楽曲って、その人の人生の歩み方次第でとらえ方も変わりますよね。
河野 そうなんですよ。河野マリナ時代の楽曲も、あのときなりに一生懸命に心を込めて歌っていましたけど、捉え方に変化が生まれると、過去の曲も新曲になるんだと最近は本当に思っていて。とくにそれが如実だったのが『花物語』のEDテーマ「花痕 -shirushi-シルシ」なんです。「花痕 -shirushi-シルシ」は心が千切れそうなくらい苦しい曲で、自分自身も今後活動を縮小していくのをわかっている状態で、“最後は華と散る、その日まで”と歌っていて。あの当時は、心苦しくなりながら歌い終えることが多かったんですけど、今はその歌を爽やかな顔で歌える自分になれています。だから、過去に『〈物語〉シリーズ』を好きだった方も、絶対に今の河野万里奈として歌う楽曲の数々を聴いてほしいなと思います。
Interview & Text By 長澤智典
●リリース情報
ニューシングル
「真人間入門」
5月15日発売
【初回限定盤(CD+DVD)】
品番:TECI-670
価格:¥1,852+税
<CD>
M1:真人間入門
M2:音速ロケット
M3:アイキャントライ
<DVD>
「真人間入門」+MVメイキング
【通常盤(CD)】
品番:TECI-671
価格:¥1,111+税
<CD>
M1:真人間入門
M2:音速ロケット
<Profile>
第4 回全日本アニソングランプリにおいて、応募者総数10,189組の中からグランプリを獲得し、テレビアニメ「Aチャンネル」OPテーマ『Morning Arch』でデビュー。その後もテレビアニメ「夏目友人帳 肆」「<物語>シリーズ」など数々のアニメ作品のテーマソングを担当してきたシンガー。近年ではPlayStation(R)4 向けRPG ゲーム「NieR:Automata」テーマ曲『weight of the world』を担当。そして5年半ぶりに再デビューシングル「真人間入門」を今年の5月15日にリリース。ワンマンライブを5月19日(日)青山RizMにて開催する。
関連リンク
河野万里奈オフィシャルサイト
彼女が今、どんな心境で新しい道へ進み出したのか、その胸の内を聞いた。
できないことの苦しみを忘れないでおきつつ、できることをやっていこう。
――河野さんは大の野球好きとのことですが、野球からいろんなスピリットを学んでいる感じでしょうか?
河野万里奈 もうほとんどの芸術や哲学は、野球から学びました。人生はホントに野球に繋がっています。
――そこまでとは……。河野さんは5月15日にシングル「真人間入門」を発売し、新しい環境で再デビューをされました。まずはそこへ至るまでの心境から聞かせてください。
河野 心境は、大きく分けてふたつあって。ひとつが、「歌えなくて地獄」ということと、もうひとつが、「でも絶対に戻る」という想い。苦しみと覚悟、ただただこのふたつの気持ちがあり続けました。
――その時期は、どう自分の気持ちをコントロールしていたのでしょうか。
河野 正直、できないことがたくさんあったし、できない理由もたくさんあったけど、でも、できることもたくさんありました。
例えば、弾き語り動画をアップするとか。今まで自分で作詞作曲した楽曲を表に出したことはなかったけど、このタイミングで出してみるとか。野球のツイートもそう。野球のツイートは決してふざけてやっているわけじゃなくて、いつか表舞台へ戻るとき絶対に力になると信じて、「いいね」が1個しかつかなかったときから、「これだけは毎日欠かさずに続けよう」と決めて、ずっとツイートし続けてきました。そうやって、「できないことの苦しみを忘れないでおきつつ、できることをやっていこう」と、今でも取り組み続けています。
――その気持ちが原動力になっていたわけですね。
河野 はい。その気持ちがなかったら絶対に諦めていたなと思います。
――河野さん自身、再び歌える環境をつかむ自信はあったんですか?
河野 このお仕事っていろんな方々が関わって物事が進む世界だから、自分の一存だけでは再デビューできると確実に信じることはできなかったんですけど、それでも「言い続けることが大事だな」と思っていて。「なりたい、なりたい」と言い続けて、もうわかったと言われるくらい言い続けることによって、まわりの人たちも、フォロワーさんも「河野万里奈ちゃんは最終的に、もう一度デビューして曲を届けるのが目標なんだ」と理解したうえで応援してくれて。「きっとメジャーの世界へ戻ってくる」と信じてくれていました。
――その言葉が現実になったように、その想いを信じ、言い続けてきて良かったですね。
河野 そう思います。「再メジャーデビューを絶対にする」と明確に目標を提示するようになってから、いろんな面で変わりだしました。もちろん、うまくいくことばかりではなかった……というか、うまくいかなかったことのほうが多かったのも事実です。私、阪神タイガースの鳥谷(敬)選手が大好きで、尊敬し続けています。その理由が、鳥谷選手自身、年齢面でも現役を続けられるかどうかという時期を迎えていて、しかも若手も育ってきたことから、長年ずっとショートを守っていたんですけど、そのポジションを若手に取られ、他のポジションを守ることも増えてきて。それでも、ゴールデングラブ賞を受賞するようなものすごい選手なんですけど、ちょうど昨年のオフシーズンのときに、「選手生命がいつ最後になるかわからないからこそ、2019年はショートを奪還したい」と宣言したんですね。でも、決して簡単なことではなく、今もショートは奪還できていないんですけど、その表明をしたことが、私にはすごくインパクト強く胸に響いてきました。私自身も「歌を歌いたい」「歌手というポジションは絶対に譲らない」、その気持ちを隠していたら、そのまま消える可能性のほうが高いと思ったし、改めて口にし続ける勇気を鳥谷選手からもらいました。だから、私が再デビューするまでの歩みの中はもちろん、今でも、鳥谷選手の存在はとても大きなものになっています。
――信じる気持ちがあれば夢は叶う。いや、叶う叶わない以前に、想いを口にすることで、そこへ向かうためのモチベーションという力になれるんですね。
河野 そうだと私は信じています。
その信じる気持ちと明確な采配をしっかりと考えて、拙いながらも行動してゆくことが大事なんだと思い、行動を続けています。
――再デビューが具体的に決まったのはいつ頃でした?
河野 具体的に決まったのは今年2月です。ただ、「メジャー再デビューをします」と発表をしたのは、昨年の5月の誕生日ライブのときでした。ただし、その時点ではまだ、どこのレーベルで、いつ、どんな曲でデビューするかまでは具体的になっていなかったことから、それが正式に決まるまで具体的な報告は控えてきました。
――ファンの人たちは、具体的な報告を2月に聞けたことで安心したんじゃないですか。
河野 続報がなさすぎて「どうなってるんだろう」という不安にさせてしまってた部分が大きかっただけに、安心していただけたと思います。具体的な進展がない時期でも、みんな私のことを信じてくれていたように、その思いへは一生をかけて報いようと思っています。最多賞を取った野球選手もよく言うんですけど、「とにかく塁に出ようと思いました」「ちゃんとコツコツやってれば、結果はついてくる」という言葉通りの気持ちで、私も今はいます。
――ここから、どんどんヒットを打っていく形ですからね。
河野 小さなシングルヒットが多いと思うんですけど、コツコツ点数を取っていきたいし、何より楽しみたいなと思います。
――再デビューシングル「真人間入門」を聴いての印象も教えてください。
河野 すごくインパクトのある五文字ですよね。
私、「真人間」という言葉にもそれぞれの人なりの概念があると思っているので、印象を限定はしたくないんですけど、私が思う真人間とは「自分に嘘をつかないこと」。めちゃくちゃ真面目に、勤勉にしなくてもいいけど、大事なところでは絶対に嘘をつかない。自分だったら、歌をうたいたい気持ちに嘘をついたら終わりだなと思っています。実は再デビュー前に、このまま歌を続けるのか、歌をやめて違う芸能活動を選ぶのかという選択肢もありました。だけど私は、迷わずマイクを手放さない道を選びました。そこは、私の中で譲ってはいけないところ。楽な道へ逃げることなく、自分の気持ちに嘘をつかずに進むことが、私自身の思う真人間像。そういう気持ちも込めて歌っています。
――自分の生き方も「真人間入門」には投影しているわけですね。
河野 そうです。一行足りとも、嘘偽りのない歌になっています。
――カップリングに収録し、河野さん、自ら作詞作曲をした「アイキャントライ」の歌詞に詰め込んだ想いがとてもリアルに響いてきました。
河野 ありがとうございます、うれしいです。「アイキャントライ」は自分で作詞作曲をして、エンドウ.さんにアレンジしていただいた曲。自分で作詞作曲し作品化した曲はこれが初めてになるので、発売してからの感想の声がとても楽しみです。
――これが初作品?
河野 はい、とってもうれしいです。全人類に聴いてほしいくらいの自信作です。正々堂々と選手宣誓したみたいな気持ちです。
――「アイキャントライ」からは、河野万里奈像が見えますからね。それこそ、笑顔の裏にはいろんな涙が重なっていたのかなと想像しちゃいました。
河野 血反吐を吐いてることのほうが多いです(笑)。でも、それを知っているからこそ笑顔になれるんだと思います。野球選手は、一軍の選手として試合に出れることがステイタス。だからこそ、そこまでに死ぬほど鍛練していくわけじゃないですか。
四六時中頭から野球のことが離れないだろうし。だからこそ、打席に立った瞬間がっこいいし。それで打とうものならめちゃくちゃ響くものがある。まさに、それだと思うんですよね。取り繕った姿や言葉よりも、血反吐を吐いて鍛練したうえで、やるべきことをやるべき場所でやった瞬間に、いいものが伝わると思っているので。ちゃんと苦しむときは苦しもうといつも思っています。
――河野さん自身も、二軍の苦しさを知ったうえで、再び一軍に上がってきた感覚ですか?
河野 やっと蓄積してきたチャンスが巡ってきたといいますか。塁に走者が溜まってて、今ここで私が打てばバーッと点がたくさん入るという、得点圏へたくさんランナーを置いた状態で打席がまわってきたように、今は満塁状態での勝負だと私は思っています。結果、ヒットを放つのか、フライで終わるのか……。そこを含めての戦いだからこそ、兜の緒をしめる気持ちでいます。どっちにしても絶対に楽しい戦いになるので、河野マリナの頃を知っている方々も、ホントに見逃さないでいてほしいと純粋に思います。
この歌が、再メジャーデビューの表題曲で良かったという気持ちしかないです。
――改めて、収録曲の魅力を聞きたいと思います。まずは、「真人間入門」から。
河野 「真人間入門」は、自分の人生の主題歌だと思っているし、聴いてくれてる方の人生の主題歌にもなれると思って歌っています。それこそ一言一句、自分が会話している気持ちで、自分の言葉として歌っています。デビューしてから今までの約5年半、世間からみたら潜伏期間と思えるその間もずっと胸に抱えてきた想いをこの歌へぶつけ、自分がなりたい真人間の門戸をバーンと叩いて開けていく楽曲になっています。だから、この歌が再メジャーデビューの表題曲で良かったという気持ちしかないです。
――続いては、「音速ロケット」です。
河野 「音速ロケット」は最後の2行に書いた「ただいま」「おかえり」の言葉にすべてが詰まっていると言っても過言じゃない曲です。ずっと支え続け、応援し続けてくれたマリナーズのみんなに「ただいま」という気持ちと、ライブをやるたびに、次にまた打席(ライブ)が巡ってくるとは限らないからこそ、毎回ライブに来てもらえるごとに「おかえり」という気持ちになって。それらの想いを「音速ロケット」には詰め込みました。このインタビューを読んでくださっている方の中にも「河野マリナ、懐かしい」と思う方も絶対にいると思います。もちろん「懐かしい」という言葉も正しいですけど、でも「違うよ」と否定したい気持ちもあって。何故なら、わたしはずっと前を向いて歩みを止めることなく進み続けているから。私は今でも、『〈物語〉シリーズ』で得たスピリットもずっと持ったまま歌い続けているように、それに触れてほしくて「また会いに来てね」という気持ちだってあるし、実際にライブへ来てくれた方にも「おかえり」と言いたい気持ちがあります。それくらい「音速ロケット」は、ライブで歌うたびに胸がいっぱいになる歌です。
――まわりは「懐かしい」と思っていても、本人はいっさい止まっていないように、ずっと現在進行形ですからね。
河野 そうなんです。でもやっぱり、一度過去に山がある場合は、仕方のないことだと受け止めています。それこそ、私で言えば、今も「アニソングランプリの覇者」みたいに言われることも多いんですけど、それもうれしい真実だし、とても感謝をしていること。でも、私は過去を振り返るつもりはまったくなければ、振り返る必要もないと思っていて。過去よりも今が最高だと本当に胸を張って言えるんです。アニメのタイアップがついていなかったりすると、「失速してる」と思われてしまうのかもしれないけど、「でも違うから、一回会いに来てよ」という気持ちでいます。『〈物語〉シリーズ』の曲は、今でもリリースイベントで歌わせていただくんです。『〈物語〉シリーズ セカンドシーズン』の「囮物語」「鬼物語」EDテーマ「その声を覚えてる」に“その声が優しい響きでまた誰かを救えるように”という歌詞があるんですけど、そこを歌うたびに(八九寺)真宵ちゃんを思い浮かべて、そのときの気持ちのまま歌っています。そこに誇りはあるけど、後ろめたさはまったくないです。むしろ、今でも本当に好きな歌として歌えていることを、私は楽しんでいます。
――最後は、「アイキャントライ」ですね。
河野 歌詞に“I can’t lie I can try”ってあるんですけど、その言葉はかれこれ6年以上ずっと言い続けていて。事実、6年前のブログにその言葉をちゃんと書いてるんですよ。なので、ずっと思ってきた気持ちを歌にして出せたのがうれしかったです。私はこの曲を産むために生まれてきたと思っているくらい、大事な曲です。みんなも社会の中で、人間関係で戦うことも日々もあると思うんですけど。そんな皆さんに、この気持ちが届けばいいなと思っています。
――ライブ活動も精力的にやっていますよね。
河野 まだまだ目指すところの途中ですけど、生で歌を届ける姿を観てほしいです。ライブは、野球選手でいう「試合」なので、定期的に届けていきたいです。もちろん、CD音源には音源なりの良さがありますけど、ライブはみんなの目をちゃんと見て歌えるし、私はひとり残らずライブ中に皆さんの目を見ています。それに、応援してくれる仲間たちと過ごせるあの時間が、私にとっては本当に財産だなと思います。
――決してひとりじゃないですからね。
河野 本当にそう思いました。河野マリナでのデビュー曲の「Morning Arch」に“一人じゃない”という歌詞があるんですけど。デビュー当初は「一人じゃない」と思ったことがなかったから歌うのが難しかったんです。でも今は、その言葉の意味を強く噛みしめながら、しっかり笑顔で歌えるようになりました。
――楽曲って、その人の人生の歩み方次第でとらえ方も変わりますよね。
河野 そうなんですよ。河野マリナ時代の楽曲も、あのときなりに一生懸命に心を込めて歌っていましたけど、捉え方に変化が生まれると、過去の曲も新曲になるんだと最近は本当に思っていて。とくにそれが如実だったのが『花物語』のEDテーマ「花痕 -shirushi-シルシ」なんです。「花痕 -shirushi-シルシ」は心が千切れそうなくらい苦しい曲で、自分自身も今後活動を縮小していくのをわかっている状態で、“最後は華と散る、その日まで”と歌っていて。あの当時は、心苦しくなりながら歌い終えることが多かったんですけど、今はその歌を爽やかな顔で歌える自分になれています。だから、過去に『〈物語〉シリーズ』を好きだった方も、絶対に今の河野万里奈として歌う楽曲の数々を聴いてほしいなと思います。
Interview & Text By 長澤智典
●リリース情報
ニューシングル
「真人間入門」
5月15日発売
【初回限定盤(CD+DVD)】
品番:TECI-670
価格:¥1,852+税
<CD>
M1:真人間入門
M2:音速ロケット
M3:アイキャントライ
<DVD>
「真人間入門」+MVメイキング
【通常盤(CD)】
品番:TECI-671
価格:¥1,111+税
<CD>
M1:真人間入門
M2:音速ロケット
<Profile>
第4 回全日本アニソングランプリにおいて、応募者総数10,189組の中からグランプリを獲得し、テレビアニメ「Aチャンネル」OPテーマ『Morning Arch』でデビュー。その後もテレビアニメ「夏目友人帳 肆」「<物語>シリーズ」など数々のアニメ作品のテーマソングを担当してきたシンガー。近年ではPlayStation(R)4 向けRPG ゲーム「NieR:Automata」テーマ曲『weight of the world』を担当。そして5年半ぶりに再デビューシングル「真人間入門」を今年の5月15日にリリース。ワンマンライブを5月19日(日)青山RizMにて開催する。
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河野万里奈オフィシャルサイト
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