【特集】「学園アイドルマスター」楽曲の制作秘話に迫る!「学マ...の画像はこちら >>

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アイドルマスター」シリーズの完全新作として、今年5月16日にアプリゲームの配信がスタートした「学園アイドルマスター」(以下、「学マス」)。アイドルの育成を目的とする学校 “初星学園”を舞台にした本作は、来年20周年を迎える「アイマス」シリーズが積み重ねてきたものを踏襲しつつ、今の時代に寄り添った新しいアイドル像を描く作品として、サービスの開始以来、大きな反響を集めている。

リスアニ!では、そんな「学マス」の音楽面にフォーカスを当てた特集記事を展開!今回は、本作のアシスタントプロデューサーを務める佐藤大地と、「学マス」の楽曲プロデュースを担当する音楽レーベル「ASOBINOTES」のレーベルディレクター・加藤瑠伊に、様々な挑戦が詰まった本作の音楽制作について話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 杉山 仁

「今の時代に、このアイドルたちをどうやって輝かせるか」

――まずはお二人の「学園アイドルマスター」(以下、「学マス」)での役割について教えてください。

佐藤大地 僕は作品のアシスタントプロデューサーとして作品全体を見ていますが、中でも音楽面を中心に担当しています。音楽プロデューサーの佐藤貴文さんと一緒に、楽曲のコンセプト作りから深く関わらせていただいています。また、「学マス」ではアイドルごとに制作担当を分けていまして、自分は月村手毬、倉本千奈、篠澤 広、姫崎莉波、秦谷美鈴の担当をしています。

加藤瑠伊 僕はASOBINOTESのレーベルディレクターとして、主に楽曲周りの制作や進行を担当しています。楽曲やCD商品の制作はもちろん、ライブやグッズなど、主に「学マス」に関わるゲーム外の領域をASOBINOTESでは担当しております。

――「学マス」は、これまでの「アイドルマスター」シリーズとは違って学園が舞台となり、アイドルもプロデューサー(プレイヤーの総称)もアイドル科/プロデュース科所属の学生です。開発時のゲーム全体のテーマやコンセプトはどんなものだったのでしょう?

佐藤 ゲームに関しては“成長”が一番のテーマで、その成長をどんなふうに新しい形で描いていけるかを考えました。そのなかで出てきたのが、例えばライブ演出で、アイドルたちの歌が次第に上手くなっていくような表現でした。

――プレイを重ねていくうちに歌の上手さやパフォーマンスの完成度が変化するシステムを通して、アイドルたちの成長がしっかり伝わってきます。

佐藤 最初はもっと細かく成長を描く予定だったのですが、差分が細かすぎるとレベルが上がったときの違いがわかりづらくなってしまいます。そこで開発のQualiArtsさんからの提案で、差分はむしろ減らして、ライブ自体の尺や場所などを変えることでわかりやすい成長表現を目指しました。

――アイドルによって歌やダンスの得意・不得手がありますが、そうしたメンバーごとの違いについても、かなり丁寧に描かれていますね。

佐藤 その辺りの表現に関しては、キャストの皆さんが本当に頑張ってくださいました。例えば、手毬の場合は、中等部時代はナンバーワンの実力を持っていたといわれるアイドルなので、ゲーム開始当初の状態でも「本当は上手いんだけど……」というニュアンスを小鹿(なお)さんに表現していただいています。こういったことが、アイドルごとに行なわれている形ですね。また、「学マス」の楽曲は、これまでの“アイマスらしさ”はあまり意識していません。……というより、「時代ごとに全力でアイドルと向き合った曲を作る」ことがある種の“アイマスらしさ”だとも思っているので、僕らもそれを続けているつもりです。「今の時代に、このアイドルたちをどうやって輝かせるか」のみに集中して、制作を行っています。

加藤 僕はプロジェクトに途中から参加したのですが、その時点でも「成長を楽しむ」ことがこのゲームの楽しみであるという部分に斬新さを感じました。これはつまり、キャストさんとも一緒に成長していけるということですし、ゲームだけでなくライブや様々な場面でもその成長を一緒に見ていけるのかな、と思いました。そのうえで9人のアイドルたちの個性を楽曲でもしっかりと出すことは大切にしていて、「この子は迫力のあるダンスミュージックが似合うだろう」など、それぞれの個性に合わせていい曲を作ることを意識しています。「このキャラを推したい!」と思っていただけるようなアイドルが最初から9人いることで、音楽面での幅の広さが生まれていったと思います。

――では、具体的な楽曲の制作過程について聞かせてください。

まずは全体曲の中から「初」と「Campus mode!!」について教えていただけますか?

佐藤 「初」は制作のかなり初期の段階で作り始めた曲で、作詞・作曲の原口沙輔さんは当時まだ高校生だったと思います。もちろん、当時からご活躍はされていましたが、新進気鋭の方に新タイトルの全体曲をお願いするのはシナジーを感じましたし、とても攻めたサウンド作りをされる方でもあるので、ポップさと攻めた音の両方を上手くひとつにしていただきたいと思っていました。

――原口さんと言えば「人マニア」のような奇抜なプロダクションの楽曲が得意なイメージもあると思うので、要所にひねりが加えられつつも王道ポップな雰囲気の「初」の音楽性には驚いた方も多かったんじゃないかと思います。

佐藤 僕らが楽曲を発注したのは「人マニア」などがまだ出ていない頃で、むしろそれ以前の楽曲を聴いてお声がけしていたんです。また、楽曲制作をお願いする際に、今までの「アイマス」楽曲のイメージに寄せなくていいですとお話ししました。指名で楽曲制作をお願いする場合は、そのアーティストの方の魅力と楽曲を歌うアイドルの魅力の掛け算になってほしいという理想が明確にあるので、“アイマスらしさ”にとらわれるとコンセプトがブレてしまうと考えているからです。

――「初」はタイトル通り、アイドルたちの“はじまりの曲”ですね。

佐藤 そうですね。原口さんには、その時点で出来上がっていた「初星コミュ」(育成シナリオとは別に「学マス」の世界観などを伝えるコンテンツ)のシナリオを資料としてお渡しして、そこから作品のイメージを掴み取っていただきました。それと今回は負けん気の強いアイドルが多くて、お互いぶつがりがちなところがありますので(笑)、“自信”“未完成の魅力”“成長”などのキーワードを提示した記憶があります。また、これは「Campus mode!!」にも言えることですが、アイドルたちが特にこだわって歌うであろう歌詞があって、「初」で言えば“私らしい姿を目指したあの頃から 変わらない夢を掴み取るの!”という部分はそのひとつでした。小美野さん(小美野日出文/「学園アイドルマスター」のプロデューサー)がこのフレーズを入れるために、ゲームサイズの楽曲の構成を変更するくらい大事にした部分です。

中等部のトップだったところから落ちてしまった月村手毬や、当初は妹アイドルとして売っていたけれど上手くいかなかった姫崎莉波など、「学マス」に登場するアイドルたちは様々なバックボーンを持っていて、それぞれに自分だけの“私らしい姿”があります。ですから、各アイドルがどんな感情でこのフレーズを歌っているかに注目していただくと、より想像が膨らむと思います。

――ゲーム内の印象的な場面で流れる、いわばエンディングテーマのような扱いの「Campus mode!!」はいかがでしょう?

佐藤 この曲は各アイドルの育成において、ある条件を達成した節目に「エンドロールを入れたい」というアイデアから生まれた曲でした。そのシーンはある種の節目でありつつ、同時に彼女たちの物語のはじまりでもあるので、小美野さんから「オープニング曲のような楽曲にしたい」というアイデアが出てきたことから、イメージがどんぴしゃだった田淵智也さんに依頼させていただきました。歌詞には“ありがとう”という言葉がたくさん使われていますが、その中でもひとつ、「ここは特にプロデューサーに向けたものにしたい」と考えた箇所があります。

――ラスサビの“何度も何度も何度もありがとう!”の部分でしょうか? このパートは、楽曲が流れるシーンに辿り着くまでに、何度もゲームをプレイすることで生まれたプロデューサーとアイドルたちとの思い出が浮かんでくるような歌詞だと思いました。

佐藤 その通りです。この部分は、実際にボーカル収録のときにキャストさんにも制作チームの思いを伝えさせていただきました。アイドルとともに歩んできた思い出が最後に昇華されるような、そんなパートになったと思います。

加藤 この曲は、配信タイミングにもひとつエピソードがあります。「学マス」では、ゲームのサービスを開始した5月16日に「初」と9人のソロ曲のサブスク/DL解禁を行ったのですが、実は「Campus mode!!」もそのタイミングで配信する案もあったんです。ですが、この曲は皆さんがアイドルのプロデュースを重ねたうえでこそ聴く価値のある曲だと思ったので、配信開始を6月10日にずらしました。

とはいえ、5月1日の生配信(「学園アイドルマスター」大公開!音楽ニュース!)でCDの収録曲として曲名だけ先にお披露目したので、「どんな曲なんだろう?」と皆さんに想像していただく時間も作れたと思います。

――なるほど、サブスクに出す判断ではなく、出さない判断をすることで、ゲーム体験がより印象的なものになると判断したのですね。

加藤 親密度10に達成したものしか聴けない「隠し曲」があることで、ゲーム体験としてもプロデュース体験としても価値が生まれたと思います。

プロデューサー視点を大切にした、アイドルたちのソロ曲制作秘話

――アイドルたちのソロ曲についても聞かせてください。花海咲季の楽曲「Fighting My Way」はGigaさん節全開のクールなサウンドが印象的です。

佐藤 1曲目のソロ曲に関しては、基本的に各アイドルのプロデュースを行った最後に聴ける曲なので、その過程を踏まえたうえで楽しめる曲にしたい、という意図がありました。彼女たちがアイドルとして成長していく姿を見て、作中のプロデューサーは最初のソロ曲としてどんな曲を渡すか。咲季の場合、彼女は「アイマス」シリーズの赤担当アイドルでは珍しく、「足手まといはいらない」なんてセリフを言うタイプの強気な子で、元々は主人公として考えていた妹の花海佑芽のライバルとして生まれた経緯もあり、勝負好きで快活なところが魅力です。それを楽曲で表現するために「挑戦や自信をテーマにした真っ赤で尖った曲にしよう」ということで、Gigaさんに楽曲をお願いしました。

――その結果、EDMやトラップ、R&Bがブレンドされたエッジの効いた楽曲が生まれたのですね。

佐藤 正直なところ、想定以上に強い楽曲が上がってきたのですが、「かっこいいからこれでいこう!」と判断をしたのを覚えています(笑)。それくらい、Gigaさんの楽曲のパワーが強く、作詞のHIROMIさんにもかっこいい歌詞を上げていただきました。

加藤 咲季というラスボスのようなアイドルに、キャストの長月あおいさんも色んな重圧を感じながら歌っていると思うのですが、キャストさんも一緒に成長しているという面でも、これからの楽曲やライブでのパフォーマンスがとても楽しみです。

――実際、この曲は非常に難しい楽曲のひとつですね。ラップパートでトラップ特有のフロウの細かいニュアンス付けまで意識されていることも伝わってきます。

佐藤 収録の際にはGigaさんにも来ていただいて、歌い方の指導をしていただきました。長月さんもレッスンのたびにかなり自主練を重ねてきてくださったことが伝わってきましたし、ご本人の努力のおかげでとてもいい曲になったと思います。

――続いて月村手毬の最初のソロ曲「Luna say maybe」についてはいかがでしょう? シンガーソングライターの美波さんが楽曲を提供しています。

佐藤 手毬に関しては“自分の本心を上手く話せない子”という部分をポイントに置いて、手毬のプロデューサーなら、歌うことで自分の本心を吐露できるような楽曲を用意すると考えました。そこで美波さんらしい、等身大な不安や臆病さが表現できる楽曲を作っていただきました。

――途中で感情が爆発するような歌の表現が印象的ですね。

佐藤 普段の美波さんの楽曲にもそういう瞬間があると思うのですが、それを声優さんが“演じる”ことで、新しい化学反応が起きたと思います。

――手毬の楽曲がギターサウンド中心のものになっているのは、感情を吐露するという部分とのリンクを感じます。

佐藤 等身大の言葉を伝えるということにおいて、バンドサウンドはぴったりでした。また、手毬は歌が魅力のアイドルなので、その武器を活かして太く戦えるジャンルを考えていった記憶がありますね。

――藤田ことねの「世界一可愛い私」はHoneyWorksが制作。

佐藤 彼女は裏表があるタイプのキャラクターではあるものの、それをそのまま曲にして渡すのではなく、ことねがやりたいアイドル像をちゃんと作ってあげるのが作中のプロデューサーの仕事だと思うので、「アイドルの王道を走る、一番アイドルらしい曲にしよう」と考えました。実際、彼女は今作のかわいいアイドル要素を全部背負ってくれている気がしています(笑)。

――それならば、楽曲はHoneyWorksしかないだろう、と。

佐藤 「現代のアイドルソングって何だろう?」と考えたとき、自然に行き着きました。曲のコンセプトでいくと、ことねは自分の容姿には自信があるものの、アイドルとしての自己評価は低い子なので、その子に対してお客さんに「かわいい」とコールしてもらう曲を渡すのは、ある意味プロデューサーの愛なんじゃないか、と考えました。また、この曲はゲーム内での歌やパフォーマンスの上達のレベル分けも頑張った部分かもしれません。最初はバイトをしすぎていてヘロヘロになっているところを表現してもらいつつ、2段階目ではできているんだけれどもまだぶりっ子の仮面が強すぎるという雰囲気になっていて。最終的には、ぶりっ子の部分がいい感じに取れて、ことねが本心で楽しんでいるような姿に変わります。その流れがとても美しいレベル分けになっているように思います。

加藤 ライブでコール&レスポンスがしやすい楽曲で、振付も非常にアイドルらしいものになっているので、8月のライブ(8月10日からスタートするライブツアー“学園アイドルマスター DEBUT LIVE 初 TOUR -初声公演-”)はきっといいものになると思います。

――有村麻央の「Fluorite」はいかがですか?

佐藤 麻央は“かっこいい”と“かわいい”の融合をどうやって表現するかをかなり考えました。例えば、楽曲の中で“かっこいい”と“かわいい”を分けて表現することもできますが、シナリオのことを考えると、そういう融合の仕方はしたくない。「それは本当の融合と言っていいのか?」と。そこで、“かっこいい”と“かわいい”をどっちもやれるジャンルを考えたときに、ビートの重さとフューチャーベース系のキラキラした音が特徴的なMoe Shopさんに楽曲をお願いしました。作詞はやぎぬまかなさんですが、「自分らしくいていいんだよ」というメッセージをとてもきれいな言葉で入れていただいて、麻央のアイドルとしての軸がより強固になったなと思っています。自分らしさを認めたうえで、“かっこいい”も“かわいい”もできるということを、透き通った歌詞で表現していただきました。

――葛城リーリヤの「白線」はどんなイメージで作られたのでしょうか。

佐藤 リーリヤの1曲目のソロ曲に関しては、最初はもっとしっとりめの楽曲を想定していたのですが、小美野さんから「アイドルになる覚悟を持って海外からやって来た意思の強さが魅力だからこそ、1曲目からゆったりとした曲は違うんじゃないか」と意見をもらって。そこで、彼女のがむしゃらさが光るような、楽曲に食らいついていく姿が魅力的になるような曲として、ナユタン星人さんに仕上げていただきました。

加藤 これは個人的に気になっていたことなのですが、リーリヤは「白線」でこんなに透き通った歌を歌うのに、ライブ衣装が真っ黒なのはなにか理由があるんですか?

佐藤 衣装に関しては、全体曲の「初」で着ている白い衣装は“プロデュースする前のアイドルたちの姿”、1曲目のソロ曲の衣装は“親愛度コミュを経て成長したあとのアイドルたちの姿”がコンセプトになっていて。そういう意味でリーリヤは、「何色にも染まれる白から、何にも染まらない黒」に変わっているんです。これも小美野さんのこだわりですね。

――倉本千奈の楽曲「Wonder Scale」についても教えてください。

佐藤 千奈は本人の能力自体は低いけれども天真爛漫さが魅力なアイドルなので、そこを最大限魅力として出しつつ、足りない部分を後ろの楽器の演奏の壮大さでカバーしてもらえるような雰囲気の楽曲に仕上げていただきました。

――ここでも「こんな曲ならこのアイドルが魅力的に輝いてくれるだろう」という、作中のプロデューサーからの愛情がそのまま楽曲になっているんですね。

佐藤 そうですね。管弦楽やミュージカルっぽい要素を入れていただいて、そのなかで本人は自由にやっている、という雰囲気の楽曲にしていただきました。発注の際は、「千奈が楽器隊を指揮しているような曲にしたい」とお伝えしたんですが、すごく壮大だけれども、それをちゃんと千奈が先導しているといいますか、千奈が動き出してから楽器隊がついていくような構成になっています。

加藤 歌詞の面でも大森祥子さんが千奈のピュアで純真な魅力を曲に落とし込んでくださったので、MVも絵本チックなイメージで制作しました。

佐藤 一方、紫雲清夏の「Tame-Lie-One-Step」は何回か方向性が変わった楽曲でした。最初はもっとトラップっぽい、かっこいい路線という話があって、そこから今よりちょっと遅い四つ打ちのJ-POPっぽい方向性の楽曲にしようとなった時期もありました。要するに、トラウマを抱えたアイドルである清夏を「どこまで踊らせるのか」が議論の争点だったんです。トラウマというのは、一発で克服できるような軽いものではない。そこで、最初から完璧に踊り切るような楽曲にはしたくない、と小美野さんと話していました。。

――なるほど。

佐藤 その結果、最終的な着地点として、「みんなで踊ろうよ」という方向性の楽曲になっていきました。かつてバレエ選手として個人で踊っていた清夏が、アイドルになったことで、お客さんとみんなで踊ってひとつのステージを作る。その最初の一歩を踏ませてあげる楽曲、というイメージです。

――この楽曲は歌詞でも歌われている通りビートが2ステップ/UKガラージになっていて、歌詞の“One-Step”というフレーズに合わせて1歩、2歩と前に踏み出していく姿が表現されているところも印象的でした。

佐藤 これは楽曲を作ってくださった東(優太)さんの歌詞が素晴らしくて。なかでも“大事なのは 浮いた踵 隙間 埋めていくことでしょ?”のところは、まさに清夏らしい歌詞に仕上げていただいています。この部分は小美野さんも「これこそが清夏なんだ!」と絶賛していました。非常に解像度の高い歌詞を書いていただきました。

加藤 サウンドとしても、90年代の終わりから2000年代の初めごろのクラブミュージックやポップミュージックの空気が伝わるようなものになっていて。それを現代のギャルが歌っているという意味では、全国のおじさまたちにも喜んでいただける楽曲でもあるのかな、と思います(笑)。

「込めた熱量はちゃんと伝わる」「尖りは絶対に丸めないようにしたい」

――篠澤 広の楽曲に関してはいかがでしょうか? 天才少女であると同時に、どこか奇才的な雰囲気もあるところが魅力的なアイドルです。

佐藤 広はそもそもキャラクターとしてのコンセプトを固めていく際に苦戦したアイドルのひとりで、キャラクターデザインが素晴らしかったことを受けて、当初のキャラクター像を変更して生まれた過程がありました。彼女の無機質な雰囲気だけど、その中に感じる温かみのような感覚をどうやって音楽で表現するか。それでチーム内で挙がったのが長谷川白紙さんの名前でした。長谷川さんのサウンドと広というアイドルが合わさったときに、どうなるのか正直想像もつかなかったのですが、伏見つかさ先生のシナリオ、南野あき先生のキャラクターデザイン原案、キャストの川村玲奈さんの声、そしてこの「光景」という楽曲が組み合わさったときに、僕の中でも初めて「これはいけるかもしれない」と実感ができました。

――クラシカルな楽器が使われながらも、曲の中で展開が自由に変化していくところに奇才感が出ていることも印象的でした。

佐藤 間奏部分で楽器が一斉に鳴りだすところは、僕もニヤついてしまいました(笑)。

加藤 広は天才でありつつ、どこか壊れそうな雰囲気のあるアイドルだと思うのですが、そのキャラクター性に川村さんの声がすごく合っていますし、長谷川白紙さんの表現力も素晴らしくて、「光景」は海外のリスナーさんも多いイメージです。また、コンテンポラリーな曲調ということもあり、「アイマス」シリーズのファンだけでなく、音楽を聴く幅広い層にリーチし得るアイドルでもあると思っています。

――姫崎莉波の「clumsy trick」はいかがでしょうか?

佐藤 莉波に関しては“全人類の姉”というコンセプトを企画書の段階から考えていたのですが、それを実現しようとすると、アダルティな仮面を被せるだけではダメだ、という思いがありました。とはいえ“おっとりした優しいお姉さん”だけではフックが弱い。そこでキュートさを土台にしつつ、そこにスパイスを散りばめて工夫してくださる方として、渡辺 翔さんに楽曲制作をお願いした形です。大人っぽいだけではなく、“距離が近くて親しみやすいお姉さん”であることを意識して作っていただきました。

加藤 莉波は一見わかりやすいお姉さん属性のアイドルのように見えて、繊細なバランスで成り立っているキャラクターなんですよね。

佐藤 プロデューサーより年下の幼馴染みでありつつ、お姉さんキャラでもあるので、その辺りのバランスはかなり苦労しました。他の子もそうですが特に1曲目では「彼女はこういうアイドルなんだ」というのが見える曲にしたかったので、イントロの音作りなどについても僕の方から佐藤(貴文)さんに意見をお伝えして進めていただきました。

――もう1人、6月に追加アイドルとして実装された花海佑芽の楽曲「The Rolling Riceball」についても教えてください。

佐藤 佑芽の1曲目に関しては、割と早い段階から佐藤貴文さんにお願いしたいと考えていました。佐藤さんは「学マス」の音楽プロデューサーとしてそれぞれのアイドルたちのことを一番理解している方のひとりですし、佑芽のイメージともマッチしていると思っていたので。佑芽のストレートに突き抜けた雰囲気を楽曲で表現するためにも、佐藤さんが作られる“王道曲”の要素と“いかれた楽曲”の要素が融合したものを作ってもらえないか、とお願いした記憶があります。

――頭から尻尾までキャッチーさが詰まっているといいますか、最後までどんどん展開しながら駆け抜けていく、情報量ぎっしりのポップソングになっていますね。

佐藤 曲自体はすごく短くて、普通に聴くとゲームサイズかな?と思うくらいですが、その中で色々な展開がある曲になっています。佐藤さん自身も「やれるだけやって駆け抜けてみました」と言われていましたが、すごく佑芽っぽい曲に仕上げていただきました。今、僕から佐藤さんにお伝えした当時の楽曲イメージ資料を見返したんですが、「やる気!」「笑顔!」「根性!」としか書いてませんね(笑)。

――ここまで「学マス」の楽曲を制作してきて、皆さんはどんな魅力を感じていますか?

佐藤 「学マス」の楽曲は、アイドルと一緒に歩んできた過程を経て聴くとすごく味が出る一方で、まだアイドルたちのことを知らない人が曲単体で聴いても成立するものにしたいと考えていて。アイドルたちそれぞれの個性を際立たせようと意識していますし、それが「アイマス」シリーズをずっと好きでいてくださる方々だけでなく、「学マス」から入ってくださった方にもちゃんと届いているようにも感じますし、「込めた熱量はちゃんと伝わるんだな」と実感しています。

――それぞれの楽曲で色々なジャンルの濃い部分も入っている印象があるので、作品を知らない音楽リスナーも楽しめるようなものになっていると感じます。

加藤 「学マス」に限らず、現代はゲーム以外にもそのIPを知る機会はたくさんあると思うので、レーベルとしても「タッチポイントを増やしたい」という思いがあります。ゲームからだけでなく、音楽からもそれぞれのアイドルたちを知ってもらえるように、その敷居を低くしていきたい。そして楽曲から入っていただいた方には、ぜひ「学マス」のアイドルたちの魅力にも触れていただけると嬉しいです。

――アイドル全員分のソロ曲にクオリティの高い㎹を用意して、YouTube公式チャンネルを作って公開しているのも、そうした思いからなんですね。

佐藤 MVに関しては僕がやりたいと提案したのですが、最初は反対されました(笑)。ですが、それぞれの楽曲に自信を持っていたので、その魅力を届けるためにも、楽曲が一人歩きしてくれるコンテンツがほしいと思っていたんです。そこで「やりたい」と伝えたところ、ASOBINOTESのレーベルプロデューサーの子川(拓哉)さんがその気持ちを汲んでくださり、「ぜひやろう!」ということになりました。

――ゲームのサービス開始からしばらく経った今、ここまでで感じている反響や見えてきている可能性などがあれば教えてください。

佐藤 楽曲に関しては、個性の強さや尖り具合が好きで入っていただいた方々が多いと思うので、そこの尖りは絶対に丸めないようにしたいと思っています。もちろん、意図してストレートボールを投げることもありますが、ことソロ曲に関しては、アイドルの新しい幅を広げるか、より深めることをやっていきたいです。

加藤 自信を持って作ってきたものが、世に出たときにちゃんと良いフィードバックをもらえるということを実感できたので、今後も皆さんの期待を超えることはもちろん、「学マス」らしさを大切にしながら、新しい展開に色々と還元していきたいと思っています。これからもぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。

●作品情報
「学園アイドルマスター」

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■App Store
https://apps.apple.com/jp/app/id6446659989?mt=8

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関連リンク

【初星学園】公式YouTubeチャンネル

「学園アイドルマスター」レーベル公式サイト
https://gakuen-label.idolmaster-official.jp/

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