憧れの場所“野音”に広がった美しい光――楠木ともり、初の野外...の画像はこちら >>

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楠木ともり、初の野外公演となるワンマン“TOMORI KUSUNOKI SUMMER LIVE 2024 -ツキノミチカケ-”の東京公演が、7月15日に開催された。会場は野外ライブの聖地・日比谷公園大音楽堂。

昨年に設立100周年を迎え、数々の伝説的ステージの舞台となった“野音”こと日比谷公園大音楽堂は、音楽をこよなく愛する楠木にとっても憧れの場所。声優としてだけでなく、シンガーソングライターとしても着実にキャリアを築いている彼女の、この先、何度となく振り返られるであろう思い出の1ページが、夏の野音にて刻まれた。

TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY Kosuke Ito

初めての野音ライブに吹き抜けた、熱風のごときパフォーマンス

この日の東京の天気は、朝からずっと曇り。予報では、ちょうどライブの時間にあたる夕方から夜にかけて雨が降る可能性も伝えられていて、楠木自身が“雨女”を自称することもあり、筆者も雨合羽を持参して現場に向かったのだが、結果、その心配は杞憂に終わった(楠木いわくマネージャーが“晴れ女”らしい)。むしろ空が分厚い雲に覆われていたため、直射日光にさらされることもなく、気温も涼しさを感じるほど。野音に時折吹き抜ける風が気持ち良くて、正直、快適と言っていいくらいの環境だ。

チケットはソールドアウトとのことで、客席はライブグッズなどを身にまとったファンでぎっしりと埋まるなか、定刻の17時半を少し過ぎた頃、彼女のライブではお馴染みの幻想的なSEが流れ出し、ついにライブが開幕する。まずはバンドメンバー4人がスタンバイすると、1曲目「眺めの空」のイントロと共に楠木が登場。真っ白の衣装が、明暗のコントラストが強い野外の空間によく映える。夏の情景を描いたこの楽曲、やや気怠さを感じさせる曲調ということもあってか、これまでライブのオープニングで歌われることはなかったように思うが、サビの歌詞にあるとおり“くらくらする”ような陶酔感が夏の匂いと合わさって、観る者を“アーティスト・楠木ともり”の世界観へと一気に引き込む。

そのディープな立ち上がりから一転、タオルを手にした楠木は「みんな盛り上がってー!」と元気いっぱいに呼び掛けて「僕の見る世界、君の見る世界」へ。いわゆるタオル曲として彼女のライブには欠かせないこのナンバーが早くも投入されたことで、会場のボルテージは瞬く間に最高潮へ。楠木は曲中で「ここにいるみんなで最高の夏にしましょう!」と宣言し、オーディエンスもタオルや大合唱でその想いに応える。

軽い挨拶のMCで「“暑い”って言おうと思ったけどいい感じだね!」と過ごしやすい気候に触れつつ、油断せず水分補給を欠かさないように呼びかけると、ここからはTOOBOE提供のアッパーな「青天の霹靂」、ワンマンライブ初披露となる2ステップ調の浮遊感溢れる「MAYBLUES」、レイドバックしたリズムと歌い口が野外の空気と最高にマッチした「もうひとくち」と緩急の効いた流れでオーディエンスを揺さぶる。さらにギターのセンチメンタルなイントロが流れた瞬間、客席からどよめきが上がったのが「タルヒ」。聴き手の心に寄り添うような、冷たい日々も溶かすような温かい歌声が、どんより曇った空のもとで優しく沁み込んでいく。あまりにも満ち足りた時間だ。

その後のMCで、野音に吹く涼しい風が気持ち良くて「“タルヒ”のときに寝そうになっちゃった」と笑う楠木。距離を感じさせないリラックスしたトークはいつも通りで、むしろ客席を見渡しやすい野音ということもあってか、いつもよりテンション高めのように感じられる。

そして「ここからはちょっと、お水飲んどいたほうがいいと思う」と期待を煽ると、涼しい野音を熱くする怒涛のセトリへ。楠木の声を多重録音した清涼感あるコーラス音源が流れ出すと、そこから「Forced Shutdown」に移行して会場は熱狂の渦に巻き込まれる。Cö shu Nieが提供した「BONE ASH」では野音の屋根に投影されたライトがサイケデリックな空間を演出。さらにバンドのアンビエントな演奏を挿み、雨音と楠木の「雨が……」という言葉を合図に始まった「遣らずの雨」では、楠木の感情を剥き出しにしたような歌唱が、どしゃぶりの雨のように激しく打ちつける。特にラスサビ前のフレーズ“そばにいさせて”での叫びにも似たロングトーンは鬼気迫るものがあった。

この日の白眉とも言えるパフォーマンスだったのが、次の曲「absence」。

曲間のしばしの静寂にセミの鳴く声が響き渡るなか、切なくも優しいタッチのピアノを伴奏に、楠木は心の揺らぎさえもそのまま形にしたような深く繊細な歌声で、“不在(absence)”の哀しみを描いたこの楽曲を表現する。かつての思い出を懐かしむような、“君と一緒”だったかもしれない未来の可能性に思いを馳せるような、そして別々の道を辿ることとなった相手をいつまでも想う気持ちを携えて。最後に力なくつぶやいた“いつまでも 笑ってて”という言葉が、虫の音と共に夏の空気に溶け込んでいった。

その深い余韻を破り、未来への希望を大空へと解き放ったのが「シンゲツ」。楠木が敬愛するL’Arc~en~CielのTETSUYAが作曲・プロデュースを手がけた、彼女の最新シングルの表題曲だ。TVアニメ『魔王学院の不適合者Ⅱ ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』のEDテーマとして、月の満ち欠けをモチーフに楠木自身が作詞したこの楽曲、この日はあいにくの空模様のため月は見えないが、それでも月に届かんばかりの高らかとした歌声が大きな軌跡を描き、野外というロケーションをロマンチックに盛り上げる。

“月”のように輝く存在、お互いを照らし出す“声”の力

楠木いわく「ぶち上げゾーン」となった5曲連続の歌唱を終え、彼女は改めて今回のライブのコンセプトについて語り始める。ライブタイトルの“ツキノミチカケ”が象徴するのは、“月の満ち欠け”のように移り変わっていく日々と、それでも変わることなくそこにある“月”という存在。月は自分の力では光ることはできないが、太陽に照らされることで、様々に形を変えながら輝きを放つ。それと同じで、人間もまた簡単に変わることはできないかもしれないが、周りの人や環境が輝かせてくれたり、そのままの自分でも輝ける瞬間がきっとやってくるはず。楠木自身もまた自分のことが好きではなかったと語るが、「でも、みんなの前でこうやって野音(でライブ)をやっている自分は大好きなの」と明かし、会場からは温かな拍手が沸き起こる。

「今日は本当に輝かせてくれてありがとうね」。少し照れくさそうに、でも真っ直ぐにそう語った楠木は、「つまり、私が輝くには、みんなが必要ってことだ!」「そんなときは、光も闇も支えてくれるような、背中合わせの存在が必要なんじゃないかなあ!」と檄を飛ばす。

「みんなのことは私が照らすから、あなたは私を照らしていただける?」との言葉に空気を震わせるほどの大歓声で応える観客。楠木ともりとそのファンは、お互いの背中を任せ合える、両者にとってかけがえのない存在なのだ。それを証明したのが、この日のライブ本編のラストナンバーとなった「back to back」。冒頭から“Wow Wow”と合唱する声が結束力を高めるなか、楠木の頼もしい歌声が野音に集ったすべての人たちを鼓舞し、それを受けて客席からの“大丈夫”とリフレインするコールが一層大きくなる。黄昏時の空に、お互いを輝かせ合うヒーローたちの雄叫びがこだまして、最高の景色のなかでライブは締め括られた。

盛大なアンコールを受けて、すっかり暗くなってきた野音に戻ってきた楠木は、その夜の空気と反比例するかのように白く煌々と照らされたステージ上で「バニラ」を歌い始める。バンドによるノスタルジックなサウンドにセミの声が混ざり合って、夏特有の郷愁が立ち昇るなか、彼女はエモーショナルに歌を紡いでいく。後半、さらに光が強くなり、それに伴って激しく脈動する感情。溜めの効いた演奏、最後に一拍置かれてそっと歌われた“添えよう”というフレーズに至るまで、いつも以上にドラマチックな「バニラ」を聴くことができた。

続いて歌われたのは「alive」。楠木が自身のワンマンライブで見た景色をモチーフに書いたこの楽曲、“想い出を閉じ込めた箱庭”というフレーズはライブという特別な場所のことを指しているわけだが、メランコリーだけどどこか親密な雰囲気が、夕闇の野音と楽しいライブの終わりが近づいているこの時間に、ことのほかよくマッチングしている(個人的には野音というシチュエーションも相まってフィッシュマンズの「ナイトクルージング」を思い出したりもした)。

その後のMCで「暗くなってくるとテンション上がるね!」と嬉しそうに語る楠木。

彼女のワンマンライブでは恒例のグッズ紹介コーナーでファンとたっぷり交流すると、この日が初解禁の情報として、毎年恒例となっているバースデーライブ“TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2024”の開催決定を発表。日程は彼女の25歳の誕生日当日となる12月22日、会場は今年4月にオープンしたばかりのアリーナ施設・横浜BUNTAIだ。まだサマーライブの大阪公演を控えるなか、早くもその次の約束を交わすことができて会場は喜びの声に沸く。

そして楽しいライブはついにフィナーレを迎えることに。最後の1曲は「エモい感じで終わるか、ウワッ!ってなって終わるかで悩んだんだけど、ウワッ!のほうを選んだ」とのことで、彼女のレパートリーの中でもライブで抜群の爆発力を誇るナンバー「熾火」が披露されて、オーディエンスも疲れ知らずの盛り上がりを見せる。完全に日が落ちて暗くなった野音のステージを照明が色彩豊かに染め上げるなか、身振り手振りだけでなくときにしゃがみ込むなど自由に体を動かしながら、燃えるような歌を届ける楠木。その歌声や姿からは勇ましさや頼もしさが感じられて、シンガーソングライターとしてだけでなく、ライブアーティストとしての成長と進化を示す渾身のパフォーマンスで、初の野音を完走した。

この日は1日中曇り空だったため、日が落ちて暗くなってからも月が姿を現すことはなかったが、野音には月のような輝きがたしかに存在していた。楠木ともりはファンの光に支えられて輝く月であり、その声と音楽が我々の夜を照らし、心に光を灯してくれるのだ。その優しい循環を改めて実感できたのが、この夜だったのではないだろうか。

<SET LIST>
M1. 眺めの空
M2. 僕の見る世界、君の見る世界
M3. 青天の霹靂
M4. MAYBLUES
M5. もうひとくち
M6. タルヒ
M7. Forced Shutdown
M8. BONE ASH
M9. 遣らずの雨
M10. absence
M11. シンゲツ
M12. back to back
EN1. バニラ
EN2. alive
EN3. 熾火

●ライブ情報
TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2024
2024年12月22日(日)横浜BUN TAI
open 17:00 / start 18:00
お問い合わせ:H.I.P. 03-3475-9999

チケット料金
全席指定 8,800円(税込)
※未就学児童入場不可

枚数制限
お一人様1公演につき4枚まで

詳細はこちら
https://www.kusunokitomori.com/live/archive/?id=52568

●最新リリース情報
5th EP『吐露』
新曲4曲収録
2024年11月発売決定

●その他情報
楠木ともり×monogatary.comコラボコンテスト第二弾
大賞選出作品「校舎の月」著:ズボンは四角(現在は「角原 四温」に改名)
楠木ともり Official YouTube Channelにて朗読動画公開中

関連リンク

楠木ともり オフィシャルサイト
https://www.kusunokitomori.com/

楠木ともり オフィシャルX
https://x.com/tomori_kusunoki

楠木ともり オフィシャルTikTok

楠木ともり オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCYU-61cZHXE0P48ZCxvs4cQ

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