中川翔子が2020年4月から放映されている『ハクション大魔王2020』でEDテーマを担当。同作で主役を務めるアクビは、カン太郎という少年が夢を見ることを後押しするが、そんなアクビらしさと、コロナ禍にあるみんなへの思いを合体、明るく元気な応援歌を歌い上げる。
“僕らはまた会える”って歌詞が染みます
――まずは、「フレフレ」を歌うことが決まったときの感想から教えてもらえますか?
中川翔子 昨年は、映画『ミュウツーの逆襲』主題歌(「風といっしょに」)とか、アニメ『ゾイドワイルド』のEDテーマ(「blue moon」)で、たくさんの子どもたちに会うっていう壮大な夢が叶って、幸せを使い果たしている感があったんですけど、まさかまさか、今年もアニメの歌をうたえるとはものすごく嬉しくて、びっくりしました。そして、応援歌がいいなっていうのはすごく思っていました。なぜなら、今年は東京オリンピック・パラリンピックの年だし、流れる頃には私も聖火ランナーをやっているはずだったので。誰かが誰かを応援できるってすごく素敵なことだから、『ハクション大魔王2020』のEDテーマを歌うと聞いたときから応援歌にしたいとなんとなく思っていました。でも、まさかのコロナの世界になってしまって、世界が一気に変わってしまって……。子ども達も、学校に行けなくなって入学式や卒業式を全部我慢して、だけど、お家でアニメ観てる時間とか、インターネットと触れ合っている時間とか、そういった中でもキラリと光る大切な思い出を見つけているんですよね。『ハクション大魔王2020』のEDテーマということもありますし、そういった一部になれたらいいな、優しい心の応援歌にしたいなって思いで作詞もさせていただきました。だからコロナがない世界だったら、歌い方とかが少し違ったかもしれないし、今の世界だからこそ感じた気持ちや、出てくる言葉になったんじゃないかな、って思いますね。
――歌詞は岩里さんとの共作ということですが、自身ではどの歌詞が会心の一撃でしょうか?
中川 えー?普通にタイトルですかね。どんな曲かまだ分からないときから、「フレフレ」がいいな、とは思っていました。
――「ドリドリ」の遺伝子を継ぐタイトルなんですね。
中川 「謎の四文字」っていう(笑)。覚えやすいし。
――岩里さんとの共同作業はどうでしたか?
中川 私が一通り書いた歌詞をお送りして、それを岩里さんがブラッシュアップしてくれて。細かくやりとりしたわけではないんですけど、ただの応援歌ではなく、今この世界の中だからこそ、というところをすごく意識してくださいました。音楽って、積み重ねてきた人生の最先端がタイムカプセルみたいに残るもの、って感覚があるんですよ。Dメロの“あたりまえの日々がずっと続くと思ってた”も、去年と、今この状況下とでは、意味が全然違ってくるんですよね。その意味を見つけられるように、歌詞で気持ちをシフトさせてくれたのはもう、さすがすぎますね。安心感と尊敬とに身を任せる感じでした。ラストの“僕らはまた会える”って言葉も、すごくシンプルだけど尊くって染みますよね。去年を思い出すと、全国の何ヶ所もめぐって子ども達にたくさん会って、一緒に歌って、触れ合って、「本当に幸せだったな」って思うんですけど、子ども達にとっても思い出になっていたとしたら……、って思うとその子たちにこの曲を通して「また会えるよ」って約束したい気持ちになります。
――歌うときも気持ちがこもりましたか?
中川 原点回帰という部分と、ずっとやりたかった「大人のお姉さんとして優しい気持ちを込める」ってところを目指しました。特に、Dメロの「夢のそーらー♪」は「この曲のエモポイントだ」って思って何回も挑戦しました。どこか、頭の中はいっぱいいっぱいなまま、ここまで(芸能活動を)やらせてもらってきたんですけど、大人のお姉さんとしてね、未来の地球を支える子ども達に届くといいなって思います。
――昔のアニソンエンディングの王道ですね、優しいお姉さん感は。
中川 候補曲はいっぱいあったんですよ。めっちゃ元気な曲とか、もっとシュールな曲とか。その中でアニメ側の皆さんがこの曲を選んでくださって、「そうか、優しくってキラキラウキウキできる曲なんだな」って思いました。一周回って、アニメのエンディングってやっぱりこうって感じがしますよね。自分も、そういう曲の素晴らしさに興奮してアニメソングを大好きになった、という根っこの部分があるというか。その憧れの世界を目指したって感じですね。(『ポケットモンスター XY』のEDテーマである「ドリドリ」から)3作連続でEDテーマを担当させていただいているので。
――中川さんの頭の中で、これぞアニメのエンディング、というものはなんでしょうか?
中川 そうだな……、「ロマンティックあげるよ」とか、山野さと子さんの「パティの日曜日」とか。あ、(「パティの日曜日」がエンディングの)『メイプルタウン物語」は私、世代じゃなくてあとからさかのぼったんですけど(笑)。でも、幼少期の(1989年版)『魔法使いサリーちゃん』や『美少女戦士セータームーン』もそうでしたけど、エンディングといえば優しくってキラキラして綺麗な声のお姉さんが歌っていて、優しい気持ちにさせてくれましたよね。子どもって大人よりもずっと体感時間が何倍も長くて、瞬間瞬間が濃かった気がするんですね。ホント、大人になると一瞬で2ヶ月とか過ぎて恐ろしい(笑)。だからこそ、アニメを観たとかそのエンディングとかが濃く刻まれていたんだな、と思います。私、土曜日の夕方から夜が死ぬほど好きで。
――ゴールデンタイムでしたよね。『セーラームーン』がまさにそうでしたし、『幽☆遊☆白書』とか『少年アシベ』とか。
中川 みんなそうですよね、子ども達も大人も大好きな時間に流れるアニメのエンディング……。
――この状況下にある大人達に向けての応援歌でもあるんですね。
中川 私も4、5月の仕事が全部なくなって、ものすごく落ち込んじゃってて。そんなとき、YouTubeでゲーム実況をしてたら、私は好きなことにぶつかっているだけなのに、最終日には2万人以上来てくれて。ロックダウン中の海外から観てくれた人もいたんですよね。
――最近の女児向けアニメの定番でもありますし。
中川 踊るアニメのエンディングは大好きです。(アニメのエンディングで)アクビちゃんも踊ってくれているんですよね。深海を旅してくれたりとか、可愛いエンディングになっています。あと、出てくる深海生物が、メンダコとかグソクムシとかスカシカシパンとか、好きなものばっかりなので興奮しました。子どもたちもきっと大好きなはず。
小さい頃に見つけた「好き」は裏切らない
――今お話に出ましたが、今回の振付はねおさんが担当しました。
中川 はい。
――では、最初のプレッシャーよりは撮影を楽しめたんですね。
中川 でも、8割くらいノーミスで来てたのに最後のDメロで間違えて、崩れ落ちるとかしてました(笑)。
――MVでもその振付が楽しめますね。
中川 本当はリリイベでいろんなところに会いに行って、子ども達と一緒に踊りたかったんですよね。「何を”応援”したいですか?」みたいな質問コーナーとか、直接触れ合えるリリイベが出来ないのが本当に寂しいです。去年は手にラメをつけて握手したら、子ども達がキャーって喜んでくれて、お手紙をくれて、合唱してくれて。でも、変わっていく状況の中で、みんなが一所懸命自分を保って生きていこうとしているときだから、受け取るものもきっと特別なものになるんじゃないかなとは思っています。それに、子ども達がTikTokで踊ってくれた動画をMVにも使わせてもらって。オンラインの力で叶ったんですよ。距離なんて関係ない、心はいつも隣にいるっていうのは本当だと思います。アクビちゃんの衣装を着て踊ってくれた人も公園で踊ってくれた人もいました。
――通常盤のCDジャケットには、『ハクション大魔王2020』バージョンのしょこたんイラストも描かれています。
中川 完全にあの世界のタッチになっていて、笑っちゃいました。耳が立ってるところとか、鼻の低い感じとか。家族にも見せたら爆笑してましたね、「君やん」って(笑)。ホント、(登場人物の)カンちゃんが生きている世界に私がいる感じがしました。(完全生産限定盤ジャケットの)アクビちゃんも可愛くて、こんな子が踊っていたらサイリウムでめちゃめちゃ応援したいですよね。実は、『ハクション大魔王2020』の作画チームに入っている野口征恒さんという方が近いお知り合いで、めちゃめちゃ応援してくださってるんですよ。Twitterでもオリジナルのしょこたんイラストを描き下ろしてくださって。ちょっと感動しています。
――実は先祖だったとか、母の知り合いだったとか、中川さんはそういうことが多いですよね。
中川 ね。長くしぶとく生き残っていると、いろんなご縁が繋がっているのを発見できて、それも嬉しいですね。
――また、完全生産限定盤には、中川さんの描き下ろし“アクビちゃん”Tシャツが封入されます。
中川 目と、それからバランスが大事なんですよね。2等身なので(笑)。首とか腕がめっちゃ細いから、バランスを間違えるとアクビちゃんじゃなくなっちゃうので、とにかく可愛さと愛でなんとかしようと思いました。
――レコード会社のスタッフさんも、上手過ぎてパッと見、しょこたんのイラストとわからないほどと言っていました。ずっと続けてきた特技が変わらず仕事に活かされていますね。
中川 シンプルに、絵を描くのって精神統一にもなるし、好きなんですよね。あと、ゲッターズ飯田さんに、絵を描くと運気が上がる、って言ってもらったことがあって。大人になっても映画雑誌(『映画秘宝』)の連載が毎月あったりとかで、ずっと描くのを辞めなかったんですけど、ここに来てYouTube でお絵描き動画を上げたら再生数が200万回超えるとか、こういうTシャツのデザインをするとか、絵を描くことが好きで良かったと思うことがいっぱいあります。途中、アナログだったのをデジタルに自力で切り替えたりもしたんですけど、それも自分は好きでやってるだけのことで。だからこそ嬉しいですね。あと、その自然体が大事な感じはします。歌もそうで、小さい頃に見つけた好きなことって裏切らないですね。ずっと助けてくれる気がします。
――お絵描き動画は皆さん驚いていましたね、その速さに。
中川 自分ではわかんないですけどね、全部自己流なので。私、下書きを描くのが嫌なんですよ。残りの寿命は気にしちゃうから、時間がもったいない気がして。だから、「なんで描かないの?」と言われることもあるんですけど、自分的には「え?だって早く描いちゃった方が良くない?」って感じです。
しぶとくあきらめない人生を
――カップリングには「フライングヒューマノイド 2020 Ver.」が収録されます。歌詞の“十年先の未来が見える魔法があったらな…”が収録のきっかけだったかとは思うのですが?
中川 最初は、元気な曲を入れようかなって思ってたんですけど、「「フライングヒューマノイド」の10年先って今年じゃね?」ってスタッフさんみんなと気づいて。「それってすなわちエモくない?」って感じで決まりました。10年先の未来を歌った10年先でこうして歌い続けられているというのは相当な奇跡だと思いますし、「しぶとい」を体現してるのでは、って思うんですよね。10年ってあっという間ですけど、ものすごくいろんなピンチを乗り越えてきてもいて。だって10年前ってまだ(東日本大)震災も起きてなかったですし、私も25歳ということで結構イケイケでした。
――初主演映画をこなしたり、「中川翔子物語~空色デイズ~」という漫画連載が始まったり。
中川 そうなんですよ。あと、幕張メッセでライブ(『中川翔子 超貪欲☆まつり IN 幕張メッセ』)をやったりとか。
――前年の武道館ライブの勢いそのままに。
中川 「人生楽しいねー」ってときでもあったから、先のことは考えないようにしてたところがありますね、歌い始めたときからそうですけど、ライブするたびに「これで終わりかもしれない」って思っていたので、先のことを考えるのが怖くて。でも、考えてなかった未来の先でたくさんの夢が叶っていて、もちろん大変なこともあるんですけど、楽しいし嬉しいし、夢の続きの中を走れているのが本当にありがたいです。次の「十年先の未来」には何かレジェンドみが出てたらいいですよね。自分で言うことじゃないですけど(笑)。でも、子どもの頃から聴いてましたっていう声が最近すでにありますし、そんなかっこいい女の人になってきたなら、「十年先」も楽しみにできますね。
――どんな未来が待ってるかは本当に分からないとは思います。
中川 そうですね。昔は本当に「一日ずつ死に近づいている」って思ってて、「一日一日死に近づきたくない」って感じだったんですけど、今は、長生きすることによって絶対新しい夢がまた見つかるに違いない、と思えるようになったので。でもそうだなー、10年前かー。まだガラケーで絵文字を使ってたような……。YouTubeとかもまだ浸透してなかったですよね。でも根本的に、絵を描いたりとか美味しいものを食べたりとか猫といたりとか、好きなものをしてるのは変わらないんですけども、忙しいことが超楽しくなりましたね。10年前は忙しいとすぐ体調悪くするし、「ああ眠い」ってなってました。今の方が「生きるの楽しい!」になりましたね。それにヲタクって絶対、長く生きた方が得なことが多いじゃないですか?好きなアニメやゲームの続編が急に出るとか。新しい夢やいいことがいっぱい見つかるから生きていられる、ってところはありますよね。あと、思い出たちが味方してくれるっていうのもあります。この間、ファンクラブの皆さんとオンラインミーティングをやったんですけど、10年前の幕張メッセライブの話になって。あのときは学園祭みたいなことをやっていて、縁日や屋台が出たり、コスプレコンテストがあったり、すんごいエネルギーですんごい楽しかったんですよ。いっぱい失敗もしてるけど、それも意味があるんだよな、みたいな思いに至りました。「まるでRPGだな」って思うことが最近は多いですね。
――では中川さんの、今から「十年先」の目標や夢は?
中川 年齢をレベルで表現するとしたら、(LV45なら)ラスボスに挑むことも可能ですよね。私は慎重派だからもっとレベル上げてから挑みたい派ですけど。そういう仕上がってきた年齢だからこその楽しさがあるとは思いますね。でも、10年前だったら「楽しみ」とか絶対に言えてないよな。「楽しみ」なんて言える自分にビックリです(笑)。でも、そうやってレジェンドになっていけるよう頑張りたいです。また世界が平和になって、また海外でも歌えるようになってたらいいですし……。うん、だから声が変わらないようにします。堀江美都子さんがラジオ(『アニソンアカデミー』)に来てくださったとき、すごく印象的だったんですけど、「アクビ娘の歌」を歌ったら当時(12歳の声)とまったく同じ声なんです。「えーっ!?」ってなったんですけど、身体的に年々低くなっていく声を声帯から出たら口の中で手術して出しているらしいんですよね。「どういうこと?」って思うんですけど、でもそれって、「リアルタイムで聴いていた感動にひたるファンに心を寄せてくださってるんだな」「そこに向けて鍛錬してくださってるんだな」って思ったらすごく感動しちゃって。歌い方が進化するのも素敵だけど、私もなるべくアンチエイジングしよう! と。ラプンツェル(の役と主題歌)をやっていても思うんです。健康に長生きして、悪いことをしないように、そしてなるべく声が変わらないようにがんばりたいな、って。
――イラストもさらに幅が広がりそうですしね。
中川 ゾーンに入るとガーッて筆がのっちゃうんですよね。去年、アルバム(『RGB ~True Color~』)で「ちび太の聖火ランナー ~2020 ver.~」って絵本を作ったとき、一気に80枚くらいのイラストを描きました。あれの延長で、描きためて書籍か何かの作品を発信する人になりたいな、とか。あとは、油絵の個展をやりつつ、ジャズとかシャンソンのライブもやりたいな、とか。さらにその「十年先」だったら、孫とポケモンバトルしてたいな、とか。あははは、それはずっと思ってますね(笑)。でも、『ハクション大魔王2020』が決まったときもアルバムリリースが決まったときも、レコード会社のスタッフさんに「意外としぶといな、中川翔子」って言われたんですよね。新陳代謝が激しい中、しれっといさせてもらっています(笑)。でも、チャンスをいただけているからにはきっと何か意味があるに違いない、と思うから、今できることの中で精一杯あがいて、息をし続けていたいですね。世界が大変なときですけど、子ども達が喜んでくれたなら、それは「本当に尊いな」って思います。でも、オンラインライブにも挑戦したし、いろいろと「あきらめたくないな」って気持ちではいます。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
●リリース情報
中川翔子ニューシングル
「フレフレ」
9月9日発売
【完全生産限定盤(CD+DVD+グッズ)】
品番:SRCL-11540~42
価格:¥4,980(税込)
【通常盤(CD only)】
品番:SRCL-11543
価格:¥1,300(税込)
<CD>
1.フレフレ
2.フライングヒューマノイド 2020 Ver.
3.フレフレ -Anime edit-
4.フレフレ -Instrumental-
5.フライングヒューマノイド 2020 Ver. -Instrumental-
<DVD>
1.「フレフレ」Music Video
2.TVアニメ「ハクション大魔王2020」エンディング映像(ノンクレジットver.)
<グッズ>
中川翔子とBEAMSが共同プロデュースする「mmts(マミタス)」 中川翔子描き下ろし“アクビちゃん”イラストTシャツ(全3種のうちランダム1種封入)
●作品情報
読売テレビ・日本テレビ系
TVアニメ『ハクション大魔王2020』
毎週土曜日夕方5時30分~放送中
(C)タツノコプロ・読売テレビ
関連リンク
中川翔子オフィシャルサイト
一方カップリングには、10年前にリリースした「フライングヒューマノイド」の2020年バージョンを収録。今回のインタビューでは、欝々としたコロナ禍の中での発見、これまでの10年とこれからの10年を見つめた思いを、しょこたんらしい言葉で紡ぐ様を収めた。
“僕らはまた会える”って歌詞が染みます
――まずは、「フレフレ」を歌うことが決まったときの感想から教えてもらえますか?
中川翔子 昨年は、映画『ミュウツーの逆襲』主題歌(「風といっしょに」)とか、アニメ『ゾイドワイルド』のEDテーマ(「blue moon」)で、たくさんの子どもたちに会うっていう壮大な夢が叶って、幸せを使い果たしている感があったんですけど、まさかまさか、今年もアニメの歌をうたえるとはものすごく嬉しくて、びっくりしました。そして、応援歌がいいなっていうのはすごく思っていました。なぜなら、今年は東京オリンピック・パラリンピックの年だし、流れる頃には私も聖火ランナーをやっているはずだったので。誰かが誰かを応援できるってすごく素敵なことだから、『ハクション大魔王2020』のEDテーマを歌うと聞いたときから応援歌にしたいとなんとなく思っていました。でも、まさかのコロナの世界になってしまって、世界が一気に変わってしまって……。子ども達も、学校に行けなくなって入学式や卒業式を全部我慢して、だけど、お家でアニメ観てる時間とか、インターネットと触れ合っている時間とか、そういった中でもキラリと光る大切な思い出を見つけているんですよね。『ハクション大魔王2020』のEDテーマということもありますし、そういった一部になれたらいいな、優しい心の応援歌にしたいなって思いで作詞もさせていただきました。だからコロナがない世界だったら、歌い方とかが少し違ったかもしれないし、今の世界だからこそ感じた気持ちや、出てくる言葉になったんじゃないかな、って思いますね。
――歌詞は岩里さんとの共作ということですが、自身ではどの歌詞が会心の一撃でしょうか?
中川 えー?普通にタイトルですかね。どんな曲かまだ分からないときから、「フレフレ」がいいな、とは思っていました。
「ドリドリ」って曲から5年経ったんですけど、いまだにキラキラしてくれている曲で、歌い重ねるたびにワクワクさせてくれるので、その物語が続いているって感じがほしかったんですよね。
――「ドリドリ」の遺伝子を継ぐタイトルなんですね。
中川 「謎の四文字」っていう(笑)。覚えやすいし。
――岩里さんとの共同作業はどうでしたか?
中川 私が一通り書いた歌詞をお送りして、それを岩里さんがブラッシュアップしてくれて。細かくやりとりしたわけではないんですけど、ただの応援歌ではなく、今この世界の中だからこそ、というところをすごく意識してくださいました。音楽って、積み重ねてきた人生の最先端がタイムカプセルみたいに残るもの、って感覚があるんですよ。Dメロの“あたりまえの日々がずっと続くと思ってた”も、去年と、今この状況下とでは、意味が全然違ってくるんですよね。その意味を見つけられるように、歌詞で気持ちをシフトさせてくれたのはもう、さすがすぎますね。安心感と尊敬とに身を任せる感じでした。ラストの“僕らはまた会える”って言葉も、すごくシンプルだけど尊くって染みますよね。去年を思い出すと、全国の何ヶ所もめぐって子ども達にたくさん会って、一緒に歌って、触れ合って、「本当に幸せだったな」って思うんですけど、子ども達にとっても思い出になっていたとしたら……、って思うとその子たちにこの曲を通して「また会えるよ」って約束したい気持ちになります。
だから、子どもたちにはぜひフルサイズで聴いてほしいです。
――歌うときも気持ちがこもりましたか?
中川 原点回帰という部分と、ずっとやりたかった「大人のお姉さんとして優しい気持ちを込める」ってところを目指しました。特に、Dメロの「夢のそーらー♪」は「この曲のエモポイントだ」って思って何回も挑戦しました。どこか、頭の中はいっぱいいっぱいなまま、ここまで(芸能活動を)やらせてもらってきたんですけど、大人のお姉さんとしてね、未来の地球を支える子ども達に届くといいなって思います。
――昔のアニソンエンディングの王道ですね、優しいお姉さん感は。
中川 候補曲はいっぱいあったんですよ。めっちゃ元気な曲とか、もっとシュールな曲とか。その中でアニメ側の皆さんがこの曲を選んでくださって、「そうか、優しくってキラキラウキウキできる曲なんだな」って思いました。一周回って、アニメのエンディングってやっぱりこうって感じがしますよね。自分も、そういう曲の素晴らしさに興奮してアニメソングを大好きになった、という根っこの部分があるというか。その憧れの世界を目指したって感じですね。(『ポケットモンスター XY』のEDテーマである「ドリドリ」から)3作連続でEDテーマを担当させていただいているので。
エンディングを歌う、大人のお姉さんになってきている。嬉しい。
――中川さんの頭の中で、これぞアニメのエンディング、というものはなんでしょうか?
中川 そうだな……、「ロマンティックあげるよ」とか、山野さと子さんの「パティの日曜日」とか。あ、(「パティの日曜日」がエンディングの)『メイプルタウン物語」は私、世代じゃなくてあとからさかのぼったんですけど(笑)。でも、幼少期の(1989年版)『魔法使いサリーちゃん』や『美少女戦士セータームーン』もそうでしたけど、エンディングといえば優しくってキラキラして綺麗な声のお姉さんが歌っていて、優しい気持ちにさせてくれましたよね。子どもって大人よりもずっと体感時間が何倍も長くて、瞬間瞬間が濃かった気がするんですね。ホント、大人になると一瞬で2ヶ月とか過ぎて恐ろしい(笑)。だからこそ、アニメを観たとかそのエンディングとかが濃く刻まれていたんだな、と思います。私、土曜日の夕方から夜が死ぬほど好きで。
――ゴールデンタイムでしたよね。『セーラームーン』がまさにそうでしたし、『幽☆遊☆白書』とか『少年アシベ』とか。
中川 みんなそうですよね、子ども達も大人も大好きな時間に流れるアニメのエンディング……。
『アニソンアカデミー』ってラジオでいつも、懐かしいアニメのEDテーマをプッシュしているんですけど、心のふるさと的な、落ち着くし優しいし安心するしキラキラしてるし、って曲ばかりですよね。アニメのエンディングあるあるですけど、聴くと「今日も土曜日が終わった」っていうのを感じますよね。「明日は日曜日だな」とか「学校は来週からか」とか。土曜日になると授業中にEDテーマ曲が頭の中を回る思い出もあるし。大人になって思い出すと、「ああ、懐かしいな」って気持ちになりますけど、そういう思い出に寄り添える感じになれたらいいな、って思いがありました。また、『ハクション大魔王2020』がいい時間(土曜の夕方5時半~)ですからね。親子で聴いていただきたいなって思います。子ども達には歌詞が思い出になってくれるに違いないって信じていますし、大人は大人で歌詞が刺さるので。
――この状況下にある大人達に向けての応援歌でもあるんですね。
中川 私も4、5月の仕事が全部なくなって、ものすごく落ち込んじゃってて。そんなとき、YouTubeでゲーム実況をしてたら、私は好きなことにぶつかっているだけなのに、最終日には2万人以上来てくれて。ロックダウン中の海外から観てくれた人もいたんですよね。
あらためて、離れていても繋がる感じを味わえたというか、すごく素敵な時代に生きているんだなっていうのを感じました。誹謗中傷といった問題も言われるけど、インターネットのおかげで私は息が吸えていると思えましたね。ブログを始めた頃を思い出しました、原点回帰だなって。あと、エンディングで踊りたかったんですよね、私。
――最近の女児向けアニメの定番でもありますし。
中川 踊るアニメのエンディングは大好きです。(アニメのエンディングで)アクビちゃんも踊ってくれているんですよね。深海を旅してくれたりとか、可愛いエンディングになっています。あと、出てくる深海生物が、メンダコとかグソクムシとかスカシカシパンとか、好きなものばっかりなので興奮しました。子どもたちもきっと大好きなはず。
小さい頃に見つけた「好き」は裏切らない
――今お話に出ましたが、今回の振付はねおさんが担当しました。
中川 はい。
今をときめくねおちゃん、ということでドキドキしたんですけど、いっぱい褒めてくれる子だったんですよ。振付動画を撮るということはフルサイズを間違えずに踊らなきゃいけなくて、(仲のいい)ヒャダインさんとかには「あんた、それは無理な所業だよ」って言われたんですけど、ねおちゃんには「可愛く踊れてますよ」「素敵ですよ」って。だから私も10倍褒め返しをして、という優しい世界で撮影が行われました。“ハートで祈ってる”(で手をハートの形にする)のところとかアクビちゃんらしいし。でも、振付でも「こっち行くんだ」みたいな、昭和生まれと平成生まれの違いを感じましたね。世代が違う方とコラボすると発見がすごくあるんですよ。でも、昨年「風といっしょに」をコラボさせていただいたときの小林幸子さんがそうだったんですけど、新しいものを楽しむというのがすごく素敵なことなので。それを意識しながらの撮影でしたね。
――では、最初のプレッシャーよりは撮影を楽しめたんですね。
中川 でも、8割くらいノーミスで来てたのに最後のDメロで間違えて、崩れ落ちるとかしてました(笑)。
――MVでもその振付が楽しめますね。
中川 本当はリリイベでいろんなところに会いに行って、子ども達と一緒に踊りたかったんですよね。「何を”応援”したいですか?」みたいな質問コーナーとか、直接触れ合えるリリイベが出来ないのが本当に寂しいです。去年は手にラメをつけて握手したら、子ども達がキャーって喜んでくれて、お手紙をくれて、合唱してくれて。でも、変わっていく状況の中で、みんなが一所懸命自分を保って生きていこうとしているときだから、受け取るものもきっと特別なものになるんじゃないかなとは思っています。それに、子ども達がTikTokで踊ってくれた動画をMVにも使わせてもらって。オンラインの力で叶ったんですよ。距離なんて関係ない、心はいつも隣にいるっていうのは本当だと思います。アクビちゃんの衣装を着て踊ってくれた人も公園で踊ってくれた人もいました。
――通常盤のCDジャケットには、『ハクション大魔王2020』バージョンのしょこたんイラストも描かれています。
中川 完全にあの世界のタッチになっていて、笑っちゃいました。耳が立ってるところとか、鼻の低い感じとか。家族にも見せたら爆笑してましたね、「君やん」って(笑)。ホント、(登場人物の)カンちゃんが生きている世界に私がいる感じがしました。(完全生産限定盤ジャケットの)アクビちゃんも可愛くて、こんな子が踊っていたらサイリウムでめちゃめちゃ応援したいですよね。実は、『ハクション大魔王2020』の作画チームに入っている野口征恒さんという方が近いお知り合いで、めちゃめちゃ応援してくださってるんですよ。Twitterでもオリジナルのしょこたんイラストを描き下ろしてくださって。ちょっと感動しています。
――実は先祖だったとか、母の知り合いだったとか、中川さんはそういうことが多いですよね。
中川 ね。長くしぶとく生き残っていると、いろんなご縁が繋がっているのを発見できて、それも嬉しいですね。
――また、完全生産限定盤には、中川さんの描き下ろし“アクビちゃん”Tシャツが封入されます。
中川 目と、それからバランスが大事なんですよね。2等身なので(笑)。首とか腕がめっちゃ細いから、バランスを間違えるとアクビちゃんじゃなくなっちゃうので、とにかく可愛さと愛でなんとかしようと思いました。
――レコード会社のスタッフさんも、上手過ぎてパッと見、しょこたんのイラストとわからないほどと言っていました。ずっと続けてきた特技が変わらず仕事に活かされていますね。
中川 シンプルに、絵を描くのって精神統一にもなるし、好きなんですよね。あと、ゲッターズ飯田さんに、絵を描くと運気が上がる、って言ってもらったことがあって。大人になっても映画雑誌(『映画秘宝』)の連載が毎月あったりとかで、ずっと描くのを辞めなかったんですけど、ここに来てYouTube でお絵描き動画を上げたら再生数が200万回超えるとか、こういうTシャツのデザインをするとか、絵を描くことが好きで良かったと思うことがいっぱいあります。途中、アナログだったのをデジタルに自力で切り替えたりもしたんですけど、それも自分は好きでやってるだけのことで。だからこそ嬉しいですね。あと、その自然体が大事な感じはします。歌もそうで、小さい頃に見つけた好きなことって裏切らないですね。ずっと助けてくれる気がします。
――お絵描き動画は皆さん驚いていましたね、その速さに。
中川 自分ではわかんないですけどね、全部自己流なので。私、下書きを描くのが嫌なんですよ。残りの寿命は気にしちゃうから、時間がもったいない気がして。だから、「なんで描かないの?」と言われることもあるんですけど、自分的には「え?だって早く描いちゃった方が良くない?」って感じです。
しぶとくあきらめない人生を
――カップリングには「フライングヒューマノイド 2020 Ver.」が収録されます。歌詞の“十年先の未来が見える魔法があったらな…”が収録のきっかけだったかとは思うのですが?
中川 最初は、元気な曲を入れようかなって思ってたんですけど、「「フライングヒューマノイド」の10年先って今年じゃね?」ってスタッフさんみんなと気づいて。「それってすなわちエモくない?」って感じで決まりました。10年先の未来を歌った10年先でこうして歌い続けられているというのは相当な奇跡だと思いますし、「しぶとい」を体現してるのでは、って思うんですよね。10年ってあっという間ですけど、ものすごくいろんなピンチを乗り越えてきてもいて。だって10年前ってまだ(東日本大)震災も起きてなかったですし、私も25歳ということで結構イケイケでした。
――初主演映画をこなしたり、「中川翔子物語~空色デイズ~」という漫画連載が始まったり。
中川 そうなんですよ。あと、幕張メッセでライブ(『中川翔子 超貪欲☆まつり IN 幕張メッセ』)をやったりとか。
――前年の武道館ライブの勢いそのままに。
中川 「人生楽しいねー」ってときでもあったから、先のことは考えないようにしてたところがありますね、歌い始めたときからそうですけど、ライブするたびに「これで終わりかもしれない」って思っていたので、先のことを考えるのが怖くて。でも、考えてなかった未来の先でたくさんの夢が叶っていて、もちろん大変なこともあるんですけど、楽しいし嬉しいし、夢の続きの中を走れているのが本当にありがたいです。次の「十年先の未来」には何かレジェンドみが出てたらいいですよね。自分で言うことじゃないですけど(笑)。でも、子どもの頃から聴いてましたっていう声が最近すでにありますし、そんなかっこいい女の人になってきたなら、「十年先」も楽しみにできますね。
――どんな未来が待ってるかは本当に分からないとは思います。
中川 そうですね。昔は本当に「一日ずつ死に近づいている」って思ってて、「一日一日死に近づきたくない」って感じだったんですけど、今は、長生きすることによって絶対新しい夢がまた見つかるに違いない、と思えるようになったので。でもそうだなー、10年前かー。まだガラケーで絵文字を使ってたような……。YouTubeとかもまだ浸透してなかったですよね。でも根本的に、絵を描いたりとか美味しいものを食べたりとか猫といたりとか、好きなものをしてるのは変わらないんですけども、忙しいことが超楽しくなりましたね。10年前は忙しいとすぐ体調悪くするし、「ああ眠い」ってなってました。今の方が「生きるの楽しい!」になりましたね。それにヲタクって絶対、長く生きた方が得なことが多いじゃないですか?好きなアニメやゲームの続編が急に出るとか。新しい夢やいいことがいっぱい見つかるから生きていられる、ってところはありますよね。あと、思い出たちが味方してくれるっていうのもあります。この間、ファンクラブの皆さんとオンラインミーティングをやったんですけど、10年前の幕張メッセライブの話になって。あのときは学園祭みたいなことをやっていて、縁日や屋台が出たり、コスプレコンテストがあったり、すんごいエネルギーですんごい楽しかったんですよ。いっぱい失敗もしてるけど、それも意味があるんだよな、みたいな思いに至りました。「まるでRPGだな」って思うことが最近は多いですね。
――では中川さんの、今から「十年先」の目標や夢は?
中川 年齢をレベルで表現するとしたら、(LV45なら)ラスボスに挑むことも可能ですよね。私は慎重派だからもっとレベル上げてから挑みたい派ですけど。そういう仕上がってきた年齢だからこその楽しさがあるとは思いますね。でも、10年前だったら「楽しみ」とか絶対に言えてないよな。「楽しみ」なんて言える自分にビックリです(笑)。でも、そうやってレジェンドになっていけるよう頑張りたいです。また世界が平和になって、また海外でも歌えるようになってたらいいですし……。うん、だから声が変わらないようにします。堀江美都子さんがラジオ(『アニソンアカデミー』)に来てくださったとき、すごく印象的だったんですけど、「アクビ娘の歌」を歌ったら当時(12歳の声)とまったく同じ声なんです。「えーっ!?」ってなったんですけど、身体的に年々低くなっていく声を声帯から出たら口の中で手術して出しているらしいんですよね。「どういうこと?」って思うんですけど、でもそれって、「リアルタイムで聴いていた感動にひたるファンに心を寄せてくださってるんだな」「そこに向けて鍛錬してくださってるんだな」って思ったらすごく感動しちゃって。歌い方が進化するのも素敵だけど、私もなるべくアンチエイジングしよう! と。ラプンツェル(の役と主題歌)をやっていても思うんです。健康に長生きして、悪いことをしないように、そしてなるべく声が変わらないようにがんばりたいな、って。
――イラストもさらに幅が広がりそうですしね。
中川 ゾーンに入るとガーッて筆がのっちゃうんですよね。去年、アルバム(『RGB ~True Color~』)で「ちび太の聖火ランナー ~2020 ver.~」って絵本を作ったとき、一気に80枚くらいのイラストを描きました。あれの延長で、描きためて書籍か何かの作品を発信する人になりたいな、とか。あとは、油絵の個展をやりつつ、ジャズとかシャンソンのライブもやりたいな、とか。さらにその「十年先」だったら、孫とポケモンバトルしてたいな、とか。あははは、それはずっと思ってますね(笑)。でも、『ハクション大魔王2020』が決まったときもアルバムリリースが決まったときも、レコード会社のスタッフさんに「意外としぶといな、中川翔子」って言われたんですよね。新陳代謝が激しい中、しれっといさせてもらっています(笑)。でも、チャンスをいただけているからにはきっと何か意味があるに違いない、と思うから、今できることの中で精一杯あがいて、息をし続けていたいですね。世界が大変なときですけど、子ども達が喜んでくれたなら、それは「本当に尊いな」って思います。でも、オンラインライブにも挑戦したし、いろいろと「あきらめたくないな」って気持ちではいます。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
●リリース情報
中川翔子ニューシングル
「フレフレ」
9月9日発売
【完全生産限定盤(CD+DVD+グッズ)】
品番:SRCL-11540~42
価格:¥4,980(税込)
【通常盤(CD only)】
品番:SRCL-11543
価格:¥1,300(税込)
<CD>
1.フレフレ
2.フライングヒューマノイド 2020 Ver.
3.フレフレ -Anime edit-
4.フレフレ -Instrumental-
5.フライングヒューマノイド 2020 Ver. -Instrumental-
<DVD>
1.「フレフレ」Music Video
2.TVアニメ「ハクション大魔王2020」エンディング映像(ノンクレジットver.)
<グッズ>
中川翔子とBEAMSが共同プロデュースする「mmts(マミタス)」 中川翔子描き下ろし“アクビちゃん”イラストTシャツ(全3種のうちランダム1種封入)
●作品情報
読売テレビ・日本テレビ系
TVアニメ『ハクション大魔王2020』
毎週土曜日夕方5時30分~放送中
(C)タツノコプロ・読売テレビ
関連リンク
中川翔子オフィシャルサイト
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