『新世紀エヴァンゲリオン』のサウンドトラック5商品を収録した『NEON GENESIS EVANGELION SOUNDTRACK 25th ANNIVERSARY BOX』と、『新世紀エヴァンゲリオン』、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』のヴォーカル楽曲セレクションCD『EVANGELION FINALLY』がリリースされた。新録曲を収録した高橋洋子に、7月に出演した“リスアニ!LIVE L.A.”での様子とともに聞いた。



2020年に収録したライブ向きの音作りとオンラインライブの可能性
――まずは、2020年9月6日にテレビ朝日系列にて放送された「国民13万人がガチ投票! アニメソング総選挙」では、「残酷な天使のテーゼ」が第1位に選ばれました。こちらをどのように受け止めましたか?

高橋洋子 1位に選んでいただけたことは素直に嬉しいと思っているのですが、アニソンは、アニメーションがあって、歌があって、歌手がいて、ということなので、私個人がというようりも参加されたスタッフ全員の代表としていただけたという思いでいます。

――ありがとうございます。1995年当時、「残酷な天使のテーゼ」よりも「FLY ME TO THE MOON」のほうが先に収録をされていたとのことですが、どんな様子だったかを教えてください。

高橋 『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、『エヴァ』)のエンディングは声優さんをはじめ様々な歌い手が「FLY ME TO THE MOON」を歌うという企画だったんです。私はその中の一人でした。当時、そうした企画はあまりなかったと思うし、ジャズのスタンダードナンバーをアニメの主題歌に使うということも珍しかったので、何か変わったことをする作品になりそうだなという印象でした。曲についても、演奏されているクリヤ・マコトさんという世界で活躍されているピアニストの方がちょうど日本に戻って来られていたタイミングで、編曲の大森俊之さんが彼にお願いをされて弾いていただいたのですが、オーケストレーションが完全にジャズの世界だったんです。そこで私もその雰囲気に沿うようにという意識で歌わせていただきました。

――そして今回発売されるサウンドトラック集『NEON GENESIS EVANGELION SOUNDTRACK 25th ANNIVERSARY BOX』には様々なバージョンの「FLY ME TO THE MOON」が収録されていますが、当時印象的だったものは?

高橋 どれもこれもなんですよ。私も当時は皆さんと同じくリアルタイムでアニメを観たときに誰が歌っているのかを知るという状況で、そのときどきのストーリーと一緒に記憶に残っていますので、皆さんにはこの機会にぜひとも、もう一度観直していただきたいですね。

――今回新録となった「FLY ME TO THE MOON 2020」はどのような経緯で?

高橋 この「FLY ME TO THE MOON 2020」のトラックは、元々CLAIREさんが歌われていたものなんです。
私はコンサートでそのカラオケをお借りして、間奏にフェイクを入れたりジャズらしい振り付けをしたりして自分独自の表現をしていました。そうした経緯があり、スタッフの方からこの機会に一度きちんと音源に残してはどうかという意見をいただきまして、改めてレコーディングをするに至りました。

――そうしたライブでのグルーヴ感がジャズのボーカル曲には大事になってくると思いますが、スタジオでの収録に際してはどのようにアプローチをされましたか?

高橋 やはりそのようにライブで育ててきた楽曲なので、今回はそうした光景を思い出しながら再現するように歌いました。コンサートでの観客席の様子や歓声が思い出されると、スタジオの中なのに間奏でちょっと踊っちゃったりして(笑)。新たなレコーディングの場合、通常ですとなかなか歌い慣れないなかで収録を繰り返したり直したりすることが出てくるのですが、この曲の場合は収録自体数回だけで、今までの作品の中で最もライブを再現できたと思います。

――7月には全世界配信となった“リスアニ!LIVE L.A.”にご出演いただきました。目の前に観客がいないなかで歌う場合も、そのように光景を想像して歌われる形でしょうか?

高橋 そうですね。コロナ禍の影響でずっとライブをすることができず、久々にみんなに向けて歌えるというワクワクした気持ちで臨みました。その際にリスアニ!さんが十分な時間を確保してくれたことも気持ちの面で大きかったです。TVで歌う場合は1曲なら「残酷な天使のテーゼ」で決まり。3曲なら「FLY ME TO THE MOON」と「魂のルフラン」までですが、今回は「赤き月」や、初披露の「心よ原始に戻れ 2020」まで歌わせてもらうことができました。ライブって、やっぱりいろんな曲で構成することで成立する部分があると思うんです。
配信するスタジオの音響環境も素晴らしく、国境を超えて様々な方にご覧いただけたので、オンラインライブに対してとてもポジティブな印象を持つことができました。

――「心よ原始に戻れ」ですが、まずこの曲の最初のバージョンは高橋さんの中ではどのような位置付けでしょうか?

高橋 『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』にあたっては、「魂のルフラン」か「心よ原始に戻れ」か、どちらが主題歌になるかはレコーディングの時点では決まってなくて、私の中ではどちらもテーマソングであるという位置付けでいました。そういったなかで「魂のルフラン」に決まったと知らされたのですが、どこで流れるかは教えてもらっていなかったんです。私も当時、皆さんと同じく映画館で作品を観て、「ここで流れるの!?」と驚きました(笑)。



――そして今回の『EVANGELION FINALLY』に収録される「心よ原始に戻れ2020」ですが、原曲とリズムや音像が様変わりしています。

高橋 最初にプロデューサーのほうから「2020年らしいバージョンを」と提案していただき、編曲の大森俊之さんとともに作り上げていきました。今のお客さんに楽しんでいただけるのはどんなテンポ感でどういう音で、どういうアレンジが良いかを何度もやりとりして詰めていきました。その意味で、音源だけではなくライブで聴いていただくことも念頭に置いた音作りで、リズムを取りたくなるようなサウンドになっていると思います。アニソンが好きな方は、基本的に原曲を大事にされるので、リアレンジをすることにはとても勇気がいるんです。ただ、同じクリエイター陣で作るうえで、当時と同じことをするわけにはいかないという思いもありました。この曲がどこかで流れていたのを聴いたときに、違和感なく体が動き出すようなサウンドでありたいという思いは、制作陣の皆が持っていたことで、結果、この形に辿り着きました。

――特にこだわられたポイントは?

高橋 イントロはどうしてもサックスが良かったんです。
大森さんにも「なんで!?」と言われたのですが、インスピレーションです(笑)。そうしたら、松下 洋さんという世界チャンピオンのプレイヤーを連れてきてくれて。スタジオに現れた松下さんは4種類のサックスを持ってきてくださって、そのうちの1本は銀でできていて、出で立ちはまるでマーベル映画のヒーローのようでした(笑)。音は私が大森さんにイメージをお伝えして仮のものをお渡ししていたのですが、「じゃあ、ちょっとやってみますか」と、吹いた瞬間に凄さが伝わってきました。松下さんは本当に完成度が高いものを作られる方で、私たちが「十分良いテイクが録れました」と伝えても「あとちょっと」と、何度も何度も粘り強く取り組んでくれて、本当に耳福の時間でした。音楽へ純粋に取り組む姿にも本当に頭が下がる思いでした。

――ボーカル入れはいかがでしたか?

高橋 「心よ原始に戻れ」の原曲は、サビが掛け合いみたいになっている作りに聞こえると思うんですけども、あれは当初、コーラスパートもメロディのパートも1人の人が歌うメロディとして届いたものでした。でも、息継ぎができないものだったので、大森さんがコーラスとボーカルに分けてくれたんです。それを原曲にしているのですが、今回どちらのパートも私が歌っています。掛け合いの部分はリズムも前より少しテンポを下げて落ちつきある感じで聞けるようにしていますね。その意味で、ゆったりと、コーラスも入れることができているので、よりグルーヴ感が出て、ノリやすいリズムになっています。

――そのアレンジバージョンを“リスアニ!LIVE L.A.”で初披露されたときはいかがでしたか?

高橋 とても緊張しました。
毎日練習を繰り返し、あまりにも「心よ原始に戻れ2020」のことで頭がいっぱいだったため、あとの曲でちょっと歌詞を間違えちゃいました(笑)。原曲はガイドになる音が詰まっているのに比べ、こちらは音数が少ないんです。そのぶん、音程を取るのが難しかったですね。今回踊りながら歌うことで初めて気づきました。それも含めてコンサートで皆さんと歌ったりレスポンスをしながら聴いてもらう作りにしていますので、ぜひ今後もライブでお聴かせしたいと思っています。

――世界の今後の状況次第で。

高橋 そうですね。様々な医療従事者の方や学者の方がご苦労をされたり、一般の方も様々な努力をされているので、期待したいと思っています。

――昨年のインタビューでは『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開に向けて宣伝隊長のように働きたいとおっしゃっていました。その後、コロナ禍により現時点では公開が未定となっています。今、お話できることはございますか?

高橋 こういった状況になりましたが、配信やTVでの再放送によってまた新たな『エヴァ』ファンが生まれています。制作スタッフの方々はラストに向けてという想いで作られていますが、私たち音楽陣はその意味で、「ここから」という意識でいます。
来年に向けてコンサートやライブの活動ができるよう、オンラインを含めて模索していますので、皆様におかれましては、『NEON GENESIS EVANGELION SOUNDTRACK 25th ANNIVERSARY BOX』で名シーンを思い出しつつ、『EVANGELION FINALLY』は歌に特化したアルバムですので、こちらも楽しんでいただけるよう、これらを広く勧める活動をしていきたいと思っています。



――最後に公開を楽しみにしている皆さんに、メッセージをいただけますでしょうか?

高橋 ちょっとプライベートな話になるんですけども、3年前に『シン・ゴジラ対エヴァンゲリオン交響楽』という鷺巣詩郎先生が総監督を務められたコンサートがあり、そこで『シン・ゴジラ』のクラシックパートを歌わせていただきました。私は元々はクラシックをやってきた人間で、ポップスにいくためにクラシックを完全に封印してきたんです。それが、その際にクラシックを歌うことになり、まるで海に投げ捨てた鍵を探しに行くかのような作業をして、組み直したんです。そして今年の前半、今度は音楽家として生きていくうえで、今までのものを一旦ここまでのものとして、改めてここから見直すという作業をこの数ヵ月行なってきました。そして、これから『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を迎えようとしています。同じように、皆さんもこういった、かつて経験したことがない日々を通り抜けながら最後の作品を迎えようとしていることと思います。最高の作品になると信じていますので、皆さんもそれまでに様々な形で『エヴァ』を観直したり聴き直したりしてご準備をいただいて、それぞれの『エヴァ』との日々を思い出しながら作品を楽しみにしていただきたいと思います。今日まで、そしてこれからも応援いただけることに、私も応援隊長として皆さんに御礼を申し上げます。公開を楽しみにしていてください!

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

●リリース情報
『EVANGELION FINALLY』
10月7日発売

【ムビチケカード付き数量限定・期間限定盤】

品番: KICA-92583
価格:¥4,900+税
仕様:CD1枚/高橋洋子・林原めぐみスペシャルインタビュー入り24Pブックレット

▲ムビチケカード

【期間限定盤】

品番: KICA-2583
価格:¥3,000+税
仕様:CD1枚/高橋洋子・林原めぐみスペシャルインタビュー入り24Pブックレット
※チケット付き商品と同収録内容となります

『NEON GENESIS EVANGELION SOUNDTRACK 25th ANNIVERSARY BOX』

10月7日発売

品番:KICA-2576~80
定価:¥9,800+税
仕様:CD5枚組/ジャケットイラストは摩砂雪氏による新規描き下ろし、過去商品のブックレットを総ざらいしたリバイバル・スペシャル冊子を付属。


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