声優アーティストの大橋彩香が、約2年半ぶりとなる3rdアルバム『WINGS』を、12月16日にリリース。昨年9月開催のワンマンライブで制作を発表していたファン待望の作品は、水野良樹氏(いきものがかり)の手掛けたリード曲「START DASH」といったこれまでの大橋につながるエールソングも収めながら、様々なクリエイターとのタッグによるバラエティ豊かな楽曲を通して、あらたな表情をみせてくれるアルバムに仕上がっている。
【動画】大橋彩香 – START DASH [Official MV]
プレッシャーを跳ね除け、さまざまな念願叶った3rdアルバムが完成!
――大橋さんにとって2020年はどんな年でしたか?
大橋彩香 あんまり人に会えない年で、すごく寂しかったです(笑)。いろんな意味で我慢の年でもありました。でも、コロナがあったからこそ新しいやり方みたいなものを日本全体で模索した年だったとも思うんですよ。ライブができないぶん、どうしたらいいのか?みたいなことは、すごく考えた年だったような気がします。
――直接的に新型コロナを歌った曲はないとは思うんですが、作家さんへの曲の発注などには心情的な影響もあったのでしょうか?
大橋 GRANRODEOのe-ZUKAさんが作ってくださった「MASK」は、「最近マスクをしている人が多いね」みたいな話から始まった曲なんですよ。マスクをしていると表情もよくわからないから、それをモチーフにした曲があっても面白いかも、という話になって。でもコロナだけを感じさせるようなものではなくて、時間が経ったら「あんなことあったな」ぐらいに感じられる曲だとは思います。
――アルバム全体のテーマやタイトルは、かなり前から決まっていたのでしょうか?
大橋 最初の打ち合わせ自体は去年(2019年)の11月頃で、そこでタイトルのアイデアを出し合いました。やっぱり『起動 ~Start Up!~』『PROGRESS』と来たので、もうちょっと上に行けるように“羽ばたいていく”という意味を込めた『WINGS』になったんです。
――3作のタイトルで、ホップ・ステップ・ジャンプのような。
大橋 はい。
――1回羽ばたいていったら、行き先は自由ですもんね。
大橋 そうですね。きっと着地もするでしょうし。
――新曲には直接“翼”など、鳥の要素をモチーフにした言葉が組み込まれた曲も多いですね。
大橋 そうなんです。最初にタイトルが決まったのでその要素を入れていただいたんですけど、今までのアルバムでは明確に言葉で一貫したテーマを盛り込むことがなかったので、初めての試みなんです。
――コンセプトアルバムではないけど、いつもよりもコンセプトが少し強め。
大橋 強めですね。ジャケットも羽が生えてますし、「羽ばたきます!私!」みたいな強い意志が(笑)、前面に出たアルバムになっています。
――そういう強い意志を入れたいという想いも、制作の序盤からあったもの?
大橋 ありました。
――いいものだったからこそ、より高いハードルに。
大橋 そうなんです。なので「START DASH」というリード曲には、5周年を経てもう1回新しい5年間のスタートを切る、みたいな意味も込めてもらいました。
――作家陣や楽曲の方向性についてのリクエストも、最初から明確に出されたもの?
大橋 そうですね。水野さんに関しては、3年ほど前からずっとオファーを出していたんですけど、エールソングを歌うことが多いので大橋彩香といえば“元気で明るくて笑顔”というイメージを持たれている方も多いと思うんですよ。そういう意味で水野さんはやっぱりすごくピッタリだなってチームでずっと話していましたし、新しくスタートラインを切るタイミングで国民的なアーティストさんに楽曲提供していただけたらというのもありました。
――他の作家さんも、指名された方はいますか?
大橋 GRANRODEOのe-ZUKAさんも前からずっと、いつお願いしてみようかとチームで相談していましたし、ボカロ曲を手掛けられている方から楽曲提供をいただきたいなと思っていたので、昔から活躍されているDECO*27さんも挙げさせていただきました。
――ボカロは昔からお好きだったんですか?
大橋 中学の頃からずっと好きでした。家に帰ったらずっとニコニコ動画ばっかり見てたぐらいで、家にはボカロのアルバムがいっぱいあって、コミケでもボカロのCDを買ってたんですよ。
――同人音楽の日がありますからね。
大橋 そうなんです!あと、知らない方も多いと思うんですけど、デビュー当時“大橋彩香のボカロ祭り”っていう、私がボカロのカバーをするイベントをやらせていただいたことがあって。それぐらいボカロの歌をうたいたいなとずっと思っていたのですごく嬉しかったです。
自分自身が聴いても元気をもらえる、そんなエールソング「START DASH」
――では、アルバムの収録曲についてそれぞれお聞きしていきたいと思います。まずリード曲「START DASH」は、水野さんへどんなリクエストを出されたのでしょうか?
大橋 最初はいきものがかりさんの「じょいふる」みたいな、ノリノリで盛り上がれて楽しい曲もいいなとも思ったんですけど、今回のアルバムが“新しくスタートを切る”というものに決まったので、壮大な感じもするエールソングをお願いすることになりました。
――最初に曲を聴いたとき、どう感じられましたか?
大橋 もう、鳥肌立ちましたね。今回のリード曲としてもすごくしっくりきましたし、逆に自分にちゃんと歌いこなせるかという挑戦状をもらったような気持ちにもなって。でも、ちゃんと歌えたら絶対にすごくファンの皆さんに喜んでもらえるはずだ、とも思いました。
――ものすごくキャッチーでもあるし、しかもちょっとぐっときますし。
大橋 そうですね。皆さんの背中を押せる明るい曲なんですけど、メロディ的には泣きメロの部分もあって。それに歌詞も、すごく私のことを理解して書いてくださっているのが伝わってきたんですよ。
――曲の魅力のみならず、大橋さんの歌声からも非常にエネルギーをもらえる曲になっています。
大橋 エールソングだから明るく歌ったほうがいいなとは思っていたんですけど、曲のタイトルにも合うように「ちゃんとスタートを切るぞ!」という力強さも入れたくて。なので明るくも芯のある、どっしりしていて力強い感じで、でもちょっと切なさみたいなのも入れられるように歌っていきました。ただ、Bメロのメロディがすっごく難しくて(笑)、そこはちょっと苦戦したんですけど。
――高いところから入って、下りてきますからね。
大橋 そうなんです。その下り方が難しくて。でもエールソングなので、自分がガス欠したら聴いてる人も「しゅーん……」ってなっちゃうかもしれないじゃないですか?だから聴く人に「あ、だめかも」と感じさせないように、心折れずに最後まで120%で駆け抜ける、というのも心がけました。
――新しいことを始めると壁にぶつかることはつきものだと思うので、泣きメロの部分がエールにより説得力を与えている気がします。
大橋 たしかに。何かをすごく頑張っている人には、老若男女を問わず刺さる曲だと思います。
――大橋さんご自身は、刺さったところはありますか?
大橋 2番のAメロですね。いちばん好きなところなんですけど、私、完璧主義なのでミスすると「ミスしないようにしなきゃ」ってまわりが見えなくなっちゃいがちなんです。でも、それをちゃんと受け入れられるとまわりも見られて、他の人を愛せる余裕もできる……みたいなことが書かれていて。なんだか自分へのお薬みたいな歌詞だなって思いました。
――リリース直後はもちろん、新しい年の始まりにも聴いてほしいですね。
大橋 たしかに。MVは朝焼けのなかで撮ったので、初日の出のときに聴いてもらったり(笑)。
――いい聴き方ですね!
大橋 「2021年頑張るぞ!」とか、「いいスタート切るぞ」みたいな……いいですね。私も聴こう(笑)。
――そのMVは、他の役者さんのドラマパートと組み合わさったものになっています。
大橋 あれぐらいガッツリ他の役者さんに出てもらったのは初めてでした。私が撮ったシーンはその朝焼けのシーンだけで、頑張っている皆さんを見守るようにエールを送っているポジションなんです。
――女神みたいな。
大橋 そうですね。「いつでも見守っております」みたいな。でも水の中で駆け回るみたいな私らしい部分もちょっと残して、いつもどおりの私としっかりとエールを送る力強い私というふたつの面を出せたらいいな、と思いながら撮影していきました。
――あの朝焼けの、光の塩梅もいいですね。
大橋 いや、きれいでしたねー。現場で見た朝焼けもきれいだったんですけど、さすがに眩しくて(笑)。映像になるとすごく幻想的で、よりきれいに見えました。
――2サビ前の、逆光の中祈っているようなカットがドラマパートの間に挟まれると、非常に強く印象に残ります。
大橋 いい作用になっていたらよかったです!今回はMVがフルサイズでUPされているので、ぜひ観て元気になっていただきたいですね。
絶対に3曲並べたかった、中盤のロックゾーン
――では、その他の新曲についても順にお伺いします。まずDECO*27さんが手掛けた「HOWL」は、まさに“らしさ”全開のサウンドで。
大橋 DECOさんには「自由に、DECOさん節で書いて欲しいです」とか、「『人間が歌うから、ここはちょっと優しくしよう』みたいにはしなくて大丈夫です」というお願いをしたんです。そうしたら……やっぱりめちゃくちゃ難しい曲で(笑)。でも「やったる!」みたいな気持ちになりました。
――曲に込めたい想いなどについては、リクエストされました?
大橋 最近自分が抱えている悩みだったりとかをお話しさせていただいたんですけど、『WINGS』というタイトルなのでただ負の感情だけではなく、最後にはちゃんと「自分は変わっていくよ」みたいな意志を出せるような曲をお願いしました。
――葛藤と、その先に向かっていくエネルギーを。
大橋 そうですね。ちょっと早口な部分からダウナーな部分まであって、サビではエネルギーをわっっと出せるようにもなっている、自分の声の表現をいろいろと盛り込める最初から最後までクライマックスみたいな感じの曲なんですよ。だから3分少しという短い曲なんですけど、とても盛りだくさんな曲だなと思いました。
――メロラップになっている2番のAメロは、サビとのコントラストがすごく際立っていますね。
大橋 私、昔はそういう部分がすごく苦手だったんですよ。「Break My Jail」とかにもあるんですけど、羞恥心に負けそうでうまく歌えていない気がしてて(笑)。
――技術などではなく、マインドのほうで。
大橋 はい。でも今は「……ラップ?やります!」みたいな気持ちになってきたので、今回「よっしゃ!」って思いましたし、音源を自分で聴いても成長を感じました。
――ちなみにこの曲も、リード曲に続いてMVを制作されたんですよね。
大橋 そうなんです。DECOさんの楽曲って、アニメーションとか演出がすごくてMVもとても印象的じゃないですか?楽曲とあわせて見ると本当にその曲の世界感に入り込めるなとずっと思っていたし、特にDECOさんはボカロ曲でMVをすごくしっかり作る先駆けの中のおひとりだと思うので、お願いすることになりました。今お話している時点では登場するキャラ絵ぐらいまでしか見ていないので、私自身もすごく楽しみにしているところです。
――続く「Winding Road」も、タイトルどおりこれまでの道のりを反映した曲になりました。
大橋 そうですね。やっぱり、ここまでストレートに来たわけじゃないので。180°ぐらいアーティスト観も変わりましたし、ファンの皆さんに助けられたことも悩んだこともたくさんあったし……だから、タイトルを見たときには今までの思い出がすごくフラッシュバックしました。あと、この曲はダンス曲として作っていただいたんですけど、今まで多かったEDMではなくてちょっとロックな曲でお願いしまして。旗を掲げてスタートを切るような、違ったアプローチでのスタートダッシュ感がある曲になりました。
――今回そうしたのは、なぜですか?
大橋 ちょうどロック系のダンス曲にめちゃめちゃハマっていた時期だったんですよ。普段のシングルがアニメ主題歌になっていることが多いぶん、アルバムの新録曲ではとても自由に希望をお伝えさせていただいていまして(笑)。そのときにハマっている音楽ジャンルがすごく顕著に現れるんです。だから前のアルバムを聴くと、「当時はこういうの好きだったな」って思うんですよね。
――歌詞は大橋さんのこれまでを踏まえられたものだと思うんですが、作詞された岡嶋かな多さんはご一緒される機会も多いのもあって、大橋さんのことをすごくよく見られているなと感じました。
大橋 そうですね。私のことをわかってくださっているので気持ち的にも歌いやすいですし、踊りやすいようにサビの歌詞が少なく作ってあるんですよ。この曲は最初からはだいぶキーが上がったんですけど、踊りながらしっかり歌えるようにしていきたいなと思います。
――一方、続く「MASK」はややキーが低めで。
大橋 そうですね。大橋彩香の曲って高いキーを頑張って歌っている曲が結構多いんですけど、「MASK」はずっとダウナーな感じなんですよ。なので、母にキーチェック音源を聴いてもらったら「えっ、低いね」と言われて(笑)。自分でも、すごく新しい歌い方に挑戦できたように思っています。
――それでもスピード感もあるしメロも強くて、ロックしていますよね。
大橋 私、この曲のインスト版欲しいです(笑)。だって、GRANRODEOさんのチームにやっていただいた演奏がかっこよすぎて!サウンドも結構ゴリゴリしているんですよ。でも「ちょっと明るい感じがいいです」とお願いしていたサビは、しっかり開けていく感じになっています。
――この曲も岡嶋さん作詞ということもあって、ここ3曲からは特に今の大橋さんを感じました。先ほどアーティストとしても180度変わったというお話もありましたが、このアルバムの新曲のような曲がこれまでシングルのカップリングになっていたと知ったうえで「MASK」を聴くと、よりそう感じられてきて。
大橋 ほんとですか?でもたしかに、今だから歌える歌詞になっている気はしますね。いきなり「仮面の下には何が隠れてるかって?」って言い始めますから(笑)。
――「誰も知らない間に生まれ変わるから」とも歌っていますから。
大橋 そうなんです。皆さんも働いてるときや友達と会ってるとき、家にいるとき……っていろんな自分があると思うんですけど、「知り用も無いし知りたくもないの」って、なんかすごいファン側の気持ちですよね(笑)。
――なので、いろいろな挑戦が詰まったアルバムの中盤にこの3曲が並んだのは、すごくいいなと感じたんです。
大橋 自分で考えたものをベースに相談して曲順を決めたんですけど、絶対この3曲は並べたいなと思っていました。それで、ちょっと陰なロックゾーンみたいに固めたあとに、シメにちょっと明るいロック「NOISY LOVE POWER☆」に変わる、という流れにしたかったんです。
バリエーション豊かな曲を通じて、これからも皆さんに寄り添い続けられたら
――それに続く「キミがいないクリスマスなんて」は、イントロのコーラスや鈴など王道のクリスマスソングかと思いきや、失恋ソングなんですよね。そういう方向性というのも、大橋さんのリクエスト?
大橋 はい。ハッピーな感じじゃなくて、ちょっと陰なクリスマスみたいなほうが自分には合っているなと思って。そんなにクリスマスにたくさん思い入れがあるわけでもないので、ちょっと斜に構えたクリスマスといいますか……「ひとりでフライドチキンを食べるクリスマスも楽しいよ」みたいなのでもいいな、って(笑)。よく街で聴くようなものとはちょっと違うアプローチの、面白いクリスマス曲ができたなと思うので、ぜひ24日と25日はこの曲を聴いて楽しんでほしいです。
――ただ、オケはすごく明るくて。
大橋 そうなんです。オケと歌詞がちょっとズレているような曲がいいなと思っていたので。でも、アップテンポで意外と踊れそうな曲なんですよね(笑)。
――続く「NOT YET」は、さらに切なさ強めの楽曲ですが。
大橋 そうですね。切ない感じの恋愛曲を固めたんですけど、ミディアムでロック調な曲が1曲あったらと思っていたので、バンドサウンドなものになっています。ただ最近、失恋曲が多くなってきたのを感じていて(笑)。自分的にも負の感情のほうが表現しやすいというのもあるんですけど、いつもアルバムの収録曲を決めるときに陰と陽のバランスが平等になるようにしている、というのも要因のひとつだと思います。
――なるほど。全体のバランスをみて。
大橋 そうなんです。今回は既存曲に陽な曲が多かったので、新録曲は陰に振りがちになりまして(笑)。それにみんなが両思いなわけじゃないでしょうし、失恋した人が聴いてくれるかもしれないから、そういう方にも寄り添える曲があったほうがいいとも思うんですよね。
――「NOT YET」自体は、歌うときにどんなことを心がけられましたか?
大橋 割とテンポ速めで疾走感もちょっとある曲なので、エネルギッシュに歌わせていただきました。特にサビは感情をたっぷり入れて盛り上がる感じで歌いたいなとずっと思っていましたし、大サビラストの高音のロングトーンは歌っていて気持ちよくて、すごく好きですね。
――歌声に感情が強く乗ることで、大人っぽさを感じる部分も多々ありました。
大橋 そもそも自分の声自体が大人になったとは感じています。最近はお芝居をしていても、「もっと若く」と言われることが昔より増えたので(笑)。今「YES!!」を聴くと、だいぶ声が若いなって自分でも思うので、自然と大人感がにじみ出ちゃうんでしょうか……ふふふ(笑)。
――そんな2曲を経たのもあって、「like the melody」がすごく温かく感じられます。
大橋 私は最初、“鳥のさえずり”のように感じました。バンド感があるけどゆったりしていて、でもちょっとエモーショナルな感じで歌えて……みたいな曲をお願いしたら、「めっちゃ“WINGS”だな」と思う曲をいただけたんです。
――歌う際は、歌いかける相手もイメージされながら?
大橋 はい。ファンの皆さんを。鳥って人のそばにいるイメージがあるので、小さい私が肩の上から歌いかけているようなイメージでした。なので距離感近く歌うというのはいちばん意識したんですけど、サビのメロディが難しくて、ファルセットが苦手なのもあって結構苦戦しましたね。
――この曲でも、そういう挑戦をひとつ。
大橋 そうなんです。他にも、課題に感じている地声とファルセットの行き来の切り替えもこの曲にはあるので、それも含めて頑張って歌っていきたいですね。ファルセットをきれいに出せるようになることは表現のひとつとしてすごく大事だと思うし、切り替えがうまくできるようになったら地声で頑張る曲ではエネルギッシュに歌えるし……二刀流になりたいですね。
――ライブでの表現の幅も広がりますし。
大橋 そうですね。来年の5月には『WINGS』を引っさげたライブの開催も決まっているので。ライブで歌うとなるとハードルの高い曲が多いんですけど、精一杯ブラッシュアップしたいと思います。
――そして「お月さま」は、童謡チックな曲ですね。
大橋 最近『みんなDEどーもくん!』というNHKさんの番組で歌のおねえさんを担当させていただいていることもあって、そこからインスピレーションを受けてできた曲です。
――優しく歌いかけるようなボーカルが、非常に印象的でした。
大橋 すごく近くでしゃがんで語りかけているというか。読み聞かせの歌版みたいなイメージで、歌わせていただきました。この曲はハモもないので録るものの少なさがとても新鮮でしたし、逆に歌一本だけだったのはちょっと緊張しました(笑)。音数もすごい少ないし、ある意味ごまかしがきかない環境の曲なので。
――ライブだと、じっと皆さん聴き入ってくれるんでしょうね。
大橋 そうですね。アコースティックでもいいんじゃないかな、みたいに思っています。ただ、曲順を決めるときにはめちゃくちゃ悩みましたね(笑)。急にヒーリングソングみたいな感じになったので。1コーラスが短くて4番まであるところも、小さい子供達向けの曲みたいで。小学校の音楽の教科書に載っていてもおかしくないような曲だと思うんです。でも歌詞には“翼”が入っているので、これもちゃんと『WINGS』をモチーフにしていた曲なんですよね。
――この曲もですが、他にもライブでの魅せ方が楽しみな曲ばかりですね。
大橋 今回は新録が8曲もあって、そこに既存曲を混ぜたライブになると考えると……何入れようかな?ってわくわくしちゃいます。セトリ決めるの大好きなんで、今から「どうしよっかなー♪」って。
――アルバムから曲順決めもされていますしね。
大橋 なんだか「このままでもいいんじゃないかな?」とも思うんですけど、とても迷っています。『WINGS』の曲順を軸にして、既存曲や来年発売のシングル曲を挿していく……みたいな感じもアリかなって、色々構想中です。しかも初のアリーナライブになるので、今までできなかった演出ができるようになると思うんです。そこも、わくわくしてますね。アルバムにはチケット先行のシリアルも封入していて、お客さんに来ていただく予定ではあるので、皆さんに会えるのを楽しみにしています!
――そのライブも含めて、2021年はこのアルバムを経てまたいろいろなことができる年になっていくと思います。『WINGS』で飛翔した先、大橋さんはどういったところに向かっていきたいですか?
大橋 そうですね……音楽のスタイルは、今のままでもいいかなと思っています。「START DASH」みたいな今までの大橋彩香がやってきたスタイルの、みんなが安心する曲がどしっとあって、そのまわりでめちゃくちゃ自由にいろんなジャンルの曲をやる、というのが。そうすれば、自由にやっても「結局大橋彩香って何がやりたいの?」とはならないと思うので。
――ひとつのベースがあったうえで。
大橋 そう。そういった形でこれからもやっていきたいですね。どんどん成長しながらも、みんなが安心するような変わらない姿も見せていけたらと思っていますし、そのうえで陰な曲から陽な曲まで歌っていきたいです。陰な曲でも元気をもらえる人だっていると思うので、いろんなスタイルで皆さんのそばに寄り添ったりエールを送ったりできるような楽曲を、これからも届けていきたいと思っています。
INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次
●リリース情報
大橋彩香 3rdアルバム
『WINGS』
12月16日発売
【初回限定盤(CD+BD+60Pフォトブック)】
品番:LACA-35850
価格:¥4,500+税
初回限定盤仕様
・全60Pフォトブック
・3種ランダムフォトカード(H 86mm×W59mm)
※1パッケージにつきランダムで1枚同梱されます。
・三方背クリアケース
【通常盤(CDのみ)】
品番:LACA-15850
価格:¥3,000+税
<CD>
1.START DASH
作詞・作曲:水野良樹 編曲:中村タイチ(bluesofa),白玉雅己
2.ハイライト
作詞:Kanata Okajima 作曲・編曲:佐伯高志
3.ダイスキ。
作詞:Kanata Okajima 作曲:Kanata Okajima, pw.a 編曲:pw.a
4.HOWL
作詞・作曲:DECO*27 編曲:Rockwell
5.Winding Road
作詞:Kanata Okajima 作曲:Kanata Okajima, MEG 編曲:MEG
6.MASK
作詞:Kanata Okajima 作曲・編曲:飯塚昌明
7.NOISY LOVE POWER☆
作詞:こだまさおり作曲・編曲:本多友紀(Arte Refact)
8.キミがいないクリスマスなんて
作詞:Kanata Okajima 作曲:DAICHI, Shunsuke Harada 編曲:Keisuke Koyama
9.NOT YET
作詞:FUNK UCHINO 作曲・編曲:早川博隆,加藤冴人
10.like the melody
作詞:Safari Natsukawa 作曲:春川仁志, Safari Natsukawa 編曲:春川仁志
11.お月さま
作詞・作曲:Kanata Okajima 編曲:Soma Genda
12.Give Me Five!!!!!~Thanks my family~
作詞:こだまさおり作曲・編曲:高田暁
<Blu-ray>
1.START DASH -Music Video-
2.START DASH -Making of Music Video-
●ライブ情報
大橋彩香ワンマンライブ
2021年5月1日(土)幕張メッセイベントホール
開場:16:30/開演:17:30
<プロフィール>
「第36回ホリプロタレントスカウトキャラバン~次世代声優アーティストオーディション~」ファイナリストを経てホリプロに所属。現在はホリプロインターナショナル所属。
TVアニメ「さばげぶっ!」OP主題歌「YES!!」でランティスよりアーティストデビューし、声優アーティストとして活動中。2018年4月に7thシングル「NOISY LOVE POWER☆」、5月23日(日)に2ndアルバム「PROGRESS」をリリースし、5月27日に「大橋彩香 Special Live 2018 ~PROGRESS ~」をパシフィコ横浜国立大ホールで開催。また、2019年にはアーティストデビュー5周年を迎え「大橋彩香 5th Anniversary Live~Give Me Five!!!!!~」を開催。チケットも即日SOLD OUTするなど話題を呼んだ。
主な出演作は、「アイドルマスター シンデレラガールズ」島村卯月役、「Bang Dream!」山吹沙綾役、「魔法少女 俺」卯野さき役、「アイカツ!シリーズ」紫吹蘭役、香澄夜空役、明日香ミライ役、「ウマ娘 プリティーダービー」ウォッカ役、「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」秋野かえで役、「THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール」ユ・ミラ役など。
関連リンク
大橋彩香オフィシャルサイト
本稿では彼女のさらなる可能性感じるそれぞれの楽曲と、その先に見据えるアーティスト像について、存分に語ってもらった。
【動画】大橋彩香 – START DASH [Official MV]
プレッシャーを跳ね除け、さまざまな念願叶った3rdアルバムが完成!
――大橋さんにとって2020年はどんな年でしたか?
大橋彩香 あんまり人に会えない年で、すごく寂しかったです(笑)。いろんな意味で我慢の年でもありました。でも、コロナがあったからこそ新しいやり方みたいなものを日本全体で模索した年だったとも思うんですよ。ライブができないぶん、どうしたらいいのか?みたいなことは、すごく考えた年だったような気がします。
――直接的に新型コロナを歌った曲はないとは思うんですが、作家さんへの曲の発注などには心情的な影響もあったのでしょうか?
大橋 GRANRODEOのe-ZUKAさんが作ってくださった「MASK」は、「最近マスクをしている人が多いね」みたいな話から始まった曲なんですよ。マスクをしていると表情もよくわからないから、それをモチーフにした曲があっても面白いかも、という話になって。でもコロナだけを感じさせるようなものではなくて、時間が経ったら「あんなことあったな」ぐらいに感じられる曲だとは思います。
――アルバム全体のテーマやタイトルは、かなり前から決まっていたのでしょうか?
大橋 最初の打ち合わせ自体は去年(2019年)の11月頃で、そこでタイトルのアイデアを出し合いました。やっぱり『起動 ~Start Up!~』『PROGRESS』と来たので、もうちょっと上に行けるように“羽ばたいていく”という意味を込めた『WINGS』になったんです。
――3作のタイトルで、ホップ・ステップ・ジャンプのような。
大橋 はい。
たぶんそのシリーズはいったんここで終わりにして、次からはガラッと変わるのかな。WINGSしたらもうどこへ行けばいいか、タイトルが難しくなってきますから(笑)。
――1回羽ばたいていったら、行き先は自由ですもんね。
大橋 そうですね。きっと着地もするでしょうし。
――新曲には直接“翼”など、鳥の要素をモチーフにした言葉が組み込まれた曲も多いですね。
大橋 そうなんです。最初にタイトルが決まったのでその要素を入れていただいたんですけど、今までのアルバムでは明確に言葉で一貫したテーマを盛り込むことがなかったので、初めての試みなんです。
――コンセプトアルバムではないけど、いつもよりもコンセプトが少し強め。
大橋 強めですね。ジャケットも羽が生えてますし、「羽ばたきます!私!」みたいな強い意志が(笑)、前面に出たアルバムになっています。
――そういう強い意志を入れたいという想いも、制作の序盤からあったもの?
大橋 ありました。
やっぱりアーティストデビュー5周年を迎えてからのアルバムなので、一区切りついたあとの自分をちゃんと見せなきゃいけないな、っていうプレッシャーみたいなものもちょっとありましたし。それに、前作の『PROGRESS』が、自分にとってすごく大きなアルバムになったんですよ。いろいろな挑戦を通じて新しい自分をたくさん見せられて、アーティストとして一皮むけることができたので、だからこそ「そのあとのアルバム、どうしよう?」というプレッシャーみたいなものを勝手にひとりで感じていたんです。
――いいものだったからこそ、より高いハードルに。
大橋 そうなんです。なので「START DASH」というリード曲には、5周年を経てもう1回新しい5年間のスタートを切る、みたいな意味も込めてもらいました。
――作家陣や楽曲の方向性についてのリクエストも、最初から明確に出されたもの?
大橋 そうですね。水野さんに関しては、3年ほど前からずっとオファーを出していたんですけど、エールソングを歌うことが多いので大橋彩香といえば“元気で明るくて笑顔”というイメージを持たれている方も多いと思うんですよ。そういう意味で水野さんはやっぱりすごくピッタリだなってチームでずっと話していましたし、新しくスタートラインを切るタイミングで国民的なアーティストさんに楽曲提供していただけたらというのもありました。
――他の作家さんも、指名された方はいますか?
大橋 GRANRODEOのe-ZUKAさんも前からずっと、いつお願いしてみようかとチームで相談していましたし、ボカロ曲を手掛けられている方から楽曲提供をいただきたいなと思っていたので、昔から活躍されているDECO*27さんも挙げさせていただきました。
――ボカロは昔からお好きだったんですか?
大橋 中学の頃からずっと好きでした。家に帰ったらずっとニコニコ動画ばっかり見てたぐらいで、家にはボカロのアルバムがいっぱいあって、コミケでもボカロのCDを買ってたんですよ。
――同人音楽の日がありますからね。
大橋 そうなんです!あと、知らない方も多いと思うんですけど、デビュー当時“大橋彩香のボカロ祭り”っていう、私がボカロのカバーをするイベントをやらせていただいたことがあって。それぐらいボカロの歌をうたいたいなとずっと思っていたのですごく嬉しかったです。
自分自身が聴いても元気をもらえる、そんなエールソング「START DASH」
――では、アルバムの収録曲についてそれぞれお聞きしていきたいと思います。まずリード曲「START DASH」は、水野さんへどんなリクエストを出されたのでしょうか?
大橋 最初はいきものがかりさんの「じょいふる」みたいな、ノリノリで盛り上がれて楽しい曲もいいなとも思ったんですけど、今回のアルバムが“新しくスタートを切る”というものに決まったので、壮大な感じもするエールソングをお願いすることになりました。
――最初に曲を聴いたとき、どう感じられましたか?
大橋 もう、鳥肌立ちましたね。今回のリード曲としてもすごくしっくりきましたし、逆に自分にちゃんと歌いこなせるかという挑戦状をもらったような気持ちにもなって。でも、ちゃんと歌えたら絶対にすごくファンの皆さんに喜んでもらえるはずだ、とも思いました。
――ものすごくキャッチーでもあるし、しかもちょっとぐっときますし。
大橋 そうですね。皆さんの背中を押せる明るい曲なんですけど、メロディ的には泣きメロの部分もあって。それに歌詞も、すごく私のことを理解して書いてくださっているのが伝わってきたんですよ。
なので、自分がスタートラインを切って頑張っていくぞという意志も感じられるし、ファンの皆さんのことも書いてあるし、しかも自分が聴く側になったときにもちゃんと元気をもらえる……いろんな面を持った歌詞を書いていただきました。
――曲の魅力のみならず、大橋さんの歌声からも非常にエネルギーをもらえる曲になっています。
大橋 エールソングだから明るく歌ったほうがいいなとは思っていたんですけど、曲のタイトルにも合うように「ちゃんとスタートを切るぞ!」という力強さも入れたくて。なので明るくも芯のある、どっしりしていて力強い感じで、でもちょっと切なさみたいなのも入れられるように歌っていきました。ただ、Bメロのメロディがすっごく難しくて(笑)、そこはちょっと苦戦したんですけど。
――高いところから入って、下りてきますからね。
大橋 そうなんです。その下り方が難しくて。でもエールソングなので、自分がガス欠したら聴いてる人も「しゅーん……」ってなっちゃうかもしれないじゃないですか?だから聴く人に「あ、だめかも」と感じさせないように、心折れずに最後まで120%で駆け抜ける、というのも心がけました。
――新しいことを始めると壁にぶつかることはつきものだと思うので、泣きメロの部分がエールにより説得力を与えている気がします。
大橋 たしかに。何かをすごく頑張っている人には、老若男女を問わず刺さる曲だと思います。
――大橋さんご自身は、刺さったところはありますか?
大橋 2番のAメロですね。いちばん好きなところなんですけど、私、完璧主義なのでミスすると「ミスしないようにしなきゃ」ってまわりが見えなくなっちゃいがちなんです。でも、それをちゃんと受け入れられるとまわりも見られて、他の人を愛せる余裕もできる……みたいなことが書かれていて。なんだか自分へのお薬みたいな歌詞だなって思いました。
――リリース直後はもちろん、新しい年の始まりにも聴いてほしいですね。
大橋 たしかに。MVは朝焼けのなかで撮ったので、初日の出のときに聴いてもらったり(笑)。
――いい聴き方ですね!
大橋 「2021年頑張るぞ!」とか、「いいスタート切るぞ」みたいな……いいですね。私も聴こう(笑)。
――そのMVは、他の役者さんのドラマパートと組み合わさったものになっています。
大橋 あれぐらいガッツリ他の役者さんに出てもらったのは初めてでした。私が撮ったシーンはその朝焼けのシーンだけで、頑張っている皆さんを見守るようにエールを送っているポジションなんです。
今まではポンポンを持って一緒に頑張ろう!って感じで明るく応援していたイメージが強いと思うんですけど、今回はどっしり応援するようなスタイルで。
――女神みたいな。
大橋 そうですね。「いつでも見守っております」みたいな。でも水の中で駆け回るみたいな私らしい部分もちょっと残して、いつもどおりの私としっかりとエールを送る力強い私というふたつの面を出せたらいいな、と思いながら撮影していきました。
――あの朝焼けの、光の塩梅もいいですね。
大橋 いや、きれいでしたねー。現場で見た朝焼けもきれいだったんですけど、さすがに眩しくて(笑)。映像になるとすごく幻想的で、よりきれいに見えました。
――2サビ前の、逆光の中祈っているようなカットがドラマパートの間に挟まれると、非常に強く印象に残ります。
大橋 いい作用になっていたらよかったです!今回はMVがフルサイズでUPされているので、ぜひ観て元気になっていただきたいですね。
絶対に3曲並べたかった、中盤のロックゾーン
――では、その他の新曲についても順にお伺いします。まずDECO*27さんが手掛けた「HOWL」は、まさに“らしさ”全開のサウンドで。
大橋 DECOさんには「自由に、DECOさん節で書いて欲しいです」とか、「『人間が歌うから、ここはちょっと優しくしよう』みたいにはしなくて大丈夫です」というお願いをしたんです。そうしたら……やっぱりめちゃくちゃ難しい曲で(笑)。でも「やったる!」みたいな気持ちになりました。
――曲に込めたい想いなどについては、リクエストされました?
大橋 最近自分が抱えている悩みだったりとかをお話しさせていただいたんですけど、『WINGS』というタイトルなのでただ負の感情だけではなく、最後にはちゃんと「自分は変わっていくよ」みたいな意志を出せるような曲をお願いしました。
――葛藤と、その先に向かっていくエネルギーを。
大橋 そうですね。ちょっと早口な部分からダウナーな部分まであって、サビではエネルギーをわっっと出せるようにもなっている、自分の声の表現をいろいろと盛り込める最初から最後までクライマックスみたいな感じの曲なんですよ。だから3分少しという短い曲なんですけど、とても盛りだくさんな曲だなと思いました。
――メロラップになっている2番のAメロは、サビとのコントラストがすごく際立っていますね。
大橋 私、昔はそういう部分がすごく苦手だったんですよ。「Break My Jail」とかにもあるんですけど、羞恥心に負けそうでうまく歌えていない気がしてて(笑)。
――技術などではなく、マインドのほうで。
大橋 はい。でも今は「……ラップ?やります!」みたいな気持ちになってきたので、今回「よっしゃ!」って思いましたし、音源を自分で聴いても成長を感じました。
――ちなみにこの曲も、リード曲に続いてMVを制作されたんですよね。
大橋 そうなんです。DECOさんの楽曲って、アニメーションとか演出がすごくてMVもとても印象的じゃないですか?楽曲とあわせて見ると本当にその曲の世界感に入り込めるなとずっと思っていたし、特にDECOさんはボカロ曲でMVをすごくしっかり作る先駆けの中のおひとりだと思うので、お願いすることになりました。今お話している時点では登場するキャラ絵ぐらいまでしか見ていないので、私自身もすごく楽しみにしているところです。
――続く「Winding Road」も、タイトルどおりこれまでの道のりを反映した曲になりました。
大橋 そうですね。やっぱり、ここまでストレートに来たわけじゃないので。180°ぐらいアーティスト観も変わりましたし、ファンの皆さんに助けられたことも悩んだこともたくさんあったし……だから、タイトルを見たときには今までの思い出がすごくフラッシュバックしました。あと、この曲はダンス曲として作っていただいたんですけど、今まで多かったEDMではなくてちょっとロックな曲でお願いしまして。旗を掲げてスタートを切るような、違ったアプローチでのスタートダッシュ感がある曲になりました。
――今回そうしたのは、なぜですか?
大橋 ちょうどロック系のダンス曲にめちゃめちゃハマっていた時期だったんですよ。普段のシングルがアニメ主題歌になっていることが多いぶん、アルバムの新録曲ではとても自由に希望をお伝えさせていただいていまして(笑)。そのときにハマっている音楽ジャンルがすごく顕著に現れるんです。だから前のアルバムを聴くと、「当時はこういうの好きだったな」って思うんですよね。
――歌詞は大橋さんのこれまでを踏まえられたものだと思うんですが、作詞された岡嶋かな多さんはご一緒される機会も多いのもあって、大橋さんのことをすごくよく見られているなと感じました。
大橋 そうですね。私のことをわかってくださっているので気持ち的にも歌いやすいですし、踊りやすいようにサビの歌詞が少なく作ってあるんですよ。この曲は最初からはだいぶキーが上がったんですけど、踊りながらしっかり歌えるようにしていきたいなと思います。
――一方、続く「MASK」はややキーが低めで。
大橋 そうですね。大橋彩香の曲って高いキーを頑張って歌っている曲が結構多いんですけど、「MASK」はずっとダウナーな感じなんですよ。なので、母にキーチェック音源を聴いてもらったら「えっ、低いね」と言われて(笑)。自分でも、すごく新しい歌い方に挑戦できたように思っています。
――それでもスピード感もあるしメロも強くて、ロックしていますよね。
大橋 私、この曲のインスト版欲しいです(笑)。だって、GRANRODEOさんのチームにやっていただいた演奏がかっこよすぎて!サウンドも結構ゴリゴリしているんですよ。でも「ちょっと明るい感じがいいです」とお願いしていたサビは、しっかり開けていく感じになっています。
――この曲も岡嶋さん作詞ということもあって、ここ3曲からは特に今の大橋さんを感じました。先ほどアーティストとしても180度変わったというお話もありましたが、このアルバムの新曲のような曲がこれまでシングルのカップリングになっていたと知ったうえで「MASK」を聴くと、よりそう感じられてきて。
大橋 ほんとですか?でもたしかに、今だから歌える歌詞になっている気はしますね。いきなり「仮面の下には何が隠れてるかって?」って言い始めますから(笑)。
――「誰も知らない間に生まれ変わるから」とも歌っていますから。
大橋 そうなんです。皆さんも働いてるときや友達と会ってるとき、家にいるとき……っていろんな自分があると思うんですけど、「知り用も無いし知りたくもないの」って、なんかすごいファン側の気持ちですよね(笑)。
――なので、いろいろな挑戦が詰まったアルバムの中盤にこの3曲が並んだのは、すごくいいなと感じたんです。
大橋 自分で考えたものをベースに相談して曲順を決めたんですけど、絶対この3曲は並べたいなと思っていました。それで、ちょっと陰なロックゾーンみたいに固めたあとに、シメにちょっと明るいロック「NOISY LOVE POWER☆」に変わる、という流れにしたかったんです。
バリエーション豊かな曲を通じて、これからも皆さんに寄り添い続けられたら
――それに続く「キミがいないクリスマスなんて」は、イントロのコーラスや鈴など王道のクリスマスソングかと思いきや、失恋ソングなんですよね。そういう方向性というのも、大橋さんのリクエスト?
大橋 はい。ハッピーな感じじゃなくて、ちょっと陰なクリスマスみたいなほうが自分には合っているなと思って。そんなにクリスマスにたくさん思い入れがあるわけでもないので、ちょっと斜に構えたクリスマスといいますか……「ひとりでフライドチキンを食べるクリスマスも楽しいよ」みたいなのでもいいな、って(笑)。よく街で聴くようなものとはちょっと違うアプローチの、面白いクリスマス曲ができたなと思うので、ぜひ24日と25日はこの曲を聴いて楽しんでほしいです。
――ただ、オケはすごく明るくて。
大橋 そうなんです。オケと歌詞がちょっとズレているような曲がいいなと思っていたので。でも、アップテンポで意外と踊れそうな曲なんですよね(笑)。
――続く「NOT YET」は、さらに切なさ強めの楽曲ですが。
大橋 そうですね。切ない感じの恋愛曲を固めたんですけど、ミディアムでロック調な曲が1曲あったらと思っていたので、バンドサウンドなものになっています。ただ最近、失恋曲が多くなってきたのを感じていて(笑)。自分的にも負の感情のほうが表現しやすいというのもあるんですけど、いつもアルバムの収録曲を決めるときに陰と陽のバランスが平等になるようにしている、というのも要因のひとつだと思います。
――なるほど。全体のバランスをみて。
大橋 そうなんです。今回は既存曲に陽な曲が多かったので、新録曲は陰に振りがちになりまして(笑)。それにみんなが両思いなわけじゃないでしょうし、失恋した人が聴いてくれるかもしれないから、そういう方にも寄り添える曲があったほうがいいとも思うんですよね。
――「NOT YET」自体は、歌うときにどんなことを心がけられましたか?
大橋 割とテンポ速めで疾走感もちょっとある曲なので、エネルギッシュに歌わせていただきました。特にサビは感情をたっぷり入れて盛り上がる感じで歌いたいなとずっと思っていましたし、大サビラストの高音のロングトーンは歌っていて気持ちよくて、すごく好きですね。
――歌声に感情が強く乗ることで、大人っぽさを感じる部分も多々ありました。
大橋 そもそも自分の声自体が大人になったとは感じています。最近はお芝居をしていても、「もっと若く」と言われることが昔より増えたので(笑)。今「YES!!」を聴くと、だいぶ声が若いなって自分でも思うので、自然と大人感がにじみ出ちゃうんでしょうか……ふふふ(笑)。
――そんな2曲を経たのもあって、「like the melody」がすごく温かく感じられます。
大橋 私は最初、“鳥のさえずり”のように感じました。バンド感があるけどゆったりしていて、でもちょっとエモーショナルな感じで歌えて……みたいな曲をお願いしたら、「めっちゃ“WINGS”だな」と思う曲をいただけたんです。
――歌う際は、歌いかける相手もイメージされながら?
大橋 はい。ファンの皆さんを。鳥って人のそばにいるイメージがあるので、小さい私が肩の上から歌いかけているようなイメージでした。なので距離感近く歌うというのはいちばん意識したんですけど、サビのメロディが難しくて、ファルセットが苦手なのもあって結構苦戦しましたね。
――この曲でも、そういう挑戦をひとつ。
大橋 そうなんです。他にも、課題に感じている地声とファルセットの行き来の切り替えもこの曲にはあるので、それも含めて頑張って歌っていきたいですね。ファルセットをきれいに出せるようになることは表現のひとつとしてすごく大事だと思うし、切り替えがうまくできるようになったら地声で頑張る曲ではエネルギッシュに歌えるし……二刀流になりたいですね。
――ライブでの表現の幅も広がりますし。
大橋 そうですね。来年の5月には『WINGS』を引っさげたライブの開催も決まっているので。ライブで歌うとなるとハードルの高い曲が多いんですけど、精一杯ブラッシュアップしたいと思います。
――そして「お月さま」は、童謡チックな曲ですね。
大橋 最近『みんなDEどーもくん!』というNHKさんの番組で歌のおねえさんを担当させていただいていることもあって、そこからインスピレーションを受けてできた曲です。
――優しく歌いかけるようなボーカルが、非常に印象的でした。
大橋 すごく近くでしゃがんで語りかけているというか。読み聞かせの歌版みたいなイメージで、歌わせていただきました。この曲はハモもないので録るものの少なさがとても新鮮でしたし、逆に歌一本だけだったのはちょっと緊張しました(笑)。音数もすごい少ないし、ある意味ごまかしがきかない環境の曲なので。
――ライブだと、じっと皆さん聴き入ってくれるんでしょうね。
大橋 そうですね。アコースティックでもいいんじゃないかな、みたいに思っています。ただ、曲順を決めるときにはめちゃくちゃ悩みましたね(笑)。急にヒーリングソングみたいな感じになったので。1コーラスが短くて4番まであるところも、小さい子供達向けの曲みたいで。小学校の音楽の教科書に載っていてもおかしくないような曲だと思うんです。でも歌詞には“翼”が入っているので、これもちゃんと『WINGS』をモチーフにしていた曲なんですよね。
――この曲もですが、他にもライブでの魅せ方が楽しみな曲ばかりですね。
大橋 今回は新録が8曲もあって、そこに既存曲を混ぜたライブになると考えると……何入れようかな?ってわくわくしちゃいます。セトリ決めるの大好きなんで、今から「どうしよっかなー♪」って。
――アルバムから曲順決めもされていますしね。
大橋 なんだか「このままでもいいんじゃないかな?」とも思うんですけど、とても迷っています。『WINGS』の曲順を軸にして、既存曲や来年発売のシングル曲を挿していく……みたいな感じもアリかなって、色々構想中です。しかも初のアリーナライブになるので、今までできなかった演出ができるようになると思うんです。そこも、わくわくしてますね。アルバムにはチケット先行のシリアルも封入していて、お客さんに来ていただく予定ではあるので、皆さんに会えるのを楽しみにしています!
――そのライブも含めて、2021年はこのアルバムを経てまたいろいろなことができる年になっていくと思います。『WINGS』で飛翔した先、大橋さんはどういったところに向かっていきたいですか?
大橋 そうですね……音楽のスタイルは、今のままでもいいかなと思っています。「START DASH」みたいな今までの大橋彩香がやってきたスタイルの、みんなが安心する曲がどしっとあって、そのまわりでめちゃくちゃ自由にいろんなジャンルの曲をやる、というのが。そうすれば、自由にやっても「結局大橋彩香って何がやりたいの?」とはならないと思うので。
――ひとつのベースがあったうえで。
大橋 そう。そういった形でこれからもやっていきたいですね。どんどん成長しながらも、みんなが安心するような変わらない姿も見せていけたらと思っていますし、そのうえで陰な曲から陽な曲まで歌っていきたいです。陰な曲でも元気をもらえる人だっていると思うので、いろんなスタイルで皆さんのそばに寄り添ったりエールを送ったりできるような楽曲を、これからも届けていきたいと思っています。
INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次
●リリース情報
大橋彩香 3rdアルバム
『WINGS』
12月16日発売
【初回限定盤(CD+BD+60Pフォトブック)】
品番:LACA-35850
価格:¥4,500+税
初回限定盤仕様
・全60Pフォトブック
・3種ランダムフォトカード(H 86mm×W59mm)
※1パッケージにつきランダムで1枚同梱されます。
・三方背クリアケース
【通常盤(CDのみ)】
品番:LACA-15850
価格:¥3,000+税
<CD>
1.START DASH
作詞・作曲:水野良樹 編曲:中村タイチ(bluesofa),白玉雅己
2.ハイライト
作詞:Kanata Okajima 作曲・編曲:佐伯高志
3.ダイスキ。
作詞:Kanata Okajima 作曲:Kanata Okajima, pw.a 編曲:pw.a
4.HOWL
作詞・作曲:DECO*27 編曲:Rockwell
5.Winding Road
作詞:Kanata Okajima 作曲:Kanata Okajima, MEG 編曲:MEG
6.MASK
作詞:Kanata Okajima 作曲・編曲:飯塚昌明
7.NOISY LOVE POWER☆
作詞:こだまさおり作曲・編曲:本多友紀(Arte Refact)
8.キミがいないクリスマスなんて
作詞:Kanata Okajima 作曲:DAICHI, Shunsuke Harada 編曲:Keisuke Koyama
9.NOT YET
作詞:FUNK UCHINO 作曲・編曲:早川博隆,加藤冴人
10.like the melody
作詞:Safari Natsukawa 作曲:春川仁志, Safari Natsukawa 編曲:春川仁志
11.お月さま
作詞・作曲:Kanata Okajima 編曲:Soma Genda
12.Give Me Five!!!!!~Thanks my family~
作詞:こだまさおり作曲・編曲:高田暁
<Blu-ray>
1.START DASH -Music Video-
2.START DASH -Making of Music Video-
●ライブ情報
大橋彩香ワンマンライブ
2021年5月1日(土)幕張メッセイベントホール
開場:16:30/開演:17:30
<プロフィール>
「第36回ホリプロタレントスカウトキャラバン~次世代声優アーティストオーディション~」ファイナリストを経てホリプロに所属。現在はホリプロインターナショナル所属。
TVアニメ「さばげぶっ!」OP主題歌「YES!!」でランティスよりアーティストデビューし、声優アーティストとして活動中。2018年4月に7thシングル「NOISY LOVE POWER☆」、5月23日(日)に2ndアルバム「PROGRESS」をリリースし、5月27日に「大橋彩香 Special Live 2018 ~PROGRESS ~」をパシフィコ横浜国立大ホールで開催。また、2019年にはアーティストデビュー5周年を迎え「大橋彩香 5th Anniversary Live~Give Me Five!!!!!~」を開催。チケットも即日SOLD OUTするなど話題を呼んだ。
主な出演作は、「アイドルマスター シンデレラガールズ」島村卯月役、「Bang Dream!」山吹沙綾役、「魔法少女 俺」卯野さき役、「アイカツ!シリーズ」紫吹蘭役、香澄夜空役、明日香ミライ役、「ウマ娘 プリティーダービー」ウォッカ役、「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」秋野かえで役、「THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール」ユ・ミラ役など。
関連リンク
大橋彩香オフィシャルサイト
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