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2009年11月リリースの「only my railgun」以降、fripSideと『とある科学の超電磁砲』は長く蜜月の時を過ごしてきた。そのなかで生まれた数々の楽曲たちをコンパイルしたベストアルバム『とある科学の超音楽集 -A Certain Scientific Railgun:Music Chronicles-』がこのたびリリースされる。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
“今のfripSide”を見せることができた“アニサマ”
――今回は9月24日にリリースされるベスト盤『とある科学の超音楽集 -A Certain Scientific Railgun:Music Chronicles-』について伺いたいのですが、まずはその前に8月に行われた“Animelo Summer Live 2025 ThanXX!!”(以下、“アニサマ”)についてもお伺いします。fripSideが出演された8月29日のDay1でfripSideは、黒崎真音さんのトリビュートパートにも出演されましたね。
八木沼悟志(以下、sat) そうですね。ああいう形で真音ちゃんと急なお別れになってしまって、僕とmotsuさんにとってはALTIMAでも一緒だったので、いずれしっかりとした形でどこかでやれたらいいなとは思っていました。それがこうしてゴーサインが出てやっとできたので、とにかくやれて良かったなと思っています。
――satさんにとって真音さんはレーベルメイトであり、ALTIMAのメンバーでもありますしね。またALTIMAが生まれたのも2011年の“アニサマ”。あの時に初披露した「I’ll believe」が聴けたのもグッときました。
sat そう。「『I’ll believe』だけはやらせてください」って僕から言ったんですよ。知名度的に「Burst The Gravity」の案もあったんだけど、やっぱりどうしても“アニサマ”では始まりの曲をやりたくて、そこは直談判させてもらいました。
――当日はものすごい盛り上がりでしたが、ステージ上の緊張感はいかがでしたか?
sat 緊張感はそこまでなかったかな? fripSideの2人(上杉真央、阿部寿世)はもちろんのこと、KOTOKOさんもmotsuさんも、真音ちゃんも僕の中ではミュージックファミリーの一員。
――とはいえ途中でmotsuさんも込み上げるものがあって、やはりエモーショナルな空間になりましたよね。
sat 長いキャリアであんなに歌詞を飛ばしたのは初めてな気がする。プロ意識の高い人なだけに僕もびっくりでしたよ。「あれっ、ラップしてないけどどうした?」って。そしたら泣いているから、こっちももらい泣きしちゃうじゃないですか。
――そうした感動的なトリビュートが真音さんの映像で締め括られた直後に、今度はfripSideのステージが始まったわけですよね。
sat あれね、お客さんも言っていたけど、僕らやってるほうも心が追いつかないままで。なんならfripSideのロゴムービーも10回くらいリピートしといてほしいなって思いながら「Red Liberation」に入っちゃって(笑)。
――あの熱量の高さは凄まじかったですね。やはりあの曲をもって、今のfripSideの強度を改めて感じることができましたし。
sat そうですね。
――そうした今のfripSideを見せたあとに、satさんのMCから「only my railgun -version 2024-」が披露されました。“アニサマ”では久々となりますし、これも非常に盛り上がりましたね。
sat そうですね。“アニサマ”でfripSideが出て「only my railgun」を歌わなかったのはほとんどないんですよ。そこで“アニサマ”さんが20周年ということで「ここはやらなければ」という感じでした。
――やはり“アニサマ”の歴史でも欠かせない曲ですよね。
sat 嬉しいですよね。
『超電磁砲』との出会いによって生まれた“発明”
――そんな「only my railgun」を含む『とある科学の超電磁砲』におけるfripSideの楽曲をコンパイルのが今回の『とある科学の超音楽集 -A Certain Scientific Railgun:Music Chronicles-』です。fripSideとしては毎年秋にオリジナルアルバムをリリースしていましたが、今年はベスト盤という形になりました。
sat まずは去年が『超電磁砲』のアニメ15周年で、そこで現体制での「only my railgun」がリリースできたというところが、1つのターニングポイントだったと思います。この先も『超電磁砲』ワールドは続いていくと思うんですけど、今はアニメだけじゃなくて遊技機周辺でも盛り上がっている。そこでまずこれまでの楽曲を集めたアルバムを出したいなとレーベルと話しまして、またそこで遊技機用に新曲も作らせてもらってそれがすごくいい曲になったから、これを早く発表したいということもありました。
――確かにTVアニメ4期の発表もあった後で、『超電磁砲』への機運が高まっているタイミングでのリリースにもなりますよね。
sat そうですね。あと、第2期のバージョンも収録していますが、今回全曲リマスターをしているんですよ。「only my railgun」も16年前の曲ですから、初期の楽曲は今とは音の作りも違うんです。今聴いてみて音質的に少し弱いと感じる部分を修繕しました。なので聴いた感じもクオリティがすごく上がっていると思う。もちろん、あくまでもバージョンアップであって、みんなが思っている良さというものを打ち消すものでは決してなくて、音質の向上というところが一番大きいかな。
――fripSideと『超電磁砲』とのコラボについて、いわばfripSideのメジャーデビューとも関わるのですが、改めて「only my railgun」の登場は衝撃的でした。
sat うん。
――作品人気のタイアップであったし、fripSideの存在がセンセーショナルでもあったわけですが、やはり「only my railgun」は格別で、『超電磁砲』の作品性あるいは御坂美琴の“超電磁砲”という能力が、fripSideの音楽と見事シンクロしたことが大きい。特に、これはアルバムのライナーノーツ(今回のアルバムブックレットには八木沼氏によるライナーノーツが収録されている)でsatさんも発言しているのですが、「only my railgun」でsatさんが“Super Saw”というシンセの音色を採用したことが大きくて、これってアニソンにとっても大きな発見だったんじゃないかなと。
sat そうなんですよ。僕もライナーでああやって発言した後にもう一度昔の音源を聴き直してみたんですけど、第1期fripSideってそこまでSuper Saw(※ノコギリ波を重ね、それぞれの音高を少しずつずらすシンセサイザーのサウンドの一種)していないんですよ。もちろん多少はあるんですけどそこまで主張していない。やっぱりこの「only my railgun」でfripSideとSuper Sawの親和性というものを完成させたんだなって改めて思いました。自分でも「これは大発明だ!」って(笑)。
――コアなfripSideファンにはお馴染みですが、改めてこのSuper Sawという代名詞が有効的に採用されたのは「only my railgun」だったわけですよね。
sat そうですね。手前味噌だけど他のアーティストさんがSuper Sawを刻んだら「fripSideっぽい」って言われていたのもあって。
――ですから改めて、fripSideが『超電磁砲』あるいは美琴と出会っていなければ、fripSideのメジャーデビューはまた違ったものになっていたかもしれない。
sat 今みたいになってなかったかもしれないですね。僕らアニソンを作っている人間として、面白いのはそこなんですよね。その作品の世界観を表現するためにクリエーションをすると、それが自分の音楽にプラスになる時がある。作品に引っ張られて自分の音楽も進化していく、みたいな。それがアニソンクリエイターの面白さじゃないですかね。
――つくづく歴史的に重要な楽曲になりましたね。そこからTVシリーズ、OVA、ゲームまで数々『超電磁砲』の楽曲を作っていくわけですが……。
sat いや、僕も聴き返してみて「よく作ったな」と思います。「これどうやって作ったんだろう?」と思ったりもしますし(笑)。
――TVシリーズだけでも3期あって、それぞれ2曲ずつ作っているわけですが、fripSideあるいは『超電磁砲』らしさがありつつもバラエティに富んでいるところが大きいですよね。
sat そうですね。
――そこはsatさんのクリエイティビティもそうですが、TVシリーズの放送が空いているのも大きいのかなと。2期が放送されたのも1期の4年後となる2013年で、その間fripSideがアーティストとして巨大化したのちに「sister’s noise」の大ヒットへと繋がっていくという。
sat そうですね。『超電磁砲』の1期と2期、3期の間で僕らも色んなアニメの主題歌を担当させていただいて、その経験値をまた持ち寄って臨めたという、いいサイクルがあったんじゃないかなと思います。
――そうですね。
sat あとはやっぱりライブでのお客さんとの対話があった。それこそ「only my railgun」や「LEVEL5 -judgelight-」、「future gazer」や初期の曲はライブで何回もやっていくうちに少しずつ形を変え、お客さんとのコール&レスポンスも含めて、お客さんとfripSideと、『超電磁砲』との一体感みたいなものを徐々に熟成させながら次の新譜に取り組むという、それもまたいいサイクルだったと思うんですね。だから後期の、例えば「final phase」や「dual existence」を作る時には、ライブでお客さんと対話することも前提で作っていったりして。そこに『超電磁砲』3期の世界観にそぐうようにという。そういうクリエイティブオプションが発動されて、こうした色とりどりの曲を生み出せたんじゃないかなって僕自身は解析してます。
――そうした作品と作品の間のクリエイティブの進化というものを、楽曲に注ぎ込むという。それこそ第3期は前期から約7年ぶりですから、「final phase」での「待ってました」感は強かったですよね。
sat そう。あの曲では「待ってました感」を出したかったんです。それにまた、いいオープニングムービーがついたじゃないですか。あれは最高だった。
今のfripSideの成長と進化の過程をうかがう『超電磁砲』カバーたち
――そうした『超電磁砲』の楽曲が収録された本作ですが、第2期のオリジナルバージョンの他にも現行の第3期によるバージョンも収録されています。およそ3年かけて第3期バージョンを発表してきましたが、こちらもライナーでは『超電磁砲』の楽曲はリアレンジが難しいという旨の発言がありましたが。
sat やっぱり『超電磁砲』の楽曲が一番難しいですよ。例えば僕がこれでリアレンジを失敗したらがっかりする人の数が一番多いのがレールガン関連楽曲。それが他の曲をカバーするのとは全然違ってくるわけです。「私が好きな『sister’s noise』ってこんなんじゃない」みたいなのはなるべく避けたい。それは作品にとっても不幸なことなので。だからこの話はボーカル2人にも散々してきました。「君たちが歌うことによってがっかりさせるようじゃダメなんだよ」って。
――そういったプレッシャーはボーカリスト2人もひしひしと感じていますよね。
sat あると思いますよ。だからこそ全部の楽曲をカバーし終わるまでに3年かかったわけです。
――それこそデビューした2022年のうちに全曲をカバーし終えるということは……。
sat 無理だったと思うな、きっと。
――まさに3年かかった今だからこそ、このアルバムを出す意味も大きいですよね。
sat そうですね。“アニサマ”の話に戻るんですけど、あの日さいたまスーパーアリーナにいたお客さんたちが、彼女たちの「only my railgun」を聴いてあれだけ盛り上がったというのはすごいことなんですよ。もちろん色んな考え方があって、「やっぱり南條(愛乃/第2期ボーカリスト)さんだよな」という人もゼロじゃないと思う。でもあの日、大半のお客さんががっかりしていたら、あんな大合唱にはなってないわけだし。
――本当にそうですよね。さて、本作のトピックとしては、第3期による新録曲「way to answer」「eternal reality」のカバーが収録されています。
sat 「way to answer」も「eternal reality」もそうなんですけど、カバーするのが難しいのを最後に残したなという感じで。
――ちなみに、2022年の「LEVEL5 -judgelight-」と「sister’s noise」からスタートした『超電磁砲』のカバーですが、これはどういった順番で作られていったのですか?
sat やりやすい曲から。
――なるほど。やはり最後に向かうほどに難しくなっていくわけですね。となると今回の2曲が高難易度であったと。
sat そう、2曲ともすごく表現力が試されるというか。普通に歌うと棒読みみたいになってしまうんですよね。
――確かに「way to answer」のAメロあたりはそうかもしれないですね。
sat 「eternal reality」もサビのメロディが結構単調なので、普通に歌うとつまらなくなるんです。だからそれを2022年に歌うのは無理だったんじゃないかな。
――今回新録されたバージョンはそうした表現力も素晴らしく、「eternal reality」はすごくキラキラした仕上がりになりましたね。
sat そう、キラキラしてるでしょ?やっぱり初年度ではあれは出せなかったと思う。
――そうした2曲をもって、『超電磁砲』のカバーが全曲コンプリートと相成りました。
sat 3年かけてコンプリートさせることでfripSideになっていくわけです。47都道府県ツアーもそうで、彼女たちはコンプリートしたじゃないですか。こうしてコンプリートしていく3年間だったんですよね。
――そしてコンプリートの先には新曲も今回収録されています。遊技機「eとある科学の超電磁砲 PHASE NEXT」のイメージソング「PHASE NEXT」です。とにかくfripSideのディスコグラフィの中でも、極めてハイパーな楽曲に仕上がりましたが、『超電磁砲』楽曲としても制作におけるこれまでとの違いはありましたか?
sat まずはアニメと違ってワンコーラス89秒という縛りがない。そこに『超電磁砲』の内容であり美琴の成長も含めていろんなものを加味すると、BPMを速くせざるを得ないものになっていったんですよね。BPMでいうと最近ライブで「only my railgun」や「sister’s noise」をやると、「あれっ、遅い?」と思うことがあるんですよ。時代というのもあるのかな。それで今作るならもっと跳ねてもいいじゃんって今回思ったんですよね。
――トラック全体も非常にテンションの強い作りになっていますよね。
sat そうそう、遊技機のイメージソングで当たった時に流れるんですよね。それも考えて、どこか祝福する曲でありたいなというのもありました。当たりって祝福じゃないですか。そういうのを今回は意識していました。
――またこれがライブではどう披露されるのかが楽しみですね。
sat それはもう……秋冬のツアーでやります!
――というわけで11月と2026年1月に開催されるツアーですが、第3期としては初のホールツアーになります。
sat ありがたいことに結構多くの申し込みをいただいているみたいです。すごく嬉しいことなんですけど、僕はやっぱりこの状況を作り出したボーカルの2人をまずは称えたい。
――なるほど。
sat あの2人はこの3年間本当によく頑張ってくれたと思っていて、歌唱的にもステージ的にも、人間的にも成長を見せてくれたので。多分この先もっと成長していくんだろうけれども、彼女たちの頑張りが形になりつつあるのかなという雰囲気を今回のツアーに向けて感じています。
――2022年からsatさんがおっしゃっていた、軌道に乗るまで3年かかるというのがリリースにもライブにも結実した現在というわけですね。
sat そうですね。本人たちも頑張ったし、スタッフも歯を食いしばってくれた。本当にfripSideって愛されているなと感じていて。そういう気持ちをみんなが持ってくれて力を貸してくれるので、このアルバムとしても16年の結晶だし、ツアーについても第3期としてチームのまとまりがあって、それは陰で支えてくれる皆さんの頑張りのおかげでもあって。やっぱりチームfripSideはいいなってすごく思います。
――まさにfripSideへの愛ですよね。それは“アニサマ”などのフェスにも感じられて。
sat そうですね。リスアニ!さんもそうですけど、そういうアニソンの大型フェスにも出させていただけているのは嬉しいというか、ありがたいですよ。
――気は早いですが2026年以降の活動も楽しみですね。
sat はい。もしかしたらこの前の“アニサマ”や今回のアルバムで、初めて第3期fripSideに触れたという方もいらっしゃると思うんですよ。そういった方々にもワンマンライブに気軽に足を運んでいただきたいですね。
●リリース情報『とある科学の超音楽集 -A Certain Scientific Railgun:Music Chronicles-』
9月24日発売
【初回生産限定盤(3CD枚+1BD)】
品番:WPZL-32229~32
価格:¥15,000(税込)
仕様:描き下ろし版権デジパック仕様、特製スリーブ、歌詞ブックレット(36ページ)
ワーナーミュージック・ストア専売商品
『とある科学の超音楽集 -A Certain Scientific Railgun:Music Chronicles-』
【WMS専売商品】
※初回生産限定盤にWMSオリジナル特典を付けた“超豪華盤”!
品番:WPZL-60066~69
価格:¥22,000(税込)
特典:フォトブック(A4/52P)+アクリルジオラマ(ジャケット用版権2キャラ)+L判ブロマイドセット(アーティスト写真6枚)、ピック(ジャケット用版権 2枚セット)、ライブ音源CD(6曲)
詳細はこちら
https://wmg.jp/fripside/
●ライブ情報
fripSide concert tour 2025→2026 -Liberation Protocol-
2025年11月3日(月・祝)大阪・大阪国際交流センター大ホール
2026年1月4日(日)東京・TACHIKAWA STAGE GARDEN
出演:fripSide(八木沼悟志、上杉真央、阿部寿世)
開場:16:00 / 開演:17:00
前売料金:8,800円(税込)
座種:指定席
関連リンク
fripSide オフィシャルサイト
https://fripside.net/
fripSide オフィシャルX(八木沼悟志)
https://x.com/sat_fripSide
fripSide オフィシャルX(上杉真央)
https://x.com/maouesugi
fripSide オフィシャルX(阿部寿世)
https://x.com/hisayoabe
fripSide オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCp8U4DpexC_DbOrQzjwc7Tw