3月13日にニューアルバム『11-elevens-』をリリースしたばかりの奥井雅美。前作『HAPPY END』から実に2年半ぶりのオリジナルフルアルバムである。
――現在、未曾有の自体が世界を覆っています。そんななかで奥井さんが「音楽の力」を感じたことを教えてください。
奥井雅美 家で勝手に歌うぶんには歌うこともできますが、人前で歌うことが急にできなくなってしまって。後付けにはなってしまいますが、アルバムの制作期間がそんな2020年に入り、そんななかで楽曲を書くことで自分が救われたなと思っています。作って、歌って、レコーディングをして、自分自身が音楽の力によって救われましたし、その大きさを改めて感じました。それからリリースをしたあとに皆さんからの感想やSNSに並ぶ気持ちを見ていても、そういったなかで作ったものは共感してもらえるんだなとも思いました。
昔から、恋愛の歌でもそうではない歌でも9割は自分に起きたことでなおかつ納得したことではないと楽曲にできなかったりもするので、実際に感じてきた想いは伝わるんですね。このコロナ禍で感じたことや思ったことを書いたからこそ、皆さんの想いにも寄り添えたんだな、と思いました。ちょうどJAM Projectがデビュー20周年の映画を作っていたのと並行した制作でもあるので、聴いてくださった方が深く共感してくれたのには、そのプロジェクトも作用はしていると思うんです。リアルタイムに感じたことはちゃんと伝わるんだと実感しましたね。
――そうなると2020年の制作でなければ出てこなかったメッセージやメロディもある、ということですよね。
奥井 ほぼほぼそうです。私は曲も歌詞も書き溜めができないので、その時その時の想いをすぐに出すというか。昔から「築地並みの新鮮さ」と言っていたんですね。やっぱりそのときに感じたことしか書けてはいないから、今でなければ書けなかったことがほとんどです。家にずっといるからこそ感じるものとか、外に出て人と会って仕事をしているとすっかり忘れているようなものもありましたし、経済活動や人の動きが止まったときには「どこどこのお水がきれいになってお魚が戻ってきました」とか「空気がきれいになって青空が見えました」といったニュースもありましたよね。そんな報告を目にすることによって私自身が感じたことも楽曲になっています。家にいて、ニュースを見て感じたことも歌になっていますし、そうでなかったなら「空気が綺麗に」と思ったとしても深くまで考えが及ぶこともなかったと思うんです。今こういった状況だからこそ出てきた言葉や想いは確実に込められています。
――経済が止まったときにもエンタメは止まりませんでした。それはどうしてだと思いますか?
奥井 JAM Projectの20周ツアーがなくなってしまったので、自分たちは止まったほうではあると思うんです。私自身はアルバムの制作が始まったので止まらなかったのですが……。
――そんななかで制作された今回のアルバム『11-elevens-』ですが、『HAPPY END』以来のフルアルバムになります。どんなきっかけでこのタイミングでの制作になったのでしょうか。
奥井 JAM Projectはタイアップもありながらコンスタントにアルバムやシングルを出させてもらっているんですが、ソロはきっかけがないと出せないんです。『HAPPY END』もそうでしたが、サウンドプロデューサーの土井潤一さんが私のアルバムを作りたいって言ってくださったんです。最近ではサブスクもあるし、配信がメインになっていくであろう時期に、それでもアルバムを出そうと話をしてくださったのはありがたかったですね。ただ2019年くらいにお話をもらったんですが、JAM Projectの20周年もありますし、タイミングがはっきり決まらなかったのと、自分自身のエンジンが掛からなかったんです。言いたいことがなかったのかもしれないですね、そのときには。
――アルバムのリード曲は「天使と悪魔」。この曲をリードにしようと思われたのはどうしてだったのでしょうか。
奥井 『11-elevens-』というタイトルは11曲入っているから、という意味もあるんですが、「1と1」を考えると、光と闇や善と悪といった二面性のあるものも浮かぶんです。それを引用するようにアルバムのテーマにしたんですね。「天使と悪魔」は、JAM Projectで表に出している顔とも若い頃からソロで歌ってきた曲とも違ったサウンド感の曲ですし、年相応でナチュラルな感じでもあると思って。今までやったことのない感じの楽曲だからこそリード曲にしました。これまでやっていたような曲をリード曲にしたら、それこそこのアルバムが「奥井さんっぽい」と思われてしまう。そうではないアルバムにしたい、という想いがありました。それと、この曲はデモの段階からこれまでとは違った作り方をしたので、リード曲としてアルバムの顔にしたいと思ったんです。
――これまでと違う作り方というと?
奥井 リズムを録って、コードを入れて、コーラスを自分で入れてからボーカルラインを作っていったんですね。
――そんな『11-elevens-』はすでにリリースもされ、皆さん聴き込んでいらっしゃると思うので、改めて「これを知ると楽曲をより楽しめる」というエピソードを教えていただきたいと思います。まずは「プライベートヒロイン-OTAKATSUDAYS-」のお話をお願いします。
奥井 蓋を開けるとこういう人間なんです(笑)。JAM Projectのロックなイメージも強いと思うんですが、韓流ドラマを見ているときの自分の姿を書きました。皆さんも推しの人に限らず、好きな食べ物でもキャラクターでも、夢中になれるものってあると思いますし、コロナ禍にあってもそんな推しへの想いは大切だなと感じて、この曲が完成しました。これも「天使と悪魔」と同じく、コーラスを重ねながら作ったので、ライブでやるときにはどうしたらいいかな、と悩んでいます。
――続いて「Civil war-1vs1-」。
奥井 私の好きなGOTCHAROCHAというバンドでギターを弾いているJUNさんに書いていただきました。いつかアルバムでご一緒したいと思っていた方で、大好きなサウンドで大好きなギターソロで揃えた1曲です。楽曲とアレンジの持つ世界観は歌詞に影響をするものだなと改めて感じました。
――そしてアルバム唯一の既存曲である「Blood Blade -光と闇の彼方に-」です。
奥井 これは「ラングリッサー リインカーネーション-転生-」というゲームの主題歌ですが、「光と闇」はたまたまなんです。元々私はこういうテーマで曲を書くことはもちろん、考えていることも多いんです。ゲームのストーリーを読ませていただいて書いた曲ではあるのですが、自分の中にある光と闇の戦いについて考えてきたものがリンクしたからこそ生まれた1曲です。
――ここまでの楽曲の並びが次曲「天使と悪魔」への1つの流れとして繋がっている感がありますね。
奥井 たしかに。「天使と悪魔」は女性目線で魅惑的な男性について書いているんですが、小悪魔な女性に翻弄される男性にも通じる曲なんです。でも闇や悪魔的な雰囲気は男女共モテにも繋がるので、そんな魅力にハマることは天国だよね、という状況を描きました。
――そしてガラリと雰囲気の違う「コトノハ」。
奥井 ピアノ1本で曲を作ってアレンジをお願いしたところ、やはりピアノ1本のアレンジになって返ってきた曲なんです。
――「21世紀サバイバー」はいかがでしたか?
奥井 影山ヒロノブさんにお願いした曲です。メロとコードとリズムでシンプルな感じで作ってくださったので、アレンジをどうするか迷ったのですが、影山さんも韓流ドラマやK-POPがお好きなので、「ダンサブルな曲にしてほしい」とお願いしてアレンジをしてもらいました。コーラスもハモを増やして、影山さんが作ってくださったシンプルなケーキに自分でデコレーションをしていきました。歌詞はコロナ禍の中で生き抜きたいね!という気持ちを綴っています。JAM Projectの映画のタイトルが「GET OVER」(※今年公開された初のドキュメンタリー映画)なので、歌詞の中にも入れてシンクロさせるギミックを入れています。
――そしてJAM Projectメンバー・きただにひろしさんが手がけた「JUDGMENT」ですね。
奥井 だにーくん(きただに)のはデモからガーッと勢いのあるロックでした。だにーくんの曲のイメージを残しながら黒須克彦さんがアレンジをしてくださいました。これからのAIによる監視社会をイメージして皮肉った歌詞にしました。ちゃんとしないと知らないよ?みたいな感じかな(笑)。私は陰謀論や都市伝説の本も読むので、そういった発想で書きました。
――続いては「秋桜」です。
奥井 ピアノを弾きながら作ったのですが、その音を残してもらっています。自ら未来を断ってしまう人が今、多くなっていますし、コロナ禍にそんなニュースが溢れているのを見ていたときに出来ました。残された人の想い。後悔と共にそれでも生きていかなければいけない、生きていって欲しいという想い。そこに私が勉強しているスピリチュアルな想いも込めました。
――そんな1曲のあとは、こちらもJAM Projectのメンバーである福山芳樹さんが手がけた「Sylphide」。
奥井 タイトルは「風の精」という意味です。本当は福ちゃん(福山)にシェリル・クロウみたいな曲を作ってってお願いしたんです。大人の女性が野外で歌うようなゆったりした曲がいいなって言ったらザ・ビートルズみたいな曲が上がってきて。デモで福ちゃんが歌っているから余計にビートルズ感があったと思うんですけど(笑)。男の人らしいメロディだったので、アレンジで儚げに女性的なものをお願いして、上がってきたところに歌詞を書きました。モチーフは「人魚姫」です。人魚姫は恋をして、声を失っても脚を手に入れて王子に会うけれど想いを遂げることはできずに泡になってしまう。そのあとに風の精になったという説もあると聞いて、それなら幸せだし、ずっと自由に生きていけるといいなと思って書きました。
――そして「Beautiful Life」です。
奥井 コロナ禍の中でアーティストが自分のできる範囲で曲を作ったり、映像を作ったりして発表する「MIX UP」というものをランティスさんが企画してくださったんです。私はこの曲をワンハーフ作って、事務所のチームでアレンジをして動画を作ってもらって発表して。この曲が先ほどお話しした、人の動きが止まったことで空気がきれいになったり海のゴミが減ったり、というニュースで気づいたことや感じたことを書いた楽曲です。さらに家にいることで家族との時間や料理とか改めて自分の周囲での気付きなどもあったと聞いて。そういったことも楽曲にしました。
――ラストは「手をつないで」です。
奥井 本当は「Beautiful Life」で終わらせるつもりだったんですが、遠藤正明さんがお忙しくてお願いできなかったことでもう1曲私が作ることになったんです。その時点でほとんど曲が出来ていたので、どういう曲がいいかなと考え、最後に大団円エンドな曲を作りたくて制作に入りました。これもコロナ禍を意識していますが、孤独を感じている人も「繋がっているよ」と言いたくて。歌詞を書こうと思っていたときに窓から空を見たら雲が1つ浮かんでいたんです。その雲がどんどん周りの雲と繋がって大きな塊になっていく様をじっと見つめていたら、きっと人も一人ではなくこうやって繋がっているんだと思って。一人だと思わないでほしい、ということを歌いました。これまでにも“Animelo Summer Live”のテーマ曲でもこのようなテーマで書いたことがあるんですが、辛いなと思っている人がいたら手を伸ばせる人でありたい。そんな私の想いを込めました。
――貴重なお話をありがとうございました。奥井さんの様々な想いが込められたこのアルバムがリリースされた今、やはり皆さんが楽しみにされているのはアルバム発売記念ライブかと思います。意気込みをお願いできますか。
奥井 5月22日に国のガイドラインに沿って有観客ライブを行います。もうずっとみんなに会っていないですし、JAM Projectでのツアーがなくなってしまいましたし、ソロのライブでは2019年のクリスマス以来なんです。わぁー!と声は出せなくても楽しめるはずですし、今、自分が一番ライブを楽しみにしています。制限があるなかですが、そんななかでも楽しんでいただけるようなアイテムを作ろうと絶賛企画中なので、来てくださる皆さんにはそこも楽しみにしていてもらいたいです。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
●リリース情報
奥井雅美 ニューアルバム
『11-elevens-』
発売中
品番:LACA-15868
価格:¥3,000+税
MV Illustration:中村綾花
<INDEX>
1.プライベートヒロイン-OTAKATSUDAYS-
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:長田直之
2.Civil war-1vs1-
作詞:奥井雅美 作曲・編曲:JUN(from GOTCHAROCKA)
3.Blood Blade -光と闇の彼方に-
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:山崎 淳
4.天使と悪魔
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:長田直之
5.コトノハ
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:安瀬 聖
6.21世紀サバイバー
作詞:奥井雅美 作曲:影山ヒロノブ 編曲:長田直之
7.JUDGEMENT
作詞:奥井雅美 作曲:きただにひろし 編曲:黒須克彦
8.秋桜
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:黒須克彦
9.Sylphide
作詞:奥井雅美 作曲:福山芳樹 編曲:長田直之
10.Beautiful Life
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:森田純正
11.手をつないで
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:黒須克彦
関連リンク
「今、思っていることや体験したことを納得したうえで楽曲にしている」と話す奥井の、まさしく“現在”の心境と見えている景色が詰まった11曲は、コロナ禍でなければ生まれなかったものばかり。ちょうどJAM Project結成20周年のアニバーサリーイヤーが世界を覆う伝染病によって立ち止まることになってしまった時間に、改めて自身の想いを音楽に込めた奥井が、現在すでにファンにしっかりと聴き込まれているアルバム収録の11曲について、それぞれに込めた想いを語る。
――現在、未曾有の自体が世界を覆っています。そんななかで奥井さんが「音楽の力」を感じたことを教えてください。
奥井雅美 家で勝手に歌うぶんには歌うこともできますが、人前で歌うことが急にできなくなってしまって。後付けにはなってしまいますが、アルバムの制作期間がそんな2020年に入り、そんななかで楽曲を書くことで自分が救われたなと思っています。作って、歌って、レコーディングをして、自分自身が音楽の力によって救われましたし、その大きさを改めて感じました。それからリリースをしたあとに皆さんからの感想やSNSに並ぶ気持ちを見ていても、そういったなかで作ったものは共感してもらえるんだなとも思いました。
昔から、恋愛の歌でもそうではない歌でも9割は自分に起きたことでなおかつ納得したことではないと楽曲にできなかったりもするので、実際に感じてきた想いは伝わるんですね。このコロナ禍で感じたことや思ったことを書いたからこそ、皆さんの想いにも寄り添えたんだな、と思いました。ちょうどJAM Projectがデビュー20周年の映画を作っていたのと並行した制作でもあるので、聴いてくださった方が深く共感してくれたのには、そのプロジェクトも作用はしていると思うんです。リアルタイムに感じたことはちゃんと伝わるんだと実感しましたね。
――そうなると2020年の制作でなければ出てこなかったメッセージやメロディもある、ということですよね。
奥井 ほぼほぼそうです。私は曲も歌詞も書き溜めができないので、その時その時の想いをすぐに出すというか。昔から「築地並みの新鮮さ」と言っていたんですね。やっぱりそのときに感じたことしか書けてはいないから、今でなければ書けなかったことがほとんどです。家にずっといるからこそ感じるものとか、外に出て人と会って仕事をしているとすっかり忘れているようなものもありましたし、経済活動や人の動きが止まったときには「どこどこのお水がきれいになってお魚が戻ってきました」とか「空気がきれいになって青空が見えました」といったニュースもありましたよね。そんな報告を目にすることによって私自身が感じたことも楽曲になっています。家にいて、ニュースを見て感じたことも歌になっていますし、そうでなかったなら「空気が綺麗に」と思ったとしても深くまで考えが及ぶこともなかったと思うんです。今こういった状況だからこそ出てきた言葉や想いは確実に込められています。
――経済が止まったときにもエンタメは止まりませんでした。それはどうしてだと思いますか?
奥井 JAM Projectの20周ツアーがなくなってしまったので、自分たちは止まったほうではあると思うんです。私自身はアルバムの制作が始まったので止まらなかったのですが……。
色々な人を見ていると、フットワークの軽い人は自分が動かないと、と行動していましたし、若い人たちはそれこそ様々なツールを駆使して動き出すのは早かったですよね。そしてもちろん、そこで生まれるものを求める人も多かった。『鬼滅の刃』のような象徴される力のあるエンタメを多くの人が求めたというのもあったと思います。様々なものが止まってしまったぶん、動いているものへと気持ちが寄せられていった。きっと年齢や性別に関係なく、好きなものや応援したい想いは必要なんだなと感じました。
――そんななかで制作された今回のアルバム『11-elevens-』ですが、『HAPPY END』以来のフルアルバムになります。どんなきっかけでこのタイミングでの制作になったのでしょうか。
奥井 JAM Projectはタイアップもありながらコンスタントにアルバムやシングルを出させてもらっているんですが、ソロはきっかけがないと出せないんです。『HAPPY END』もそうでしたが、サウンドプロデューサーの土井潤一さんが私のアルバムを作りたいって言ってくださったんです。最近ではサブスクもあるし、配信がメインになっていくであろう時期に、それでもアルバムを出そうと話をしてくださったのはありがたかったですね。ただ2019年くらいにお話をもらったんですが、JAM Projectの20周年もありますし、タイミングがはっきり決まらなかったのと、自分自身のエンジンが掛からなかったんです。言いたいことがなかったのかもしれないですね、そのときには。
ただコロナ禍に入ったことで言いたいことがどんどん湧いてきて、曲や歌詞が出てきたんです。「作りましょう」と言ってもらい、自分から楽曲が湧き上がってきたのがこのタイミングだったということですね。
――アルバムのリード曲は「天使と悪魔」。この曲をリードにしようと思われたのはどうしてだったのでしょうか。
奥井 『11-elevens-』というタイトルは11曲入っているから、という意味もあるんですが、「1と1」を考えると、光と闇や善と悪といった二面性のあるものも浮かぶんです。それを引用するようにアルバムのテーマにしたんですね。「天使と悪魔」は、JAM Projectで表に出している顔とも若い頃からソロで歌ってきた曲とも違ったサウンド感の曲ですし、年相応でナチュラルな感じでもあると思って。今までやったことのない感じの楽曲だからこそリード曲にしました。これまでやっていたような曲をリード曲にしたら、それこそこのアルバムが「奥井さんっぽい」と思われてしまう。そうではないアルバムにしたい、という想いがありました。それと、この曲はデモの段階からこれまでとは違った作り方をしたので、リード曲としてアルバムの顔にしたいと思ったんです。
――これまでと違う作り方というと?
奥井 リズムを録って、コードを入れて、コーラスを自分で入れてからボーカルラインを作っていったんですね。
その制作方法で作った曲はこれまでになかったので、そんな新しい手法で制作したぶん自分でもすごく気に入っていたので、リード曲にしたいし、MVも作りたいと思ったんです。MVには私は出演せず絵だけで表現しているですが、そうしたほうが歌詞の世界観が伝わるかなと思ったんですね。
――そんな『11-elevens-』はすでにリリースもされ、皆さん聴き込んでいらっしゃると思うので、改めて「これを知ると楽曲をより楽しめる」というエピソードを教えていただきたいと思います。まずは「プライベートヒロイン-OTAKATSUDAYS-」のお話をお願いします。
奥井 蓋を開けるとこういう人間なんです(笑)。JAM Projectのロックなイメージも強いと思うんですが、韓流ドラマを見ているときの自分の姿を書きました。皆さんも推しの人に限らず、好きな食べ物でもキャラクターでも、夢中になれるものってあると思いますし、コロナ禍にあってもそんな推しへの想いは大切だなと感じて、この曲が完成しました。これも「天使と悪魔」と同じく、コーラスを重ねながら作ったので、ライブでやるときにはどうしたらいいかな、と悩んでいます。
――続いて「Civil war-1vs1-」。
奥井 私の好きなGOTCHAROCHAというバンドでギターを弾いているJUNさんに書いていただきました。いつかアルバムでご一緒したいと思っていた方で、大好きなサウンドで大好きなギターソロで揃えた1曲です。楽曲とアレンジの持つ世界観は歌詞に影響をするものだなと改めて感じました。
ちなみにこの曲の歌詞は、コロナは関係なく、世の中を見ていて感じることを書きました。私自身、スピリチュアルなことが好きで勉強してもいるのですが、魔にやられる闇の自分と光の自分が自身の内側で戦っている様を表現しました。
――そしてアルバム唯一の既存曲である「Blood Blade -光と闇の彼方に-」です。
奥井 これは「ラングリッサー リインカーネーション-転生-」というゲームの主題歌ですが、「光と闇」はたまたまなんです。元々私はこういうテーマで曲を書くことはもちろん、考えていることも多いんです。ゲームのストーリーを読ませていただいて書いた曲ではあるのですが、自分の中にある光と闇の戦いについて考えてきたものがリンクしたからこそ生まれた1曲です。
――ここまでの楽曲の並びが次曲「天使と悪魔」への1つの流れとして繋がっている感がありますね。
奥井 たしかに。「天使と悪魔」は女性目線で魅惑的な男性について書いているんですが、小悪魔な女性に翻弄される男性にも通じる曲なんです。でも闇や悪魔的な雰囲気は男女共モテにも繋がるので、そんな魅力にハマることは天国だよね、という状況を描きました。
――そしてガラリと雰囲気の違う「コトノハ」。
奥井 ピアノ1本で曲を作ってアレンジをお願いしたところ、やはりピアノ1本のアレンジになって返ってきた曲なんです。
その曲に歌詞を書いたときに見えた世界は男性目線の想いでした。かつての恋人が今の相手と幸せになっている様子に後悔をしている男の人が主人公で。伝えられなかった言葉をあのときもしも伝えていたなら、という曲です。歌を入れたあとに生の弦を入れよう、という話になり弦を追加したのですが、それによってより感情が溢れて、世界が広がったと思っています。
――「21世紀サバイバー」はいかがでしたか?
奥井 影山ヒロノブさんにお願いした曲です。メロとコードとリズムでシンプルな感じで作ってくださったので、アレンジをどうするか迷ったのですが、影山さんも韓流ドラマやK-POPがお好きなので、「ダンサブルな曲にしてほしい」とお願いしてアレンジをしてもらいました。コーラスもハモを増やして、影山さんが作ってくださったシンプルなケーキに自分でデコレーションをしていきました。歌詞はコロナ禍の中で生き抜きたいね!という気持ちを綴っています。JAM Projectの映画のタイトルが「GET OVER」(※今年公開された初のドキュメンタリー映画)なので、歌詞の中にも入れてシンクロさせるギミックを入れています。
――そしてJAM Projectメンバー・きただにひろしさんが手がけた「JUDGMENT」ですね。
奥井 だにーくん(きただに)のはデモからガーッと勢いのあるロックでした。だにーくんの曲のイメージを残しながら黒須克彦さんがアレンジをしてくださいました。これからのAIによる監視社会をイメージして皮肉った歌詞にしました。ちゃんとしないと知らないよ?みたいな感じかな(笑)。私は陰謀論や都市伝説の本も読むので、そういった発想で書きました。
――続いては「秋桜」です。
奥井 ピアノを弾きながら作ったのですが、その音を残してもらっています。自ら未来を断ってしまう人が今、多くなっていますし、コロナ禍にそんなニュースが溢れているのを見ていたときに出来ました。残された人の想い。後悔と共にそれでも生きていかなければいけない、生きていって欲しいという想い。そこに私が勉強しているスピリチュアルな想いも込めました。
――そんな1曲のあとは、こちらもJAM Projectのメンバーである福山芳樹さんが手がけた「Sylphide」。
奥井 タイトルは「風の精」という意味です。本当は福ちゃん(福山)にシェリル・クロウみたいな曲を作ってってお願いしたんです。大人の女性が野外で歌うようなゆったりした曲がいいなって言ったらザ・ビートルズみたいな曲が上がってきて。デモで福ちゃんが歌っているから余計にビートルズ感があったと思うんですけど(笑)。男の人らしいメロディだったので、アレンジで儚げに女性的なものをお願いして、上がってきたところに歌詞を書きました。モチーフは「人魚姫」です。人魚姫は恋をして、声を失っても脚を手に入れて王子に会うけれど想いを遂げることはできずに泡になってしまう。そのあとに風の精になったという説もあると聞いて、それなら幸せだし、ずっと自由に生きていけるといいなと思って書きました。
――そして「Beautiful Life」です。
奥井 コロナ禍の中でアーティストが自分のできる範囲で曲を作ったり、映像を作ったりして発表する「MIX UP」というものをランティスさんが企画してくださったんです。私はこの曲をワンハーフ作って、事務所のチームでアレンジをして動画を作ってもらって発表して。この曲が先ほどお話しした、人の動きが止まったことで空気がきれいになったり海のゴミが減ったり、というニュースで気づいたことや感じたことを書いた楽曲です。さらに家にいることで家族との時間や料理とか改めて自分の周囲での気付きなどもあったと聞いて。そういったことも楽曲にしました。
――ラストは「手をつないで」です。
奥井 本当は「Beautiful Life」で終わらせるつもりだったんですが、遠藤正明さんがお忙しくてお願いできなかったことでもう1曲私が作ることになったんです。その時点でほとんど曲が出来ていたので、どういう曲がいいかなと考え、最後に大団円エンドな曲を作りたくて制作に入りました。これもコロナ禍を意識していますが、孤独を感じている人も「繋がっているよ」と言いたくて。歌詞を書こうと思っていたときに窓から空を見たら雲が1つ浮かんでいたんです。その雲がどんどん周りの雲と繋がって大きな塊になっていく様をじっと見つめていたら、きっと人も一人ではなくこうやって繋がっているんだと思って。一人だと思わないでほしい、ということを歌いました。これまでにも“Animelo Summer Live”のテーマ曲でもこのようなテーマで書いたことがあるんですが、辛いなと思っている人がいたら手を伸ばせる人でありたい。そんな私の想いを込めました。
――貴重なお話をありがとうございました。奥井さんの様々な想いが込められたこのアルバムがリリースされた今、やはり皆さんが楽しみにされているのはアルバム発売記念ライブかと思います。意気込みをお願いできますか。
奥井 5月22日に国のガイドラインに沿って有観客ライブを行います。もうずっとみんなに会っていないですし、JAM Projectでのツアーがなくなってしまいましたし、ソロのライブでは2019年のクリスマス以来なんです。わぁー!と声は出せなくても楽しめるはずですし、今、自分が一番ライブを楽しみにしています。制限があるなかですが、そんななかでも楽しんでいただけるようなアイテムを作ろうと絶賛企画中なので、来てくださる皆さんにはそこも楽しみにしていてもらいたいです。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
●リリース情報
奥井雅美 ニューアルバム
『11-elevens-』
発売中
品番:LACA-15868
価格:¥3,000+税
MV Illustration:中村綾花
<INDEX>
1.プライベートヒロイン-OTAKATSUDAYS-
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:長田直之
2.Civil war-1vs1-
作詞:奥井雅美 作曲・編曲:JUN(from GOTCHAROCKA)
3.Blood Blade -光と闇の彼方に-
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:山崎 淳
4.天使と悪魔
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:長田直之
5.コトノハ
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:安瀬 聖
6.21世紀サバイバー
作詞:奥井雅美 作曲:影山ヒロノブ 編曲:長田直之
7.JUDGEMENT
作詞:奥井雅美 作曲:きただにひろし 編曲:黒須克彦
8.秋桜
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:黒須克彦
9.Sylphide
作詞:奥井雅美 作曲:福山芳樹 編曲:長田直之
10.Beautiful Life
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:森田純正
11.手をつないで
作詞・作曲:奥井雅美 編曲:黒須克彦
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