小倉 唯の通算13枚目となるニューシングル「Clear Morning」は、間違いなく彼女のキャリアにとって特別な作品となるだろう。自身もシロコ役で出演するアプリゲーム「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」のテーマソングとなる表題曲は、透明感と浮遊感溢れるシンセサウンドに彼女のささやき声にも似た歌唱アプローチが絶妙にマッチした、フューチャリスティックなダンスポップチューン。
一方のカップリング曲「pyu♥a purely」は、ファンとの相互的な絆と繋がりを小倉自身の作詞で表現したラブリーなナンバーに。小倉 唯が今の時代に届けたい想い、伝えたい気持ちがギュっと凝縮された本作について、自身の口から語ってもらった。

ASMR効果も抜群!? 新鮮な世界観が広がる「Clear Morning」
――今回のニューシングルの表題曲「Clear Morning」は、アプリゲーム「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」のテーマソングになります。本作には小倉さんもシロコ役で出演されていますが、まずは作品全体の印象をお聞かせください。

小倉 唯 (キャラクターボイスの)収録のときにスタッフの方から伺ったのは、ゲーム全体を通して、ビジュアルや世界観に統一性をもたせているとのことで、色彩的に透明感のある絵のタッチや雰囲気が印象的でした。かわいらしいキャラクターがたくさん登場するんですが、その女の子たちが重火器を手に戦うギャップもユニークだと思います。

――数千の学園が集まる“学園都市キヴォトス”を舞台にした、日常とバトルが同居する不思議な世界観ですよね。小倉さん演じるシロコはどんなキャラクターですか?

小倉 シロコは物静かだけど自分の意志をはっきりと持っていて、自分の貫きたいことにとにかく真っ直ぐ進んでいく、一途な女の子という印象があります。ビジュアル的には少しミステリアスな雰囲気がありつつ、かわいらしさもある子なので、キャラクターの魅力を引き出せる声音をイメージして役作りをしていきました。それと、作品全体に感じる透明感を声でも表現できればと意識してみました。

――「Clear Morning」も透明感を感じさせる楽曲ですが、制作はどのように進めていったのでしょうか?

小倉 今回はタイアップ楽曲だったので、ゲーム制作サイドからのリクエストに沿う形で制作を進めていきました。その作業は音楽チームのスタッフさんとゲーム制作サイドの方々で行われたので、初めて聴いたときにはアレンジや曲の雰囲気はほとんど完成していました。
聴いたときは新鮮味を感じましたし、「自分はこの曲でどんな表現ができるんだろう?」という、期待と不安が入り混じった気持ちがありました。

――たしかに浮遊感のあるシンセサウンドと低音の効いたビートが新鮮で、いわゆるフューチャーベースに通じる近未来的なアレンジになっています。小倉さんのこれまでの楽曲でいうと、トロピカルハウスの要素を感じさせる「Brand-New-Road」(2019年)のアプローチに近いものを感じたのですが、小倉さん的にはこういう楽曲の方向性にどんな印象をお持ちですか?

小倉 この楽曲を初めて聴いたときは率直に素敵だなと思いましたし、私もすんなり受け入れられることができました。完成した音源を自分でもよく聴いているので、そういった意味では自分の中でも好きなジャンルの曲調なのかなと思います。

――また、小倉さんのややささやくような歌声が、この未来的なサウンドにとてもマッチしていて、楽曲全体に素晴らしい透明感を与えているように感じました。歌声のアプローチに関しては、どのように組み立てていきましたか?

小倉 私がこの楽曲制作においてしっかりと関われるのは歌声の部分だと思っていたので、自分の中である程度イメ―ジを構築したうえでレコーディングに臨みました。ウィスパーボイスに近い歌い方も、ディレクションを受けて歌ったわけではなく、自分が曲を聴いた当初、「優しく響き渡るような歌声であれば、よりこの楽曲に寄り添えるのでは?」というイメージが浮かんだから。1つ1つの言葉の響きを意識しながら、「歌う」というよりは「演じる」に近いイメージでした。

――サビ後半の掛け合いパートや絹のようなハーモニーを含め、この楽曲の歌声にはある種、ASMR的な心地良さを感じます。それこそ小倉さんはYouTubeにASMR動画をアップしてもいますが、取り組み的に意識した部分はありましたか?

小倉 歌ったときには、特にASMRを狙ったわけではなかったんですが、完成形を聴いたら、私もまさに「聴くASMR」というニュアンスがあるなと感じました。すごく近代的な楽曲になったと思いますし、自分特有の声質を上手くこの曲に反映できたのかなと感じています。トラックダウンに立ち会わせていただいたときも、「なるべくコンプをかけすぎず、できる限り自分の声質をナチュラルに出していただきたいです」と伝えさせていただきました。


――自分の声だからこその表現を追求したわけですね。今回の楽曲は特に「声フェチ」に刺さるアプローチを感じるのですが、例えば小倉さんは自分の歌声の特質や魅力について、どのように捉えていますか?

小倉 うーん、どうなんでしょう? 私の歌声は、聴き手によって好みが分かれるのかなと。例えば今回は、自分がレコーディングで付けた細かい抑揚やニュアンスをなるべく消さないよう、できる限りナチュラルな声音でトラックダウンしていただきましたけど、逆にコンプをしっかりとかけていくと、どんどん電波的で、ボーカロイドみたいな声音になっていくんですよ。自分の楽曲だと「エンジョイ!」(2017年)はそういうイメージが強くて。なので、ああいったちょっと電子的で耳に引っかかるような声音が好きな方もいらっしゃれば、今回のように多少のざらつきがあるリアルな声色のほうが聴き心地良い、という方もいらっしゃると思います。きっと、人によって私の声質の好きなポイントや捉え方は違ってくるんじゃないでしょうか。

――興味深い分析ですね。では、歌詞はどのように制作を進めていきましたか?

小倉 歌詞も基本的にはお任せでした。ただ、ゲーム内でプレイヤーのことを「先生」と呼ぶ設定があったので、そこは少しリンクさせたくて。「先生」というキーワードを上手く楽曲に組み込んでいただければいいな、と事前に相談させていただきました。

――なるほど。そういった作品との関連性もありつつ、最初に受け取ったときは全体としてどのような印象を受けましたか?

小倉 作詞してくださった磯谷(佳江)さんは、今までも何度かご一緒させていただいている方なので、どんな言葉を選んでくださるか私も楽しみにしていました。
「Clear Morning」というタイトルにちなんで、朝を感じさせるシチュエーションや情景、まだ見えぬ未来に向かって進んでいくような広がる世界観も感じましたし、スマートフォンに向かって見ている景色と、そこから視点を上げて空や風を感じる、外側に向けた世界、そのバランスが絶妙だと思いました。あとは、きれいな響きの単語がたくさん散りばめられている印象もありましたね。

――それらの歌詞の印象を受けて、実際に歌う際に心がけたことはありますか?

小倉 歌詞にヒントがある部分は、そこに書かれている情景を思い浮かべながら歌わせていただきました。あとは、未来に突き進んでいくひたむきな想いを感じさせるサビの部分。そこに関しては、情景というよりも自分の気持ちを奮起させ、聴いている方の気持ちも引っ張っていけるよう熱をもって歌いました。

コレオグラファーとしての新たな挑戦が盛り込まれたMV
――「Clear Morning」のMVについてもお伺いさせてください。今回はダンスシーンを中心に構成されていますが、どんなコンセプトで撮影されましたか?

小倉 1つは「光」をテーマに、色々とカラフルな光が差し込む、幻想的な世界観を作っていただきました。あとは、タイトルに「Morning」と入っているので、モーニングルーティーンを彷彿させるような朝の日常を切り取ったシーンも描かれています。

――今回のダンスシーンは、バックダンサーとのフォーメーションも含め、小倉さんが振付を担当されたそうですね。

小倉 はい。ダンサー全員分の振付を考えるのは初めての試みで、自分の振りのみならず、後ろで踊っているダンサーの立ち位置やフォーメーション、すべての動作を監修させていただきました。なので、クレジットにもコレオグラファーという立場で名前を掲載させていただいています。
なおかつ、1つの意志表明として、「小倉唯」ではなく「Yui.」という一人の振付師として挑戦に臨みました。



――コレオグラファーとしての活動ビジョンも、自分の中で広がっていたりするのですか?

小倉 今回は自分の楽曲でしたが、いずれはほかのアーティストさんの楽曲への振付もしてみたいですし、例えばユニットやチームで活動されている方のフォーメーションや振付を担当させていただく機会もいずれあったらいいなと思っています。

――MVでは毎回衣装にもこだわりが詰まっていますが、今回はダンスシーンの衣装を白で統一していますね。

小倉 今回の衣装は、私から衣装さんに大まかなイメージをお伝えしてデザインしていただきました。全体を通して“透明感 ”がMVのキーワードになっていたので、それをより強調できるよう、シースルーのレース生地を使っていただいたり。スカートも透け感のある素材で、ダンスの動きが出るような形にしてもらいました。それから、部分的に光を反射するオーロラの生地を使ったり、と色々なこだわりが詰まっています。

――光の質感も含めて天女っぽい雰囲気がありますよね。

小倉 まさに浮遊感という言葉が近いのかもしれないですけど、ゆらゆらと動きのある雰囲気は、振付を含めて意識したポイントです。

――それとこのMVでぜひ触れておきたいのが、時おり映り込む銀髪でショートヘア姿の小倉さんです。あれはシロコをイメージした恰好ですか?

小倉 そうですね。以前から、いつもの自分とは少し違うイメージの恰好をしてみたいと言う憧れがあったので、今回タイアップ作品や私の演じるキャラクターが、この楽曲の世界観を表現するうえで上手くリンクするんじゃないかなと思い、提案させていただきました。


――小倉さんはデビュー以来、ずっと黒髪ロングのイメージが強いですけど、銀髪のショートヘアになってみてどうでしたか?

小倉 自分の頭の中では想像できていたようで、いざ、画面に映った自分を見てみるとかなり新鮮でした。自分だけど自分じゃない人を見ているような、不思議な感覚になりましたね。新しいメイクをしたり、新しいファッションに挑戦したり、という感覚に近かったです。


みんなのピュアな瞳が生んだカップリング曲「pyu♥a purely」
――カップリング曲の「pyu♥a purely」は、小倉さんご自身が作詞した楽曲になります。そもそもどんなイメージで作り始めたのですか?

小倉 コンセプトとしては、私からファンの方に向けたメッセージでありつつも、ファンの方が私のことを応援してくださったりする気持ち、そしてファンの方から私へ向けての視点ともリンクできるような、相互性のある曲にできればいいなと思いました。また、今はコロナ禍で先が見えない大変な毎日を皆さん送っていると思うので、そんなときに心の支えになる、そっと背中を押せるような温かい楽曲にできればいいなと。近い距離感でそっと寄り添えるような曲を目指しました。

――その曲想に沿った楽曲を作ってもらったのでしょうか?

小倉 楽曲は以前から「いつか歌えたらいいなあ」と思いストックしていたものだったんです。表題曲と分離することなく、どちらの楽曲もより良く見えるようなバランスを考えたときに、ふとこの楽曲のメロディを思い出して。このタイミングでメロディラインを思い出したのは、ちょっと不思議というか、何か意味があったのかな、なんて思いました。

――たしかにどこか温かさを感じさせるメロディラインで、先ほどのコンセプトにもマッチしています。そこから歌詞を書くにあたって、どのように作業を進めていきましたか?

小倉 まずは楽曲のタイトルやコンセプトから決めてました。
“ココロ”や“アイコンタクト”といった、楽曲の中でキーとなる言葉を探していくなかで、具体的に自分が書き上げたい曲のテーマが見えてきましたね。初めに大枠を固めてから、内側を埋めていくような作業だったと思います。

――たしかに“アイコンタクト”は本作のキーになっている印象で、全体的に相手を見つめたり、見つめられたりといった、目と目による通じ合いが大きなテーマになっているように感じました。それはこれまでのファンの方とのやり取りを思い出してイメージを膨らませたのでしょうか?

小倉 実はこの“アイコンタクト”という言葉は、自分が飼っているワンちゃんの瞳を見て閃いたワードだったんです(笑)。ただ、言葉を思いついたのと同じタイミングで、ライブやイベントでお会いするときのファンの方の瞳も脳裏によぎって。ファンの方はいつも本当に純粋な眼差しで見つめてくださっているし、その期待感や希望といった感情は瞳に表れているなと、ふと思ったんです。今は、コロナ禍で直接的にコミュニケーションを取ることも難しい状況ですよね。だけど例えば、マスクを日常的にしているなかでもアイコンタクトを取ることがすごく大切なコミュニケーションツールになっていると思うんです。まさに、今だからこそ表現できるテーマなのかなと思いまして。そういった背景も考慮した上で “アイコンタクト”や“瞳(アイズ)”といった言葉を使いました。

――たしかにワンちゃんの瞳はいつも純粋ですものね。

小倉 そうなんですよ、“pyu♥a purelyな瞳(アイズ)”です(笑)。



――歌唱に関してはどのようなアプローチで歌いましたか?

小倉 表題曲が等身大の自分とするならば、カップリング曲は心の中にいる精霊というか、みんなの心の中に住み着いて応援してくれているような、小さくて愛らしいキャラクターをイメージして歌いました。なので、自然と声色も明るくなりましたし、ちょっと甘くてラブリーな歌い方になったんじゃないかな。曲のアレンジも打ち込みのメロディをメインに、幻想的でフワフワ、しゅわしゅわとするようなイメージで作っていただきました。

――たしかに言われてみると、少し幼さも感じさせる甘い歌い口が妖精っぽくもあります。ファンの方に寄り添うような楽曲になりましたが、やはり今のなかなかリアルで対面できない状況下で、改めてファンの存在を見つめ直すことが多かったのでしょうか?

小倉 そうですね。コロナ禍だからこそ、私自身もファンの方との繋がりや絆を感じた瞬間が多かったです。だからこそ、心で通じ合っていることの確認作業といいますか、こんなときだからこそより絆の強さをお互いに信じ合いましょう、という必然的なメッセージになったのかなと思います。

――「Clear Morning」と「pyu♥a purely」、タイプは違えど小倉さんとの距離感の近さを感じることができる2曲を収めた今回のシングル。完成した今、ご自身の中ではどんな作品になったと感じていますか?

小倉 リリースを重ねるたび、毎度ナンバーワンを更新していくような気持ちで制作に望んでいます。なので、その上では、今回もまたナンバーワンと言えるようなクオリティに仕上がったのではないかなと思います。この作品を通し、何かしらの形で私からのメッセージが伝われば嬉しいなと思います。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

●リリース情報
「Clear Morning」
3月31日発売

【期間限定盤(CD+DVD)】

品番:KICM-92078
価格:¥1,800+税

【通常盤(CD)】

品番:KICM-2078
定価:¥1,200+税

<CD>
01. Clear Morning
作詞:磯谷佳江/作曲:小野貴光/編曲:玉木千尋
02. pyu♥a purely
作詞:小倉 唯/作曲・編曲:太田晴之
03. Clear Morning(off vocal ver)
04. pyu♥a purely(off vocal ver)

<DVD>
・「Clear Morning」MUSIC VIDEO
・「Clear Morning」MAKING
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