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2025年9月19日に公開された劇場版『チェンソーマン レゼ篇』にて、TVシリーズに引き続き音楽を担当したのが、現在アニメやドラマ、映画と数々の作品での劇伴で活躍を見せる牛尾憲輔だ。映画公開日当日には本作のサウンドトラックがリリースされた。

そこで今回は、彼が「レゼ篇」で鳴らしたバイオレンスと抒情性の真相に迫るロングインタビューをおこなった。

INTERVIEW & TEXT BY 前田 久

メチャクチャさ、グチャグチャさという土地にまいた美しい“種”

――劇場版『チェンソーマン レゼ篇』(以下「レゼ篇」)の音楽のコンセプトはどのようなものだったのでしょう?

牛尾憲輔 TVシリーズのとき、「もうメチャクチャ」を大きな意味でのコンセプトにしたんです。原作の象徴的なセリフの1つで、僕も、本当にそうだな!と思って。メチャクチャさ、グチャグチャさをベースにして曲を作ろうと思った。今回はそのベースを間違えないようにしつつ、その土地に情緒的で叙情的な種をまいてみると、どういう花が咲くのかな? みたいな気持ちでした。

――種というのは?

牛尾 具体的には、オーケストラを入れようと思ったんです。

――おお、なるほど。

牛尾 で、これはとても抽象的な問題だから、アーティスティックな話しかできないんだけど、そういう気持ちで取り掛かり始めて、最初、23年の年末の“ジャンプフェスタ2024”のために、ティザームービーを作るんですよ。原(達矢)監督と話し合いながら、2曲作りました。その1曲が実際にティザーで使われた曲で、最終的にそれは本編でも、改めて編曲して使って、レゼを表す曲になったわけです(サウンドトラックに「Reze」として収録)。それでもう1曲の、ティザーのときには使わなかった曲が、本編のプールのシーンで使われているオーケストラ曲(「in the pool」)なんです。

――そうなんですね。

牛尾 「レゼ篇」のティザーにどっちを使うか、関係者で話し合って決めたんですけど、僕と監督は実はプールの曲のほうを使いたかったんです(笑)。

でも、あの曲ってディープな曲なので、最初のティザーでパッと出すには、もっとわかりやすくて、ポップさもある曲のほうがいいと。あと、「この曲をこのタイミングで出すのはもったいない」みたいな話もあって、「Reze」をティザーでは使いました。でもそれから、原監督と僕はプールの曲をずっと「俺たちの曲」って呼んでて(笑)。「あの曲を使おうぜ!」って話をしながら作業を進めていたんですね。そんな選択をしたときに、作業全体の大方針が見えたかなっていう気がしてましたね。

――「in the pool」は映画の終盤で「in the sea」として別アレンジも使われている重要な曲ですが、そんな経緯があったんですね。

牛尾 この映画はピークに向かっていく映画で……って、まあ、映画はほとんどそうだけど(笑)、ともあれ、ボーイミーツガールがあって、繊細な恋愛描写があって、(起承転結の)「転」があって、バトルになって、最後はフェードしていく……って構造になっている。であれば、「Reze」と「in the pool」みたいな肝になる曲が出来ていて、土壌となる最初のコンセプトも決まっていれば、あとはその曲に向かってどういうふうにプレイを繋げていくか、みたいな発想でしたね。時間軸を作っていく、と言い換えてもいいですが、そんな作業を行って。最初の方は繊細さを重視して作っていって、プールでスケールが大きくなって、そのあとはずっとバトル。越えなきゃいけないハードルを、常に思い描きながらやってた感じですかね。

――後半はバトルの連続ですよね。

体感だと映画の半分くらいがバトルシーンな気がしました。

牛尾 だと思いますよ。100分くらいというそんなに長くない映画で、あの分量のバトルがあると、印象としてはそんな感じでしょう。難しいのが、そこで音楽がずっと繋がると、ずっとピークタイムでアンセムばっかりかけるDJみたいになっちゃうわけですよ。そうすると緩急がなくなって、結局何も印象に残らないというか、どこにもダイナミクスのない映画になってしまうんで、そこを音で超えるのがすごく大きいハードルでした。

――大ネタばかりかけるDJみたいなことになってしまう。

牛尾 そう。そうなると何にもならない、音楽的にはプラマイゼロのことしかできていない作品になってしまう。

――具体的な制作プロセスも伺わせてください。今作ならではの特徴的な制作手法を取られたところはあられるんですか? 先ほどおっしゃった課題であったり、コンセプトをクリアしていくうえで。

牛尾 具体的な手法として突飛なものが別にあるわけではないですけど、今回、音響監督が名倉(靖)さんだったことが作業に与えた影響は大きかったですね。『聲の形』『リズと青い鳥』以来……その2作でのクレジットは「録音」であって、音響監督は鶴岡(陽太)さんでしたけど、作業を通じて名倉さんとも勝手知ったるマイメンになっていて(笑)、そんな名倉さんと久々にご一緒させていただけた。

その環境下で、フィルムスコアリングで音楽を制作すると違うというか……やっぱり(音楽が)イン・アウトする点って、すごく重要なんです。どこから始まって、どこから終わるのか。その途中には、何が起こるのか。名倉さんは僕のやり方とか、僕が作る音楽の内容、僕がどういう人間かをよく知っているので、ある程度そこの裁量を任せてもらえたんですね。もちろん僕は名倉さん率いる音響組の下にいるスタッフのつもりなので、大方針として名倉さんと原さん、2人の監督の進行に従うんだけど、そのなかでもある程度、「この範囲で」っていうのを任せながらやらせてもらえた。その結果として、今振り返れば、多分、僕は今回、構造的に全体の流れを意識して作れてた。さっきも触れた後半の、バトルだらけのところとか、真ん中にオーケストラのスイート(組曲)を作るみたいなのって、そういうことだなって。僕は本職のDJじゃないけど、気分としてはDJミックスみたいな形で作ろうとしていて、その緩急の作り方をある程度、裁量を持たせてもらえた気がします。僕、去年サントラでライブをやってたでしょう?

――4月にアムステルダムでやった“チェンソーマン Live set”と、11月に日本でやった“牛尾憲輔 behind the dex”ですね。

牛尾 それと“SONICMANIA”と。バトルの音楽の作り方には、あの経験が結構活きたかなと思いますね。さっきの話じゃないけど、ずっと大ネタばかりではやれないのは、DJだけじゃなく、ライブも一緒なので。

構造の作り方は結構、チェンソーマンの楽曲でライブをやってみた経験があってよかったなと思いました。TVシリーズ用に作った「edge of chainsaw」をムービーバージョン(「edge of chainsaw (typhoon ver.)」)に作り直すときも、ライブ用にアレンジしたものをベースにしてたりもしますし。バトル中に画面が真っ暗になる瞬間、フィルターでモゴモゴとこもるみたいな音が流れるんですけど、あれはサントラにも入ってない、ダビングの現場でやらせてもらった音なんです。それなんかもやっぱり、チェンソーマン楽曲のライブでそういう瞬間で構成したことがあったので、「映えそうだなぁ」ってわかっていたからやれたこと。いろいろ経験しておいてよかったと思いますね。

――そういう構造へのこだわりや、裁量を与えられたことによる自由さって、もう少し説明していただくと、どういうことなんでしょう?

牛尾 イン・アウトだったり、構造に目配せさせてもらったこと自体が、この作品の制作手法の特殊な部分だったと思います。それと名倉さんと協業していくのはやりやすかったですね、すごく。名倉さんって、音楽スタジオ出身なんですよ。だから考え方が音楽的なんですよね。変なこともしてくれるしね。「サブウーファーだけずっと鳴らしてほしい」とか言っても、やらせてくれるし。あと、バトルシーンの途中でフィルターがめちゃめちゃこもるみたいなシーケンスやりたいって言ったらやらせてくれる。

そういうのが名倉組……鶴岡さんの流れにある組は、自由闊達ですよね。といっても、ありがたいことに僕の関わる作品のスタッフの皆さんは、大概自由にやらせてくれるんですけど、理解してくれる感じがあって、やりやすいし楽しいですね。

――「sweet danger」の曲が意外な方向に展開して、また戻って来るところとか、びっくりしました。

牛尾 レゼがボムになるところで、ある程度、尺(曲の長さ)をとってノイズをずっと使って、そこからピアノの音とか、夏祭りのシーケンスと、ピアノのサンプリングの波形とかをバーッ!と使って作ったのは、僕なりの魔法少女の変身バンクシーンの曲のつもりだったんです(笑)。

――魔法少女だとまではわからなかったですけど、アニメになったことで、「ああ、ここって変身シーンだったんだ」って強く思いましたね。なので音楽の制作時にその意識があったのは面白いです。

牛尾 でも、このイメージは関係者の誰にも伝わらなかったんだよなあ……(笑)。

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とどのつまりは、”お客さんを信じる”ということ

――レゼ役の上田麗奈さんが歌唱する「ジェーンは教会で眠った」は原作の歌詞をそのまま使われているんですか?

牛尾 そうです。

――ということは、いわゆる詞先でメロを作ることに。どうでした?

牛尾 知らない言語の曲を作るのがいかに大変かということを思い知りました。詞先での作曲自体は通常のことなので、ちょっと舐めてましたね。まず譜割りをどこで切っていいかわからないわけですよ。例えば“牛尾憲輔”って歌詞があったとして、「ウシオケ ンスケ~♪」とは割れないじゃないですか。

――日本語話者には違和感がありますよね、おそらく。

牛尾 どう譜割りしていいかわからない、なんて読んでいいかわからない、どう発音していいかわからない言語の曲を書く。プロセスとしては、カタカナに直した歌詞をもらって曲を作ったんですけど、例えば歯擦音……「さしすせそ」の行とか、あるいは、たちつてとの「た」とか「つ」ってリズムの杭みたいな感じで使えるので、そういうことも作曲時は意識に入れるんですよ。でも実際、音を聞いてみると、他言語のそのカタカナは日本語の音素にない音だったりするから、リズムのなん拍の頭にどの音を入れたらいいかわからん! みたいになっちゃうんですよね。あと、詞が結構長いんですよ。カッティング(編集)後にあの曲は作ったので尺を伸ばしてもらうわけにもいかんし……といいつつ、お願いして動かしてもらったんですけど、知らない音の羅列を80何秒ぐらいで曲にしないといけないし、尺に対して普通にやると詞が1.5倍ぐらいあるみたいな感じだったんで、とんでもないミッションインポッシブルぶりでした。だから結構大変な、「どこで息継ぎしたらいいんだ?」みたいなところもあって、やたら難しい曲なんですけど、上田さん、すごく頑張って歌ってくださった。本当に助かりました。ありがたい話です。

――声優ファンっぽいことを聞いてもいいですか?

牛尾 どうぞ(苦笑)。

――上田麗奈さんの声って、どうでした?

牛尾 特にウィスパーで歌っているからというのもあるんですけど、音楽的な視点で言うと、声質云々とかは置いといても、リップ音のトランジェント(音の極短い立ち上がり)の情報量が多い。音楽家としての視点としてはこれは得難いことです。リップの音が良いと、リズミカルに聞こえる。さらに、話していないときでも、その特徴が残るとキャラクターみたいな声だと認識される。そうした点が、音楽的な視点でいいと思いましたね。だからリップ音は切らない方がいいだろうと判断して、残しました。

――監督からのオーダーはどのようなものが?

牛尾 対話はひたすら続けながら作っていましたけど、本当に細かいところでした。「2秒前にもうちょっと音が欲しいです」とか。音を当てはめるべきところと、はめるべきではないところが明確な作品でしたしね。……これは職能的な経験則の問題なので、あまり言葉だけでは説明できないんだけど、なんでもかんでもバッチリ音をあてると、単に説明しているだけになっちゃうんで、本当に良くないんです。だから当たったところで効果がないところは、音を付けない。そのほうが映像の強度が強くなるんですよね。ちゃんと映画として、作品としての奥行きを作るためには、何でもかんでも音を当てないほうがいい。これは僕、多分、『モリのいる場所」のときに沖田修一監督に学ばせてもらいました。当てすぎず、当てるところにはしっかり当てる。当てないところとの緩急をつける。そうすることで、ちゃんと時間が流れていく作り方をしないと、映画はダメなんだと。映画はやっぱ総合点で点を取らないといけないものだと思いますから。「レゼ篇」ではそこをすごく意識しました。

――実写の現場でのご経験もフィードバックされたところがあった。

牛尾 そう。とどのつまりは、「お客さんを信じる」ってことだと思うんですけどね。お客さんは全部やらなくても、わかるから。むしろ、自分から取りにきてもらう動作がないと、お客さんは本当の意味ではついてきてくれないですよね。映画はね。飽きちゃう。そういうことをやってもらうための余白、遊びを作っておくのは、大事なことなんだなと。

――特にまた『チェンソーマン』という作品に、そういう魅力がある気がしますもんね。

牛尾 だと思う。奥行きがある作品だなと。

――完成した映画はご覧になってどうでしたか?ご自分の仕事として、改めて手応えがあったところとか。

牛尾 全体を通して、すごく手応えがありますよ。この規模の映画に音楽を手掛けたのは初めてだったし。ちょっとまだ作り終えたばかりだし、映画の公開前(編集部注:インタビューは9月)だから、そこまで客観的になれないんだけど、でも、ちゃんとやれたんじゃないかなぁ……って手応えはあります。

――インタビューが公開されるタイミングだと、2回目、3回目に行く人も多いのかなと思いますが、そこで注目してほしいところはあります?

牛尾 初回はプールのシーンとか、戦闘の「edge of chainsaw」の新アレンジとかに注目してほしいけど、2回目、3回目のあなたには、最後のレゼのシーンをおすすめします。あそこの音楽って実は、1曲の中に曲が2つ入ってる。明らかに不穏で強烈な低音がずっとサブウーファーで鳴ってる。サブウーファーだけでああいうことをすると、映画館によって聴こえたり、聴こえなかったりするんですよ。ある音は映画館の構造によっては、共振して消えたりする。ういう意味での、映画館ならではの魅力を楽しんでいただければと思っております。どんなふうに聴こえたかをぜひ教えてください。

――もう1点、サウンドトラックの1枚のアルバムとしての聴きどころもうかがっていいですか?

牛尾 さっきも話したライブ的、DJ的発想で最初から最後まで波を作れたので、全体を流れとして聴きやすいと思います。まずその形で楽しんでいただけたらなと思うのが1つ。そしてもう1つ、やっぱどうやったって、後半のバトルのところは、何が起こっているかを説明するために効果音を立てるか、セリフを聴かせるか、音楽を目立たせるかのバランス取りがダビング現場で常に起こっていたわけです。もちろん公開された形が映画としてベストなものですが、その調整抜きで音楽だけを抜き出して聴くとこうなってるんだというのは、サウンドトラックならではですよね。いろいろ仕掛けがしてあるので、そこら辺、じっくりと楽しんでいただければなあと思います。データもいいですが、CDで買うとジャケットに泣ける仕掛けがあるので、よかったらそちらもチェックしてください。

●リリース情報
牛尾憲輔
『CHAINSAW MAN THE MOVIE:REZE ARC original soundtrack -summer’s end-』
9月19日発売

品番:IXCL-10001
価格:¥3,300(税込)
詳細はこちら
https://chainsawman.dog/movie_reze/music/

●作品情報
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
大ヒット上映中!

 

【ストーリー】
悪魔の心臓を持つ「チェンソーマン」となり、公安対魔特異4課に所属するデビルハンターの少年・デンジ(戸谷菊之介)。
憧れのマキマ(楠木ともり)とのデートで浮かれている中、急な雨に見舞われ、
雨宿りしていると偶然“レゼ”(上田麗奈)という少女と出会った。
近所のカフェで働いているという彼女はデンジに優しく微笑み、二人は急速に親密に。
この出会いを境に、デンジの日常は変わり始めていく……

【スタッフ】
原作:藤本タツキ(集英社「少年ジャンプ+」連載)
監督:原達矢
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
副監督:中園真登
サブキャラクターデザイン:山﨑爽太、駿
メインアニメーター:庄一
アクションディレクター:重次創太
悪魔デザイン:松浦 力、押山清高
衣装デザイン:山本 彩
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
カラースクリプト:りく
3DCGディレクター:渡辺大貴、玉井真広
撮影監督:伊藤哲平
編集:吉武将人
音響監督:名倉 靖
音楽:牛尾憲輔
配給:東宝
制作:MAPPA
主題歌:米津玄師「IRIS OUT」(Sony Music Labels Inc.)
エンディング・テーマ:米津玄師, 宇多田ヒカル「JANE DOE」(Sony Music Labels Inc.)
挿入歌:マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ(全体推定70%解禁edit)」(Warner Music Japan)

【キャスト】
デンジ:戸谷菊之介
ポチタ:井澤詩織
マキマ:楠木ともり
早川アキ:坂田将吾
パワー:ファイルーズあい
東山コベニ:高橋花林
ビーム:花江夏樹
暴力の魔人:内田夕夜
天使の悪魔:内田真礼
岸辺:津田健次郎
副隊長:高橋英則
野茂:赤羽根健治
謎の男:乃村健次
台風の悪魔:喜多村英梨
レゼ:上田麗奈

【原作情報】
第二部「少年ジャンプ+」にて連載中!コミックス1~22巻発売中!

●楽曲情報
主題歌:米津玄師「IRIS OUT」
EDテーマ:米津玄師, 宇多田ヒカル「JANE DOE」

●リリース情報
米津玄師シングル
「IRIS OUT / JANE DOE」
9月24日発売

詳細は特設HPをご確認ください。
https://reissuerecords.net/irisout_janedoe/

『チェンソーマン 総集篇』
・TVシリーズ全12話をまとめた『チェンソーマン 総集篇』を各プラットフォームで配信中!
※詳しくはこちら
https://chainsawman.dog/movie_reze/compilation/

© 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト © 藤本タツキ/集英社

関連リンク

牛尾憲輔オフィシャルX
https://x.com/agraph

agraphオフィシャルサイト
https://agraph.jp/

劇場版『チェンソーマン レゼ篇』公式サイト
https://chainsawman.dog/

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