実は意外な接点のある二人が初タッグ曲「Never, ever」に込めた想い、そしてコロナ禍の現在における表現者としての在り方について語り合った、スペシャル対談の模様をここにお届けする。
コロナ禍を経たお互いの共鳴が生んだ楽曲「Never, ever」
――――HISASHIさんが緒方さんに楽曲提供するのは今回が初になります。そもそもお二人は元々どんなご縁があったのですか?
緒方恵美 実は1994年に放送された『ヤマトタケル』というTVアニメでご一緒したことがありまして。私は主人公と仲良しの男の子・ロカの役を演じていたのですが、その作品のOPテーマ(「真夏の扉」)とEDテーマ(「RAIN」)をGLAYさんが担当されていたんです。
HISASHI 僕らはその2曲が1stシングルと2ndシングルで、あれがメジャーデビューのタイミングだったんですよ。それまではアルバイトしながら生活していたのが、いきなりテレビから自分たちの楽曲が流れることになって。
緒方 ええ!? あの直前までアルバイトされていたんですか?
HISASHI そうなんですよ。今ではロックバンドがアニメの主題歌を担当するのは当たり前のことですけど、当時は珍しかったので、自分たちの楽曲がアニメの主題歌としてテレビから流れてくることがすごく不思議に感じました。今、振り返ると、すごくいいデビューだったと感じています。緒方さんとご一緒するのは、それ以来ですよね?
緒方 はい。ものすごく時間が経ってしまいました(笑)。
HISASHI もちろん個人的には緒方さんの出演されている作品を楽しませていただいてますけど(笑)。
緒方 私もGLAYさんの作品をずっと聴かせていただいています(笑)。
HISASHI 90年代までのGLAYは、当時所属していた事務所の方向性もあって、自分たち以外の人たちとはあまり接点がない感じだったんですけど、2000年以降はそこから独立して自由に活動するようになって。僕はアニメ好きということもあって、今のレーベル(ポニーキャニオン)に移ってきてから、声優の方やアイドルに楽曲提供を行う機会が増えたのですが、毎回、楽しいんですよね。いつも「自分の持っている世界観とこういうふうに混ざり合ったらいいな」と思いながら曲を作るんですけど、そのゼロがイチに変わる瞬間が刺激的で。今回もお話をいただいてから、非常に楽しく制作することができて、すごくクリエイティブな時間でした。
緒方 ありがとうございます! 私はスタッフから(HISASHIに楽曲提供をオファーする)アイデアが出てきたときに、「えっ! もし引き受けてくれるのであればぜひお願いしたいですけど、大丈夫ですか……」という感じだったんですけど(苦笑)。
HISASHI いやいや。
――HISASHIさんはまず、どのようなイメージで今回の楽曲「Never, ever」を作り始めたのですか?
HISASHI 緒方さんと直接お会いするのは今日が2回目で、最初の打ち合わせ以降はコロナの影響でオンラインでのやり取りになってしまいましたけど、初めてお会いしたときに緒方さんからリフが聴こえてきたんですよ。今回の楽曲は緒方さんが歌詞を書かれていますけど、僕は歌詞以外の部分でも、音の説得力というメッセージを感じたんですよね。なので制作はすごく速かったです。
緒方 すごく嬉しいです。
HISASHI でも、どうしようもないですよね。GLAYもスタジオ作業はストップして、オンラインで作業していましたから。僕は昔からオンラインには慣れていて、氷室(京介)さんとレコーディングしたときも、自宅からLAの氷室さんとデータのやり取りで作業したので、コロナ禍でもあまり変わらぬ生活ができて。
緒方 そうだったんですね。私はオンラインでミーティングを行う体制も完全には整っていなかったので、まず機材を揃えるところから始まって……私とは全然違いますね(笑)。
――HISASHIさんは緒方さんが書かれた歌詞を受け取って、どのような印象を抱きましたか?
HISASHI 僕も仮歌詞を書いたんですけど、緒方さんには楽曲の温度や色がちゃんと伝わっていたんだなと思いました。僕は結構、世界を斜めに見ているけど実はポジティブっていう歌詞を書くことが多いのですが、今回の楽曲もそういうふうなものになればと思いながら書いたもので。それが緒方さんらしいメッセージとして出ていると感じました。
緒方 歌詞を書く段階でコロナ禍に入っていたので、そのときに感じていたことをそのまま歌詞にしたから、そういう内容になったんだと思います。
HISASHI ちょっと世紀末的な感じですよね。人間がこの先どういうふうに未来を作るかを試されているというか。
緒方 ただ、歌詞を書きながら、お客さんの元に届くときにはコロナが終息して、こんな感覚もなくなってしまうかもしれないと思っていたんです。まさか今でもずっと同じ気持ちを持っていることになるとは思ってもみませんでした。
HISASHI さらに大きくなりましたものね。
緒方 その意味ではコロナ禍に入って一番最初の気持ちが、この曲には入っていると言いますか。もしかしたら自分が誰かを殺してしまってるかもしれないけど、そんな状況だからこそ、人と普段通りの関係でいられるのはすごく大事なことだと改めて気付かされて。それで歌詞の最後のほうに“光に変われ”というフレーズを入れて、そういう日常に戻っていけばいいなと思っていたのですが……。それが今も変わらず、変な話ですけど、これからもコロナが完全に無くなることはきっとないと思うので、その気持ちを逆にずっと忘れないためにも、この歌をうたい続けていくのは大事なことになるんじゃないかなと思いました。
HISASHI すごくわかります。
緒方 あと、制作途中でHISASHIさんがデモから生音の演奏に差し替えてくださったときに、流石のギターだなと思いました。
HISASHI 今回は僕が思い描いていたもの作ることが出来ました。ベーシストの方がスタジオで素晴らしい演奏をしてくださったおかげで、僕もめちゃくちゃテンションが上がって。色んな作家の人が参加されるアルバムの場合、僕は負けたくない!っていう気持ちがあるんですよ(笑)。作家の人たちというのは、ある意味、ジビエだと思うんですよね。
緒方 ジビエというのは?
HISASHI ジビエの肉というのは独特の臭みがありますけど、それと同じで、作家やミュージシャンが制作した楽曲にはそれぞれの癖がどうしても滲み出てしまう。でも、だからこそ色んな作家さんが集まる作品は面白いと思うんですよね。僕はそのミュージシャンの臭みみたいなものが、良くも悪くも好きなんですよ。僕も今回の楽曲には、シンコペーションのところにオケヒ(オーケストラルヒット)を大きめに入れていたり、90年代っぽいシーケンスや僕が影響を受けたものを色々詰め込んでいて。なおかつサビは緒方さんの声をポジティブに聴かせるものにしようと決めていたので、緒方さんに書いた曲としての純度がものすごく高いと思うんですよ。その意味では瞬発力みたいなものをすごく感じることができました。
緒方 ありがとうございます!
今の時代にあえて投じる『劇薬』、その先に二人が思い描くビジョン
――緒方さんの今回のアルバム『劇薬 -Dramatic Medicine-』は、「Never, ever」を含め全体的にコロナ禍を踏まえた内容になっています。
緒方 タイトルの『劇薬』は「人によって毒にも薬にもなるもの」というイメージから付けたもので、本来なら「Strong Poison」や「Strong Medicine」と訳すことが多いのですが、それをあえて、私の音楽以外の副業の意味合いも込めて「Dramatic Medicine」と名付けたら面白いのではないかと思ったんです。
HISASHI なるほど。
緒方 今はコロナ禍を過ごすなかで「なんだこれは?」と思うことがたくさんあるじゃないですか。ロックというのは元々、色々なことに対して「それはどうよ?」という思いをぶつける音楽でもあるので、この1年間でたくさん感じた「どうよ、これ?」ということを消化して、どう昇華したら元気の出る音になるか?ということをずっと考えながら作りました。ただ、自分なりに持っている毒の部分を、あまりダイレクトに表現してしまうのは難しいので、「こういう毒があるんだよ」ということを散りばめながら、「私はこういうことが大事だと気づいたけど、みんなはどうかな?」と提案する感じの作品と言いますか。
HISASHI その気持ちはすごくわかります。『劇薬』というのはすごく強い言葉なので、そこで緒方さんが何を歌うのかは気になっていたんですけど、たしかにその通りだなと思って。人間はなかなか分かり合えないことがあるし、それが世界中の色々な問題に繋がっていると思うんですけど、今はそういうことをもう一回考えるべき時代だと思いますし。
緒方 そうですよね。今は価値観にせよ何にせよ、色んな意味でのターニングポイントになっているじゃないですか。特に日本という国は、守る方向が強い国民性で、同調圧力みたいなことが強くて。
HISASHI そこは世代の違いがパキッと分かれている気がするんですよね、今は。自由に出来る人はすでにやっているし。
緒方 わかります。そこを私は何とかしていきたい気持ちが強くて。例えばGLAYさんは、すでにファンの方がたくさんいらっしゃるので、こういう時代でも色んな形で道を切り拓いていけるでしょうし、もちろんそうやっていただきたいと思うんですけど、例えば私の周りにいる人たち、ライブの動員が1,000人から2,000人ぐらいが最高のアーティストだったり、これから音楽やお芝居をやりたいという人たちが、表に出てきづらい環境になってしまうのではないかと思っていて。
HISASHI そこはもう、僕らが出来ることを可能な限りやっていくしかないと思っていて。GLAYも2020年末にドーム公演が決まっていたので、それが開催できるかできないか本当にギリギリまで話し合って。もちろん客席の人数を制限して開催している公演もあるんですけど、そういうことはあまり報道されないんですよね。良くないことばかりをピックアップして報道する姿勢には、ちょっと疑問が芽生えたりもして。
緒方 去年の6月~7月ぐらいにお芝居の公演でクラスターが発生したことはありましたけど、それ以降はどこの芝居小屋さんもライブハウスさんも、みんな驚くほど徹底して対策をしていて、全然クラスターが発生していないのに……。そういうことも報道してもらえたらと思うんですけど。
HISASHI そうなんですよね。そのほうが明るい話題に繋がりますし、エンターテインメントも捨てたものじゃないことを見せていきたいんですけど。でも、僕らは逆境を面白がっちゃうタイプなんですよ。うちのリーダー(TAKURO)は、そういう逆境に直面すると「盛り上がってきたね」って言うのが口癖で(笑)。
緒方 そういう気持ちもわかります(笑)。
HISASHI たまにイラっとするんですけどね(笑)。僕らとしては、CDからサブスクに移行していく流れも逆境に感じたんですけど、CDをアーティストグッズ的な形にすることを率先的にやっていて。今回のコロナ禍のなかでも、GLAYはGLAY流に楽しませようということで、配信ライブとかを企画したり。緒方さんのメッセージはすごく突き刺さると思うし、ステイホームの期間を経て音楽を楽しむ環境が変わっていくなかで、僕らは少しでも明るい未来を見せられるように活動していけたらと思っていますね。
緒方 それが私の場合は、皆さんがおうちを出るときに元気や勇気をお渡しできるような楽曲を作ることだとか、お芝居をすることだと思いますし、それをしながら、特に若いスタッフや役者・ミュージシャンの人たちが、場所を失って表に出られないことがないように、何かの形で尽力できればと思っていて。その尽力も結局のところは、楽曲やステージを作るということしかないと思いますし、このアルバムはHISASHIさんに書いていただいた「Never, ever」をはじめとして、たくさんの方々に力をいただいて、そういう楽曲が詰まった作品にすることができて感謝しています。
HISASHI 楽曲というのは結局、作った時点でももちろん満足感はありますけど、そこからアウトプットしてようやく決着するところがありますからね。
緒方 アウトプットしてお渡しすることによって、お客さんのなかでさらに別のドラマを生むものになったりもしますものね。
HISASHI そうなんですよね。だからちょっとワガママではありますけど、そこまでは付き合いたいなと、音楽を作っている身からすると思いますね。
緒方 本当にそう思います。GLAYさんはこれから先、ライブはどのように考えてらっしゃるんですか? まだ言えないこともあるでしょうけど(笑)。
HISASHI 色々考えてますけど、この冬の状況を受けてでないとなかなか見えてこないところがあって(取材は2021年2月に実施)。とはいえ僕らは時代と上手く付き合っていきたいと思っているので、「GLAYはそう出たか!」と思ってもらえるような活動をしていきたいですね。
PHOTOGRAPHY BY 小島マサヒロ
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
「劇薬 -Dramatic Medicine-」
4月21日発売
品番:LACA-15844
価格:¥3,300(税込)
01. Never, ever
作詞:em:ou/作曲・編曲:HISASHI
02. パンドラ
作詞:em:ou/作曲・編曲:黒須克彦
03. 祈り
作詞:em:ou/作曲:草野華余子/編曲:古川貴浩
04. Buster Master
作詞:em:ou/作曲・編曲:ANCHOR
05. ラボラトリー・マリオネット
作詞:em:ou/作曲・編曲:宮崎京一
06. Precious shining star
作詞:em:ou/作曲・編曲:manzo
07. Like a human
作詞:em:ou/作曲:芳賀政哉/編曲:中土智博
08. Try Out, Go On!
作詞:em:ou/作曲・編曲:伊藤 賢
09. Breaking Dawn
作詞:em:ou、ASH DA HERO/作曲・編曲:ASH DA HERO
10. Repeat
作詞:em:ou/作曲・編曲:佐藤純一(fhana)
※em:ouの「o」はoにアキュート・アクセントを付したものが正式
※fhanaの「a」はaにアキュート・アクセントを付したものが正式
関連リンク
緒方恵美 公式サイト
https://www.emou.net/
緒方恵美 公式Twitter
https://twitter.com/Megumi_Ogata
GLAY 公式サイト
https://www.glay.co.jp/
HISASHI 公式Twitter
https://twitter.com/HISASHI_