2020年8月に1st EP「ハミダシモノ」で待望のメジャーデビューを果たし、アーティストとして独自のカラーを打ち出して話題をさらった楠木ともりが、それに続く2nd EP「Forced Shutdown」を完成させた。今作では全4曲の作詞・作曲を自ら手がけており(「アカトキ」の作詞は鳴海夏音との共作)、シンガーソングライターとしての存在感をさらに強めた作品になっている。
4曲それぞれに鮮烈な表現が込められた本作を通じて、彼女が届けたい想いとは?

初の“リスアニ!LIVE”出演で感じたこと、メジャーデビューの反響
――まずは今年2月に行われた“リスアニ!LIVE 2021”の感想をお聞かせください。今回が初めての出演でしたが、いかがでしたか?

楠木ともり メジャーデビュー後、初めてお客さんの前で歌う機会だったので、すごく楽しみにしていたのと同時に「聴いてくれるかな?」という不安もあったんですけど、ステージに上がったら、皆さん音楽を楽しもうという気持ちに溢れていて。私も楽しくて、気持ち良くて、もう1度歌いたくなりました。

――アグレッシブな「ハミダシモノ」や変拍子が印象的な「ロマンロン」など、曲調的にはバラエティに富んだセットリストで、楽曲ごとにペンライトの色を指定するなどして一体感を作り上げていましたね。

楠木 今回は初めて私の楽曲を聴く方にも楽しんでいただけるように、皆さんが一緒にペンライトを振ったり、クラップができそうな楽曲を選んでセットリストを組みました。普段の私のライブでは、演出の都合上、ペンライトは使わないように皆さんにお願いしているので、当日に急遽、色を指定することにしたのですが、ライブ後に皆さんの感想をお聞きすると「色を言われた段階で何の曲を歌うのかわかった」という方もいたので、イメージの統一ができていたことがわかり嬉しかったです。

――楠木さんは昨年8月に「ハミダシモノ」でメジャーデビューされたわけですが、改めてその反響をどのように受け止めましたか?

楠木 インディーズのときから私のライブを観てくださってる方からは、かっこいい楽曲という反応をいただけた一方で、普段、キャラクターを演じている私を見てくださっている方からは、「えっ!こんなに激しい楽曲を歌うの?」という反応もあって。「やっぱり」という人と「意外」という人で二分されていたのが興味深かったです。

――そういったユーザーからの反応も大きかったですが、「ハミダシモノ」は“令和2年アニソン大賞”の新人賞にも選出されましたね。

楠木 そうなんです! 私、家で偶然にも(ノミネート発表特番の)配信を観ていたんです。そしたら新人賞で自分の名前が突然出てきて! 驚きのあまり泣いてしまいました(笑)。歌詞に“ハミダシモノの声よ響け!”とあるのですが、たくさんのところに響いて、届いて、聴いていただけたことが嬉しかったです。




――また、デビューEPに収録された楠木さん作詞・作曲の「ロマンロン」も、UNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんが運営に関わる“アニソン派!楽曲アワード2020”にノミネートされました。

楠木 本当に嬉しかったです……! 私は曲作りの勉強をしたことがあるわけではないので、皆さんからリアクションをいただけたことは自信に繋がりましたし、また曲を書きたいなと思うことができました。



自分自身を見失わないための“強制終了”――「Forced Shutdown」
――今回のEP「Forced Shutdown」は、収録されている4曲すべてが楠木さんの作詞・作曲ということで、いわばシンガーソングライターとしての側面がより強い作品になりました。制作するにあたって、まずどんな構想がありましたか?

楠木 表題曲の「Forced Shutdown」以外の3曲は、数年前に制作した楽曲をリアレンジしたものなんです。EPを作る段階ではテーマ性を設ける意識はあまりなくて、自分でも「どんなEPになるのかな?」と楽しみにしながら作りました。全曲が揃ってマスタリングに立ち会ったとき、4曲とも曲調はバラバラで歌い方のテイストも違うのですが、通して聴くと共通項のようなものを感じて。1本の映画を観終えたような感覚がありました。一人の人間を、表層的な部分ではなく、より深い部分まで読み解いた感じというか。

――それは今作が全曲ご自身で作詞・作曲した作品ということも大きいのではないでしょうか。

楠木 私もそう思います。今回、意識はしていなかったんですけど、結果的に、自分自身のコンプレックスや息苦しさみたいなものを見つめ直す、というテーマが強く出ている気がするんです。それは私が抱えている考え方に通じる部分だと思いますし、曲を作るときは普段ニュースを見て感じたことや、友達から聞いた話も踏まえて書くので。
何もかもが全部自分の気持ちだけで出来ているわけではないのですが、根本的な部分では私らしさが出てくるからこその共通項なんだと思います。

――それと4曲に共通して感じたのは、どれも表現の仕方がバチバチに強いと言いますか、思いきり振り切っているということで。自分はそこに痺れました。

楠木 ありがとうございます! 私も中途半端にならず、全部が気持ちとしてしっかり振り切って出ている気がします。

――その振り切った表現というのは、ご自身としても曲を作るうえで大切にしていることですか?

楠木 私は普段過ごしていて、何かわからないけどもやもやしたり、すっきりしないことがあったときに、気持ちを整理するために曲を作ることが多いんです。自分の中で漠然としている部分を発散する形で曲作りをしているからこそ、結果的に感情が表に出ていたり、自分の考えがはっきり出ている曲になるんだと思います。

――ここからは収録曲について詳しく聞いていきます。表題曲の「Forced Shutdown」は、どんなコンセプトで制作された楽曲ですか?

楠木 この曲は今回のEPのために書き下ろした楽曲で、書き始めたのはコロナの影響で自粛期間に入った頃のことでした。この曲は、日々感じることを少しずつ文字にしてブラッシュアップすることで曲にしていったんです。ですので、書いている期間が長かったですし、書き方もいつもと違って、思っていることを断片的に集めてまとめたので。それが、この曲のまとまりがないように聴こえる曲調に通じていると思います。

――その日々感じていたことというのは?

楠木 ここ最近はSNSやリモートで誰かと繋がることが増えて、世間的にはそれがポジティブに捉えられていたと思うし、私ももちろんそう感じていました。
それと同時に、人と気軽に繋がることができるようになったぶん、自分と向き合う時間が減って。だんだん自分自身のことが不透明でわからなくなってきた部分もあったんです。そんなときに書いたのがこの曲で。

――なるほど。

楠木 「Forced Shutdown」というタイトルは“強制終了”という意味で、本来、“閉ざす”というのはネガティブな印象がある言葉だと思うんですけど。自分を守るため、見つけるためには、一度外からの情報を閉ざすのも選択肢としてありなんじゃないかなと。

――自衛のための「Forced Shutdown」というわけですね。“強制終了”と言う言葉には拒絶的な意味合いを感じますが、それをポジティブなものとして扱っているのは、意外性があって面白いです。

楠木 例えば、私は何か悩みがあると周りに相談することが多いのですが、色んな人に相談すると色んな意見が出てきて。結局何を大事にしていたのかがわからなくなることがあるんです。それに近い感覚なのかと思っていて。“強制終了”を行うことで、一度区切りをつけて、そこからまた新たな自分としてやり直す、というポジティブなイメージでこのタイトルにしました。
私が書く曲は、ネガティブで始まっても最終的にはポジティブな終わり方をするものが多いのですが、この曲はポジティブにならないまま終わるんです。聴いたことでまた前向きな気持ちになれたらいいな、という想いもあります。

――自分の気持ちを一旦リセットしてここからまた始める、その区切りを宣言するような楽曲だと。

楠木 歌詞もあえてきつめな言葉を選びました。“私はいつ君を傷つけたの?”や“不細工な色眼鏡”など。自分が苦しいときに、それ以上沈まないように怒りでごまかすことって誰しもあると思うんです。そういう、悲しいけど怒っているとか、辛いけど笑っているだとか、一人の人間の中にある矛盾した感情を曲として表現したくて。アレンジも重永(亮介)さんは「カオティック」とおっしゃっていましたけど、先の展開が予想できないようなものにしていただいたのが、曲の主人公の心情変化に上手くフィットして、世界観のある楽曲になりました。

――歌詞や曲調を含め、すごく尖った表現だったので、初めてこの曲を聴いたとき、驚いたと同時にすごくワクワクしたんですよ。

楠木 ありがとうございます。言葉として「残る」というのはいいことだと思うので。ほかにもこの曲は、SNSでは誰かに見られている自覚をあまりもたずに、自分の気持ちをさらけ出してしまう部分にも触れていて。
周りを気にしない気持ちの強さを表現してみました。

――そういった言葉にしにくい感情を形にするのは挑戦的ですし、かなり深い部分に踏み込んだ表現だと思います。先ほど「ハミダシモノ」を発表したときに、声優としての自分を知る人からは意外に思われたとおっしゃっていましたが、それでもなお踏み込んでいくのは、なぜですか?

楠木 私は何か1つのことに対する気持ちが良くも悪くも人より強いタイプかなと思うのですが。アーティストとして自己表現するときには、そういった強い気持ちを出してもいいのかなと思っていて。そこも私の個性だし、上手く向き合っていけば、自分の良さにもなると思います。同じようにみんな表には出さないそれぞれの感情があるとしたら、、そこに寄り添える曲ってあまりないかもと思って。私は誰かの気持ちに寄り添える曲を作るのが目標なので、深層部分にも触れられるような曲も作りたいと思います。

――「Forced Shutdown」はサウンド面でも、イントロのボーカルエディットを皮切りに先の読めない工夫が満載ですが、楽曲の構成自体が変拍子を多用したポストロック的な作りで、かなりアグレッシブですよね。

楠木 この曲の歌詞は感情が色々なところにいくので、変拍子にすれば効果的に伝えられるんじゃないかと思って。楽曲としてまとまりはありつつ、先の展開を裏切ってくるような要素もあって、私としては良いバランスの変拍子に出来たなと思っています。

――特にサビの“君が笑ってくれれば それでよかったのに”の箇所は、7拍子+8拍子になっていますが、その絶妙な違和感がキャッチーさに転換されていて耳に残りました。こういう変拍子の楽曲、自分で考えて作れるものなんですか?

楠木 私も変拍子の曲をよく聴くんですけど、そのときに「なんでこの変拍子は違和感があるのにしっくりくるんだろう?」と考えたりします。
変拍子って学校の音楽の授業ではあまり習わないので、新鮮な感覚で書くことができるし、パズルみたいに試行錯誤しながら組み立てて作れるのが面白くて。私は楽しんで作っています。

――ちなみに、歌詞カードに表記はあるけど歌われない“「   」”の意味は?

楠木 自分を閉ざす話ではあるんですけど、後悔もありつつ、周りと関わることを諦めていない歌詞なので、何かしら第三者目線の要素が欲しいと思ったんです。でもそれはきっと私が答えを出すべきことではないし、聴く人によって答えが変わってくるものだと思うので、ここにカギカッコを入れました。この“「   」”の前の歌詞はすべて質問形になっているのですが、その問いかけに対してここに何が入るのかを考えるだけでも、この曲の幅が広がると思いますし、私自身も「聴いてくれる方はここに何を入れるのかな?」とワクワクしながら入れました。実は1回消したんですけど、色々話し合った結果、復活させました。

――受け手にこの曲の解釈を委ねること自体を表現した部分だったんですね。

楠木 今回のEPも自分でライナーノーツを書いているのですが、ファンの方から「この曲はどういう意味なんですか?」という質問をいただくことが多くて。もちろん自分の中には「こういう意図で書いた」という正解はありますけど、それを押し付けたくはないし、聴く人によって全然違う受け取り方をしてもらっていいと思っているので、想像する余白を残しておきたかったんです。

幻想的なエレクトロニカ曲「sketchbook」が描き出す内面世界
――そのほかの楽曲についてもお聞かせください。2曲目の「sketchbook」は、インディーズ時代に発表された「スケッチブック」と同じメロディで、歌詞を改めたものですね。

楠木 以前の「スケッチブック」を書いた頃から時間も経っていたので、今リリースするなら自分の気持ちがしっかりと出た歌詞にしたくて。私が声優を目指し始めて、実際にお仕事を始めた頃のことを振り返りながら歌詞を書きました。自分の夢を見つけようとしたり、夢を目指し始めたりするなかで、「自分の良さって何だろう?」とか「どうしたらみんなに必要としてもらえるんだろう?」っていう、世の中に能動的に関わろうとする時期に関して書いた曲です。

――自分自身の理想と、実際の自分とのギャップの狭間で悩むようなニュアンスは、前作のEPに収録の「僕の見る世界、君の見る世界」で描かれていたテーマ、誰かに憧れる気持ちはあるけど自分らしくありたい気持ちとリンクしているように感じました。

楠木 この曲のほうがもう少しぼんやりしていて、時系列として「僕の見る世界、君の見る世界」よりも前の話になるので、ターゲットもはっきりしていなくて。歌詞に“君”や“あの子”といった、第三者を表す言葉が出てくるんですけど、実はこれが第三者ではなくて。

――それも自分自身ということですよね。

楠木 そうなんです。自分の中にいるもう一人の自分と言いますか、よく脳内会議みたいな形で表現されますけど、悩んでいるときって色んな自分がいるじゃないですか。そのイメージが強くて。最初の“カーテンを開けたまま 君が眠る時間を待つ”という歌詞がキーになっていて、これが実は月が部屋にいる私を見ている視点の歌詞なんです。“寝転び君に話した 私の思う私”は、私視点から“君”という月に向けて話しているのですが、それも月に自分を重ねていて。何かに自分を重ねて向き合っている時間を想定して書いた曲なので、このEPの4曲の中で一番自分の中に閉じこもった歌詞になっています。

――その意味で言うと、サビの“描いた景色は まやかしのまま”といったフレーズは、“私の思う私”を描きたいんだけど、どうしても取り繕ってしまったり、自分の気持ちに正直になれないことを象徴している?

楠木 まさしくその通りです。なりたい自分になるのは難しいということを書いています。夢を目指すのは、絵を描くことに似ているなと思っていて。絵を描くときは、なかなか上手く自分の描きたいものにならなくて、色を足し引きしたり、重ねたりしながら理想の絵に近づけていくと思うんですけど。自分が頑張ろうとしているときも同じで、何が必要で何が必要じゃないか、より魅力的な人間になれるかを考えると思うんです。そのリンクから「sketchbook」というタイトルにしました。

――最後のブロックに“くすんだ思い出も 怖がらず筆にとって 好きな色だけでは 彩るには足りなくて”とあるのは、自分ではネガティブに感じる個性も受け入れてこそ、自分の絵を描けるようになる、ということですね。

楠木 そうです! 全体的に比喩が多くて、ちょっとカラクリのある歌詞になっていますけど、先ほどお話したリンクを感じてもらえると、比較的理解しやすい歌詞だと思います。

――そういった内面の繊細な変化を、サウンド的にはエレクトロニカ~アンビエント系のアレンジで表現しているのも絶妙です。編曲はChouchouのarabesque Chocheさんが手がけていますね。

楠木 この楽曲は自分が今まで作ったメロディの中でかなり美しく書けたと思っているんですけど。その綺麗なメロディを一番活かせるアレンジを考えたときに、Chouchouさんの優しくて広がるようなサウンドが思い浮かんだんです。アレンジ会議の際も、普段なら「こういうサウンドがいいです」という説明をするのですが、この曲に関しては、頭の中に映像が浮かんでいたのでそのお話をしました。この曲のリリックビデオの絵に近いんですけど、部屋に一人でいて、風がちょっと吹いていて…。そのようなお話をarabesqueさんが共感してくださって、映像のイメージから曲を詰めていけたのが楽しかったです。




ライブでのファンの笑顔に触れて生まれ変わった「アカトキ」
――3曲目の「アカトキ」は、インディーズ時代の楽曲をリアレンジして再レコーディングしたもの。歌詞は声優の鳴海夏音さんと共作されていますが、元々どんなイメージで作った楽曲ですか?

楠木 夏音ちゃんと一緒に曲を作りたいという話になって、まず夏音ちゃんに「どういうことを書きたい?」っていうインタビューをしたんです。なので曲の内容的には、主に彼女の考えていることが主軸になっていて、自分への応援ソングというか、「ポジティブに自分を更新していこう」というのがテーマになっています。彼女に引っ張られて、ほかの曲よりもポジティブな視点が多かったりするので、共作の面白さが出ていると思います。

――この曲も夢を追いかける人を後押しするようなナンバーですよね。歌詞は1番を楠木さん、2番を鳴海さんが書かれたとか。

楠木 まず私が1番の歌詞とメロを書いて、「これを枠組みに作ってみて」っていう感じで2番を書いてもらったんですけど、内容に関しては全然すり合わせをしていなくて、お互いに書きたいことを書いたので、歌詞のテイストの違いも面白いと思います。1番はなんとなく落ち着いているけど、2番はビックリマークが入ってたりして。それぞれの個性が出ているけど、夏音ちゃんが1番の歌詞を意識して書いてくれたので、統一感のある内容になりました。

――サビの“アップデートしていこうよ”というフレーズがキャッチーで、思わず口ずさみたくなります。

楠木 これは夏音ちゃんにインタビューしていたときに、ふと浮かんだフレーズなんです。この曲のテーマとして大事にした方がいいかもと思っていたら、いつの間にかトレードマークのようになっていました。

――今回のリアレンジに際し、ストリングス、ホーン、パーカションなどの生音を中心としたソウルフルなサウンドになって、すごくゴージャスになりましたね。

楠木 前のバージョンは夜が似合う落ち着いた曲調だったんですけど、ライブで繰り返し歌ううちに、みんなで歌ったり、クラップをしたりして楽しめる曲だということを、お客さんに気付かせていただいたんです。ステージから見る皆さんが笑顔で、キラキラした目で楽しんでくださっているので、その表情をどうしても楽曲に落とし込みたくて。その景色を一緒に見てくださっている多田(三洋)さんに改めてアレンジをお願いしました。ピアノはあえて打ち込みにしてもらったのですが、それ以外は全部生音で、すごくリッチなアレンジにしていただきました。

――ピアノだけ打ち込みにしたのはなぜですか?

楠木 曲自体がR&Bっぽい大人なテイストで、楽器の数も多くてリッチなので、ピアノも生音にすると大人っぽくなりすぎて、歌詞の瑞々しい雰囲気から離れちゃうかなと思ったんです。それと最近、ピアノが弦を打つ音をリズムのアクセントとして使っていたり、あえてタテ感を意識して複雑なメロディをたくさん入れることで、パーカッション隊を引っ張るようなピアノの使い方をしているサウンドが多いなと思っていて。

――たしかに。YOASOBIの楽曲とかはそういう印象が強いですね。

楠木 この曲は若い方にもたくさん聴いていただきたいので、より耳馴染みのあるサウンドにしたくて、ピアノをあえてタテがはっきりと出る、いわばあまり表情のない無機質なテイストにしたくて、あえて打ち込みでお願いしました。

――そこまで考えられてのことだったのですね。個人的には、楠木さんは以前にライブでORIGINAL LOVEの「接吻」をカバーされていたこともあって、ORIGINAL LOVEに通じるグルーヴ感を感じました。

楠木 全体を通して聴くと、大人世代の方にもグッときてもらえると思いますし、幅広い世代の方にフィットするアレンジになればいいなと思っていました。



感謝や決意の気持ちを伝えるバラード「バニラ」に込めた本当の願い
――そして4曲目の「バニラ」がとてもエモーショナルなバラードに仕上がっていて。MVでは涙を流しながら歌われていましたが。

楠木 あれは全然意図していなくて、撮影をしていたら自然と涙が出てしまいました。すごくいいタイミングで涙が流れているので、目薬と思われるかもしれませんが、ちゃんと本物の涙です(笑)。監督も驚いていました。私は「わ~、泣いちゃった!どうしよう!?」って思ってましたけど。

――でも、この曲はそれだけ、自分にとっての大切な気持ちを詰め込んだ楽曲なんだろうなと感じました。

楠木 そうですね。ほかの曲は周りからの刺激を受けながら作っていますけど、「バニラ」は100パーセント私の気持ちから生まれている唯一の曲です。歌詞を書こうと思って書いたというよりは、手紙や日記を書くような感覚に近くい歌詞で。だから直接的な言葉が多いですし、“伝える”ことに重きを置いて作った曲になります。

――その“伝える”対象ですが、1番の歌詞では子供の頃の情景が描かれているので、家族への想いなのかなと。

楠木 はい。家族や友人、このお仕事を始める前にお世話になった人たちへのメッセージになっています。2番はお仕事を始めてから応援してくださっているファンの皆さんや、これから私を見つけてくださるかもしれない方に向けて描いています。なのでサビの視点も自分のいる立場に合わせて変えていて。発信を受け取る側から、自分で発信する側になった変化を表現しています。

――なるほど。1番では“あなたの声はバニラに溶けて”で受け取る側だったのが、2番では“私の声がバニラに溶けて”になって、しかも楠木さんは声優のお仕事をされているので……完璧じゃないですか(笑)。この曲を通して楠木さんが届けたい想いというのは?

楠木 感謝であったり、願いであったり、自分の決意。これからこうしていきたいっていう想いが、すごく歌詞に出ています。

――例えば1番の歌詞に目を向けると、“いつまでも続かないぬくもり”や“決して消えないはずの思い出から”というフレーズに、時間は有限だからこそ今を一生懸命生きるというメッセージが感じられて。

楠木 もちろん今いただいているご縁が一生であればいいなと思いつつ、人間には寿命があるし、環境の変化もあって。それこそ今のこういうご時世になることだって、1年半ぐらい前までは誰も想像していなかったですし、失ってから気付くことに対する後悔があると思うんですけど。だったら自分は絶対に忘れない、こういう時間をもっと増やしたいっていう、より熱くて強い想いに変換されているのが「バニラ」という楽曲です。



――MVの撮影で自然と涙が流れたときは、どんな気持ちだったんですか?

楠木 この曲はいつもライブで歌っていてもうるうるしちゃうんですけど、やっぱり自分の気持ちが強く乗っているというのもありますし。感謝の気持ちや、今自分が出会っているご縁がもし1つでもなかったら今の自分はいないんじゃないかだとか。そういうことを思うと、何かわからないけど涙が出ちゃうんです(笑)。

――ちなみに「バニラ」というモチーフはどこから?

楠木 これはバニラの花のことで、バニラの花言葉は「永久不滅」なんです。この曲はタイトルが先に決まった珍しい曲なんですけど、バニラといえば香りが印象的なので、香りについて調べていたときに、サビの最後のフレーズにある“馨る”という字を見つけて。ここは「声」という字が入っている難しい漢字をあえて使っているのですが、この「馨」という字には「良い評判が遠くまで広がる」という意味があるんです。それが今自分が伝えたいことにピッタリだったし、そういう色んなことをまとめていくと、バニラが歌詞の世界にフィットして書きやすかったんです。

――先ほどお話いただいた通り、いつか終わりが来ることはちゃんと自覚しているけど、花言葉が「永久不滅」のバニラをタイトルに選んだということは、この花言葉に自分自身の願いを託したような形なのでしょうか。

楠木 はい。“私の声がバニラに溶けて”という歌詞は、(私の声が)ずーっと、どこか誰かに残り続けてほしいという想いだったり。“あなたの声はバニラに溶けて”も、どこかで聴いた音楽や言葉って、ずっと自分の考え方の要素として残り続けるじゃないですか。そういった意味も込めています。

シンガーソングライター・楠木ともりが見据えるこの先の創作活動
――前回の取材のときに、前作のEPに一人称が“僕”の曲が多いのは、聴いている側に楠木さん自身の存在を意識させすぎないためとおっしゃていましたが、今回のEPは一人称が“私”の曲が多いですよね。

楠木 たしかに。だからと言って自分のことだけを書いているわけではないんですけど、より自分に近い部分から書いた曲が多いので、結果的に“私”がしっくりきたんだと思います。

――なおかつ、今回は全曲の作詞・作曲をご自身で行っているので、シンガーソングライターとしての楠木ともりの今を提示した作品になっているのかなと。

楠木 そうですね。今回はノンタイアップということもあって、それなりにプレッシャーもありました。そのなかで今自分ができること、表現できること、届けたいことを、とにかく全力でやって皆さんに伝えるしかないと思っていたので、全力で勝負しました。マスタリング作業で聴いたときの満足感も深かったので、それがそのまま伝われば、いいものになっていると思います。

――ただ、今回の作品で、インディーズ時代から作ってきた自作曲のストックは「クローバー」を残してほぼ出しきったわけじゃないですか。今も新しい曲を作っていたりはしますか?

楠木 少しずつ作っています。「Forced Shutdown」と同じような作り方で、時間があるときにちょっとずつ書き溜めたりしながらではありますけど、少しずつはやっています。ここからまた、楠木ともりとしての音楽の取り組み方の新章が始まる気がするので、また気持ちを新たに頑張ろうと思います。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)



●リリース情報
「Forced Shutdown」
発売中

【初回生産限定盤A(CD+BD)】

品番:VVCL-1838~1839
価格:¥4,000+税

【初回生産限定盤B(CD+DVD)】

品番:VVCL-1840~1841
価格:¥4,000+税

【フォトブック盤(CD+フォトブック)】

品番:VVCL-1842~1843
価格:¥2,400+税

【通常盤(CD)】

品番:VVCL-1844
価格:¥1,500+税

<CD>
01. Forced Shutdown
作詞・作曲:楠木ともり 編曲:重永亮介
02. sketchbook
作詞・作曲:楠木ともり 編曲:arabesque Choche(Chouchou)
03. アカトキ
作詞:楠木ともり・鳴海夏音 作曲:楠木ともり 編曲:多田三洋
04. バニラ
作詞・作曲:楠木ともり 編曲:野村陽一郎
05. Forced Shutdown -Instrumental-
06. sketchbook -Instrumental-
07. アカトキ -Instrumental-
08. バニラ -Instrumental-

<Blu-ray・DVD>
[Music Video]
・Forced Shutdown -Music Video-
・バニラ -Music Video-
[Lyric Video]
・sketchbook -Lyric Video-
・ アカトキ -Lyric Video-
[Live]
・Kusunoki Tomori Birthday Candle Live「MELTWIST」映像(オリジナル楽曲全6曲収録)

●イベント情報
楠木ともり×TOWER RECORDS スペシャル配信イベント
2ndEP「Forced Shutdown」の発売を記念して、ミニライブありのスペシャル配信イベント開催決定!
5月13日(木)19:00
内容:ミニライブ+トーク(予定)

視聴用シリアルコード配布対象期間:5月6日(木)23時59分受注分まで

「Forced Shutdown」発売記念5大都市オンライントークイベント
「全国各地で応援してくださる皆さまのところに直接お会いしに行きたい!」という思いがありながら、昨今の状況により直接赴くことができずにいる中、“オンライン上で”5大都市を巡らせていただこうというトークイベントです。

5月30日(日)
札幌会場:15:00 ~ 15:30
福岡会場:16:00 ~ 16:30
名古屋会場:17:00 ~ 17:30
大阪会場:18:30 ~ 19:00
東京会場:19:30 ~ 20:00

内容:トーク会
対象商品販売店舗:Sony Music Shop・全国アニメイト(通販含む)・全国ゲーマーズ(オンラインショップ含む・ 原宿店除く)


関連リンク
楠木ともり 公式サイト
https://kusunokitomori.com/

楠木ともり 公式Twitter
https://twitter.com/tomori_kusunoki

楠木ともり 公式YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCYU-61cZHXE0P48ZCxvs4cQ

スペシャル配信イベント視聴チケット付き対象商品販売ページ
https://tower.jp/article/feature_item/2021/04/21/0701

トークイベント詳細
https://www.kusunokitomori.com/info/archive/?id=528761
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