昨年9月に結成10周年を迎えたGARNiDELiAのボーカリスト・MARiAが、豪華作家陣を迎えたソロアルバム『うたものがたり』を完成させた。ボーカリストとして類い稀なる歌唱力と表現力を持つ彼女の声に魅せられたのは、宇宙まお、岡本定義、草野華余子、じん、TAKUYA、nishi-ken、橋口洋平(wacci)、早川博隆、本間昭光、山崎まさよし、山下穂尊(いきものがかり)ら錚々たる面々。
10組のアーティストが、MARiAに表現してほしい“ラブソング”
――今回のソロプロジェクトに関しては、いつ頃からアイデアを温めていたのですか?
MARiA ソロ自体は結構前からやりたいと思っていました。今回のきっかけは、GARNiDELiAの活動が10周年を迎えたなかで、ここからまた自分たちの新しい扉を開いていくためには何をしたらいいかを考えたときに、私とtokuさんがお互いにソロ活動を行って、そこで得たものでまたGARNiDELiAをやっていけたら楽しそうだよね、っていう話になって。
――MARiAさんは元々ソロシンガーとしても活動していたわけですが、その意味で今回のソロプロジェクトは原点回帰みたいな気持ちもあったのでしょうか?
MARiA それも少しはあったかも。GARNiDELiAはボーカル・MARiAとコンポーザー・tokuのユニットだから、この10年、自分が書いた言葉で自分の想いを伝えるために歌をうたってきたけど、そのMARiAが一人のボーカリストとして歌そのものを主軸に置いた作品を作るときに、どんなものにしていくかを考えたのが、今回の『うたものがたり』なんです。だから、今作はあえて自分では歌詞を書かないという選択をしていて。色んな方々からいただいた歌詞やメロディを受け取って、ボーカリストとしての歌をシンプルに表現する場所にしたかったんですね。その結果、集まった楽曲はジャンルの幅も広くなって。
――今作には、ベテランの本間昭光さんが総合プロデューサー的な立ち位置で参加されていますが、これはどのような経緯でご一緒されたのですか?
MARiA 本間さんは凄く有名な音楽プロデューサーなので、もともとソロ活動をしていくならご一緒できたら嬉しいなってスタッフチームで相談してたら、トントン拍子で本間さんにお願いすることが出来て、びっくりしました!
本間さんは数々のアーティストの方をプロデュースされていますし、歌をすごく大事にしてくださる方で、全曲のレコーディングディレクションもしていただいたんですけどGARNiDELiAのMARiAとしてのスタイルを、全部理解したうえで、すごく柔軟に対応してくれたんです。歌に対する向き合い方が本当に素晴らしい方でした。
――そんな本間さんを迎えてアルバム制作を始めるにあたり、まずどんな作品にしようと思われましたか?
MARiA GARNiDELiAのMARiAと、ソロのMARiAは伝えたいことは実は同じなんですよね。前向きに、強く、絶対に自分を信じて、生きていこう!ってね。
GARNiDELiAってtokuのサウンドがあり、私が作詞するという曲つくりの分担でやっていて、完全にブランド化しているから。それが一人の歌手MARiAとして、私の想いを一緒に作家さんにオファーして、作品を提供してもらう、あがってきたメロディーや詞にまた私のアイディアや想いを織り込ませていく、そうして制作するってGARNiDELiAの時も同じで、レコーディングの時も本間さんともそうしていて。
私の中の隠れているもう一人の私を、ソロではやってきたいから。そこを一番こだわりつつ、でも私は私だから、結局、前向きに、絶対に夢を捨てないで、悲しいことがあっても強く、自分らしく生きていこう!っていつもの私のベースになってるメッセージは外したくなったし。
――そのうえで、「MARiAさんに歌わせたいラブソング」が10曲出来上がるということになるんですね。
MARiA そうなんですよ。私も最初はどんな曲がくるのかワクワクでした。とはいえ、皆さんにはそれぞれの個性を活かした楽曲を書いてもらうようにお願いしていたので、どんなカラーの楽曲になるかはある程度予想しながら組み立てていったところもあって。どの曲も皆さんの“節”が炸裂しまくりなので、皆さんと私のコラボみたいなところもあると思います。デモはご本人が歌っているものが多かったので、新しいデモをいただいて聴くたびに「これ、このままリリースできるじゃん!」って思って(笑)。
――それらの様々な楽曲をすべてMARiAさん色に染めて表現しているのが、本作の聴きどころだと感じました。
MARiA ありがとうございます! すごく嬉しいです!
――ちなみに“ラブソング”はお好きですか?
MARiA もちろん。聴くのも歌うのも好きです。歌は“愛を伝えるもの”というのが、自分の中でブレることなくGARNiDELiAの時もずっとある考え方で。もちろん愛には色んな種類や定義がありますけど、私にとってはファンのみんなに対する愛を歌うこともラブソングなんですね。GARNiDELiAでは、戦っているみんなの背中を押すための愛だとか、スケールの大きな愛を歌うことが多いんですけど、今回の『うたものがたり』では恋愛や、親友、家族やもっと身近な愛について歌っているので、その意味では私が今まで表現してきた愛の形と違って見える部分があるのかぁと思います。愛は愛でも、ソロアーティストとしてのMARiAの愛は、みんなの生活に根付いてる愛に寄り添った曲たちにしたかったというのもありましたね。
――たしかにGARNiDELiAは壮大なスケールの楽曲が多いので、MARiAさんがここまでの身近さを感じさせる歌を披露しているのは新鮮でした。
MARiA それこそ「光」の歌詞を書いてくれた宇宙まおさんは、「MARiAちゃんが“冷蔵庫”って歌うのを聴いてみたい」って言ってくれて。これは自分でも感じることなんですけど、“GARNiDELiAのMARiA”ってすごく遠い場所にいるイメージがあるんですよね(笑)。それは自分の歌詞が大きな気持ちを表現していることが多かったり、GARNiDELiAには星の歌が多いことも関係していると思うんですけど。それに対して今回のMARiAは、(聴いている人の)その人が生活している隣で歌っているみたいな感覚ですね。
橋口洋平(wacci)、山下穂尊(いきものがかり)らが開いたMARiAの新しい扉
――ここからは収録曲について詳しく聞いていきます。
MARiA 「コンコース」というタイトルも“新幹線”という歌詞も、今までの自分からは絶対に出てこなかったワードですね(笑)。この曲は橋口さんからいただいたデモを聴いたときからビビッときていたんですよ。メロディがすごく強くて、しかもサビのメロディと言葉のハマり具合がすごくストレートで気持ち良くて。そもそも男性目線の歌を歌うことが珍しいので不思議な感覚もありましたけど、描かれている内容がリアルだから、すごく自然体で歌いました。
――未練が残る別れを丁寧な情景描写とともに描いた歌詞が、「別の人の彼女になったよ」などのヒットで知られるwacciの橋口さんらしいですよね。
MARiA きっとこういう、「好きだけどどうしても離れなくてはならない気持ち」っていうのは、誰もが経験したことのあるものだと思うんですよ。それを真っ直ぐ表現できる橋口さんがすごいと思いましたし、自分も「なるほど」と思って。歌詞を書いて表現する側としても勉強になりましたね。
――この曲では切なさが滲むような歌声を聴かせていますが、特別意識したことはありますか?
MARiA 試しに何パターンか色んなキーで歌ってみたんですけど、普段GARNiDELiAで設定しているキーよりも高めにしました。切ない気持ちを伝えるのに、その歌の自然体な歌い方にしたくて。
――2曲目の「憐哀感情」は、いきものがかりの山下穂尊さんが作詞・作曲したバラード。歌謡曲っぽい情念的なメロディとサウンドが、今までのMARiAさんにはなかった扉を開いた印象です。
MARiA この曲が今作の中で一番振り切りましたね。最初にレコーディングした楽曲だったので、まずは本間さんと「どういう方向性で作っていくか?」という相談からスタートしたんですけど、そこで「MARiA節はあえて封印しよう」という話になったんです。みんなが知っているMARiAの歌い方からあえて引き算していくような、そんなレコーディングの仕方。その全部を省いた真ん中にあるMARiAの声で、言葉をポツリポツリ語っていくような感じというか。“歌う”というよりも、何にもない暗いステージに私が一人、ピンスポットを受けて立っていて、そこで呟いているみたいな感覚。そのイメージが『うたものがたり』というタイトルにも繋がっていて。そのときに、私の歌が主人公で、10編の物語を演じていくイメージが浮かんだんですよ。この曲はアルバムの軸になっている感覚がありますね。
――なるほど。いつものMARiAさんらしい歌を封印したことで、新たに意識したことはありましたか?
MARiA この曲がというよりも、今回のアルバムは全体的に「言葉」を大切に歌いました。歌詞カードを見ながら聴かなくても言葉が入ってくるような歌にしたかったんです。そのなかでもこの「憐哀感情」は、歌詞が文学的で小説を読んでいるみたいな感覚になる、心の奥底のもっとさらに奥にある、数式では割り切れない感情というか、きっと人が言葉に出さずに長いあいだ大切にしてきた神秘的な何かがしっかりとある、そういう歌なので、言葉がちゃんと伝わるように丁寧に歌いたかったですね。
――たしかにこの曲の歌詞は古風な言葉遣いで恋愛の複雑な心境が描かれていて、言葉を読み解く面白さもあるように感じました。
MARiA 実は結構悲しい歌なんですよね。私の中にはあまりない感情かもしれない(笑)。でもまだ出会えていない隠れ私なのかもしれないですよ(笑)。
――MARiAさんはこの曲のように、深い悲しみに浸るようなことはあまりない?
MARiA もちろんすごく落ち込んで悲しくなるときもありますよ。でも割とすぐケロっとなるタイプなので(笑)。ただ、これまで悲しみを抱きしめる気持ちを表現することはあまりなかったけど、今回のアルバムを経て、私って悲しい歌にハマるということに気づいて。
――自分も今作を聴いてそう感じました。
MARiA そんな気がします。今回、皆さんにMARiAをイメージして曲を書いてもらったら、意外とマイナー調の曲が多かったんですよ。私の声からはそういう曲調がイメージしやすいのかもしれないです。
――MARiAさんは昔ジャズを歌っていましたけど、もしかしたらその経験も関係しているのかもしれませんね。
MARiA たしかにその経験は今作にも活きていると思います。今回はオケの音数を少なめにして歌が前に出る作りにしたんですけど。
――3曲目「ガラスの鐘」も切ない恋の歌で、ラテンっぽい情熱的なフレイバーと「シンデレラ」をモチーフにした歌詞の組み合わせが、これまたどこか懐かしい匂いがします。
MARiA ちょっとオリエンタルな雰囲気ですよね。この曲も悲恋の歌ですけど、「隣哀感情」とはまた違った表現の仕方で。自分が歌詞を書いていたら絶対に書かないようなかわいい乙女の部分が出ていて、“女子の現実”というよりも“女子の秘密の願い”の歌という印象ですね。カボチャの馬車に跳び乗ったり、ガラスの靴を投げ捨てたりして。
――歌う際に“女の子”的なものを意識しましたか?
MARiA どの曲もですが歌い方は意識して変えていますよ。「隣哀感情」はかなり渋めのトーンで歌っていますが、「ガラスの鐘」は高域の部分を使って、可憐な感じの歌い方を意識していて。だって女子の心の中の本音というか、きっと言葉には出しずらい願いみたいな歌だから。今回のアルバムは10曲すべて年齢感もバラバラなので、意識をして、自然体で歌い方は結構変えたかもしれないです。
草野華余子、山崎まさよし、TAKUYA――意外な組み合わせによる化学反応
――続いての楽曲「おろかものがたり」は、草野華余子さんの書き下ろしによる激情感溢れるロックチューン。華余子さんとは以前から親交があったのでしょうか。
MARiA 意外と長い付き合いなんですよ。岸田教団&THE明星ロケッツのichigoさんも交えてみんなでご飯を食べに行くこともあって。初めて会ったのは結構前なんですけど、そのときから「ソロをやるんだったら曲を書きたい」って言ってくれていたので、今回、「何でもやるから、私に歌ってほしい曲を書いて」ってお願いしたら、はちゃめちゃに難しい楽曲がきて(笑)。華余子さんは「愛の挑戦状やから」「MARiAならできると思ってるから頑張って!」って言ってましたけど。
――あはは(笑)。かなり強めな曲調で、華余子さんらしいですよね。
MARiA 華余子さんは「おわりものがたり」という自分の楽曲の続編と言ってましたね。「勝手に続編にしちゃった、テヘ」って(笑)。歌詞の内容も結構きわどい関係性を描いていて。絶対に恋人同士じゃないですよね、これ。最初から「“遊び”と言い聞かせて」って言ってますし。「愚かだとわかっていても……」みたいな曲ですね。めちゃくちゃかっこいいんですけど、テンポがすごく速いし言葉数も多いので、息を吸う余裕がないんですよ。メロディもすごく難しいし。
――MARiAさんでも手こずるほどの高難度なんですね。
MARiA この難しさは歌わないとわからないかもしれないので、みんなにも一度歌ってみてほしい(笑)。この曲だけじゃなく、今回のアルバムは難しい曲ばかりなので、ハードルはすごく高かったんですけど、私は難しいほうが「やってやる!」って燃えるタイプなので、逆にすごく嬉しかったし楽しかったですね。
――5曲目「マチルダ」は、COILの岡本定義さんが作詞、山崎まさよしさんが作曲という豪華な1曲。淡々としたトーンが哀愁を感じさせる、どこかブルージーな雰囲気のナンバーです。
MARiA 仮歌は山崎さんがギターとラララで歌っていたんですけど、それを聴いた時点で、音の中での揺れ方や間の使い方、歌心みたいなものがすごく問われる曲だなと感じて。(歌の)リズムがピッタリ決まっているわけではないので、正解はなくてどう歌ってもいい、それこそジャズを歌うときの感覚に近い、ライブ感が大切な曲だと思うんです。レコーディングでは、何回かツルッと歌ったんですけど、毎回アプローチの仕方が変わるし、その自由を楽しむ、音楽や歌を楽しむ感覚で歌った曲です。
――その意味では表現のし甲斐がある曲なんでしょうね。
MARiA この歌は大人になった私じゃなかったら歌えなかったかも。十何年間ずっと歌を歌ってきて、力の抜き方もわかるようになった今だからできる表現の仕方があるなと思っていて。20代前半の私には、この曲は歌えたとしても納得できなかったと思う。今の私が歌うことの意味をすごく感じた曲ですね。本当の意味で音を感じて楽しむ、みたいな。山崎さんは仮歌のラララでも、とんでもなく遊んでいましたけどね。「渋い!」って感動しましたから。
――「キスをしてみようか」は元JUDY AND MARYのTAKUYAさん提供によるトリッキーなギターロック。これも新しい挑戦ですね。
MARiA TAKUYAさんらしい、ぶっ飛んじゃってる曲ですよね(笑)。TAKUYAさんからはデモを4曲ほどいただいたんですけど、周りのスタッフはほかの曲を推すなか、私は絶対にこの曲がいい!って譲らなくて(笑)。
――どこにそこまで惹かれたんですか?
MARiA 初めて聴いた瞬間に自分が歌っている姿が想像できたんです。この曲、エッジーなのにキュートなんですよね。それがすごくTAKUYAさん節だと思ったし、この言うことを聞かないじゃじゃ馬な女の子感は、私本人にもハマるなと思って(笑)。
――そうなんですね(笑)。メロディもトリッキーで歌うのは大変そうですが、いかがでしたか?
MARiA これは本当に大変でした。TAKUYAさん本人がレコーディングスタジオに来てくれて、TAKUYAさんのYouTubeチャンネルの動画を一緒に撮ったんですけど、そのときに「これ歌えた?」「俺、ややこしい曲作っちゃうから。よく歌えたね」って言われて(笑)。サビ前のフレーズとかも今まで歌ったことのないようなメロディだったので、自分でもよく歌えたなって思います(笑)。
――本間さんが作編曲、清水信之さんが共編曲で参加した「あー今日もまた」は、いわゆるナイアガラサウンド系のオールディーズ調のミディアムナンバー。MARiAさんとこの曲調は、今までにない組み合わせですね。
MARiA 私的にもすごく新しいと思うんですけど、この曲は自分の声に超ハマっていると感じていて。多分親の影響もあると思うんですけど、それこそ子供の頃は(松田)聖子さんの曲や、昭和歌謡なんかもよく聴いていたし、カラオケでも歌っていたので、こういうノスタルジックな感じも自分の中では馴染んでいるんでしょうね。本間さんも「ハマってるよねー」って言ってくださって。
――自分もこの曲、懐かしいけど新しい感じがして、すごく好きです。
MARiA いいですよね。癒されるというか、肩の力がフッと抜ける感じがして。曲調はオールディーズっぽい懐かしいサウンドだけど、歌詞は今っぽいし、そのアンバランスな感じがすごくよくて。今の自分の年齢感にも合う曲だなと思います。同世代の女の子たちに向けて、みたいな感じもありますし。
――そのノスタルジックな雰囲気から一転、nishi-kenさんが作編曲した「Brand new me」はキラキラしたシンセポップ。マイナー調の楽曲が多いこのアルバムの中では珍しく、明るい曲調ですね。
MARiA nishi-kenさんには少し具体的なオファーをして、「みんなで一緒に手を振って歌えるような曲」ってお願いしたんです。特にサビはその情景が浮かぶ感じにしていただいて。切ない曲が多いなかで、この曲は前向きで、聴いてくれる人の背中をポン!と押す系の曲になりましたね。GARNiDELiAでも前向きなことを歌ってはいますけど、こういうポップな感じはあまりないので、まさに「Brand new me」、新しい自分ですよね(笑)。
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固定概念を壊したからこそ見えた、シンガー・MARiAの無限の可能性
――そして先ほど話題にあがった「光」は、作詞を宇宙まおさん、作曲を本間さん、編曲を清水さんが手がけた、透明感あるミディアムバラード。サビの切なくもスケール感あるメロディがとにかく美しくて、MARiAさんの歌声を含め、個人的にこのアルバムで一番好きです。
MARiA ありがとうございます。本間さんに「どんな曲がいい?」と言っていただいたときにバラードをお願いしたら、こんなに素敵な曲を書いてくれました。メロディは壮大だけど、そこにまおさんの身近な詞の世界が合わさって。まおさんもレコーディングに来てくれたんですけど、すごく優しくて柔らかな素敵な方なんですよ。その人柄が歌詞にも出ているなと思って。サビのこのスケール感のあるメロディに“こわいの”という言葉を乗せるのは、すごいと思う。
――確かに。曲の一番盛り上がる箇所にそれを持ってくることで、切なさや儚さがより強調されているように感じました。
MARiA 私が歌詞を書いた曲で言うと(GARNiDELiAの)「MIRAI」はバラードですけど、あの曲は好きな相手を自分が引っ張っていくような感覚があって。この曲は壮大ななかにも、身近さや親しみやすさを感じさせてくれるところがあるし、完成版を聴いたときに自分でも歌い方がすごく優しいと感じたんですよね。「こんな優しい私、聴いたことある?」と思って(笑)。この曲を好きと言ってもらえるのは嬉しいな。こういうのも隠れ私のひとつなんで(笑)。
――そしてアルバムを締め括るのは、盟友のじんさんが書き下ろした春色の軽快なギターポップ「ハルガレ」。
MARiA じんくんとはもう10年近くの仲だから、もちろんこれからソロをやると決めたときからリリースが決まったら曲をお願いしようと思って、個人的に連絡を取るところから始まりました。めっちゃ長電話をして、世間話をしながら、どんな楽曲にしていこうか話し合って、「あのときは○○だったね」みたいな懐かしトークで自分たちの青春を振り返って。それで出来たのが「ハルガレ」だったんですよね。
――それで青春っぽい爽やかな曲になっているんですね。
MARiA そう、私たちはお互いに大人になりたくない大人だから(笑)。じんくんと私はずっと青春みたいな感覚があるんですよね。そのなかでどんなラブソングにするかを考えたときに、私たちも普通に大人になったし、色々な道を歩んできたなかで切ないこともあったよね、みたいな話になって。やっぱりさよならしないといけない仲間とのお別れを超えて今があるから。じんくんはそこからヒントを得たようで、自分の青春だとか淡い恋が枯れていく様を表現してみようっていう。まず「ハルガレ」というワードチョイスが天才だと思ったし、初めて歌詞が乗ったフルのデモを聴いたときは、若かりし頃の思い出とかも甦ってきて、涙が出ましたから。
――確かに曲自体は華やかだけど、胸を締め付けられるような切なさがあります。
MARiA ノスタルジックな気持ちと、大人になってしまった自分みたいなものと、なんだか過去を笑顔で振り返ってる感じがして、すごく不思議な感覚になったんですよね。特に最後のフレーズ、“また季節が芽吹いている”で終わるところが大好きで、その言葉を見て、私はこのアルバム自体をこの曲で締めようと思ったんです。「この曲、絶対にMVを作りたい!」ってこだわってMVを作りました(笑)。
――そうなんですね(笑)。
MARiA このMVが人選も含めてめっちゃいいんですよ。じんくん、MARiA、そしてイラストはヨリ(横槍メンゴ)ちゃんっていう、私たちの青春を一緒に歩んできたチームでやっていて。ヨリちゃんは週刊連載を抱えていてめちゃくちゃ忙しかったんですけど、どうしてもお願いしたくて。みんなの青春も振り返られるようなMVになるんじゃないかなって思います。
――新しい出会いと旧交が結んだ全10曲、非常に中身の濃い作品になりましたが、完成した今の実感はいかがですか?
MARiA 隠れた私の中から誰かが見つけてくれて生まれていき、私が歌うことで現実の私になることがすごく面白かったし、それこそ「光」みたいに普段のMARiA節を削ぎ落としたことによって気づけた私らしさみたいな感覚もあって。いままでならMARiA節を削ろうとはなかなか思わないじゃないですか。でも、今回、そういうレコーディングディレクションを受けたときに、MARiA節とは何かを分析するために、自分の歌にすごく向き合ったんですよ。MARiA節を全部取っ払ったときにいる私はどんな私なのか?ということを、今回はすごく表現できたと思います。
――その経験が今後のGARNiDELiAの活動にも、何らかの形で作用していくんでしょうね。
MARiA このタイミングで、みんなが“GARNiDELiAのMARiAっぽい”と感じるものに、改めてしっかりと向き合えたのは本当に大きな意味があると思っていて。これがGARNiDELiAとして、またソロアーティストMARiAとして、大きな意味で活きてくると思ってます。GARNiDELiAは秋頃にはまた活動がスタートするので、ソロと並行して、これからの私を楽しみにしていてほしいですね。
――そして6月5日(土)にはチームスマイル豊洲PITでワンマンライブ“MARiA Live 2021 「うたものがたり」”を開催。特別ゲストとして草野華余子さんとTAKUYAさんの参加も決定していますが、最後に意気込みをお聞かせください。
MARiA MARiAとしては生まれて初めてのソロワンマンなのですごく楽しみだし、今回は『うたものがたり』を表現するライブなので、ステージで1曲1曲を演じているような感覚のライブにできればと思っています。それはGARNiDELiAではやらないものだから、一人の表現者でありアーティストとしてのMARiAを皆さんにお見せしたいですね。
皆さん、豊洲PITでガンガンとぶち上りましょう、お待ちしてます!
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
MARiA ソロアルバム
『うたものがたり』
2021年5月26日(水)発売
【初回限定盤(CD+Blu-ray)】
価格:¥4,400(税込)
品番:PCCA-06037
※Blu-rayにはMVほか収録予定
【通常盤(CD)】
価格:¥3,300(税込)
品番:PCCA-06036
※収録曲共通
<収録楽曲>
1.コンコース
作詞:橋口洋平 作曲:橋口洋平 編曲:本間昭光
2.憐哀感情
作詞:山下穂尊 作曲:山下穂尊 編曲:中村タイチ
3.ガラスの鐘
作詞:早川博隆 作曲:早川博隆 / 村山シベリウス達彦 編曲:村山シベリウス達彦
4.おろかものがたり
作詞:草野 華余子 作曲:草野 華余子 編曲:本間昭光 / 草野 華余子
5.マチルダ
作詞:岡本定義 作曲:山崎将義 編曲:清水信之
6.キスをしてみようか
作詞:TAKUYA 作曲:TAKUYA 編曲:nishi-ken
7.あー今日もまた
作詞:jam 作曲:本間昭光 編曲:本間昭光 / 清水信之
8.Brand new me
作詞:木村友威 作曲:nishi-ken 編曲:nishi-ken
9.光
作詞:宇宙まお 作曲:本間昭光 編曲:清水信之
10.ハルガレ
作詞:じん 作曲:じん 編曲:本間昭光
全10曲収録
関連リンク
GARNiDELiAオフィシャルサイト
https://www.garnidelia.com/
MARiA「うたものがたり」特設サイト
https://www.garnidelia.com/special/maria/
MARiA 公式Twitter
https://twitter.com/MARiA_GRND
GARNiDELiA YouTubechannel
https://www.youtube.com/user/HeadphoneTokyo
“GARNiDELiAのMARiA”としてのこだわりをあえて封印し、一人のシンガーとしての挑戦を詰め込んだ渾身の全10曲、そこに込めた想いを本人に聞いた。
10組のアーティストが、MARiAに表現してほしい“ラブソング”
――今回のソロプロジェクトに関しては、いつ頃からアイデアを温めていたのですか?
MARiA ソロ自体は結構前からやりたいと思っていました。今回のきっかけは、GARNiDELiAの活動が10周年を迎えたなかで、ここからまた自分たちの新しい扉を開いていくためには何をしたらいいかを考えたときに、私とtokuさんがお互いにソロ活動を行って、そこで得たものでまたGARNiDELiAをやっていけたら楽しそうだよね、っていう話になって。
――MARiAさんは元々ソロシンガーとしても活動していたわけですが、その意味で今回のソロプロジェクトは原点回帰みたいな気持ちもあったのでしょうか?
MARiA それも少しはあったかも。GARNiDELiAはボーカル・MARiAとコンポーザー・tokuのユニットだから、この10年、自分が書いた言葉で自分の想いを伝えるために歌をうたってきたけど、そのMARiAが一人のボーカリストとして歌そのものを主軸に置いた作品を作るときに、どんなものにしていくかを考えたのが、今回の『うたものがたり』なんです。だから、今作はあえて自分では歌詞を書かないという選択をしていて。色んな方々からいただいた歌詞やメロディを受け取って、ボーカリストとしての歌をシンプルに表現する場所にしたかったんですね。その結果、集まった楽曲はジャンルの幅も広くなって。
――今作には、ベテランの本間昭光さんが総合プロデューサー的な立ち位置で参加されていますが、これはどのような経緯でご一緒されたのですか?
MARiA 本間さんは凄く有名な音楽プロデューサーなので、もともとソロ活動をしていくならご一緒できたら嬉しいなってスタッフチームで相談してたら、トントン拍子で本間さんにお願いすることが出来て、びっくりしました!
本間さんは数々のアーティストの方をプロデュースされていますし、歌をすごく大事にしてくださる方で、全曲のレコーディングディレクションもしていただいたんですけどGARNiDELiAのMARiAとしてのスタイルを、全部理解したうえで、すごく柔軟に対応してくれたんです。歌に対する向き合い方が本当に素晴らしい方でした。
――そんな本間さんを迎えてアルバム制作を始めるにあたり、まずどんな作品にしようと思われましたか?
MARiA GARNiDELiAのMARiAと、ソロのMARiAは伝えたいことは実は同じなんですよね。前向きに、強く、絶対に自分を信じて、生きていこう!ってね。
アルバム全体は“恋模様”縛りみたいなところがあるんですよね、あとはいままで見せたことのない、私の中の隠れた私、をソロでは見せるって決めていたから、そこもすごく大事にしましたね。
GARNiDELiAってtokuのサウンドがあり、私が作詞するという曲つくりの分担でやっていて、完全にブランド化しているから。それが一人の歌手MARiAとして、私の想いを一緒に作家さんにオファーして、作品を提供してもらう、あがってきたメロディーや詞にまた私のアイディアや想いを織り込ませていく、そうして制作するってGARNiDELiAの時も同じで、レコーディングの時も本間さんともそうしていて。
私の中の隠れているもう一人の私を、ソロではやってきたいから。そこを一番こだわりつつ、でも私は私だから、結局、前向きに、絶対に夢を捨てないで、悲しいことがあっても強く、自分らしく生きていこう!っていつもの私のベースになってるメッセージは外したくなったし。
――そのうえで、「MARiAさんに歌わせたいラブソング」が10曲出来上がるということになるんですね。
MARiA そうなんですよ。私も最初はどんな曲がくるのかワクワクでした。とはいえ、皆さんにはそれぞれの個性を活かした楽曲を書いてもらうようにお願いしていたので、どんなカラーの楽曲になるかはある程度予想しながら組み立てていったところもあって。どの曲も皆さんの“節”が炸裂しまくりなので、皆さんと私のコラボみたいなところもあると思います。デモはご本人が歌っているものが多かったので、新しいデモをいただいて聴くたびに「これ、このままリリースできるじゃん!」って思って(笑)。
――それらの様々な楽曲をすべてMARiAさん色に染めて表現しているのが、本作の聴きどころだと感じました。
MARiA ありがとうございます! すごく嬉しいです!
――ちなみに“ラブソング”はお好きですか?
MARiA もちろん。聴くのも歌うのも好きです。歌は“愛を伝えるもの”というのが、自分の中でブレることなくGARNiDELiAの時もずっとある考え方で。もちろん愛には色んな種類や定義がありますけど、私にとってはファンのみんなに対する愛を歌うこともラブソングなんですね。GARNiDELiAでは、戦っているみんなの背中を押すための愛だとか、スケールの大きな愛を歌うことが多いんですけど、今回の『うたものがたり』では恋愛や、親友、家族やもっと身近な愛について歌っているので、その意味では私が今まで表現してきた愛の形と違って見える部分があるのかぁと思います。愛は愛でも、ソロアーティストとしてのMARiAの愛は、みんなの生活に根付いてる愛に寄り添った曲たちにしたかったというのもありましたね。
――たしかにGARNiDELiAは壮大なスケールの楽曲が多いので、MARiAさんがここまでの身近さを感じさせる歌を披露しているのは新鮮でした。
MARiA それこそ「光」の歌詞を書いてくれた宇宙まおさんは、「MARiAちゃんが“冷蔵庫”って歌うのを聴いてみたい」って言ってくれて。これは自分でも感じることなんですけど、“GARNiDELiAのMARiA”ってすごく遠い場所にいるイメージがあるんですよね(笑)。それは自分の歌詞が大きな気持ちを表現していることが多かったり、GARNiDELiAには星の歌が多いことも関係していると思うんですけど。それに対して今回のMARiAは、(聴いている人の)その人が生活している隣で歌っているみたいな感覚ですね。
橋口洋平(wacci)、山下穂尊(いきものがかり)らが開いたMARiAの新しい扉
――ここからは収録曲について詳しく聞いていきます。
まず1曲目は、wacciの橋口洋平さんが作詞・作曲したリードトラック「コンコース」。駅でお別れする二人の情景が描かれていて、まさに身近な恋愛模様を描いたラブソングです。
MARiA 「コンコース」というタイトルも“新幹線”という歌詞も、今までの自分からは絶対に出てこなかったワードですね(笑)。この曲は橋口さんからいただいたデモを聴いたときからビビッときていたんですよ。メロディがすごく強くて、しかもサビのメロディと言葉のハマり具合がすごくストレートで気持ち良くて。そもそも男性目線の歌を歌うことが珍しいので不思議な感覚もありましたけど、描かれている内容がリアルだから、すごく自然体で歌いました。
――未練が残る別れを丁寧な情景描写とともに描いた歌詞が、「別の人の彼女になったよ」などのヒットで知られるwacciの橋口さんらしいですよね。
MARiA きっとこういう、「好きだけどどうしても離れなくてはならない気持ち」っていうのは、誰もが経験したことのあるものだと思うんですよ。それを真っ直ぐ表現できる橋口さんがすごいと思いましたし、自分も「なるほど」と思って。歌詞を書いて表現する側としても勉強になりましたね。
――この曲では切なさが滲むような歌声を聴かせていますが、特別意識したことはありますか?
MARiA 試しに何パターンか色んなキーで歌ってみたんですけど、普段GARNiDELiAで設定しているキーよりも高めにしました。切ない気持ちを伝えるのに、その歌の自然体な歌い方にしたくて。
そこはすごく曲全体が繋がったんじゃないかなって思います。あくまで自然体で。
――2曲目の「憐哀感情」は、いきものがかりの山下穂尊さんが作詞・作曲したバラード。歌謡曲っぽい情念的なメロディとサウンドが、今までのMARiAさんにはなかった扉を開いた印象です。
MARiA この曲が今作の中で一番振り切りましたね。最初にレコーディングした楽曲だったので、まずは本間さんと「どういう方向性で作っていくか?」という相談からスタートしたんですけど、そこで「MARiA節はあえて封印しよう」という話になったんです。みんなが知っているMARiAの歌い方からあえて引き算していくような、そんなレコーディングの仕方。その全部を省いた真ん中にあるMARiAの声で、言葉をポツリポツリ語っていくような感じというか。“歌う”というよりも、何にもない暗いステージに私が一人、ピンスポットを受けて立っていて、そこで呟いているみたいな感覚。そのイメージが『うたものがたり』というタイトルにも繋がっていて。そのときに、私の歌が主人公で、10編の物語を演じていくイメージが浮かんだんですよ。この曲はアルバムの軸になっている感覚がありますね。
――なるほど。いつものMARiAさんらしい歌を封印したことで、新たに意識したことはありましたか?
MARiA この曲がというよりも、今回のアルバムは全体的に「言葉」を大切に歌いました。歌詞カードを見ながら聴かなくても言葉が入ってくるような歌にしたかったんです。そのなかでもこの「憐哀感情」は、歌詞が文学的で小説を読んでいるみたいな感覚になる、心の奥底のもっとさらに奥にある、数式では割り切れない感情というか、きっと人が言葉に出さずに長いあいだ大切にしてきた神秘的な何かがしっかりとある、そういう歌なので、言葉がちゃんと伝わるように丁寧に歌いたかったですね。
――たしかにこの曲の歌詞は古風な言葉遣いで恋愛の複雑な心境が描かれていて、言葉を読み解く面白さもあるように感じました。
MARiA 実は結構悲しい歌なんですよね。私の中にはあまりない感情かもしれない(笑)。でもまだ出会えていない隠れ私なのかもしれないですよ(笑)。
――MARiAさんはこの曲のように、深い悲しみに浸るようなことはあまりない?
MARiA もちろんすごく落ち込んで悲しくなるときもありますよ。でも割とすぐケロっとなるタイプなので(笑)。ただ、これまで悲しみを抱きしめる気持ちを表現することはあまりなかったけど、今回のアルバムを経て、私って悲しい歌にハマるということに気づいて。
――自分も今作を聴いてそう感じました。
MARiAさんの少しウェットな声質が、悲しい曲に合うんだろうなと。
MARiA そんな気がします。今回、皆さんにMARiAをイメージして曲を書いてもらったら、意外とマイナー調の曲が多かったんですよ。私の声からはそういう曲調がイメージしやすいのかもしれないです。
――MARiAさんは昔ジャズを歌っていましたけど、もしかしたらその経験も関係しているのかもしれませんね。
MARiA たしかにその経験は今作にも活きていると思います。今回はオケの音数を少なめにして歌が前に出る作りにしたんですけど。
――3曲目「ガラスの鐘」も切ない恋の歌で、ラテンっぽい情熱的なフレイバーと「シンデレラ」をモチーフにした歌詞の組み合わせが、これまたどこか懐かしい匂いがします。
MARiA ちょっとオリエンタルな雰囲気ですよね。この曲も悲恋の歌ですけど、「隣哀感情」とはまた違った表現の仕方で。自分が歌詞を書いていたら絶対に書かないようなかわいい乙女の部分が出ていて、“女子の現実”というよりも“女子の秘密の願い”の歌という印象ですね。カボチャの馬車に跳び乗ったり、ガラスの靴を投げ捨てたりして。
――歌う際に“女の子”的なものを意識しましたか?
MARiA どの曲もですが歌い方は意識して変えていますよ。「隣哀感情」はかなり渋めのトーンで歌っていますが、「ガラスの鐘」は高域の部分を使って、可憐な感じの歌い方を意識していて。だって女子の心の中の本音というか、きっと言葉には出しずらい願いみたいな歌だから。今回のアルバムは10曲すべて年齢感もバラバラなので、意識をして、自然体で歌い方は結構変えたかもしれないです。
草野華余子、山崎まさよし、TAKUYA――意外な組み合わせによる化学反応
――続いての楽曲「おろかものがたり」は、草野華余子さんの書き下ろしによる激情感溢れるロックチューン。華余子さんとは以前から親交があったのでしょうか。
MARiA 意外と長い付き合いなんですよ。岸田教団&THE明星ロケッツのichigoさんも交えてみんなでご飯を食べに行くこともあって。初めて会ったのは結構前なんですけど、そのときから「ソロをやるんだったら曲を書きたい」って言ってくれていたので、今回、「何でもやるから、私に歌ってほしい曲を書いて」ってお願いしたら、はちゃめちゃに難しい楽曲がきて(笑)。華余子さんは「愛の挑戦状やから」「MARiAならできると思ってるから頑張って!」って言ってましたけど。
――あはは(笑)。かなり強めな曲調で、華余子さんらしいですよね。
MARiA 華余子さんは「おわりものがたり」という自分の楽曲の続編と言ってましたね。「勝手に続編にしちゃった、テヘ」って(笑)。歌詞の内容も結構きわどい関係性を描いていて。絶対に恋人同士じゃないですよね、これ。最初から「“遊び”と言い聞かせて」って言ってますし。「愚かだとわかっていても……」みたいな曲ですね。めちゃくちゃかっこいいんですけど、テンポがすごく速いし言葉数も多いので、息を吸う余裕がないんですよ。メロディもすごく難しいし。
――MARiAさんでも手こずるほどの高難度なんですね。
MARiA この難しさは歌わないとわからないかもしれないので、みんなにも一度歌ってみてほしい(笑)。この曲だけじゃなく、今回のアルバムは難しい曲ばかりなので、ハードルはすごく高かったんですけど、私は難しいほうが「やってやる!」って燃えるタイプなので、逆にすごく嬉しかったし楽しかったですね。
――5曲目「マチルダ」は、COILの岡本定義さんが作詞、山崎まさよしさんが作曲という豪華な1曲。淡々としたトーンが哀愁を感じさせる、どこかブルージーな雰囲気のナンバーです。
MARiA 仮歌は山崎さんがギターとラララで歌っていたんですけど、それを聴いた時点で、音の中での揺れ方や間の使い方、歌心みたいなものがすごく問われる曲だなと感じて。(歌の)リズムがピッタリ決まっているわけではないので、正解はなくてどう歌ってもいい、それこそジャズを歌うときの感覚に近い、ライブ感が大切な曲だと思うんです。レコーディングでは、何回かツルッと歌ったんですけど、毎回アプローチの仕方が変わるし、その自由を楽しむ、音楽や歌を楽しむ感覚で歌った曲です。
――その意味では表現のし甲斐がある曲なんでしょうね。
MARiA この歌は大人になった私じゃなかったら歌えなかったかも。十何年間ずっと歌を歌ってきて、力の抜き方もわかるようになった今だからできる表現の仕方があるなと思っていて。20代前半の私には、この曲は歌えたとしても納得できなかったと思う。今の私が歌うことの意味をすごく感じた曲ですね。本当の意味で音を感じて楽しむ、みたいな。山崎さんは仮歌のラララでも、とんでもなく遊んでいましたけどね。「渋い!」って感動しましたから。
――「キスをしてみようか」は元JUDY AND MARYのTAKUYAさん提供によるトリッキーなギターロック。これも新しい挑戦ですね。
MARiA TAKUYAさんらしい、ぶっ飛んじゃってる曲ですよね(笑)。TAKUYAさんからはデモを4曲ほどいただいたんですけど、周りのスタッフはほかの曲を推すなか、私は絶対にこの曲がいい!って譲らなくて(笑)。
――どこにそこまで惹かれたんですか?
MARiA 初めて聴いた瞬間に自分が歌っている姿が想像できたんです。この曲、エッジーなのにキュートなんですよね。それがすごくTAKUYAさん節だと思ったし、この言うことを聞かないじゃじゃ馬な女の子感は、私本人にもハマるなと思って(笑)。
――そうなんですね(笑)。メロディもトリッキーで歌うのは大変そうですが、いかがでしたか?
MARiA これは本当に大変でした。TAKUYAさん本人がレコーディングスタジオに来てくれて、TAKUYAさんのYouTubeチャンネルの動画を一緒に撮ったんですけど、そのときに「これ歌えた?」「俺、ややこしい曲作っちゃうから。よく歌えたね」って言われて(笑)。サビ前のフレーズとかも今まで歌ったことのないようなメロディだったので、自分でもよく歌えたなって思います(笑)。
――本間さんが作編曲、清水信之さんが共編曲で参加した「あー今日もまた」は、いわゆるナイアガラサウンド系のオールディーズ調のミディアムナンバー。MARiAさんとこの曲調は、今までにない組み合わせですね。
MARiA 私的にもすごく新しいと思うんですけど、この曲は自分の声に超ハマっていると感じていて。多分親の影響もあると思うんですけど、それこそ子供の頃は(松田)聖子さんの曲や、昭和歌謡なんかもよく聴いていたし、カラオケでも歌っていたので、こういうノスタルジックな感じも自分の中では馴染んでいるんでしょうね。本間さんも「ハマってるよねー」って言ってくださって。
――自分もこの曲、懐かしいけど新しい感じがして、すごく好きです。
MARiA いいですよね。癒されるというか、肩の力がフッと抜ける感じがして。曲調はオールディーズっぽい懐かしいサウンドだけど、歌詞は今っぽいし、そのアンバランスな感じがすごくよくて。今の自分の年齢感にも合う曲だなと思います。同世代の女の子たちに向けて、みたいな感じもありますし。
――そのノスタルジックな雰囲気から一転、nishi-kenさんが作編曲した「Brand new me」はキラキラしたシンセポップ。マイナー調の楽曲が多いこのアルバムの中では珍しく、明るい曲調ですね。
MARiA nishi-kenさんには少し具体的なオファーをして、「みんなで一緒に手を振って歌えるような曲」ってお願いしたんです。特にサビはその情景が浮かぶ感じにしていただいて。切ない曲が多いなかで、この曲は前向きで、聴いてくれる人の背中をポン!と押す系の曲になりましたね。GARNiDELiAでも前向きなことを歌ってはいますけど、こういうポップな感じはあまりないので、まさに「Brand new me」、新しい自分ですよね(笑)。
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固定概念を壊したからこそ見えた、シンガー・MARiAの無限の可能性
――そして先ほど話題にあがった「光」は、作詞を宇宙まおさん、作曲を本間さん、編曲を清水さんが手がけた、透明感あるミディアムバラード。サビの切なくもスケール感あるメロディがとにかく美しくて、MARiAさんの歌声を含め、個人的にこのアルバムで一番好きです。
MARiA ありがとうございます。本間さんに「どんな曲がいい?」と言っていただいたときにバラードをお願いしたら、こんなに素敵な曲を書いてくれました。メロディは壮大だけど、そこにまおさんの身近な詞の世界が合わさって。まおさんもレコーディングに来てくれたんですけど、すごく優しくて柔らかな素敵な方なんですよ。その人柄が歌詞にも出ているなと思って。サビのこのスケール感のあるメロディに“こわいの”という言葉を乗せるのは、すごいと思う。
――確かに。曲の一番盛り上がる箇所にそれを持ってくることで、切なさや儚さがより強調されているように感じました。
MARiA 私が歌詞を書いた曲で言うと(GARNiDELiAの)「MIRAI」はバラードですけど、あの曲は好きな相手を自分が引っ張っていくような感覚があって。この曲は壮大ななかにも、身近さや親しみやすさを感じさせてくれるところがあるし、完成版を聴いたときに自分でも歌い方がすごく優しいと感じたんですよね。「こんな優しい私、聴いたことある?」と思って(笑)。この曲を好きと言ってもらえるのは嬉しいな。こういうのも隠れ私のひとつなんで(笑)。
――そしてアルバムを締め括るのは、盟友のじんさんが書き下ろした春色の軽快なギターポップ「ハルガレ」。
MARiA じんくんとはもう10年近くの仲だから、もちろんこれからソロをやると決めたときからリリースが決まったら曲をお願いしようと思って、個人的に連絡を取るところから始まりました。めっちゃ長電話をして、世間話をしながら、どんな楽曲にしていこうか話し合って、「あのときは○○だったね」みたいな懐かしトークで自分たちの青春を振り返って。それで出来たのが「ハルガレ」だったんですよね。
――それで青春っぽい爽やかな曲になっているんですね。
MARiA そう、私たちはお互いに大人になりたくない大人だから(笑)。じんくんと私はずっと青春みたいな感覚があるんですよね。そのなかでどんなラブソングにするかを考えたときに、私たちも普通に大人になったし、色々な道を歩んできたなかで切ないこともあったよね、みたいな話になって。やっぱりさよならしないといけない仲間とのお別れを超えて今があるから。じんくんはそこからヒントを得たようで、自分の青春だとか淡い恋が枯れていく様を表現してみようっていう。まず「ハルガレ」というワードチョイスが天才だと思ったし、初めて歌詞が乗ったフルのデモを聴いたときは、若かりし頃の思い出とかも甦ってきて、涙が出ましたから。
――確かに曲自体は華やかだけど、胸を締め付けられるような切なさがあります。
MARiA ノスタルジックな気持ちと、大人になってしまった自分みたいなものと、なんだか過去を笑顔で振り返ってる感じがして、すごく不思議な感覚になったんですよね。特に最後のフレーズ、“また季節が芽吹いている”で終わるところが大好きで、その言葉を見て、私はこのアルバム自体をこの曲で締めようと思ったんです。「この曲、絶対にMVを作りたい!」ってこだわってMVを作りました(笑)。
――そうなんですね(笑)。
MARiA このMVが人選も含めてめっちゃいいんですよ。じんくん、MARiA、そしてイラストはヨリ(横槍メンゴ)ちゃんっていう、私たちの青春を一緒に歩んできたチームでやっていて。ヨリちゃんは週刊連載を抱えていてめちゃくちゃ忙しかったんですけど、どうしてもお願いしたくて。みんなの青春も振り返られるようなMVになるんじゃないかなって思います。
――新しい出会いと旧交が結んだ全10曲、非常に中身の濃い作品になりましたが、完成した今の実感はいかがですか?
MARiA 隠れた私の中から誰かが見つけてくれて生まれていき、私が歌うことで現実の私になることがすごく面白かったし、それこそ「光」みたいに普段のMARiA節を削ぎ落としたことによって気づけた私らしさみたいな感覚もあって。いままでならMARiA節を削ろうとはなかなか思わないじゃないですか。でも、今回、そういうレコーディングディレクションを受けたときに、MARiA節とは何かを分析するために、自分の歌にすごく向き合ったんですよ。MARiA節を全部取っ払ったときにいる私はどんな私なのか?ということを、今回はすごく表現できたと思います。
――その経験が今後のGARNiDELiAの活動にも、何らかの形で作用していくんでしょうね。
MARiA このタイミングで、みんなが“GARNiDELiAのMARiAっぽい”と感じるものに、改めてしっかりと向き合えたのは本当に大きな意味があると思っていて。これがGARNiDELiAとして、またソロアーティストMARiAとして、大きな意味で活きてくると思ってます。GARNiDELiAは秋頃にはまた活動がスタートするので、ソロと並行して、これからの私を楽しみにしていてほしいですね。
――そして6月5日(土)にはチームスマイル豊洲PITでワンマンライブ“MARiA Live 2021 「うたものがたり」”を開催。特別ゲストとして草野華余子さんとTAKUYAさんの参加も決定していますが、最後に意気込みをお聞かせください。
MARiA MARiAとしては生まれて初めてのソロワンマンなのですごく楽しみだし、今回は『うたものがたり』を表現するライブなので、ステージで1曲1曲を演じているような感覚のライブにできればと思っています。それはGARNiDELiAではやらないものだから、一人の表現者でありアーティストとしてのMARiAを皆さんにお見せしたいですね。
皆さん、豊洲PITでガンガンとぶち上りましょう、お待ちしてます!
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
MARiA ソロアルバム
『うたものがたり』
2021年5月26日(水)発売
【初回限定盤(CD+Blu-ray)】
価格:¥4,400(税込)
品番:PCCA-06037
※Blu-rayにはMVほか収録予定
【通常盤(CD)】
価格:¥3,300(税込)
品番:PCCA-06036
※収録曲共通
<収録楽曲>
1.コンコース
作詞:橋口洋平 作曲:橋口洋平 編曲:本間昭光
2.憐哀感情
作詞:山下穂尊 作曲:山下穂尊 編曲:中村タイチ
3.ガラスの鐘
作詞:早川博隆 作曲:早川博隆 / 村山シベリウス達彦 編曲:村山シベリウス達彦
4.おろかものがたり
作詞:草野 華余子 作曲:草野 華余子 編曲:本間昭光 / 草野 華余子
5.マチルダ
作詞:岡本定義 作曲:山崎将義 編曲:清水信之
6.キスをしてみようか
作詞:TAKUYA 作曲:TAKUYA 編曲:nishi-ken
7.あー今日もまた
作詞:jam 作曲:本間昭光 編曲:本間昭光 / 清水信之
8.Brand new me
作詞:木村友威 作曲:nishi-ken 編曲:nishi-ken
9.光
作詞:宇宙まお 作曲:本間昭光 編曲:清水信之
10.ハルガレ
作詞:じん 作曲:じん 編曲:本間昭光
全10曲収録
関連リンク
GARNiDELiAオフィシャルサイト
https://www.garnidelia.com/
MARiA「うたものがたり」特設サイト
https://www.garnidelia.com/special/maria/
MARiA 公式Twitter
https://twitter.com/MARiA_GRND
GARNiDELiA YouTubechannel
https://www.youtube.com/user/HeadphoneTokyo
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