DAY1には田所あずさ(最上静香役)、郁原ゆう(エミリー スチュアート役)、平山笑美(北上麗花役)、雨宮天(北沢志保役)、田村奈央(木下ひなた役)、香里有佐(桜守歌織役)、大関英里(佐竹美奈子役)、愛美(ジュリア役)、近藤唯(篠宮可憐役)、南早紀(白石 紬役)、渡部恵子(周防桃子役)、駒形友梨(高山紗代子役)、小岩井ことり(天空橋朋花役)、諏訪彩花(徳川まつり役)、原嶋あかり(中谷育役)、小笠原早紀(野々原茜役)、麻倉もも(箱崎星梨花役)、村川梨衣(松田亜利沙役)、渡部優衣(横山奈緒役)が出演した。
同ライブは一年前の2020年5月23日~24日、“THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 7thLIVE Q@MP FLYER!!!”として開催される予定だったが、新型コロナウィルスの影響により開催を中止。一年越しの開催にあたり、リベンジと再燃焼の意味を込めて「Reburn」と銘打った。
会場となるコニファーフォレストは、富士急ハイランドに隣接した野外会場。富士急ハイランドでは「THE IDOLM@STER in 富士急ハイランド」が開催中なこともあり、園内や移動手段も含めた富士急全体にアイマス要素があふれている感じだ。
「アイドルマスター」シリーズが野外での単独ライブを開催するのは史上始めて。会場付近ではライブ前日まで、はげしい降雨の中(田村曰くどっしゃぶり)準備が進められてきたが、ライブ当日は曇天で持ちこたえ、雨に見舞われることなく本番を迎えることができた。開演前の前説と諸注意は青羽美咲と永吉昴が担当し、昴の「しまっていこうぜ、プロデューサー!」の声が屋外会場にこだました。
特設された野外メインステージは、「Q@MP FLYER!!!」のコンセプトにあるキャンプをイメージして大型のテントのような装飾が施されている。メインステージはサイドの両翼がかなり広く取られていて、メインステージ中央の上段とサイドの両端には、キャンプファイアのやぐらが組まれていて存在感がある。メインステージからはT字の花道が伸びて、客席を大きく横切っている。花道というよりは、客席のど真ん中にもう一本ステージがあると感じるぐらいだ。心浮き立つように楽しく雄大なOvertureが流れると、メインステージには田所あずさがトーチを掲げて登場。
オープニングナンバーはライブタイトルになぞらえて「Flyers!!!」。一年越しのステージで、ようやく聴くことができたこの曲には特別な感慨がある。衣装は普段のアイドル衣装とは一味違った装いで、吊りスカートとネッカチーフが印象的な野外向けの服装だ。ガールスカウトをイメージしたそうで、足元がトレッキングシューズなのも徹底している。アイドルたちが花道を駆け出して観客の側に来ると、客席との距離が驚くほど近い。様々な方向を向いてパフォーマンスしていることもあり、あちこちのエリアがライブ最前列に早変わりした。
全員で歌った「Legend Girls!!」は2013年の「LIVE THE@TER PERFORMANCE 02」に収録されたグループ曲。「LTP01」は「Thank You!」であるため、「Legend Girls!!」は「ミリオンライブ!」最初のユニット曲だ。ユニット曲をミリオンスターズ全員で歌唱するのはあまりないパターンで、“ねえ、キミもきっと待っていたよね? わたし達のこのステージ”“みんなで目撃者になろう”といったフレーズの数々が、このタイミングのライブにぴったりであるように思えた。
オープニングの挨拶を挟んで、ここからは「キャンプで過ごす時間」や「野外でのライブ」に紐付いた楽曲多めのコンセプチャルな選曲が続く。まずはキャンプ場で遊び回るイメージで「ランニング・ハイッ」から。
「アニマル☆ステイション!」は原嶋あかり(中谷育)のソロ曲だが、今回はそこに田所あずさ、雨宮天、南早紀、諏訪彩花、小笠原早紀が加わった。完全にグループ曲にするわけではなく、原嶋のソロと5人の掛け合いを中心に進行。南のソロのメロディアスでありながらどこかコミカルな感じや、雨宮のソロの優しいニュアンスなど、蒼いボーカリストが楽しくハッピーな楽曲に加わったら、という裏テーマもあった気がする。原嶋の「みんなぁ集まって~!、一緒に遊ぼう!」の音頭に応えて、花道を走りながら動物の真似をみんなでするところが見せ場で、ラストは南の高らかな「ぱお~ん!!」の叫びが締めた。
「Helloコンチェルト」は原曲メンバーの田村奈央、大関英里、村川梨衣が担当。原曲ではこれに秋月律子が加わるが、それ以外の3人がこの曲をライブで一緒に歌うのは初めてのはず。大関の元気いっぱいな歌唱の中に美奈子らしさが溢れる感じや、田村が素朴にまっすぐ歌い上げる感じが心に残る。
「空に手が触れる場所」は平山笑美と小笠原早紀が披露。言葉通り空に手が触れられそうな野外ライブならではの選曲で、平山(麗花)のソロ曲をユニット・TRICK&TREATのふたりが歌うという趣向だ。平山の突き抜けるようなハイトーンがどこまでも高く伸びていき、それに追随する小笠原の歌声から茜ちゃんらしさが弾ける。ふたりが一緒に笑顔でハイキングする姿が見えてくるようなステージだった。
「HOME, SWEET FRIENDSHIP」は近藤唯、渡部恵子、小岩井ことり、原嶋あかり、麻倉もも、村川梨衣、渡部優衣と、オリジナルメンバーのリコッタから3人+助っ人の分厚い編成で披露。この曲は大切な友達と一緒にいる時間の積み重ねを、アトラクションでいっぱいのテーマパークになぞらえた楽曲。それを本物の遊園地の側で歌う遊び心が楽しい。間奏では奈緒が音頭を取って、亜利沙が今日のために新調したカメラで記念撮影を行なう一幕も。シャッターが落ちる瞬間のそれぞれのポーズにもアイドルの個性があふれていた。
ここで最初の挨拶。みんなで遊んで、写真を撮って、キャンプの思い出を作っていくようなセットリストのイメージが見えてきた。
「Bigバルーン◎」は初期アルバム「LIVE THE@TER PERFORMANCE 13」に収録された楽曲で、これまでライブでは一度しか披露されたことのない幻の楽曲。オリジナルメンバーの小笠原早紀をセンターに、愛美、近藤唯、南早紀、小岩井ことり、諏訪彩花という新鮮な顔合わせで披露した。中でも「シアターデイズ」から仲間に加わった南がこの時期の楽曲を一緒に歌うことには特別な意味を感じる。センターとして大活躍したのが小笠原で、彼女が「ぐるぐるぐるぐる!」と手を回すと観客も追随。声が出せないライブでは嬉しいコミュニケーションだ。ラストも小笠原の最高のスマイルが大写しになって締めとなった。
たくさん遊んだあとはお昼寝の時間。原嶋あかり、田村奈央、香里有佐、渡部恵子による「Good-Sleep, Baby ♡」だ。「LIVE THE@TER PERFORMANCE 08」オリジナルメンバーの原嶋がセンターで、Aメロの入りは彼女のキュートすぎるソロから。田村、渡部と続く並びは、これがオリジナルなのでは? と思うぐらいしっくり来る。幼い子供らしい表現をしっかり演じきる桃子のプロ意識が見えてくるようだ。だが4人目でまったく違った表現が来る。
「夢色トレイン」は麻倉もものソロ曲に、郁原ゆうが参加。同い年のアイドルを演じる同士で、姉妹のようにトーンを寄せたキュートな二重奏を響かせた。間奏で並んで腰に手を当てたポーズがとてもかわいらしい。「出発進行!」の宣言を郁原が担当したのがとても新鮮だったが、曲中にふんだんに登場する英語フレーズはほぼ麻倉オンリーなことにこだわりを感じた(エミリーは横文字を使わないため)。ラララのリズムに合わせて大観衆が一緒に手を振る光景には野外ならではの開放感と一体感があった。
「Melody in scape」は「THE IDOLM@STER LIVE THE@TER DREAMERS 04」に収録されたデュオ曲をオリジナルメンバーの大関英里、駒形友梨が披露。野外用のポンチョをイメージした衣装にチェンジしての登場だ。冒頭の「だけど動けないまま」の大関の歌声に込められた痛切な情感にふるえる。表現豊かな2つの歌声の音圧が全身をゆさぶるような時間だ。
「君だけの欠片」は郁原ゆうのソロ曲を、諏訪彩花を加えたCharlotte・Charlotteコンビで歌唱。ささやき語りかけるような郁原ゆうのロングソロから始まるのだが、奇跡的に雨が降らなかった初日に「明日もまた晴れるといいね」と歌うフレーズがあまりにぴったりと来て笑ってしまった。と思えば、みんなの前では平気なふりで笑顔のまま、というフレーズがどこかまつりをイメージさせてドキッとしたりする。郁原の優しく誠実な歌声を、諏訪の包み込むようなあたたかでしなやかに強い歌声が受け止め、1つに合わさって音楽となる。両サイドに別れて歌っていた2人が微笑みながら歩み寄る。長く歩いてきた2人だからこそ、積み重ねた日々が今日へ、明日へと続いていくこの歌がさらに特別なものになった。
そして、「Flooding」だ。歌唱メンバーは田所あずさ、平山笑美、雨宮天、小笠原早紀、麻倉もも、クレシェンドブルーのオリジナルメンバーが揃った。同曲はコミック「アイドルマスター ミリオンライブ!」、いわゆるゲッサン版の4巻特別版の特典CDに収録された楽曲だ。コミックの世界で歌う楽曲を特典CDに収録し、その楽曲が現実のライブでも歌われるという重層的な仕掛けがされている。コミック5巻で描かれる彼女たちのステージは、豪雨の中で行われた。今回ライブで雨が降ればシーン再現になるし、降らなければライブとして万々歳という王手飛車取りの構成だ。
今回は雨が降らずにライブを完遂できる方にサイの目が出たわけだが、ステージの上で5人の想いと気持ちがつながった瞬間の閃光のような輝きとパワーは、コミックそのままに再現されていた気がする。ステージから洪水のように押し寄せる、圧倒的な存在感と歌声。あたりに漂う霧が生み出した天然のスモークを、ライトの光条が切り裂いた光景がとても鮮烈だった。
ここでのMCコーナーは「Flooding」の余韻で大騒ぎの中スタート。今日のライブを、愛美演じるジュリアが“すごいキャンプ”、平山演じる麗花が“とっても普通なキャンプ”と評していたのが微笑ましい。2番目の衣装がポンチョをモチーフにしたものであることや、野外で客席がよく見えることなどで盛り上がっていた。
「プロデューサーが作ってくれた曲」という予告から、歌うのはもちろん「Do the IDOL!! ~断崖絶壁チュパカブラ~」! この曲は「ミリシタ感謝祭 2019~2020」において、会場のプロデューサーが選んだキーワードから制作された楽曲で、“新しい時代への挑戦”“断崖絶壁を登るような…”“ハードコアテクノ”“チュパカブラ”がテーマとなっている。本来昨年の“THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 7thLIVE Q@MP FLYER!!!”で初公開される予定だったのが、一年越しにオリジナルバージョン初披露となった。最初にステージに立った田所あずさ、郁原ゆう、近藤唯、小岩井ことり、村川梨衣の5人は、片手にチュパカブラのぬいぐるみを握りしめている。バックダンサーたちはチュパカブラカラーの衣装で、手にはもちろんチュパカブラのぬいぐるみを鷲づかみにしている。
冒頭の台詞パートにはそれぞれのアイドルの魅力と個性がつまっていて、中でも小岩井の慈愛に満ちたセクシーな「チュパカブラ」の声には拍手さえ起こっていた。途中からはチュパカブラを装備したアイドルたちがステージに次々と登場。2番以降の台詞パートは様々なアイドルが歌い継いでいった。カオスが徐々に収束してアイドルソングに着地していく中で、全員で声を揃えた「私たちは、アイドルです!」の声が決然と会場にこだましていた。
大関英里のソロ曲「SUPER SIZE LOVE!!」には、諏訪彩花、原嶋あかり、小笠原早紀が参加。キャンプで張りきって料理を作るのはもちろん美奈子の仕事だし、育とまつりがお手伝い、茜がつまみ食いをしていく姿が目に浮かぶような顔ぶれだ。「プロデューサーさん、晩御飯の時間ですよ!」の声とともにスタートすると、元気と愛情でいっぱいの大関の歌声に、3人それぞれのパワーに満ちた歌声が合わさってさらに最強になっていく。キラキラの「おかわりー!」の大合唱でラストを締めると、会場からは今日一番ハイカロリーな拍手が巻き起こっていた。
「ココロがかえる場所」は今日多く歌われている最初のアルバムシリーズ「LIVE THE@TER PERFORMANCE 12」の収録曲で、渡部恵子、田村奈央、愛美、南早紀が歌唱。歌い出しは、唯一のオリジナルメンバーである渡部恵子のロングソロから。アップで見ると、柔らかな茶色の髪とヘアセットに桃子らしさを感じる。この歌い出しは原曲では雪歩と千鶴が歌っていたパートで、桃子のパートではない。オリジナルメンバーであっても違うパートで挑戦をしているのだ。そして続くパートは愛美がキメッキメで歌うのだから、もはや別の曲に感じるぐらい新しくて、面白い。優しさの中に強さの芯がある田村の歌声、そして安定感と情感の豊かさをあわせもった南の歌声。田村と南の歌声のユニゾンのはっとするほどの相性の良さに気づいたのも、今までにない人と曲の組み合わせがあったからこそだろう。
夕闇がそろそろ迫り始める時間に「夕風のメロディー」。しっとりとした時間帯だ。歌うのは近藤唯と、香里有佐、駒形友梨の3人。ステージに3人が登場すると、情感豊かに歌うそれぞれの表現が溶け合って響き合う。基調にあるのはこの曲が持ち歌の近藤の歌声で、その軸に駒形と香里がぴったりと寄り添っていくような表現の協調が見事。燃えるようなオレンジのライトを浴びながら、キャンプファイアの炎を背負って歌う3人。間奏の優雅な舞は夢の中のように美しい光景で、中でも香里の楽曲の世界に入り込んだような微笑みが印象に残った。
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会場を夕暮れの世界から“夜”へとギアチェンジしたのが、大関英里と渡部優衣の「Super Duper」だ。ユニット・Jus-2-Mintとしての楽曲で、今回がライブ初披露だ。客席をじっと見つめて歌う大関と、会場の各所に目まぐるしく視線を散らす渡部の対比が面白い。メインステージで踊る2人のダンスはキレッキレで、一体になって踊るという表現がふさわしい。終盤のハイトーンの畳み掛けからほとばしるような感情の濃さや、アウトロのダンスの鮮烈さまで、大関と渡部の新境地といってもいい卓越したパフォーマンスだった。
疾走感のある和ロックにテンション上がるイントロは「百花は月下に散りぬるを」。郁原ゆう、南早紀、小岩井ことりのユニット・花咲夜の楽曲で、「ミリシタ感謝祭2019~2020」でサプライズ披露されたのが記憶に新しい。今回のこの曲で特筆したいのはセンターの郁原ゆうで、背中にキャンプファイアの炎を背負ってキレのあるダンスを見せる姿がこんなエミリー見たことない! と感じるほどかっこいい。扇子を持ったダンスにもそれぞれの動きのニュアンスがあり、小岩井は悠然と、南はビシビシとキレよく感じるのが目にも楽しかった。
ここでのMCタイムはかなりテンションが上振れしているキャストが多く、それだけ今日のライブが充実していることが感じられる。トークから、バックヤードのケータリングの豪華さなども垣間見えた。MCの間に、さらに会場の雰囲気は夜に。
ライブ再開を告げたのは「Blue Symphony」。ピアノ主体のメロディアスで壮大な特殊イントロ付きのアレンジだ。メンバーは田所あずさ、平山笑美、香里有佐、雨宮天、麻倉ももの5人。クレシェンドブルーを思わせる顔ぶれで、前半戦八面六臂の大活躍だった小笠原にかわって、香里が歌唱に加わっている。「LTP」ナンバーのこの曲に1人香里が加わっているのを見ても、今日の構成は香里と南に37人+13人だった頃の「ミリオンライブ!」の世界を共有させる意図もあるように感じた。それにしても、このメンバーの中に入ってまるで違和感のない香里のポテンシャルと対応力は傑出している。夕闇迫る世界を蒼く染め上げる、圧巻のパフォーマンスだった。
村川梨衣と渡部優衣の「夜に輝く星座のように」は「LIVE THE@TER DREAMERS 05」収録のデュオ曲。明るく元気いっぱいなイメージの強い奈緒と亜利沙が、楽曲に合わせてクールで妖艶にもなれることを、演者の新しい引き出しとともに見せつけた楽曲だ。ポンチョ衣装のキャラクターカラーは青と赤で、左右に別れたふたりの対比がまるであつらえたユニット衣装のようだ。情感豊かなボーカルと共に手を差し伸べあったふたりの背後に控えるダンサーたちが、動きと表情でぴったりと渡部たちにシンクロしている姿にもプロフェッショナルを感じた。
「待ちぼうけのLacrima」は、平山笑美、愛美、駒形友梨の星座ユニット・アクアリウスの楽曲で、原曲メンバーが揃った。この曲は原曲メンバーでなければならないと思うのは、素晴らしい歌唱力を持った3人が、このメンバーなら全力以上の魂を歌唱に込めても必ずそれ以上の物を返してくるという信頼で結ばれたユニットだからだ。この曲はカメラワークも見どころで、空と木々、湿ってけぶる空気、それらの大自然を背負って歌うアイドルたちの姿を瑞々しく切り取っていく。超絶表現の応酬が、どこまでも高みに昇っていく様子は圧巻。最高点に達したのは駒形の「夜が…はじまる」の圧巻のロングトーンだと思うが、それも直近の愛美の「こぼれたミルク色の~」、平山の「世界の中心がそこに~」で練り上げたテンションがあるからこそピタリとハマるのだと思う。やはりこの3人の組み合わせに、ライブハウスは狭すぎる。
化学変化を強く感じたのが、雨宮天と香里有佐の「絵本」だった。この曲は雨宮天と北沢志保の代表曲の1つであり、彼女の世界のイントロの中で香里が見せたゆったりと舞うようなダンスの表現力が素晴らしい。香里の感情を振り絞るようにまっすぐ歌う力強い歌唱は、新しい一面かもしれない。雨宮は光の中、一つひとつのフレーズを本当に大切に歌っているのが印象的で、“お姫様は強いもの”のフレーズの響きと広がりの美しさは音楽的ですらあった。
傑出したボーカリスト2人が、まるで2人で1つの歌声を奏でているような一体感が心地よい。北沢志保といえば孤高の代名詞だった頃もあるが、それが他者を許容するしなやかさを手に入れたのなら間違いなく成長だろう。そして、誰かと歌うことが、ソロの「絵本」では生まれない表情や表現を引き出していたように思う。ラストに視線を流す余韻までシンクロしていたのが印象に残った。
今回のライブでの新しい挑戦が、幕間的に行われたランタンパフォーマンスだった。しっとりとした音楽とともに、ポンチョのフードを下ろしたアイドルたちが、ランタンを掲げてゆっくりと花道を歩む光のパフォーマンスだ。おだやかでゆるやかなダンスとともに、ランタンの灯が蛍火のように舞う。やがて彼女たちがランタンを足元に置いて去ると、そこには花道を照らすランタンの光の道ができあがった。
ランタンパフォーマンスの余韻が残る中、ジャーンとアコースティックギターを鳴らしたのは愛美。それに続いて本当に美しい歌声を響かせたのは、なんと渡部恵子だった。愛美と渡部恵子による「流星群」アコースティックパフォーマンスの時間だ。
この曲の歌い手である愛美自身のギターとともに、渡部が想いを込めて、本当に大切に歌っていることが伝わってくる。それを受けた愛美自身の歌声はハスキーで、情感もマシマシだ。日が落ちた会場をサイリウムの光が満たす中、キャンプの火を囲みながらギターを奏で、ともに歌うのは宝石のような時間だ。サビでは渡部の主線に、愛美が下の線を歌って合わせて美しいハーモニーを響かせた。
実は渡部は、2016年のイベントでほんのワンフレーズ「流星群」を歌ってみせたことがあった。それがまさか、屋外の大ステージで愛美と一緒に歌う日が来るとは思わなかった。そして大きな成長を感じたのが愛美のギターの表現力で、彼女が間奏でアコースティックギターを奏でるだけでしっかり間が持つ、いや、聴き惚れてしまう。ギターで語るとは、こういうことか。ラストのフレーズで歌声と感情が溶け合った最高の余韻が残る中、歌い終えた渡部がはにかんだように愛美に笑いかけた。
流星から星屑へ。壮大なイントロとともにスタートしたのは田所あずさ、田村奈央、香里有佐、駒形友梨、小岩井ことり、諏訪彩花、麻倉ももによる「星屑のシンフォニア」だ。オリジナルメンバーからは小岩井と駒形が参加。斉藤佑圭と野村香菜子(と美希)は今回のライブに不参加なこともあり、仲間たちの想いも背負っての歌唱となった。個人的には、4人での「星屑のシンフォニア」の想いの結晶としての側面は、“THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 4thLIVE TH@NK YOU for SMILE!!”でのパフォーマンスが究極だと思っている。だから6人のアイドルたちが会場センターのキャンプファイアを囲んで、軽やかなステップとともに美しい歌声を響かせる姿は新鮮な気持ちで楽しむことができた。曇天の下、会場いっぱいに色とりどりの星屑がきらめき、歌っているみんなが笑顔。それはとても幸せな情景だった。
「STANDING ALIVE」を披露したのは雨宮天、大関英里、愛美、近藤唯、南早紀、渡部恵子、原嶋あかり、村川梨衣、渡部優衣の9人。原曲ユニット・ARRIVEからはセンターの近藤唯のみが参加した。あえて1人、それもセンターという配置には逆説的に1人を際立たせる効果があって、個性豊かな綺羅星のごときアイドルたちの中で、なおセンターを務めるだけの輝きが今の可憐(近藤)にはある証左であるように思える。また、古くからのファンからすれば「星屑のシンフォニア」と「STANDING ALIVE」は対になる曲として記憶している人も多いだろう。そして、何故この曲がライブのクライマックスに持ってこられたかは、近藤と仲間たちが曲頭のフレーズを歌いはじめてすぐにわかった。
「ずっと“そこ”へ辿り着こうと走っていたよ
So we still stand alive. We can arrive at the place!」
それは先の見えない時間の中を、ただこの日を目指して耐えて努力し続けてきた仲間たちの命の讃歌だった。
田所あずさが「ラストナンバー、行きましょう!」と宣言してスタートした楽曲は「brave HARMONY」。“THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 4thLIVE TH@NK YOU for SMILE!!”に向けて制作されたテーマ曲の1つで、武道館の2日目を担った「BlueMoon Harmony」によるチーム曲だ。「ミリオンライブ!」の前半期の集大成ともいえる楽曲の1つで、当時は武道館の観客席からステージを見つめていたはずの南と香里がこの曲を共に歌う意味は大きい。
星座たちが集って歌う壮大なる青の全体曲を受けて、誰からともなく会場が自然に青く染まる。それを何気ない当たり前の変化に感じさせるのがプロデューサーたちの素晴らしさだ。青い光の海の中、ラスサビで炊かれるウルトラオレンジと、キャンプファイアの篝火が美しく調和する光景は夢のように美しかった。
アンコールの最新情報告知では、「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズの」4th Anniversaryを祝うフェスティバルが秋葉原で開催されることなど、様々な発表が行なわれた。その中でも(拍手が)盛り上がっていたのが、「AIKANE?」がメインコミュとして実装される発表とMVの初公開だった。この盛り上がりは楽曲の強さはもちろん、今回のライブの前半戦で誰よりも頑張っていた小笠原に対する祝福の意味もあったのではないかと思う。
青羽美咲の「みんなの笑顔で灯した炎が、未来まで照らしますように!」という祈りにも似た前フリから流れ始めたのは、「THE IDOLM@STER」シリーズ15周年記念曲である「なんどでも笑おう」のイントロ。アイマス5ブランドを横断して歌う楽曲だけに、現地ライブでの初披露が「ミリオンライブ!」の単独ライブになったことに驚いた人は多いだろう。しかしこの曲に込められた想いを考えれば、ライブの中止から一年の時を経て、笑顔でライブ開催に至ったこの日ほど初披露にぴったりなタイミングはなかったように思う。
「ミリオンライブ!」のアイドルだけで歌い、歌いだしを田所の伸びやかなソロが担う構成はとても新鮮で魅力的だ。ステージ上空の蝶のロゴが、「ミリオンライブ!」だけでなく他のアイマスブランドの色にも変わる。ステージのアイドルたちが、各ブランドのポーズを決める。今日は代表してこの曲を披露しているけれど、すべてのアイマスの魂を共に携えて歌っていることが伝わってくるステージだった。
そして「シアターデイズ」の3周年楽曲である「Glow Map」は、このライブでの披露が何より待ち望まれていた楽曲の1つだろう。時間はかかってしまったが、なんとか“3周年”の間に間に合った。全員曲でポンチョモチーフの衣装のアイドルたちがステージにズラリと並ぶと、ステージに色とりどりの花が咲いたように色鮮やかだ。田所の「行ってきます!」の宣言とともに、アイドルたちは花道を駆けてセンターステージへ。ラストは未来への号砲を思わせる花火が上がり、華やかにステージを締めくくった。
この日のライブは月も星もない曇天だったが、地上には色とりどりの輝きがあった──そんなフレーズを考えていたとき、最後の挨拶で郁原ゆうが「じゃーん、月が」ととっておきの秘密を明かすように天を示した。超満員の観衆が、キャストたちが、その場にいた全ての人間が天上に顔を出した月を見つけた。上弦から満月へと向かうラグビーボールのような小さな月が、たしかにそこにあった。そして、みんなが月を見つけた頃合いで一言、「仕掛け人さま、月がきれいですね」。全員が挨拶しなくてはいけない限られた時間の尺の中で、月の存在を共有して、夏目漱石(俗説諸説あり)を引用してみせる知性とウィット。アイマスのMC史に残る名フレーズだった気がする。ラストの挨拶は久しぶりのライブを無事に終えた感謝と喜び、そして翌日のDAY2の成功を祈るあたたかな言葉で溢れていたのだが、今回はあまりにも鮮やかだった“月”の言葉を取り上げたい。
最後の挨拶を終えてのラストナンバーは「Thank You!」。どれほど大切で特別か、どれだけ言葉を尽くしても足りない“はじまりの楽曲”だ。
だがこの日の選曲からは、この場所から数えきれないステージをまた、つくっていく。そんな強い意志を込めた、レジスタンスの一曲であるように感じた。
TEXT BY 中里キリ
「THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 7thLIVE Q@MP FLYER!!! Reburn」DAY1
2021年5月22日(土).山梨県・富士急ハイランド コニファーフォレスト
<セットリスト>
M01:Flyers!!!(ミリオンスターズ)
M02:Legend Girls!!(ミリオンスターズ)
M03:ランニング・ハイッ(郁原ゆう、平山笑美、田村奈央、駒形友梨、渡部優衣)
M04:アニマル☆ステイション!(田所あずさ、雨宮天、南早紀、諏訪彩花、原嶋あかり、小笠原早紀)
M05:Helloコンチェルト(田村奈央、大関英里、村川梨衣)
M06:空に手が触れる場所(平山笑美、小笠原早紀)
M07:HOME, SWEET FRIENDSHIP(近藤唯、渡部恵子、小岩井ことり、原嶋あかり、麻倉もも、村川梨衣、渡部優衣)
M08:Bigバルーン◎(愛美、近藤唯、南早紀、小岩井ことり、諏訪彩花、小笠原早紀、田村奈央、渡部恵子、原嶋あかり)
M09:Good-Sleep, Baby ♡(田村奈央、香里有佐、渡部恵子、原嶋あかり)
M10:夢色トレイン(郁原ゆう、麻倉もも、田村奈央、渡部恵子、原嶋あかり)
M11:Melody in scape(大関英里、駒形友梨)
M12:君だけの欠片(郁原ゆう、諏訪彩花)
M13:Flooding(田所あずさ、平山笑美、雨宮天、小笠原早紀、麻倉もも)
M14:Do the IDOL!! ~断崖絶壁チュパカブラ~(田所あずさ、郁原ゆう、近藤唯、小岩井ことり、村川梨衣、ミリオンスターズ)
M15:SUPER SIZE LOVE!!(大関英里、諏訪彩花、原嶋あかり、小笠原早紀)
M16:ココロがかえる場所(田村奈央、愛美、南早紀、渡部恵子)
M17:夕風のメロディー(香里有佐、近藤唯、駒形友梨)
M18:Super Duper(大関英里、渡部優衣)
M19:百花は月下に散りぬるを(郁原ゆう、南早紀、小岩井ことり)
M20:Blue Symphony(田所あずさ、平山笑美、香里有佐、雨宮天、麻倉もも)
M21:夜に輝く星座のように(村川梨衣、渡部優衣)
M22:待ちぼうけのLacrima(平山笑美、愛美、駒形友梨)
M23:絵本(雨宮天、香里有佐)
M24:流星群(愛美、渡部恵子)
M25:星屑のシンフォニア(田所あずさ、田村奈央、香里有佐、駒形友梨、小岩井ことり、諏訪彩花、麻倉もも)
M26:STANDING ALIVE(雨宮天、大関英里、愛美、近藤唯、南早紀、渡部恵子、原嶋あかり、村川梨衣、渡部優衣)
M27:brave HARMONY(ミリオンスターズ)
-encore-
EN1:なんどでも笑おう(ミリオンスターズ)
EN2:Glow Map(ミリオンスターズ)
EN3:Thank You!(ミリオンスターズ)
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
関連リンク
「アイドルアスター ミリオンライブ!」ランティスサイト
https://www.lantis.jp/imas/