声優・内田 彩が、6月2日に約1年3ヵ月ぶりとなるニューシングル「Pale Blue」をリリース。内田も真土泥右衛門(まっどでいえもん)役で出演するTVアニメ『やくならマグカップも』(以下、『やくも』)のEDテーマである表題曲は、青春を描いた爽やかなナンバーだ。
またカップリング曲「Destiny」は、3rdシングルの表題曲「Sign」のアンサーソングとして誕生。本稿ではこの2曲に込めた想いはもちろん、前作リリースから今に至るまでの心境、さらには7月開催予定のシンフォニックコンサートについてもたっぷり語ってもらった。


聴く人すべての、今の“青春”に寄り添う「Pale Blue」
――まず、久々のリリースについてどう感じられているのかを教えてください。

内田 彩 やっぱり寂しいニュースばかりだったので、久しぶりに楽しみな予定ができて……私自身にとっても光みたいな存在になりました。最初の自粛期間でライブが延期になりまして、一度はスタッフさんの尽力のおかげで会場も変わらずチケットもそのままで開催できそうになったんですけど、それも中止になってしまって……夏頃から「今後何もできないなぁ」っていう気持ちを引きずっていたんです。そんななかで冬頃このシングルのお話が出たときに、ようやく空元気じゃない「よし、やるぞ!」という、素直に楽しみな気持ちになれました。

――制作のプロセス1つ1つから感じることにも、何か違いがあったのでは?

内田 ありましたね! 私自身はそんなに「私は、アーティストだ!」みたいに思っているわけではなくて。役者として色んな作品に出演するという声優のお仕事のなかで、歌をやらせていただいている……というような気持ちだったんです。でもいざアーティスト活動がなくなってしまうと、作品を通さず直接私自身を見てもらえる機会が音楽活動だったんだなぁ、と改めて感じたんですよ。

――ライブやイベントを通じて、ファンと実際に顔を合わせられたりもしますし。

内田 そうなんです。元々は自分自身を求められることに対しての抵抗感みたいなものもあったんですけど、実はその部分にすごく元気をもらっていたんだなと気づきまして。
アーティスト活動を通じて得たものが声優業に返ってくることもありますし、「自分の表現をすることって大事なんだなぁ」……と、改めて大切さに気づいた部分もありました。

――そんな、内田さんにもファンの皆さんにも待望のニューシングルとなった「Pale Blue」ですが、まずは表題曲がEDテーマとなっている『やくも』の印象からお聞きしたいのですが。

内田 『やくも』は岐阜県の多治見市が舞台の作品で、多治見市の魅力を発信していこうというプロジェクトの1つとして、フリーコミックとしてちょっとずつ描かれてきたものだったんです。だから最初、ホームページで全部読めることには驚いたんですけど、絵のタッチがほんわかしているのもあってすごく親しみやすさを感じて。一気に読めました。

――自然と引き込まれていったというか。

内田 はい。作品の舞台になる陶芸部という部活は私にあまり馴染みのないものではあったんですけど、「やくも」を通じて多治見のことを色々知れましたし、もしわからないことがあっても漫画が掲載されているサイトですぐに調べられるのも「すごいなぁ」と思いましたね。あと、多治見市は暑さでも有名な街なんですけど、私の地元の群馬県にも暑さを競っている市があったりして(笑)。

――ありますね(笑)。「(気温を)抜かれた!」みたいな話は、夏場にニュースでよく見ます。

内田 なので、個人的にはすごく身近に感じられる場所でのお話というのもあって、興味深く色々なことを知れたのも楽しかったです。


――そのなかで感じたイメージと「Pale Blue」という楽曲に、繋がりを感じる部分はありましたか?

内田 今回はEDテーマということも意識したうえで“青春”をテーマにhisakuniさんが書き下ろしてくださいました。歌詞を読んだら色々想像が膨らんで。私が自分の年齢の感じで歌うと昔をちょっと懐かしんでいるようで、でも高校生の頃から今の自分に繋がっているような歌詞にも感じ取れたんです。それに、「決めつけちゃいけないんだなぁ」と思って。

――「決めつけちゃいけない」とは?

内田 “青春”って、誰にでもいつでもあるものなんですよね。30代の私の中に今の青春もあるし、中・高学生の頃からずっと繋がっているものもあるし……だから、“人生の歌”みたいな印象をすごく受けました。しかも、物語のメインになる陶芸にちなんで、ろくろが回っている様子も取り入れてくださったそうなんです。私、ろくろの体験をしたことあるんですけど、ちょっと力が入りすぎただけで一気にぐにゃぐにゃって形が崩れちゃうんですよね。だけど、わずかな力で少しずつでも手を当て続けていくと、きれいになったりして……そういう人生の紆余曲折みたいなものも描かれた、深い歌詞だなぁとも感じました。

――そのhisakuniさんからの提供曲だと、今まではデジタル感の強いものが多かった印象があるのですが、今回はまた少し違う雰囲気になっていますね。

内田 はい。この曲、最初の構想段階で聴かせていただいたときには、もっと爽やかなバンドテイストだったんですよ。
たしかに女子高生の青春モノのエンディングとしてはピッタリだったんですけど、5年間活動してきて次に出すシングルとしては、少し若すぎたり元気すぎるような印象を受けてしまったんです。なので「もうちょっと違う“青春”にできないでしょうか?」みたいなお願いをしたところ、次に私に届いたときには今の形になっていて……すごくぼんやりした意見を伝えてしまったのに素敵な楽曲に仕上げてくださいました。

――素敵だし、こういう表現をしたいなというイメージにも結びつくような曲になっていた。

内田 そうかもしれません。歌詞も色々な取り方ができるんですよね。受け取り方によっては恋愛の要素を感じ取ることもできるし、ちょっと大人の女性の歌だと受け取っても違和感がなくて。等身大の私が歌っても、ありのまま聴けるような作りにしてくれたように感じたんです。hisakuniさんの曲からは、いつも「内田さんがソロで歌うなら」と考えてくださっている気がして。今回も、そうしてくださったように感じましたね。

――歌のさじ加減も、曲の青春感にマッチしつつ大人っぽさもほど良く出た絶妙なものに感じました。

内田 レコーディングでは1時間くらい色んな歌い方をしてみて、試行錯誤を繰り広げていました。今回ももう少し大人っぽくしてみたり、かわいらしい歌い方もしてはみたんですけど、結局自然と自分から出てきたものが一番良かったんですよね。
ただ、今回はこういうご時世なので、いつもレコーディングに来てくださるhisakuniさんと直接お会いできなくて。そのぶん、余計に「どれがいいかな……?」となりました。

――普段とは違ってセルフプロデュースせざるを得ない状況でもあったんですね。

内田 そうなんです。でもその代わりに、イメージとか歌詞の意味が書かれた“hisakuniレター”をいただきまして。そこに書かれたものを感じ取りつつ自分の経験も重ねて歌っていったので、普段と違うやり方だったからこそ、私自身が感じたことがいつも以上に歌に出ているような気がします。

――そしてMVは、作品にちなんだマグカップがキーアイテムとなっていて、淡いブルーやピンクからは内田さんのアーティストイメージも感じます。

内田 今回はこういうご時世というのもあって、いつもと雰囲気を少し変えたMVを提案いただきまして。『やくも』にちなんだモチーフを入れた、1つの場所で色んな角度から撮るという面白いアイデアを提案いただいたんです。

――そのモチーフもあってか、ED映像とリンクするような部分も出てきますね。

内田 実は、『やくも』の監督から、EDアニメがどうなるかを教えていただける機会があったんですよ。なのでMVについては、「エンディングでろくろに乗せられてくるくる回る真土泥右衛門にちなんで、MVでは私が回るというのはどうでしょう?」という話になったり……こういう案を出し合っているときから楽しかったですし、それを映像にもすごくいい感じに活かしていただいているんですよ。


――実際、MVにはとても大きなマグカップも登場しますね。

内田 はい。そこに私が乗って、ゆっくり回っているシーンもあるんですけど……あれは一番テンションが上がりましたね。

――そのほか、映像がフィルムのような質感になる部分も非常に気になりました。

内田 そこは、監督が「ちょっとフィルムっぽくしたい」と言ってくださったことがきっかけです。私からするとアニメの彼女たちの年代ってもう20年くらい前の話になるので(笑)、ああいう部分は「青春時代を思い返している」ような気持ちになりまして。歌声からなんだか昔を懐かしんでいるような感じも出ています。

「Destiny」に込められたサプライズ、そしてファンへの想い
――さて、カップリング曲「Destiny」なのですが……この曲はリリースまで秘密にされていた仕掛けがあるとお聞きしました。

内田 そうなんです。実はこの曲は、『五等分の花嫁』のEDテーマだった「Sign」という曲のアンサーソングなんですよ。こんな取り組みは初めてだったので、とても面白いなと思って!

――非常に斬新ですよね。

内田 斬新すぎて、最初にこういう曲を作りますと聞いた段階では「え……? アンサーソングってなんですか……?」ってびっくりしちゃいました(笑)。
でもお話を聞くと「面白いですね!」となっていって。シングル自体も久しぶりでしたし、今現在も色々イベントとかが中止になったりして皆さん悲しい想いをされているなかかもしれないと思って、ちょっとでもいい驚きを感じてもらえたらいいな……って。後半からはノリノリでした。

――その最初の段階は、お話だけで具体的に曲がまだ上がってきてはいなかった?

内田 ふんわり土台みたいなものはありました。それをベースに4パターンぐらい作っていただいたんですけど、やっぱり「Sign」に似すぎてもダメだし離れすぎても面白くないから、塩梅がすごく難しくて。結局4パターンのうちの2パターンを生かして「このAメロとこのBメロを足して、最後ラスサビをこう持っていってほしい」みたいに細かく注文させていただきました。

――特に中盤から終盤にかけて、よりアンサーソング感がギュッと詰まっているように感じまして。特に落ちサビで“ひとつずつ”と来た瞬間にはもう……!

内田 よかった……! 私も「あー!」ってなりました。私からはさっき言ったざっくりとしたお願いしかしていなかったのに、歌詞までついて戻ってきてから改めて聴いたら、「こんな面白いことができるんだ!」ってびっくりして。作詞・作曲・編曲が全部「Sign」と同じ方たちだからこそ生まれた、いい意味で音楽をすごく楽しんでいる感が強い曲として完成して、本当に良かったです。

――特に序盤はコード感もほぼ同じな一方、サビは明るく展開したりと明確な違いもあります。なので「Sign」が頭にあるからこそ、気持ちの置き方や流れの作り方に難しい部分もあったのでは?

内田 本当にその通りで! やっぱり「Sign」に引っ張られすぎちゃって、どうしても切なさが残っちゃったんです。それに「Destiny」も、「100パーセント幸せ!」という歌詞でもないんですよね。「Sign」の先の、実際にチャペルに立つ姿を描いた幸せな曲ではあるんですけど、「今まで色々あったしこれからもきっと色々あるけど、辛い気持ちを味わってきたからこそこれから幸せにしていこうね」みたいな歌詞なので。

――たしかに、ただ幸せなだけではないですね。

内田 作詞家の方が「Sign」の続きとしてすごくいい塩梅で書いてくださったなぁと感じましたし、実際に結婚はゴールではなくて花嫁さんになってからがスタートでもあると思ったので、だからこそ、特に多幸感のある感じに歌ってほしいと言われたサビでも、切なさが残っちゃって。ずーっと「はい、幸せな感じでお願いします!」って言われていました(笑)。

――その多幸感を出すために、レコーディングではどんな取り組みをされましたか?

内田 意識してもどうしても歌声が暗くなっちゃったので……思い切って、時々ちょっとふざけたりもしながら(笑)、楽しい気持ちを作っていきました。あと、この曲の裏テーマが“ウェディング”なので、賛美歌を連想するようなイメージで多幸感を込めていきました。

――さて、このシングルのリリース後、7月には京都で“Ani Love KYOTO presents 内田彩Symphonic Concert ~en and ett~”が開催されます。

内田 実はずっと「いつかアコースティックライブをやりたい」という話をしていたんですけど、なかなか機会がなかったんです。そんななか、今回Ani Love KYOTO さんにさらにスケールの大きなステージの声をかけていただけて……ライブが中止続きでしゅんとしていたところに、神様が降ってきたような気持ちになりました。

――「中止続き」ということは、序盤でお話しいただいたもの以外にも何か計画されていた?

内田 スタッフさんが新たに色々な企画をしてくれたんですけど、「今回もできそうにないですね」と消え去っていってしまっていたんです。だから、次のライブの予定を立てること自体前向きになれなくて……でもこの形ならみんなの心配を減らしたうえで声が出せないことも制限だと感じさせずに、“コンサートを座ってじっと観る”という新しい楽しみ方を作れると思ったんですよ。

――オーケストラを背負って歌うイメージは湧きますか?

内田 まだ湧きません!(笑)。オーケストラを観に行ったことは何回もあるんですけど、その中心に自分がいる想像が全然つかなくて。ソロとして人前で歌うこと自体も2年ぶりくらいなので、不安はありますが良いステージにしたいと思います。

――現時点では、どんなことに力を入れたいと考えられていますか?

内田 お話をお受けするときからずっと、いつものライブとは違う楽しみ方を届けたいと考えています。普段のライブでは目の前にいるみんなとのやり取りやノリを重視して、みんなの顔を見ながら歌うことを大事にしていたんですけど、今回はそうではなくて。オーケストラさんの音に乗せるために歌の持っていき方や表現の仕方を突き詰めて、みんなを包んであげられるような歌い方や展開・構成にしたいです。いつもとはできるだけ違うものを見せられるよう、頑張ります!

INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次

●リリース情報
内田彩 5th Single
「Pale Blue」
6月2日(水)発売

【限定盤(CD+DVD)】

品番:COZC-1753-4
価格:¥2,090(税込)

【通常盤(CD)】

品番:COCC-17883
価格:¥1,430(税込)

<CD>
1.Pale Blue(アニメ『やくならマグカップも』EDテーマ)
作詞・作曲・編曲:hisakuni
2.Destiny(「Sign」アンサーソング)
作詞:金子麻友美、作曲・編曲:松坂康司
3.Pale Blue(Instrumental)
4.Destiny(Instrumental)

<DVD>
1.Pale Blue Music Video
2.Pale Blue Music Video Making

内田彩 Playlist シングル
6月2日(水)配信

1. Destiny(「Sign」アンサーソング)
作詞:金子麻友美、作曲・編曲:松坂康司
2. Sign
作詞:金子麻友美、作曲・編曲:松坂康司
3. Destiny (Instrumental)
4. Sign (Instrumental)

●ライブ情報
Ani Love KYOTO presents 内田彩Symphonic Concert~en and ett~
日程:7月18日(日)
演奏:Style KYOTO 管弦楽団
会場:京都・ロームシアター京都 メインホール
開場/開演
1.13:30/14:30
2.17:00/18:00

券種・料金:全席指定 ¥8,800(税込)
ドリンク代:なし
年齢制限/枚数制限等:未就学児童入場不可/枚数制限2枚まで
主催:Ani Love KYOTO京都実行委員会
企画:AXIS Inc./日本コロムビア
編集部おすすめ