真っ赤な髪に天を突くようなハイトーンで、個性際立つ歌い手シーンにて強烈なインパクトを残し続けるシンガー・あらき。そんな彼がおよそ5年ぶりとなるニューアルバム『UNKNOWN PARADOX』をリリースした。
――近年はGero×ARAKI名義でのリリースもありましたが、あらき名義のアルバムとしては久々になりますね。
あらき 久しぶりですね。『THE SKY’S THE LIMIT』以来なので、4年ちょっとぶりになります。
――その間、自身のバンドのAXIZでのリリースは挟んでいますがソロ名義では4年あまり空いていますから、当時とはご自身の環境など違ってきますよね。
あらき 全然違いますね。何もかも違います(笑)。
――そんななか満を辞してリリースされる『UNKNOWN PARADOX』ですが……。
あらき いやあ、辞していますね(笑)。
――辞していますか(笑)。久々のアルバムですが、どのように制作を進めていったのですか?
あらき アルバムのコンセプトを完全に固めてから作家さんの方に投げて、楽曲を書いてもらおうというのが根本にありました。
――メジャーからリリースするという点においては、そういった面でも大きいですよね。それだけに多くのクリエイターとともに作られた、実に個性的な楽曲が集まったアルバムになりましたね。
あらき 各曲ごとのクオリティはとてつもなく高いですよね。すべて僕的には1位という曲なんですけど、それを最終的にアルバムとして1つにまとめなくてはいけない。そういう“起”と“結”をつける意味で、1曲目と12曲目が最終的に足されたんですよね。
――あらきさんとK.F.Jさんによる「DOXA」と「Relight」ですね。それによって個性的な楽曲たちがアルバムとして1つにまとまるという。作家さんとのやりとりはどのように進めていきましたか?
あらき 作家さんとは一人ずつオンライン会議をやったんですけど、楽曲のイメージやジャンル的なリファレンスを一応出してはいるんですけど、自分としては作家さんの特色を尊重したいのがあったので、「アルバムのコンセプトはこれです、強いていえばこういう単語を織り交ぜてほしいです」っていうくらいの発注しかしていないですね。その人の色でこのテーマを表してほしいというので最初進めました。
――ある程度自由な発注になったわけですが、そこで上がってきたものはあらきさんの思惑にはしっかりとはまった?
あらき すべてがバチっとはまりましたね。自分で選んだ方々でしたし、この人にこそお願いしたいという方ばかりなので、僕としてはどういう曲が来てもOKだったんですけど、「これこれ!」っていうものばかりでしたね。
――自由な発注というなかで、唯一押さえたところがアルバムのコンセプトとのことでしたが、そのコンセプトはどういったものでしたか?
あらき まず『UNKNOWN PARADOX』というタイトルを一番最初に決めまして。“誰も知らない矛盾”をテーマに、それだけを作家さんにお伝えしました。僕からすると「この作家さんが実際に何を考えているかわからない」というのもあって、そこを”誰も知らない”というのを当てはめて。皆さんの中で何か矛盾していることを楽曲に起こして提示していただきたいというコンセプトですね。
――非常に実験的な発注というか、そこからどんな楽曲が来るのか、というのも刺激的ですね。
あらき こういう形のほうがアルバムを作るには面白いんじゃないかなと思いましたね。例えば、「ライブで盛り上がる曲をお願いします」とか、「4つ打ちでシンガロングがある曲をお願いします」とか、そういう発注はあえて一切せずにやりました。
――ではそうして作られていった『UNKNOWN PARADOX』の収録曲について、1曲ずつお話をお伺いします。まずはアルバムの幕開けとなる小曲「DOXA」です。
あらき かなりインパクトがあると思っています。
――約90秒の短い曲ながら、あらきさんのボーカルも非常にインパクトのある楽曲ですよね。
あらき 「これから俺は意見を言うんだぞ」という曲です(笑)。4行の歌詞も小難しく書いたんですけど、言いたいことはそれなんですよね。
――そこから2曲目の表題曲「UNKNOWN PARADOX」へと続いていきます。
あらき この流れ、きれいですよね。
――詞曲はDECO*27さんですが、DECOさんが表題曲を書くことは決まっていたんですか?
あらき 発注段階ではDECOさんには楽曲を書いてほしいなっていうぐらいで何も決まっていなかったです。ただ、ほかの作家さんはオンラインで会議するんですけど、DECOさんとは直に会うんですよね。色々な話をしながらフラッシュアイデアを出し合うというのを楽曲を作ってもらうたびにやっていまして。待ち合わせている段階では何も決まっていないんですけど、その話し合いのなかでDECOさんが「自分、表題曲もらっていいですか?」って言うので、僕も「じゃあその感じでやりましょうよ」っていう感じで(笑)。
――それがこのアルバム全体を表現する、DECOさんらしいアグレッシブなサウンドになりましたね。
あらき アルバムを表現する意味でもそうだし、「あらきってこうだろ」っていう俺の表題曲というのもちょっとまかなっているかなって聴こえますね。DECOさんも色んな方に書きおろして多種多様なサウンドを生み出していますけど、DECOさんから見た俺ってこういうことなんだっていうがこの楽曲なのかなって。
――そんなご自身を表する楽曲を歌った感想はいかがでしたか?
あらき いやあ、難しかったです……。楽曲のパワーが高いので、自分のマックス値に近いコンディションで、かつ脳内のイメージがバチっときていないとレコーディングできないなと思いましたね。そうじゃないと楽曲のパワーに押されてしまうので。
――そんなインパクト大の冒頭から、続いてはすりぃさんによる「拡声ノイジー」です。この曲はサビが素晴らしいですね。
あらき ガツンときますよね。すりぃさんの楽曲は投稿されるといつも聴いているんですけど、そのなかには軽快なチューンのほうが多いと思うんですけど、あえてすりぃさんのギターロックの要素を前面に出してもらい、自分のルーツにもあるパンクロックを表現してもらいつつということですね。
――続いては堀江晶太さんとebaさんが参加された「イスカノサイ」。
あらき この楽曲はちょっと外したかったんですよね。僕がGeroさんと一緒にやったシングルのカップリング曲「Spare Me」で堀江さんとebaさんに書いてもらっていたんですけど、今回はあえて堀江さんとebaさんの音や特性をおどけたヘビーロックにしたくてですね。たまに海外のバンドでもすごくヘビーな曲なのにMVではテニスをしていたりふざけているのってあるじゃないですか。音としてそこをイメージしていたんですよね。何かしら外しているのをイメージして発注しました。最終的には自分が歌詞を書いているので、そこまでふざけたものにはならなかったんですけどね。当初はそういう感じで進めました。
――今回は多くのクリエイターに委ねる形になりますが、ここのほかいくつかの曲であらきさんも作詞をされていますね。
あらき 堀江さんは自分で歌詞を書くことが少ないみたいで、過去に堀江さんにオファーする機会があっても、そのときは歌詞を誰かにお願いしていたんですね。今回はアルバムのコンセプト的にも自分の意見を入れておきたいなと思っていたので、自分が作詞をやりますと。これが堀江さんが作詞をやっていたら別の曲で作詞をしていたと思いますけど、何かしらで歌詞を書きたいと思っていました。
――次は少し世界観が変わって「夢現境界層」です。
あらき これはですね、非常に歌うには難しい曲です。全曲難しいんですけど、人間味を感じないというか、人間が歌う曲なのかっていうのがあって。
――この楽曲を手がけれられた柊 マグネタイトさんの作られるサウンドも独特ですね。
あらき サウンドと雰囲気が退廃している感じですよね。人間が存在していない世界みたいなファンタジー要素もあって。柊さんはまだ数えるほどしか楽曲を出していないんですけど、すごく音が尖っているんですよね。最初にイントロからこれなんの音?みたいな、硬めのリリースカットしたピアノみたいな。ジャンルとしては形容しがたい、EDMとも一概に言えないし、ロックといえばロックだし、すごく異質な雰囲気を放っている曲ですね。
――以降、またここからアルバムの雰囲気も変わってきますね。
あらき 「イスカノサイ」までバンド寄りヘビー寄り、激しめな構成をしているんですけど、この「夢現境界層」でアルバムを2つに割ってというイメージで配置しまして。この曲が境目なんですよね、曲名通り。この先からテンション感の違う曲が続きますよというのがあります。
――そうしたなかで後半はユリイ・カノンさんの「闇は白く」からスタートします。
あらき 発注時点で僕がユリイ・カノンさんに和ロックが得意なイメージを持っていたので、それをまず念頭に置いて、そこにアルバムのコンセプトも出して。ちなみにユリイさんは最近月詠みというバンドを作ったんですよね。僕がカバーした「スーサイドパレヱド」は打ち込みのギターが使われていて攻撃力高めのサウンドだと思います。月詠みを結成してからは生サウンドに最近は移行していっているんですけど、あえて打ち込みのギターを使ってほしい、スーサイドパレヱドのような攻撃力の高さを出したいという発注をしました。
――続いては*Lunaさんの「烽火」です。
あらき この曲、すごいですよね……。
――この雰囲気のなかでのあらきさんのボーカルは実に印象的でした。
あらき ほかの曲と比べて少し落ち着いている気がしますね。*Lunaさんの曲はよく聴くんですけど、クリアなサウンドが結構多くて、ちょっと洋楽的なところもあって、すごく美しいんですよね。今回お願いするにあたって、数少ないロックな曲の方面を出してほしいと。「魔女」という曲があるんですけど、ちょっとおどろおどろしいニュアンスを引っ張ってほしくて、でも最後には綺麗さが残っている……みたいな。
――続いてはナナホシ管弦楽団による「ナリキリ」。
あらき これはファンキーですよね。ナナホシさんはギタリスト的にもすごい人だと思っていて。あの方、たぶんB’zとか好きそうじゃないですか。B’zも昔ファンクっぽい曲が多かったこともあり、フレーズもファンキーなときの時代の流れを汲んでいる気がするんですよね。ナナホシさんもそこがすごく得意そうに思っていて、そこを出してほしかったんです。そうするとこのアグレッシブなアルバムで軽快な色が入るのかなって、そこは狙い通りでしたね。
――そしてこのあとはググッとEDMに寄せたnikiさんによる「ロストチャイルド」になります。
あらき nikiさんは一番最初にデモをあげていただいたんですけど、そのときからEDM調の曲だったものの、すごく悩みまして。というのはほかの方の楽曲がすごくロック寄りなのもあったので、この曲もロック調にアレンジしたほうがいいんじゃないかって思ったんですよね。全体の統一感的に、あまりEDMすぎると合わないんじゃないかなって。最終的には「いや、ここはあえてこのnikiさんの特性を残してこれでいく」とはなったんですけどね。
――そして、クリエイターに楽曲提供を受けたものとしては最後になります、かいりきベアさんの「トーロン」です。
あらき とにかくパワーある曲ですね。これをあえてここにおくという曲順的にもね。
――たしかに、かいりきさんのトリッキーな楽曲がこの位置にあるというのも新鮮だなと。
あらき 今回はみんな野球的にいうとみんな4番みたいなんですけど、「トーロン」は最後に置きたかったんですよ。また最後に盛り上がりを持ってくるっていうのもありますが、アルバムのコンセプトとして、歌詞でもパラドックスとか入っていたり、楽曲も矛盾しているようなカオスさがあるので、「UNKNOWN PARADOX」で始まってこの曲で締めたいと思っていました。
――アルバムの着地点がここにあるというのは非常に面白いですし、アルバムが個性豊かな4番打者が並ぶというコンセプトもこの曲によって際立つ感じがありますね。
あらき この曲めちゃめちゃかっこよくてですね。音的にはミックスが一番最後になった曲でもあって。ほかの曲ではシンプルにガツンと聞こえる声というイメージなんですけど、「トーロン」はボーカルが加工されていて、全体を通してなんとも言い難い音になっているんです、そこも狙いではあったんですよ。最終的に混沌とした感じで本編が終わるというか。
――そこで本編が終わったあとに「Ark」のストリングスバージョンが続くと。
あらき ライブでいうと、「トーロン」で本編が終わっているイメージですね。「Ark」は作った時期もアルバムより前だったので、今回はアルバム用にストリングスを入れました。すごく情景溢れる感じに仕上がっていますね。
――そして最後は「DOXA」と同じく、あらきさんとK.F.Jさんによる「Relight」でアルバムを締め括ります。
あらき この曲できれいに起承転結いけたんじゃないかなって思います。これも「DOXA」と一緒で、K.F.Jと「こういう曲が並んだら最後どう終わりますか?」って話し合いをしましたね。締め括りなんだけど、ちょっとふわふわしたまま終わるという感じですね。
――こうして12曲伺っていくと、各クリエイターの個性が出つつ、それをまとめあげるあらきさんというアーティスト性が非常に出た1枚になりましたね。
あらき 皆さんの個性が色濃く出ているなという気がしますよね。その一方で僕の集大成という感じでもあります。僕がこれまで通ってきた道を、こうやって楽曲として落とし込んだ、そんな12曲だと思います。
――改めて本作から新たな一歩を踏み出したあと、今後あらきさんが目指すものはなんですか?
あらき このアルバムの最後を「Relight」で締めさせていただいたんですけど、そこでまさに“再点火”しようという想いがあります。コロナ禍でストップしてしまったこととかに自分の気持ちにまた火を着ける、このアルバムで再点火しようと。そこからまた新たな道でもいいし今までの道でもいいし、模索していけたらなと思っています。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
●リリース情報
『UNKNOWN PARADOX』
発売中
【初回限定盤(CD+DVD)】
価格:¥3,520(税込)
【通常盤(CD ONLY)】
価格:¥2,750(税込)
【FC盤(CD+DVD+写真集+グッズ)】
価格:¥8,800(税込)
<収録予定曲>
01.DOXA
Lyrics:あらき Music:K.F.J
02.UNKNOWN PARADOX
Lyrics & Music:DECO*27 Arrange:Rockwell
03.拡声ノイジー
Lyrics & Music:すりぃ
04.イスカノサイ
Lyrics:あらき Music:堀江晶太 Arrange:eba
05.夢現境界層
Lyrics & Music:柊マグネタイト
06.闇は白く
Lyrics & Music:ユリイ・カノン
07.烽火
Lyrics & Music:*Luna
08.ナリキリ
Lyrics:ナナホシ管弦楽団 Music:岩見 陸
09.ロストチャイルド
Lyrics & Music:niki
10.トーロン
Lyrics & Music:かいりきベア
11.Ark -strings arrange ver.-
Lyrics & Music:あらき Arrange:K.F.J Strings arrange:MIZ
12.Relight
Lyrics:あらき Music:K.F.J
※11曲目、 FC盤は「Ark feat. あらき組」を収録
関連リンク
あらきオフィシャルサイト
https://araki-axiz.com/
あらき 公式Twitter
https://twitter.com/axiz_and_nico
あらき 公式YouTube
https://www.youtube.com/c/AXIZchannel/featured
「UNKNOWN PARADOX」配信リンクはこちら
https://lnk.to/UNKNOWN_PARADOX
DECO*27、すりぃ、堀江晶太、かいりきベアなど錚々たるクリエイターを迎え、自由な発想で作られた本作。久々となるアルバムであらきは何を思い、歌い、そして物申したのか。
――近年はGero×ARAKI名義でのリリースもありましたが、あらき名義のアルバムとしては久々になりますね。
あらき 久しぶりですね。『THE SKY’S THE LIMIT』以来なので、4年ちょっとぶりになります。
――その間、自身のバンドのAXIZでのリリースは挟んでいますがソロ名義では4年あまり空いていますから、当時とはご自身の環境など違ってきますよね。
あらき 全然違いますね。何もかも違います(笑)。
――そんななか満を辞してリリースされる『UNKNOWN PARADOX』ですが……。
あらき いやあ、辞していますね(笑)。
――辞していますか(笑)。久々のアルバムですが、どのように制作を進めていったのですか?
あらき アルバムのコンセプトを完全に固めてから作家さんの方に投げて、楽曲を書いてもらおうというのが根本にありました。
昔から歌い手の人たちは、コミケとかでCDを出す際に大体カバー曲中心だったのが、最近は作家さんにお願いしてとか、オリジナル中心のアルバムを作るというのが主流になってきているんですよね。自分もそういうオリジナル中心のアルバムを作りたかったんですけど、個人でやっていると何人も作家さんに連絡するのも脳みそが回らない部分があるので、そこはレーベルさんにお願いして……。レーベルさんの力を借りないといけないな、というアルバムにしたかったというのもありました。
――メジャーからリリースするという点においては、そういった面でも大きいですよね。それだけに多くのクリエイターとともに作られた、実に個性的な楽曲が集まったアルバムになりましたね。
あらき 各曲ごとのクオリティはとてつもなく高いですよね。すべて僕的には1位という曲なんですけど、それを最終的にアルバムとして1つにまとめなくてはいけない。そういう“起”と“結”をつける意味で、1曲目と12曲目が最終的に足されたんですよね。
――あらきさんとK.F.Jさんによる「DOXA」と「Relight」ですね。それによって個性的な楽曲たちがアルバムとして1つにまとまるという。作家さんとのやりとりはどのように進めていきましたか?
あらき 作家さんとは一人ずつオンライン会議をやったんですけど、楽曲のイメージやジャンル的なリファレンスを一応出してはいるんですけど、自分としては作家さんの特色を尊重したいのがあったので、「アルバムのコンセプトはこれです、強いていえばこういう単語を織り交ぜてほしいです」っていうくらいの発注しかしていないですね。その人の色でこのテーマを表してほしいというので最初進めました。
――ある程度自由な発注になったわけですが、そこで上がってきたものはあらきさんの思惑にはしっかりとはまった?
あらき すべてがバチっとはまりましたね。自分で選んだ方々でしたし、この人にこそお願いしたいという方ばかりなので、僕としてはどういう曲が来てもOKだったんですけど、「これこれ!」っていうものばかりでしたね。
――自由な発注というなかで、唯一押さえたところがアルバムのコンセプトとのことでしたが、そのコンセプトはどういったものでしたか?
あらき まず『UNKNOWN PARADOX』というタイトルを一番最初に決めまして。“誰も知らない矛盾”をテーマに、それだけを作家さんにお伝えしました。僕からすると「この作家さんが実際に何を考えているかわからない」というのもあって、そこを”誰も知らない”というのを当てはめて。皆さんの中で何か矛盾していることを楽曲に起こして提示していただきたいというコンセプトですね。
――非常に実験的な発注というか、そこからどんな楽曲が来るのか、というのも刺激的ですね。
あらき こういう形のほうがアルバムを作るには面白いんじゃないかなと思いましたね。例えば、「ライブで盛り上がる曲をお願いします」とか、「4つ打ちでシンガロングがある曲をお願いします」とか、そういう発注はあえて一切せずにやりました。
――ではそうして作られていった『UNKNOWN PARADOX』の収録曲について、1曲ずつお話をお伺いします。まずはアルバムの幕開けとなる小曲「DOXA」です。
あらき かなりインパクトがあると思っています。
歌詞もたった4行しかないんですけど、これは作曲のK.F.Jと話し合いながら作りまして、まず出来上がった作家さんの曲を暫定の曲順で聴いてもらって、「この並びで聴いたときに、最初に1曲目に追加するとしたらどんなイメージがあります?」という話し合いのなかから出来ました。タイトルだけは最初から考えていて。「DOXA」ってギリシャ語で考えや意見という意味なんですけど、この曲から始まって次の2曲目から意見を述べていきたい、個々の作家さんの意見を代弁していきたいという、まさにタイトル通りの楽曲を1曲目に入れていきました。
――約90秒の短い曲ながら、あらきさんのボーカルも非常にインパクトのある楽曲ですよね。
あらき 「これから俺は意見を言うんだぞ」という曲です(笑)。4行の歌詞も小難しく書いたんですけど、言いたいことはそれなんですよね。
――そこから2曲目の表題曲「UNKNOWN PARADOX」へと続いていきます。
あらき この流れ、きれいですよね。
――詞曲はDECO*27さんですが、DECOさんが表題曲を書くことは決まっていたんですか?
あらき 発注段階ではDECOさんには楽曲を書いてほしいなっていうぐらいで何も決まっていなかったです。ただ、ほかの作家さんはオンラインで会議するんですけど、DECOさんとは直に会うんですよね。色々な話をしながらフラッシュアイデアを出し合うというのを楽曲を作ってもらうたびにやっていまして。待ち合わせている段階では何も決まっていないんですけど、その話し合いのなかでDECOさんが「自分、表題曲もらっていいですか?」って言うので、僕も「じゃあその感じでやりましょうよ」っていう感じで(笑)。
そこから広がって出来た曲です。
――それがこのアルバム全体を表現する、DECOさんらしいアグレッシブなサウンドになりましたね。
あらき アルバムを表現する意味でもそうだし、「あらきってこうだろ」っていう俺の表題曲というのもちょっとまかなっているかなって聴こえますね。DECOさんも色んな方に書きおろして多種多様なサウンドを生み出していますけど、DECOさんから見た俺ってこういうことなんだっていうがこの楽曲なのかなって。
――そんなご自身を表する楽曲を歌った感想はいかがでしたか?
あらき いやあ、難しかったです……。楽曲のパワーが高いので、自分のマックス値に近いコンディションで、かつ脳内のイメージがバチっときていないとレコーディングできないなと思いましたね。そうじゃないと楽曲のパワーに押されてしまうので。
――そんなインパクト大の冒頭から、続いてはすりぃさんによる「拡声ノイジー」です。この曲はサビが素晴らしいですね。
あらき ガツンときますよね。すりぃさんの楽曲は投稿されるといつも聴いているんですけど、そのなかには軽快なチューンのほうが多いと思うんですけど、あえてすりぃさんのギターロックの要素を前面に出してもらい、自分のルーツにもあるパンクロックを表現してもらいつつということですね。
――続いては堀江晶太さんとebaさんが参加された「イスカノサイ」。
あらき この楽曲はちょっと外したかったんですよね。僕がGeroさんと一緒にやったシングルのカップリング曲「Spare Me」で堀江さんとebaさんに書いてもらっていたんですけど、今回はあえて堀江さんとebaさんの音や特性をおどけたヘビーロックにしたくてですね。たまに海外のバンドでもすごくヘビーな曲なのにMVではテニスをしていたりふざけているのってあるじゃないですか。音としてそこをイメージしていたんですよね。何かしら外しているのをイメージして発注しました。最終的には自分が歌詞を書いているので、そこまでふざけたものにはならなかったんですけどね。当初はそういう感じで進めました。
――今回は多くのクリエイターに委ねる形になりますが、ここのほかいくつかの曲であらきさんも作詞をされていますね。
あらき 堀江さんは自分で歌詞を書くことが少ないみたいで、過去に堀江さんにオファーする機会があっても、そのときは歌詞を誰かにお願いしていたんですね。今回はアルバムのコンセプト的にも自分の意見を入れておきたいなと思っていたので、自分が作詞をやりますと。これが堀江さんが作詞をやっていたら別の曲で作詞をしていたと思いますけど、何かしらで歌詞を書きたいと思っていました。
――次は少し世界観が変わって「夢現境界層」です。
あらき これはですね、非常に歌うには難しい曲です。全曲難しいんですけど、人間味を感じないというか、人間が歌う曲なのかっていうのがあって。
――この楽曲を手がけれられた柊 マグネタイトさんの作られるサウンドも独特ですね。
あらき サウンドと雰囲気が退廃している感じですよね。人間が存在していない世界みたいなファンタジー要素もあって。柊さんはまだ数えるほどしか楽曲を出していないんですけど、すごく音が尖っているんですよね。最初にイントロからこれなんの音?みたいな、硬めのリリースカットしたピアノみたいな。ジャンルとしては形容しがたい、EDMとも一概に言えないし、ロックといえばロックだし、すごく異質な雰囲気を放っている曲ですね。
――以降、またここからアルバムの雰囲気も変わってきますね。
あらき 「イスカノサイ」までバンド寄りヘビー寄り、激しめな構成をしているんですけど、この「夢現境界層」でアルバムを2つに割ってというイメージで配置しまして。この曲が境目なんですよね、曲名通り。この先からテンション感の違う曲が続きますよというのがあります。
――そうしたなかで後半はユリイ・カノンさんの「闇は白く」からスタートします。
あらき 発注時点で僕がユリイ・カノンさんに和ロックが得意なイメージを持っていたので、それをまず念頭に置いて、そこにアルバムのコンセプトも出して。ちなみにユリイさんは最近月詠みというバンドを作ったんですよね。僕がカバーした「スーサイドパレヱド」は打ち込みのギターが使われていて攻撃力高めのサウンドだと思います。月詠みを結成してからは生サウンドに最近は移行していっているんですけど、あえて打ち込みのギターを使ってほしい、スーサイドパレヱドのような攻撃力の高さを出したいという発注をしました。
――続いては*Lunaさんの「烽火」です。
あらき この曲、すごいですよね……。
――この雰囲気のなかでのあらきさんのボーカルは実に印象的でした。
あらき ほかの曲と比べて少し落ち着いている気がしますね。*Lunaさんの曲はよく聴くんですけど、クリアなサウンドが結構多くて、ちょっと洋楽的なところもあって、すごく美しいんですよね。今回お願いするにあたって、数少ないロックな曲の方面を出してほしいと。「魔女」という曲があるんですけど、ちょっとおどろおどろしいニュアンスを引っ張ってほしくて、でも最後には綺麗さが残っている……みたいな。
――続いてはナナホシ管弦楽団による「ナリキリ」。
あらき これはファンキーですよね。ナナホシさんはギタリスト的にもすごい人だと思っていて。あの方、たぶんB’zとか好きそうじゃないですか。B’zも昔ファンクっぽい曲が多かったこともあり、フレーズもファンキーなときの時代の流れを汲んでいる気がするんですよね。ナナホシさんもそこがすごく得意そうに思っていて、そこを出してほしかったんです。そうするとこのアグレッシブなアルバムで軽快な色が入るのかなって、そこは狙い通りでしたね。
――そしてこのあとはググッとEDMに寄せたnikiさんによる「ロストチャイルド」になります。
あらき nikiさんは一番最初にデモをあげていただいたんですけど、そのときからEDM調の曲だったものの、すごく悩みまして。というのはほかの方の楽曲がすごくロック寄りなのもあったので、この曲もロック調にアレンジしたほうがいいんじゃないかって思ったんですよね。全体の統一感的に、あまりEDMすぎると合わないんじゃないかなって。最終的には「いや、ここはあえてこのnikiさんの特性を残してこれでいく」とはなったんですけどね。
――そして、クリエイターに楽曲提供を受けたものとしては最後になります、かいりきベアさんの「トーロン」です。
あらき とにかくパワーある曲ですね。これをあえてここにおくという曲順的にもね。
――たしかに、かいりきさんのトリッキーな楽曲がこの位置にあるというのも新鮮だなと。
あらき 今回はみんな野球的にいうとみんな4番みたいなんですけど、「トーロン」は最後に置きたかったんですよ。また最後に盛り上がりを持ってくるっていうのもありますが、アルバムのコンセプトとして、歌詞でもパラドックスとか入っていたり、楽曲も矛盾しているようなカオスさがあるので、「UNKNOWN PARADOX」で始まってこの曲で締めたいと思っていました。
――アルバムの着地点がここにあるというのは非常に面白いですし、アルバムが個性豊かな4番打者が並ぶというコンセプトもこの曲によって際立つ感じがありますね。
あらき この曲めちゃめちゃかっこよくてですね。音的にはミックスが一番最後になった曲でもあって。ほかの曲ではシンプルにガツンと聞こえる声というイメージなんですけど、「トーロン」はボーカルが加工されていて、全体を通してなんとも言い難い音になっているんです、そこも狙いではあったんですよ。最終的に混沌とした感じで本編が終わるというか。
――そこで本編が終わったあとに「Ark」のストリングスバージョンが続くと。
あらき ライブでいうと、「トーロン」で本編が終わっているイメージですね。「Ark」は作った時期もアルバムより前だったので、今回はアルバム用にストリングスを入れました。すごく情景溢れる感じに仕上がっていますね。
――そして最後は「DOXA」と同じく、あらきさんとK.F.Jさんによる「Relight」でアルバムを締め括ります。
あらき この曲できれいに起承転結いけたんじゃないかなって思います。これも「DOXA」と一緒で、K.F.Jと「こういう曲が並んだら最後どう終わりますか?」って話し合いをしましたね。締め括りなんだけど、ちょっとふわふわしたまま終わるという感じですね。
――こうして12曲伺っていくと、各クリエイターの個性が出つつ、それをまとめあげるあらきさんというアーティスト性が非常に出た1枚になりましたね。
あらき 皆さんの個性が色濃く出ているなという気がしますよね。その一方で僕の集大成という感じでもあります。僕がこれまで通ってきた道を、こうやって楽曲として落とし込んだ、そんな12曲だと思います。
――改めて本作から新たな一歩を踏み出したあと、今後あらきさんが目指すものはなんですか?
あらき このアルバムの最後を「Relight」で締めさせていただいたんですけど、そこでまさに“再点火”しようという想いがあります。コロナ禍でストップしてしまったこととかに自分の気持ちにまた火を着ける、このアルバムで再点火しようと。そこからまた新たな道でもいいし今までの道でもいいし、模索していけたらなと思っています。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
●リリース情報
『UNKNOWN PARADOX』
発売中
【初回限定盤(CD+DVD)】
価格:¥3,520(税込)
【通常盤(CD ONLY)】
価格:¥2,750(税込)
【FC盤(CD+DVD+写真集+グッズ)】
価格:¥8,800(税込)
<収録予定曲>
01.DOXA
Lyrics:あらき Music:K.F.J
02.UNKNOWN PARADOX
Lyrics & Music:DECO*27 Arrange:Rockwell
03.拡声ノイジー
Lyrics & Music:すりぃ
04.イスカノサイ
Lyrics:あらき Music:堀江晶太 Arrange:eba
05.夢現境界層
Lyrics & Music:柊マグネタイト
06.闇は白く
Lyrics & Music:ユリイ・カノン
07.烽火
Lyrics & Music:*Luna
08.ナリキリ
Lyrics:ナナホシ管弦楽団 Music:岩見 陸
09.ロストチャイルド
Lyrics & Music:niki
10.トーロン
Lyrics & Music:かいりきベア
11.Ark -strings arrange ver.-
Lyrics & Music:あらき Arrange:K.F.J Strings arrange:MIZ
12.Relight
Lyrics:あらき Music:K.F.J
※11曲目、 FC盤は「Ark feat. あらき組」を収録
関連リンク
あらきオフィシャルサイト
https://araki-axiz.com/
あらき 公式Twitter
https://twitter.com/axiz_and_nico
あらき 公式YouTube
https://www.youtube.com/c/AXIZchannel/featured
「UNKNOWN PARADOX」配信リンクはこちら
https://lnk.to/UNKNOWN_PARADOX
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