訪問者のない不思議な洋館「シャドーハウス」。そこには貴族の真似事をする顔のない一族「シャドー」と、そんなシャドーに仕え、彼らの「顔」役を務める「生き人形」たちが暮らしていた。
ひとりの「生き人形」の少女が「シャドー」の少女・ケイトと出会い、エミリコと名付けてもらう。前向きな明るさのあるエミリコはケイトとともに日々奮闘し、ケイトから多くのことを教わって成長をしていく。そんなケイトとエミリコの暮らす「シャドーハウス」の異質さが、彼女たちの日常のなかで少しずつ明らかになっていく。週刊ヤングジャンプで連載中のソウマトウによるコミック「シャドーハウス」が待望のアニメ化。今回、ゴシック調でクラシカル、そして怪しげな雰囲気のある物語を彩る音楽を作る作曲家・末廣健一郎を直撃。インストで幕を開けるOP曲を含め、劇伴を制作するなかで意識したTVアニメ『シャドーハウス』の世界の音とは。

――まずは「シャドーハウス」の印象を教えてください。

末廣健一郎 お話をいただいたときに原作を拝見したのですが、とにかくソウマトウ先生の頭の中はどうなっているんだろうかと思うような、物凄い独特の雰囲気で物語が進んでいくんですよね。すごくダークな雰囲気は漂っているけど、どこか貴族的な日常を象ったような作品なのかなと思いつつ、一体これから何を見せられるのかな、というドキドキ感が強くて。そういう意味でも独創的で面白い世界観だなと思いました。

――その「シャドーハウス」がアニメになるということで、音楽を担当される末廣さんはアニプレックスや監督、音響監督とメニュー会議をされたかと思います。どのようなお話になったのでしょうか。


末廣 細かいメニューの打ち合せはもちろんたくさんあったのですが、一番印象に残ったのは打ち合せ時に、ソウマトウ先生から音楽のイメージについてメッセージを頂戴しまして。「狂ったサーカスみたいな」というキーワードをいただいたのですが、それが僕の中でピン!とハマりまして。「狂ったサーカスみたいな」という言葉は、おどろおどろしくて闇が深そうな雰囲気として作品全体にも漂っているんですけど、それでいて不思議で、愉快さもあるような音楽性が原作のイメージともハマるなって思ったんです。それが一番印象に残っていますし、そのキーワードから全体的に音楽を作っています。

――一貫して流れているのが「狂ったサーカス」というテーマなんですね。

末廣 そのイメージですね。普段から劇伴を作るときにはキーワードを自分で書き出していくんです。色んなキーワードを書き出した中からインスピレーションをもらい作っていくのですが、今回は先生からもらった言葉が僕の中でも上手く着地したので、それを元に音楽を作っていくことができました。

――そんな今作の劇伴は非常にメニュー数も多いですよね。

末廣 曲数的にもたくさんありましたが、どれも必要な曲ですね。今回、音響監督の小泉紀介さんは初めてお仕事をご一緒させてもらったのですが、メニューの中でメドレーではないものの組曲のようになっている曲もありまして。映画なら映像に合せてバシッと組曲になっていたり、例えば曲中で急に曲調が変わっても、映像に嵌めればピタッとリンクすることも多いのですが、先に音楽を作るドラマやアニメの場合は組曲になっているのは結構珍しくて。
1曲の中でガラッと曲調が変わるというものが基本何曲かあり、そういう意味でも新鮮なメニュー打ち合せでもありました。

――この物語に音楽をつけるのに最初に必要だったのはどんなことだったのでしょうか。参考にされた世界観などがあれば伺いたいです。

末廣 普段だったらイメージしながら作ることももちろんあるんですけど、「シャドーハウス」に関しては原作を見れば本当に唯一無二の世界観で。そこから得られるインスピレーションがとても大きかったので、それをそのまま音楽にするのが最適だろうと思いながら作っていました。参考といえば「シャドーハウス」しか見ていないです(笑)。本当に原作の世界観が素晴らしいんですよね。

――特に意識して使われた楽器や音色はありますか?

末廣 打ち合せ時にもオーダーがあったのですが、チェンバロですね。曲調的にもバロックっぽさやクラシカルな雰囲気はあってもいいかもしれないな、と。そこまでジャンルについて限定されるような打ち合せでもなかったのですが、クラシカルな雰囲気は合うだろうというのは僕も思っていました。「もしチェンバロを入れられるようでしたらお願いします」というお話だったので、そこは意識して、チェンバロをふんだんに入れた曲は多いですね。

――弦楽器についても印象的な使い方をされていますよね。
リズム楽器のようにされているというか。


末廣 そうですね。弦に関してはバロックや古典っぽさ、あるいは近代っぽい曲もありますが、色んな年代のクラシック音楽っぽい雰囲気を漂わせていると思います。自分の中では、作曲家のベートーヴェンとラヴェルと、タンゴを元に独自の演奏形態を産み出したピアソラを意識しています。

――ピアソラ!「リベルタンゴ」の!

末廣 タンゴっぽいリズムのアプローチや和音は、結構使っているんです。そこにクラシックな音を合わせて、メインテーマは特にそうなのですが、独特の半音階モチーフというか。怪しげな雰囲気がすごく合うんじゃないかと思って、そういう要素を自分の中で足して割ったような感じも意識しています。

――シャドーと生き人形が出て来る物語。その双方の存在を音で意識はされたのでしょうか。

末廣 打ち合せではシャドーと生き人形の音楽を分けてもいいかもしれない、という話は少し出ていたのですが、実際に原作を読んでみると、独立したシーンはそんなになくて。基本的にはシャドーと生き人形が会話でコミュニケーションを取っているシーンが多くて、片方だけが活躍するシーンがないわけではないですが、どちらかを音楽として分けることはないかもしれない、とその辺りはあまり考えずに、シャドーと生き人形を合わせた雰囲気で音楽は作っています。

――一緒にいるタイミングでどちらの世界とも浸透するように、というのはどんなところを意識されたのでしょうか。


末廣 この作品を読んでいると、例えばアニメでいう序盤である1巻の辺りは怪し気な雰囲気で、ここから何が始まるのか、というワクワクで惹きつけられるのですが、物語が進むにつれて「お影様」と「生き人形」の関係性みたいなものが重要になってくる作品だなと思って。むしろ関係性が物語の主役なのではないかとも思っているんですね。関係性が育ち深まっていくシーンも多いですし、そこに焦点を当てて心情の音楽などは作っています。関係性に焦点を当てるとすれば、いちいち音楽で説明をする必要もないのかなと思って、妖しげな世界でくるんであげた方が作品を見ている人は見やすいだろうなと思いました。

――先ほどおっしゃっていた「狂ったサーカス」要素はどのように散りばめましたか?

末廣 そこを音楽的に自分の中で解釈したときに、ベートベンとラヴェルとピアソラの要素を混ぜることだったんだと思います。リズムのアプローチに関しては、クラシックだけに留めてしまうと、古典の要素もあってどうしても行儀良くなりすぎてしまうので、もう少し『シャドーハウス』の普通ではない世界観として、どうにか汚したいという想いがありまして。主張の強い和音進行であったり、リズムの取り方とシンコペーションを取り入れたら、バランスとしても歪になるなと思って。あとはクラシックの中でも近代の方の和音を少し混ぜたりしながら気味の悪さを表現しています。

――今回の多彩なメニューの中で特に苦心されたのはどのような部分でしたか?

末廣 先ほども少しお話をしましたが、音楽と映像が同時に進んでいくアニメの場合は、組曲みたいな曲は映像で実際に見られるわけではないので、どこに音楽が当たるのかもわからない状況の中で、曲の途中でガラッと世界を変えるような曲の発注って本当に珍しいんです。そういう意味でも組曲っぽい構成になっているというのは、イメージとしてもどこで切り替わるのかが難しくもあったのですが、楽しんで作ることもできました。

――では楽しんで作られたのはどの曲でしょうか。

末廣 メインテーマですね。
とにかく独特な世界観を表現するべくモチーフとなるメロディを決めてしまって、そこから制作していったのですが、そのメロディを作っているときが『シャドーハウス』の世界観に没頭している時間でもあったので楽しかったです。とりあえず1曲で世界観の全てを表そうと思っていたので、そういう意味では一番楽しみながら作っていた曲でもありました。アレンジバージョンもたくさん用意していますし、作品の中にモチーフを散りばめて、気づかないうちに耳にしているような使い方をしている箇所もところどころありましたね。

――レコーディングは生楽器で録られたのでしょうか。

末廣 やっぱりこの作品は壮大に聴かせたい、という想いもあり、生楽器で録りました。一部は打ち込みを使っていますが、今回は9割が生楽器での演奏ですね。しっかりとした編成での楽器で録らせていただきました。特に大変な曲が1、2曲あったので、ミュージシャンの皆さんには今回もご苦労をおかけしました……。

――実際に音楽がついた絵で印象的だったシーンを教えてください。

末廣 第1話の冒頭なんですが、組曲を2曲繋げているんですよね。1曲で聴けるような雰囲気で繋げてくださっているんですが、組曲の前半と、途中からメインテーマが入っていくという流れがまるで映画を観ているような感じにさせているのが印象的でしたし、オープニングからエンディングまで1つの世界の中にずっといるような気にさせてくれる映像と音楽との混じり方が、すごく良い意味で溶けあっているのが印象的だなと思いました。

――あの第1話についてはフィルムスコアリングっぽい作りでしたよね。


末廣 セリフもなかったですしね。まるであて書きしたようにつけていただいていたのが素敵でしたね。

――第8話については最後にエドワードがピアノを弾いている、その曲がそのままエンディングになっていくのも驚きでした。

末廣 特殊エンディングで劇伴が使われたのですが、半分絵に当てて作っているので、より魅力的なシーンになっていますよね。ピアノの指の動きを撮影させてほしい、ということでピアニストの指や後ろ姿を撮影したんです。その撮影のためだけにピアニストを呼んで、実際のピアニストの指を確認して絵をつけられたシーンでした。とても印象深いですね。

――そんな劇伴もさることながら、やはり今回はオープニングテーマも末廣さんが作られたインスト曲になっていることで話題をさらっています。最初からオープニングはインストで、というお話だったのでしょうか。

末廣 劇伴の納品が全部終わったあとで改めて発注をいただいたんです。始めは「オープニングテーマは誰が歌うんだろうな」くらいでいたんですけど、納品が終わってだいぶあとになって「オープニングを音楽のみのインストでお願いできないか」というオーダーをいただきました。世界観を作ったあとでしたし、メインテーマのメロディを使って作るというお話だったのですが、「こんなオファーってあるんだなぁ」と驚きました。なかなかないですよね、歌のないオープニングテーマって。

――鮮烈な印象です。

末廣 そうなりますよね。元々こういうことが好きで劇伴の世界に入っていますし、インストで始まる有名な作品は「スター・ウォーズ」であったり「007」や「ピンク・パンサー」など世の中にはたくさんあるので、自分の中では自然な作業でもありました。アイデアもいっぱいありましたね。

――89秒のOP曲。どのような意識を持って制作されたのでしょうか。

末廣 音楽プロデューサーから具体的なリクエストがあったんです。まず、元々3拍子の曲を4分の4拍子の曲にしてほしいということ。あとはリズム隊とストリングスにプラスしてコーラスのような何か、という大枠を決めてくださったので、そこに沿って作ったのですが、相談をいただいたときに4分の4拍子にすることとリズム隊を足すことである程度の疾走感やライブ感みたいなものも必要かなと思ったんです。そこがアニメのオープニングらしさになるのかなと感じながらの制作でした。

――幕開け感がある1曲ですよね。劇場の幕が上がる、という演出もあって。

末廣 幕開け感を僕が意識したわけではないのですが、映像で舞台を表現しているのはとても面白いですよね。たしかにオープニングですし、幕開け感はあるのですが、あんなにどんぴしゃで“幕開け”を演出してくれると思っていなかったので、自分の音楽と合わさって見ごたえのあるオープニングになって良かったなと思いました。

――このサウンドトラックをどのように楽しんでもらいたいですか?

末廣 もちろん作品と一緒に楽しんでもらいたいですし、アニメだけではなく原作のファンの皆さんには原作を読みながらも楽しんでもらいたいです。もちろん音楽だけを聴いてもらってもケイトとエミリコをはじめ、ほかの「シャドー」や「生き人形」が生き生きとしているようなシーンが思い浮かぶ音楽を用意していますので、色々な楽しみ方を皆さんが見つけて楽しんでいただけたら嬉しいですね。

INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち

鬼頭明里 コメント】
『シャドーハウス』の世界観に寄り添った楽曲ばかりで、アニメを観ていても「あ、この劇伴好き!」とふと思うことが多いです。
お屋敷やミステリアスな雰囲気で流れる重厚感のあるサウンドもあれば、エミリコたちの会話のシーンの可愛らしい楽曲もあって、サウンドトラックで聴けるのが今から楽しみです!

●リリース情報
TVアニメ「シャドーハウス」Original Soundtrack

6 月23 日(水)発売

価格:¥3,850 (税込)
仕様CD2枚組
品番:SVWC 70535-6
※アニメ描き下ろしジャケット/ブックレット(音楽・末廣健一郎によるライナーノーツ収録)

●作品情報
TVアニメ『シャドーハウス』
現在放送中

【キャスト】
ケイト:鬼頭明里
エミリコ:篠原 侑
ジョン/ショーン:酒井広大
ルイーズ/ルウ:佐倉綾音
パトリック/リッキー:川島零士
シャーリー/ラム:下地紫野
エドワード:羽多野 渉

【スタッフ】
原作:ソウマトウ(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督:大橋一輝
シリーズ構成:大野敏哉
キャラクターデザイン:日下部智津子
美術設定:前田みつき
美術監修:加藤 浩
美術監督:坂上裕文・後藤千尋
プロップデザイン:吉田優子
色彩設計:漆戸幸子
撮影監督:小畑芳樹
2Dワークス:久保田 彩
3D監督:宮地克明
編集:新居和弘
音楽:末廣健一郎
音響監督:小泉紀介
音響制作:HALF H・P STUDIO
制作:CloverWorks

【イントロダクション】
この館には秘密がある──
断崖に佇む大きな館「シャドーハウス」で貴族の真似事をする、顔のない一族「シャドー」。
その“顔”としてシャドーに仕える世話係の「生き人形」。
ある日、“シャドー”一族の少女・ケイトのもとに一人の“生き人形”が訪れ、
“影”と“人形”の不思議な日常が始まる。世にも奇妙なゴシックミステリー、ついにアニメ化!

(C)ソウマトウ/集英社・シャドーハウス製作委員会

関連リンク
TVアニメ『シャドーハウス』公式サイト
https://shadowshouse-anime.com

TVアニメ『シャドーハウス』公式twitter
https://twitter.com/shadowshouse_yj
編集部おすすめ