今年1月から放送され、あの野島伸司が原案・脚本を務めることでも話題を集めたTVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』。その複雑かつ衝撃的なストーリーもさることながら、クラムボンのミトとDE DE MOUSEのタッグによる劇伴にも大きな注目が集まった。
DE DEくんとコライトするという話になって、正直ホッとした(ミト)
――今回はTVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』(以下『ワンエグ』)の劇伴を担当されたお二人にお集まりいただきました。特別編の放送直前ですが、お二人もその内容はまだ知らないんですよね? 第12回のエンディングからどうなるのか気になるところかと思いますが……。
ミト 第12回のラストで、ファンの人たちは「おいおいおい」となったんじゃないかな。
――たしかにまだ解決されていないこともありますからね。
ミト 『ワンエグ』って、野島伸司さんのシナリオもそうですけど、伏線がたくさん点在しているから、どこをどう拾ってどう着地させるのかが捉え方によって変わってくるコンテンツなのかなって思うんですよ。なので気づいていないままその伏線を回収しているんじゃないかっていう考察もありうる。90年代のドラマやアニメにあった奥ゆかしさみたいな、それが自分にとっては心地良いというか。終わっているんだけど、それを飲み込めているのか?って問いかけられている気がして。
――たしかに。それこそ90年代の野島脚本のドラマを通過している人はそういうメンタリティになりますよね。一方、作品のファンを公言するDE DEさんとしてはいかがですか?
DE DE MOUSE もちろん楽しみなんですけど、いちファンとしていうと……特別編が怖い。
ミト 正直な話、自分も大団円で終わってほしいと思っていないところもあるんですよね。膨らんだ世界のままならあとは自分で広げられるし、2020年代にそれをできるのはすごいなって。
DE DE 僕的には夢オチで終わってくれてもいいなって(笑)。
ミト すごい人が劇伴をやっているなあ(笑)。
――それぞれ複雑な想いを抱えていますね(笑)。それは『ワンエグ』がそうさせる作品であるからこそだと思いますが、改めて本作の劇伴の依頼が来たとき、お二人はそれぞれどう思ったのでしょうか?
ミト 穏やかじゃないというか、普通のアニメにはならないだろうなって感じた記憶があります。野島さんが手がけたドラマを通過した側からすると、「きっと観ている人に何かしら傷跡を残すんだろうな」という予想はしていましたね。だから、今回DE DEくんとコライトするという話になって、正直ホッとしたのはあったかも。
――ホッとした、ですか。
ミト 傷跡を残すような音楽を、自分の持っているカードでどこまで表現できるんだろうというのは正直不安だったので。私はその前からもしアニメ作品を誰かとコライトでやるとしたらDE DEくんがいいって言っていたので、これはもう決まっていたんだなっていう。DE DEくんとだったら、普段作っているアニメの劇伴というカードを持ちながらこの作品と向き合えるのかなって。
――DE DEさんはいかがでしたか?
DE DE 最初の打ち合わせでストーリーの概要を聞いたんですけど、よくわからなかったんですね。「ちょっとゲームっぽいな」って思ったくらいで。なんなら僕は脚本をまったく読んでいないので、放送を観て「こういう話なんだ」って毎回思っていました。
若林監督が感覚派で、それを言語化するのが藤田音響監督(DE DE)
――聞くところによると、DE DEさんは劇伴を作る際には脚本を読まないで作られるとか。
DE DE 今後劇伴のお仕事があっても、「頼むから読んでくれ」って言われない限りは読まないです(笑)。そしたら楽しみなくなっちゃうから。
――逆にミトさんは脚本などの情報を見ながら作られるんですよね。
ミト 僕は普通の人の倍くらい読んでいるかも。
――制作の際に脚本やコンテを自動スクロールして見ながら曲を書くと聞いたのですが……。
ミト そうそう。iPadに自動でテキストとかが流れるアプリがあるんですよ。クイックタイムを自分で作るみたいな。その流れるタイミングに合わせてシーケンスを走らせるというか。
DE DE それすごいよなあ。
ミト 私の場合は何か文字を見たりとか、言われているオーダーや絵などから情報を拾って書いていくんだけど、なんでかというと、言われたものを完璧に作ることからスタートするから。逆にDE DEくんがあまり情報を入れないで、キャラクターの絵を見るだけで作るというのも腑に落ちるんですよ。絵って文字がないぶん音楽的なものと近しいんですよね。それで読解できる人もいるし、私みたいにロジックで捉える人間もいる。
――なるほど。
ミト 劇伴の現場ってそういう意識や感覚がある種乖離していないと拾いきれないメニューもあるわけですよ。『ワンエグ』も主要キャラクターが四人もいて、四人全員の性格を全部汲み取れるようになるなんて、なかなか難しいと思うんです。
――それが今回DE DEさんと一緒に作る経緯にもなったわけですね。お二人による劇伴制作は、若林信監督と藤田亜紀子音響監督との打ち合わせがあってそれが5時間以上にも及んだと聞いたのですが。
ミト 多分、二度とあんなに長いメニュー打ちはしないかな。アニメ劇伴が初めてのDE DEくんの前ですごいことしちゃったなって(笑)。
DE DE 僕はひよっ子なのでまだまだやりますよ!
ミト おそらくですけど、劇伴制作をある程度こなしてらっしゃる方だったら、先方からの一言二言とリファレンスをもって帰って確認すれば「大丈夫です」ってなるんですよ。でも今回は私が戦犯的なところがあったんですけど、DE DEくんが初めてのアニメ劇伴だったので、丁寧にできるところは丁寧に進行したいなと。結構突っ込んでやったほうがいいなと思っていたら、藤田音響監督もそういうところにしっかり応えてくださり、さらには若林監督からも抽象的なオーダーがいっぱい出てきたんですよ。藤田音響監督がリファレンスを出してくれたのに対して、これは違うなって。
DE DE 例えば、「ここは『ファンタスティック Mr. FOX』みたいな感じですね」って、YouTubeを開いて、「あ、違いましたね」とか(笑)。
ミト わかる、わかるよ……。
DE DE 「こんな感じで」って言われると、僕が考える“こんな感じ”と先方が考える“こんな感じ”にズレがあるかもしれないから、いつも「参考になる曲をください」って言うんですよね。CM音楽の作曲をやっていたときにそういうズレが生じたことがあって、それがないように先方に「こいつしつこいな」って思われるくらいやるんです。だから今回は若林監督が感覚派で、それを言語化するのが藤田音響監督みたいな感じだったのはすごくありがたかったですね。
――それだけ入念に打ち合わせた結果、しっかりとコンセンサスがとれたと。
ミト それこそ第1回のラストで(大戸)アイちゃんが走るときに流れる「Brand-new world」は、最初のメニュー打ちであの曲がテーマ曲的になるって話をして、本来だったら何度かリテイクが来るものなんですけど、ワンリテイクで済んだんですよね。
DE DE でも相当不安でしたよ。表現者って本来「俺がいいものをみんなに見せたい」っていうのがあるからそれを表に出すんだと思うんですけど、長い間やっていると自分の感覚って正しくないんじゃないかって思うようになって。
ミト わかるわかる。
DE DE 世間の良いものと自分が良いと思うもののズレを感じるようになると、自分の感覚が信じられなくなるんですよ。
ミト それは活動していくとどんどん増えてくるよね。
DE DE そうなんです、年々増えてきて。これでいいのかっていうのがわからなくて。そんな気持ちになっていたときに『ワンエグ』の劇伴を作ったので、リファレンス通りに作ったはずなのに、「何か違うな」って。そこからもっと自分を解放して作ったつもりなんだけど、これが合っているのかもわからない。
私はDE DEくんをセレクトして正解でした(ミト)
ミト でも、私は曲を聴いたときに「DE DEくんの曲じゃん!」って思ったんですよ。それがハマって監督たちが「良い」って言ったんだから、私はこれで「いけたな」って思っちゃった。で、自分自身がDE DEくんに劇伴をつくってもらいたいと思った理由もなんとなくわかった。
DE DE サントラを作っているときって、当たり前ですけどまだ作品が放送されていないからその反応もわからないじゃないですか。でも実際に放送されて、あのシーンをみんなよく覚えていてくれたと聞いてすごく嬉しかったですね。
ミト 私はDE DEくんをセレクトして正解でした。DE DEくんの音楽ってアニメの音楽として隙間に存在できるんだなっていうのは証明できたというか。これだったら大丈夫っていう。
――たしかにDE DEさんのベースが効いたサウンドが作品にフィットしたのはすごく新鮮でした。
ミト そうそうそう。別に『ワンエグ』のスタッフが忖度してDE DEくんに隙間を与えているかというと、そんな余裕はないわけですよ。なのにそこに入り込んでハマるというか、もちろんハマり方はそれぞれ捉えどころがあって、とある人にはいびつに聞こえるかもしれないんだけど、そのいびつさがかっこいいしあの作品の中で収められているのは、やっぱりDE DEくんのビートや音楽だったんだと思う。
――ベースミュージックがぴったりハマりそうなシーンがあるわけではないのに、そこにハマっているという。
ミト そう。そうなの! 謎なんですよね。だから私も自信なくなってきちゃって。
DE DE 僕は逆にミトさんのアニメの音楽のシーンへの浸透度がすごいと思って。僕の音楽って、あの作品の世界の外側の次元で鳴っている音楽というか、その奇妙さや違和感、あるいはビートミュージックに関しては恐怖感があると思うんですよ。自分も昔、ビートミュージックに素養がなかった頃って、極端にイキっているビートミュージックって怖かったんですよ。
ミト イキっているビートミュージック(笑)。
DE DE 怖いじゃないですか。でもいざ自分がそのなかに入るとみんなおっとりしていたり大人しかったり(笑)。そのビートミュージックへの恐怖というものがバトルシーンとかに顕著に出ているから、それが恐怖になりすぎないように放送では全体のレベルを抑えて鳴っていたりするんですけどね。でもミトさんの音楽はすごく聴こえやすく鳴っていて、画面の中のあの世界でちゃんときれいに鳴るようにできているのが僕には衝撃的で。
ミトさんの音楽ってファンタジーがあるんですよね(DE DE)
――現実世界と異世界と鳴っている場所が違うというか、そこも『ワンエグ』っぽいですね。
DE DE だから最初のときって僕が異世界、ミトさんが現実世界を担当するっていう話もあったんですよね。
ミト 最近そういうオーダー多いんだよね(笑)。
DE DE あと個人的にはアイちゃんが沢木先生に「私、学校行きます」って言うシーン。あそこで流れている曲が素晴らしくて。
ミト あれは脚本を読みながら3分で作ったんですよ。
DE DE それがハマるんだっていう。僕にとってはあの曲が『ワンダーエッグ・プライオリティ』の青春をすべて表している気がして。
ミト あのシーンそのままではないけど、あそこに近いシーンを引っ張ってきて、それを読んで「じゃあ」って電源立ち上げて、ピアノを立ち上げて、テンポも決めないまま弾いたそのままがあの曲ですね。
DE DE 僕の違和感がある曲か、ミトさんの現実への染み込んだ曲か、どっちが今っぽいかというと、僕はミトさんのほうだと思うんです。今って、現代社会が非現実みたいになっているじゃないですか。だからファンタジーに安らぎを求めているような気がしてるんですけど、ミトさんの音楽ってファンタジーがあるんですよね。
――それがこの世なのか感もあるというか、あのシーンもアイの満面の笑顔も何を考えているのか見えないところもあって。
DE DE そうそう、逆に不安に感じちゃうし。
――お互いに自分とは別の感覚というものを補完して『ワンエグ』のサントラが出来ていったというのがよくわかりますね。
ミト やっぱりDE DEくんの音楽って、いわゆるトラックメイカーとしての、定期的にフロアに立っている人の音だと思うんです。例えば牛尾(憲輔)くんとmabanuaくんって、トラックメイカーとして今一番劇伴に順応している二人だと思うんだけど、あの二人でさえ、歌でいうバッキングの作り方での劇伴だと感じるときがあるんだよね。でもDE DEくんって違うのよ。それがすごく自分でも刺激的だったし、自分もまだ歌を聴こうとして劇伴のトラックを作っている節があるんだなって。だからそこはもうちょっと攻めたほうがいいかもって思うようになったんだよね。それは、今回『ワンエグ』をやってDE DEくんから得た大きなものだったなって思います。
令和然とした新しいものをプレゼンテーションできた(ミト)
――今回のお話を受けて、改めて音楽に注目しながら本編を観直してみたくなりました。
ミト 私としては、自分の劇伴活動のなかでも非常にフレッシュなことができたと思うんですよね。DE DEくんというスペシャルな人と一緒に楽曲制作ができたのもよかったし、『ワンエグ』のストーリーの中で、音楽が今まであったものとは違う、令和然とした新しいものをプレゼンテーションできたと思う。それは本編も特別編も変わらないと思うし、そういう意味ですごくいい作品として、今後の自分のリファレンスにもなるものができたと感じています。作品が終わったあとも余韻が残るものができたと思いますし、みんなに届いてほしいなと思っています。
DE DE やっぱりたくさんの人に聴いてもらいたいし観てもらいたいですね……もっと多くの人に聴いてもらいたい……だから……僕とミトさんとでこの作品のアルバムを出したい!
ミト えっ、どういうこと?(笑)。
DE DE メロディとかちょっとずつ変えて、ジャケットもそれっぽいイラストを描いてもらって。
ミト なんか話が壮大になってきたぞ。たまにDE DEくんと喋っていると、これが現実なのか非現実なのかわからなくなってくるんだよね(笑)。
――まさに『ワンエグ』の世界そのままですね。
ミト DE DEくんがまんま『ワンエグ』ですよ(笑)。
DE DE 実現させましょうよ!
ミト 現実的なことをいえば、私たちでイベントをやるとかね。
DE DE オリジナルアルバム作りましょう、僕たちで。
ミト 話進めているけど、私、まだ「うん」って言ってないからね(笑)。ほら、このはみ出し感って『ワンエグ』におけるDE DEくんの音なんですよね。だってこの人、制作の皆さんが頑張っているからって、劇中で使われないのにトラック作ってきたからね。こんな人間いないでしょ?(笑)。
DE DE アニメ放送中に、皆さん大変なんだろうなって思っていたら、そんなときに何もできない自分がだんだん嫌になって。曲を作って、これ聴いて頑張ってくれたら嬉しいなって思って送ったんです。
ミト それがメールで来たとき、「あれ、追加のオーダーってあったっけ?」って思ったもん(笑)。
DE DE あ、あの曲を出せばいいのか! じゃあミトさんベース弾いてくださいよ(笑)。
ミト う、うん……(笑)。
DE DE 夏にはやりたいなあ……(笑)。
ミト もうキリがないからテープレコーダー止めてください(笑)。ありがとうございました!
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
※「DE DE MOUSE」の「E」は「Eにアキュート・アクセントをつけたもの」が正式名称
●放送・配信情報
「ワンダーエッグ・プライオリティ」特別編
6月29日より放送・配信スタート
【放送情報】
日本テレビ:6月29日(火)25:34~26:34
中京テレビ:6月30日(水)25:37~26:37
福岡放送:7月1日(木)26:40~27:40
宮城テレビ:7月3日(土)25:05~26:05
青森放送:7月8日(木)24:54~25:54
南海放送:7月9日(金)26:57~27:57
札幌テレビ:7月18日(日)26:35~27:35
読売テレビ:7月深夜放送予定
【配信情報】
Hulu・dアニメストアにて29日(火)24時より地上波先行配信予定
●リリース情報
『ワンダーエッグ・プライオリティ 1【完全生産限定版】』
発売中
【Blu-ray】
価格:¥14,300(税込)
品番:ANZX-15131~15132
【DVD】
価格:¥12,100(税込)
品番:ANZB-15131~15132
収録話:第1回~第4回
【完全生産限定版特典】
・全巻収納ケース
・キャラクターデザイン・高橋沙妃描き下ろしジャケットイラスト
・オリジナル・サウンドトラックCD VOL.1
・オーディオコメンタリー[第3回~第4回]出演:相川奏多・斉藤朱夏
・特製ブックレット VOL.1
・絵コンテ集 VOL.1
・SDキャラクターシール
『ワンダーエッグ・プライオリティ 2【完全生産限定版】』
発売中
【Blu-ray】
価格:¥14,300(税抜)
品番:ANZX-15133~15134
【DVD】
価格:¥12,100(税抜)
品番:
ANZB-15133~15134
収録話:第5回~第9回
【完全生産限定版特典】
・キャラクターデザイン・高橋沙妃描き下ろしジャケットイラスト
・オリジナル・サウンドトラックCD VOL.2
・オーディオコメンタリー[第5回~第6回]出演:相川奏多・矢野妃菜喜
・特製ブックレット VOL.2
・絵コンテ集 VOL.2
・4人の思い出プリクラ風シール
※商品の特典および仕様は予告なく変更になる場合がございます。
ワンダーエッグ・プライオリティ 3【完全生産限定版】
2021年8月25日(水)発売
【Blu-ray】
価格:¥14,300(税抜)
品番:ANZX-15135~15136
【DVD】
価格:¥12,100(税抜)
品番:ANZB-15135~15136
収録話:第10回~第12回、特別編
【完全生産限定版特典】
キャラクターデザイン・高橋沙妃 描き下ろしジャケットイラスト
オリジナルドラマCD
特製ブックレット VOL.3
オーディオコメンタリー●絵コンテ集 VOL.3
特典映像(ノンクレジットOP&ED/PV&CM集)
特製イラストカード
※商品の特典および仕様は予告なく変更になる場合がございます。
※店舗別特典購入特典詳細は下記をご確認ください。
https://wonder-egg-priority.com/bddvd/
関連リンク
TVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』公式サイト
https://wonder-egg-priority.com/
TVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』公式Twitter
https://twitter.com/wep_anime
3月の本編終了後、特別編が直前に控えるなか、改めてこの二人に『ワンエグ』の音楽についてたっぷりと話を聞いた。
DE DEくんとコライトするという話になって、正直ホッとした(ミト)
――今回はTVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』(以下『ワンエグ』)の劇伴を担当されたお二人にお集まりいただきました。特別編の放送直前ですが、お二人もその内容はまだ知らないんですよね? 第12回のエンディングからどうなるのか気になるところかと思いますが……。
ミト 第12回のラストで、ファンの人たちは「おいおいおい」となったんじゃないかな。
――たしかにまだ解決されていないこともありますからね。
ミト 『ワンエグ』って、野島伸司さんのシナリオもそうですけど、伏線がたくさん点在しているから、どこをどう拾ってどう着地させるのかが捉え方によって変わってくるコンテンツなのかなって思うんですよ。なので気づいていないままその伏線を回収しているんじゃないかっていう考察もありうる。90年代のドラマやアニメにあった奥ゆかしさみたいな、それが自分にとっては心地良いというか。終わっているんだけど、それを飲み込めているのか?って問いかけられている気がして。
――たしかに。それこそ90年代の野島脚本のドラマを通過している人はそういうメンタリティになりますよね。一方、作品のファンを公言するDE DEさんとしてはいかがですか?
DE DE MOUSE もちろん楽しみなんですけど、いちファンとしていうと……特別編が怖い。
特別編で色々回収されるのが怖いんですよ。結局どっちに転がっても怖いんですけど、観たあとに自分がどういう気持ちになるのかわからない。それなら投げっぱなしで終わってほしいという気分もあって、なんというか昔のヨーロッパの映画のような。
ミト 正直な話、自分も大団円で終わってほしいと思っていないところもあるんですよね。膨らんだ世界のままならあとは自分で広げられるし、2020年代にそれをできるのはすごいなって。
DE DE 僕的には夢オチで終わってくれてもいいなって(笑)。
ミト すごい人が劇伴をやっているなあ(笑)。
――それぞれ複雑な想いを抱えていますね(笑)。それは『ワンエグ』がそうさせる作品であるからこそだと思いますが、改めて本作の劇伴の依頼が来たとき、お二人はそれぞれどう思ったのでしょうか?
ミト 穏やかじゃないというか、普通のアニメにはならないだろうなって感じた記憶があります。野島さんが手がけたドラマを通過した側からすると、「きっと観ている人に何かしら傷跡を残すんだろうな」という予想はしていましたね。だから、今回DE DEくんとコライトするという話になって、正直ホッとしたのはあったかも。
――ホッとした、ですか。
ミト 傷跡を残すような音楽を、自分の持っているカードでどこまで表現できるんだろうというのは正直不安だったので。私はその前からもしアニメ作品を誰かとコライトでやるとしたらDE DEくんがいいって言っていたので、これはもう決まっていたんだなっていう。DE DEくんとだったら、普段作っているアニメの劇伴というカードを持ちながらこの作品と向き合えるのかなって。
――DE DEさんはいかがでしたか?
DE DE 最初の打ち合わせでストーリーの概要を聞いたんですけど、よくわからなかったんですね。「ちょっとゲームっぽいな」って思ったくらいで。なんなら僕は脚本をまったく読んでいないので、放送を観て「こういう話なんだ」って毎回思っていました。
若林監督が感覚派で、それを言語化するのが藤田音響監督(DE DE)
――聞くところによると、DE DEさんは劇伴を作る際には脚本を読まないで作られるとか。
DE DE 今後劇伴のお仕事があっても、「頼むから読んでくれ」って言われない限りは読まないです(笑)。そしたら楽しみなくなっちゃうから。
――逆にミトさんは脚本などの情報を見ながら作られるんですよね。
ミト 僕は普通の人の倍くらい読んでいるかも。
――制作の際に脚本やコンテを自動スクロールして見ながら曲を書くと聞いたのですが……。
ミト そうそう。iPadに自動でテキストとかが流れるアプリがあるんですよ。クイックタイムを自分で作るみたいな。その流れるタイミングに合わせてシーケンスを走らせるというか。
DE DE それすごいよなあ。
ミト 私の場合は何か文字を見たりとか、言われているオーダーや絵などから情報を拾って書いていくんだけど、なんでかというと、言われたものを完璧に作ることからスタートするから。逆にDE DEくんがあまり情報を入れないで、キャラクターの絵を見るだけで作るというのも腑に落ちるんですよ。絵って文字がないぶん音楽的なものと近しいんですよね。それで読解できる人もいるし、私みたいにロジックで捉える人間もいる。
――なるほど。
ミト 劇伴の現場ってそういう意識や感覚がある種乖離していないと拾いきれないメニューもあるわけですよ。『ワンエグ』も主要キャラクターが四人もいて、四人全員の性格を全部汲み取れるようになるなんて、なかなか難しいと思うんです。
私は普段から山内真治音楽プロデューサーにもそう言っていて。アニメってそのシーンのカットで空気が変わったりキャラクターの性格も変わってくるわけで、それは一人でできなくもないけど、ともすればちょっと内包しすぎちゃうというか、そのコンテンツに対して囲い込んじゃう感がある。なので劇伴にももっと色んな目線があればいいなっていうのがあったし、それをやっているのが例えば今のハリウッドだったりするし。
――それが今回DE DEさんと一緒に作る経緯にもなったわけですね。お二人による劇伴制作は、若林信監督と藤田亜紀子音響監督との打ち合わせがあってそれが5時間以上にも及んだと聞いたのですが。
ミト 多分、二度とあんなに長いメニュー打ちはしないかな。アニメ劇伴が初めてのDE DEくんの前ですごいことしちゃったなって(笑)。
DE DE 僕はひよっ子なのでまだまだやりますよ!
ミト おそらくですけど、劇伴制作をある程度こなしてらっしゃる方だったら、先方からの一言二言とリファレンスをもって帰って確認すれば「大丈夫です」ってなるんですよ。でも今回は私が戦犯的なところがあったんですけど、DE DEくんが初めてのアニメ劇伴だったので、丁寧にできるところは丁寧に進行したいなと。結構突っ込んでやったほうがいいなと思っていたら、藤田音響監督もそういうところにしっかり応えてくださり、さらには若林監督からも抽象的なオーダーがいっぱい出てきたんですよ。藤田音響監督がリファレンスを出してくれたのに対して、これは違うなって。
DE DE 例えば、「ここは『ファンタスティック Mr. FOX』みたいな感じですね」って、YouTubeを開いて、「あ、違いましたね」とか(笑)。
でも、これじゃないんだっていうのはわかってよかったですね。ミトさんもわかると思うんですけど、感覚的なオーダーって難しくて。
ミト わかる、わかるよ……。
DE DE 「こんな感じで」って言われると、僕が考える“こんな感じ”と先方が考える“こんな感じ”にズレがあるかもしれないから、いつも「参考になる曲をください」って言うんですよね。CM音楽の作曲をやっていたときにそういうズレが生じたことがあって、それがないように先方に「こいつしつこいな」って思われるくらいやるんです。だから今回は若林監督が感覚派で、それを言語化するのが藤田音響監督みたいな感じだったのはすごくありがたかったですね。
――それだけ入念に打ち合わせた結果、しっかりとコンセンサスがとれたと。
ミト それこそ第1回のラストで(大戸)アイちゃんが走るときに流れる「Brand-new world」は、最初のメニュー打ちであの曲がテーマ曲的になるって話をして、本来だったら何度かリテイクが来るものなんですけど、ワンリテイクで済んだんですよね。
DE DE でも相当不安でしたよ。表現者って本来「俺がいいものをみんなに見せたい」っていうのがあるからそれを表に出すんだと思うんですけど、長い間やっていると自分の感覚って正しくないんじゃないかって思うようになって。
ミト わかるわかる。
DE DE 世間の良いものと自分が良いと思うもののズレを感じるようになると、自分の感覚が信じられなくなるんですよ。
ミト それは活動していくとどんどん増えてくるよね。
DE DE そうなんです、年々増えてきて。これでいいのかっていうのがわからなくて。そんな気持ちになっていたときに『ワンエグ』の劇伴を作ったので、リファレンス通りに作ったはずなのに、「何か違うな」って。そこからもっと自分を解放して作ったつもりなんだけど、これが合っているのかもわからない。
私はDE DEくんをセレクトして正解でした(ミト)
ミト でも、私は曲を聴いたときに「DE DEくんの曲じゃん!」って思ったんですよ。それがハマって監督たちが「良い」って言ったんだから、私はこれで「いけたな」って思っちゃった。で、自分自身がDE DEくんに劇伴をつくってもらいたいと思った理由もなんとなくわかった。
DE DE サントラを作っているときって、当たり前ですけどまだ作品が放送されていないからその反応もわからないじゃないですか。でも実際に放送されて、あのシーンをみんなよく覚えていてくれたと聞いてすごく嬉しかったですね。
ミト 私はDE DEくんをセレクトして正解でした。DE DEくんの音楽ってアニメの音楽として隙間に存在できるんだなっていうのは証明できたというか。これだったら大丈夫っていう。
――たしかにDE DEさんのベースが効いたサウンドが作品にフィットしたのはすごく新鮮でした。
ミト そうそうそう。別に『ワンエグ』のスタッフが忖度してDE DEくんに隙間を与えているかというと、そんな余裕はないわけですよ。なのにそこに入り込んでハマるというか、もちろんハマり方はそれぞれ捉えどころがあって、とある人にはいびつに聞こえるかもしれないんだけど、そのいびつさがかっこいいしあの作品の中で収められているのは、やっぱりDE DEくんのビートや音楽だったんだと思う。
――ベースミュージックがぴったりハマりそうなシーンがあるわけではないのに、そこにハマっているという。
ミト そう。そうなの! 謎なんですよね。だから私も自信なくなってきちゃって。
DE DE 僕は逆にミトさんのアニメの音楽のシーンへの浸透度がすごいと思って。僕の音楽って、あの作品の世界の外側の次元で鳴っている音楽というか、その奇妙さや違和感、あるいはビートミュージックに関しては恐怖感があると思うんですよ。自分も昔、ビートミュージックに素養がなかった頃って、極端にイキっているビートミュージックって怖かったんですよ。
ミト イキっているビートミュージック(笑)。
DE DE 怖いじゃないですか。でもいざ自分がそのなかに入るとみんなおっとりしていたり大人しかったり(笑)。そのビートミュージックへの恐怖というものがバトルシーンとかに顕著に出ているから、それが恐怖になりすぎないように放送では全体のレベルを抑えて鳴っていたりするんですけどね。でもミトさんの音楽はすごく聴こえやすく鳴っていて、画面の中のあの世界でちゃんときれいに鳴るようにできているのが僕には衝撃的で。
ミトさんの音楽ってファンタジーがあるんですよね(DE DE)
――現実世界と異世界と鳴っている場所が違うというか、そこも『ワンエグ』っぽいですね。
DE DE だから最初のときって僕が異世界、ミトさんが現実世界を担当するっていう話もあったんですよね。
ミト 最近そういうオーダー多いんだよね(笑)。
DE DE あと個人的にはアイちゃんが沢木先生に「私、学校行きます」って言うシーン。あそこで流れている曲が素晴らしくて。
ミト あれは脚本を読みながら3分で作ったんですよ。
DE DE それがハマるんだっていう。僕にとってはあの曲が『ワンダーエッグ・プライオリティ』の青春をすべて表している気がして。
ミト あのシーンそのままではないけど、あそこに近いシーンを引っ張ってきて、それを読んで「じゃあ」って電源立ち上げて、ピアノを立ち上げて、テンポも決めないまま弾いたそのままがあの曲ですね。
DE DE 僕の違和感がある曲か、ミトさんの現実への染み込んだ曲か、どっちが今っぽいかというと、僕はミトさんのほうだと思うんです。今って、現代社会が非現実みたいになっているじゃないですか。だからファンタジーに安らぎを求めているような気がしてるんですけど、ミトさんの音楽ってファンタジーがあるんですよね。
――それがこの世なのか感もあるというか、あのシーンもアイの満面の笑顔も何を考えているのか見えないところもあって。
DE DE そうそう、逆に不安に感じちゃうし。
――お互いに自分とは別の感覚というものを補完して『ワンエグ』のサントラが出来ていったというのがよくわかりますね。
ミト やっぱりDE DEくんの音楽って、いわゆるトラックメイカーとしての、定期的にフロアに立っている人の音だと思うんです。例えば牛尾(憲輔)くんとmabanuaくんって、トラックメイカーとして今一番劇伴に順応している二人だと思うんだけど、あの二人でさえ、歌でいうバッキングの作り方での劇伴だと感じるときがあるんだよね。でもDE DEくんって違うのよ。それがすごく自分でも刺激的だったし、自分もまだ歌を聴こうとして劇伴のトラックを作っている節があるんだなって。だからそこはもうちょっと攻めたほうがいいかもって思うようになったんだよね。それは、今回『ワンエグ』をやってDE DEくんから得た大きなものだったなって思います。
令和然とした新しいものをプレゼンテーションできた(ミト)
――今回のお話を受けて、改めて音楽に注目しながら本編を観直してみたくなりました。
ミト 私としては、自分の劇伴活動のなかでも非常にフレッシュなことができたと思うんですよね。DE DEくんというスペシャルな人と一緒に楽曲制作ができたのもよかったし、『ワンエグ』のストーリーの中で、音楽が今まであったものとは違う、令和然とした新しいものをプレゼンテーションできたと思う。それは本編も特別編も変わらないと思うし、そういう意味ですごくいい作品として、今後の自分のリファレンスにもなるものができたと感じています。作品が終わったあとも余韻が残るものができたと思いますし、みんなに届いてほしいなと思っています。
DE DE やっぱりたくさんの人に聴いてもらいたいし観てもらいたいですね……もっと多くの人に聴いてもらいたい……だから……僕とミトさんとでこの作品のアルバムを出したい!
ミト えっ、どういうこと?(笑)。
DE DE メロディとかちょっとずつ変えて、ジャケットもそれっぽいイラストを描いてもらって。
ミト なんか話が壮大になってきたぞ。たまにDE DEくんと喋っていると、これが現実なのか非現実なのかわからなくなってくるんだよね(笑)。
――まさに『ワンエグ』の世界そのままですね。
ミト DE DEくんがまんま『ワンエグ』ですよ(笑)。
DE DE 実現させましょうよ!
ミト 現実的なことをいえば、私たちでイベントをやるとかね。
DE DE オリジナルアルバム作りましょう、僕たちで。
ミト 話進めているけど、私、まだ「うん」って言ってないからね(笑)。ほら、このはみ出し感って『ワンエグ』におけるDE DEくんの音なんですよね。だってこの人、制作の皆さんが頑張っているからって、劇中で使われないのにトラック作ってきたからね。こんな人間いないでしょ?(笑)。
DE DE アニメ放送中に、皆さん大変なんだろうなって思っていたら、そんなときに何もできない自分がだんだん嫌になって。曲を作って、これ聴いて頑張ってくれたら嬉しいなって思って送ったんです。
ミト それがメールで来たとき、「あれ、追加のオーダーってあったっけ?」って思ったもん(笑)。
DE DE あ、あの曲を出せばいいのか! じゃあミトさんベース弾いてくださいよ(笑)。
ミト う、うん……(笑)。
DE DE 夏にはやりたいなあ……(笑)。
ミト もうキリがないからテープレコーダー止めてください(笑)。ありがとうございました!
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
※「DE DE MOUSE」の「E」は「Eにアキュート・アクセントをつけたもの」が正式名称
●放送・配信情報
「ワンダーエッグ・プライオリティ」特別編
6月29日より放送・配信スタート
【放送情報】
日本テレビ:6月29日(火)25:34~26:34
中京テレビ:6月30日(水)25:37~26:37
福岡放送:7月1日(木)26:40~27:40
宮城テレビ:7月3日(土)25:05~26:05
青森放送:7月8日(木)24:54~25:54
南海放送:7月9日(金)26:57~27:57
札幌テレビ:7月18日(日)26:35~27:35
読売テレビ:7月深夜放送予定
【配信情報】
Hulu・dアニメストアにて29日(火)24時より地上波先行配信予定
●リリース情報
『ワンダーエッグ・プライオリティ 1【完全生産限定版】』
発売中
【Blu-ray】
価格:¥14,300(税込)
品番:ANZX-15131~15132
【DVD】
価格:¥12,100(税込)
品番:ANZB-15131~15132
収録話:第1回~第4回
【完全生産限定版特典】
・全巻収納ケース
・キャラクターデザイン・高橋沙妃描き下ろしジャケットイラスト
・オリジナル・サウンドトラックCD VOL.1
・オーディオコメンタリー[第3回~第4回]出演:相川奏多・斉藤朱夏
・特製ブックレット VOL.1
・絵コンテ集 VOL.1
・SDキャラクターシール
『ワンダーエッグ・プライオリティ 2【完全生産限定版】』
発売中
【Blu-ray】
価格:¥14,300(税抜)
品番:ANZX-15133~15134
【DVD】
価格:¥12,100(税抜)
品番:
ANZB-15133~15134
収録話:第5回~第9回
【完全生産限定版特典】
・キャラクターデザイン・高橋沙妃描き下ろしジャケットイラスト
・オリジナル・サウンドトラックCD VOL.2
・オーディオコメンタリー[第5回~第6回]出演:相川奏多・矢野妃菜喜
・特製ブックレット VOL.2
・絵コンテ集 VOL.2
・4人の思い出プリクラ風シール
※商品の特典および仕様は予告なく変更になる場合がございます。
ワンダーエッグ・プライオリティ 3【完全生産限定版】
2021年8月25日(水)発売
【Blu-ray】
価格:¥14,300(税抜)
品番:ANZX-15135~15136
【DVD】
価格:¥12,100(税抜)
品番:ANZB-15135~15136
収録話:第10回~第12回、特別編
【完全生産限定版特典】
キャラクターデザイン・高橋沙妃 描き下ろしジャケットイラスト
オリジナルドラマCD
特製ブックレット VOL.3
オーディオコメンタリー●絵コンテ集 VOL.3
特典映像(ノンクレジットOP&ED/PV&CM集)
特製イラストカード
※商品の特典および仕様は予告なく変更になる場合がございます。
※店舗別特典購入特典詳細は下記をご確認ください。
https://wonder-egg-priority.com/bddvd/
関連リンク
TVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』公式サイト
https://wonder-egg-priority.com/
TVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』公式Twitter
https://twitter.com/wep_anime
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